新田俊三の発言 (予算委員会公聴会)
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○新田公述人 新田でございます。
限られた時間でございますので、私は、本年度予算の中に示されております経済政策の考え方に関して意見を申し上げたいと思うのであります。必要な限り数字の問題にあるいは入るかもしれませんが、余り細かな数字の問題よりは、五十三年度予算案に具体的に示されておりますところの経済政策の考え方が、私から率直に申し上げますと大変疑問としなくてはならない点が多いわけでありまして、基本的に本年度予算の組み方なり、そこで示されていた経済政策の運営の考え方に関しては反対でございます。
まず最初に指摘しておきたいことは、本年度予算案で示されているいわゆる公共投資主導型の景気刺激パターンでございます。これは率直に申しまして、現在の経済政策の理論的水準から判断いたしましてもきわめて古典的であり、在来型のパターンを脱してないということが指摘されると思うのであります。
もう少し具体的に申しますと、本年度予算案の公共投資主導型のパターンでは日本経済の今後の本格的な立ち直りがまず期待できない、恐らく半年後に問題がすでに明らかになると思うのであります。この公共投資の刺激効果という問題は、一般に議論されておりますように、必ずしも公共投資の波及効果をめぐる数値上の議論ではないのであります。高度成長期でわれわれが公共投資の景気刺激効果を分析した際に、高度成長パターンのもとでは、概して公共投資の波及効果が二・二倍、二・三倍という数値を示したのでありますが、最近いろいろな専門家の分析、たとえば京都大学モデルの分析とか、その他を参考にいたしましても明らかなことは、この効果が一・三倍ぐらいに落ちてきているということであります。問題なのは、なぜ低成長下で公共投資の波及効果が落ちるかということでありますが、これは必ずしも量的な問題ではないのであります。計算は数値計算の結果として出てまいりますが、問題は、公共投資が波及し得ないような、経済効果が波及し得ないような一定の構造変化が生じている。高度成長下とは違った構造変化が生じている。むしろそちらの方に問題があるわけであります。この点は、実は第四次不況対策のもたらす景気刺激効果を分析した際にすでにある程度明らかになっていた問題でございまして、当時の景気論争に際しまして、公共投資の景気波及効果が比較的専門家やエコノミストのレベルで取り上げられて議論されたことがございました。私もその議論に参加した一人でありますが、この第四次不況対策の経済波及効果で示された一つの顕著な点は、この波及効果が比較的限られた領域である、限られた領域に対する波及効果しかないということが第一点と、もう少しこれを具体的に問題点として指摘してまいりますと、現在の日本経済の産業構造の変化に当たって非常に重視されなければならない機械産業部門に対する波及効果が大変低いということが指摘されたということであります。
こういう分析はいろいろな角度でなされているわけでありますが、当時の数値計算の一例として申しますと、民間における固定資本形成一兆円に対して、それによって波及効果が生ずる、機械産業に対して与える影響は五千四百二十七億円であったのに対して、同じ一兆円の固定資本形成でも、政府の固定資本形成の場合には三千七百十三億円しか機械産業に対しては影響を与えないということであります。こういうような、いわば政府固定資本形成と民間における固定資本形成の波及効果が違ってくるという意味は、今後公共投資によって日本の経済を管理する、あるいは刺激するといった場合にぜひとも念頭に直かなければならない一つの質的な問題点を提起していると思うのであります。
この問題につきましては、後で時間がありますと再び入りたいと思うのでありますが、まず基本的に、なぜそうかということに対して、いま私が申しましたように、在来型の公共投資めパターン、これは道路投資を中心とするような公共投資ですと、いま日本の経済で現に進行している産業構造の変化、その流れに対応した投資とは言いがたいのでありまして、いまわれわれが進めなければならないのは、日本経済の構造を根本的に変えるということなんでありますが、その変化の方向に沿ってないというところが致命的な欠点であると言わなくてはならぬのであります。沿ってないというよりか、かつての重化学工業的な体質の延長上にある公共投資のパターンでありますから、これはますますこれからわれわれが進めなくてはならない産業構造の改善の方向とギャップが生ずるわけでありまして、この種のパターンの公共投資は、むしろ望ましい公共投資のあり方と比較いたしますと、負の効果を与えていくという側面の方をむしろ強調しなくてはならぬのであります。
私がここで、公共投資に関して在来型と形容詞をつけましたのはそれなりの根拠がございます。いま、予算の編成に当たって景気論争が大変華やかであり、減税か公共投資かという形で問題が争われているわけでありますが、この論争のあり方は、ややきめの細かさに欠けるわけであります。いまの論争を見ておりまして、公共投資ということの内容が十分吟味されないままで減税か公共投資かという形での論争が進展してしまっている。同じ公共投資といいましても、いま私が指摘したような、道路投資に象徴されるような在来型の公共投資と、社会資本ストックに対する、とりわけ生活環境改善に対する投資は、厳密に区別しなくてはならぬのであります。一番注意しなければいけませんのは、同じ公共投資の必要性を説くということを、道路に対する投資の必要性を理由づける根拠として、日本における社会資本ストックの貧困を挙げるというのは見当外れの議論であると私は思います。意味が全く違います。
そこで、私どもがむしろこの点について積極的意見を述べるとしますと、在来型公共投資にかわる社会開発型の公共投資をもっと重視すべきである。これは、たとえば具体的に申しますと、道路投資にかわって住宅、環境、都市再開発、そういったいわば生活環境、われわれの日本経済における、やや専門的に言いますと、これまでのフローを中心とした投資政策を、ストックを中心とした投資政策に切りかえろということが基盤にあるわけでありまして、ただ、このストックの重視ということは、いま申しましたように、社会開発的な、総合的な効果のある領域にむしろ集中し限定した方がいいという考えであります。
こういうような構造変化は、一つは日本における戦略産業の後退という問題と密接に結びついているわけであります。これからの景気刺激に当たっては、一口で社会開発投資と申しましたけれども、いわば具体的な例解として言いますと、都市再開発等々に象徴されるような産業領域が、これまでの重化学工業的な体質の象徴であった自動車やあるいはテレビといった耐久消費財部門にかわって、新しい経済成長を担う戦略産業として規定さるべきだと思うのであります。
こういったところに対する投資が、しからば景気刺激効果があるのかということが次の問題でありますが、これはかなり技術的な問題に入りますので、ごく要点だけを申し上げておきます。
昭和四十年代の半ば以降、日本経済は一つの転換期に入りまして、その転換期が、だれの目にも明らかなように、ドルショック、オイルショックという二つのショックを経由して、日本経済の転換が明らかになったわけでありますが、この転換というのは、成長率が高かった時代が低成長の時代に移っていくという形で必ずしも理解されるべきではないのでありまして、むしろ問題にしなくてはならないのは、高度成長下において日本経済が持っていたところの経済構造の質であります。産業構造的な視点から言いますと、われわれはこれを重化学工業的体質と規定いたします。この重化学工業的な体質が、すでにいろいろな形で日本の経済に対して弊害を与え、このような体質を前提にした経済成長はもはや無理であるということがだれの目にもはっきりしてきたわけであります。したがって、日本経済の転換というのは、高度成長を低成長にするというのではなくて、経済構造そのものを抜本的に変えるということでなくてはならなかったのでありますが、このような構造転換に対する政策的対応と申しますのは、後で触れますとおり、しっかりとした中期的な経済計画の枠組みの中で、足が地についた政策として運営していかなくてはならぬのでありまして、突然思いついて社会資本に対する投資をふやせば問題が解決するという性格のものでは全くないのであります。
いずれにいたしましても、この日本経済の構造変革にとりまして、新しい産業政策が必要である、新しい産業構造改革が必要であるということは、今日の経済政策に、とりわけ構造的な政策という視点を要求することになるわけであります。あるいは、裏返して申しますと、今日の経済政策は、かつての金利政策に示されたように、景気の上がり下がりを調整するという域を超えた内容を要請されるわけでありまして、この辺に関して、産業構造政策が最も重要な位置を占めると言っても間違いないと思うのであります。したがって、今日の不況からの脱却というのは、落ちた成長率を何かの形でてこ入れするという形では最終的には解決できないのでありまして、経済構造の質を変えることが実は本格的に不況から脱出せしめる最も有効な政策だということがはっきりしているわけです。
その意味からしますと、今年度予算は、率直に申しまして、長きにわたって日本の経済を変えていくという中期プログラムのもとでこの政策の枠が決定され、それが今年度予算に反映されているというふうに私にはとうてい思えないのでありまして、この辺は在来型の投資の延長上で行われているという印象をぬぐいがたいのであります。これでは日本経済の構造改善に対する期待はまず持てないと断言して差し支えなかろうと思います。特に、道路を中心とする投資は、単に経済構造の問題だけではなく、財源問題その他を通じまして日本の財政硬直化の要因をまた再生産いたしますので、この辺につきましては、今年度予算におきまして、後々まで影響を与えないような形で問題を処理すべきであろうというふうに考えるわけであります。
そういう点からしまして、もう一つつけ加えておきたいことは、在来型の公共投資が現在の日本の産業構造や市場構造の変化に見合ったものではないということは、景気の波及効果が限られたところであるし、また、一時的に在庫調整が一巡して水漏れ現象がなくなったといたしましても、やがてこれは浮揚力を失ってくる、そういうことになるのはほぼ間違いないと思うのでありますけれども、ただそれだけではなくて、いまの企業の投資マインドの冷え込みというのは、一年や二年先の有効需要を与えられてもすぐには動かなくなっているということをもう少しお考え願いたいのであります。
この点は、私は今年度の予算がきわめて古典的なケインズ主義の域を脱していないということを冒頭に申し上げたわけでありますが、有効需要の効果が落ちただけではなくて、有効需要をつけたら動くという発想そのものがもう非常にクラシックな政策理論におなりになっている。むしろ重視すべきことは投資環境そのものの改善であります。投資を囲んでいる非常に悪い環境を是正する政策というのは、即効性はないかもしれませんが、長い目で見ますと、企業の投資が自発的に盛り上がってくるという条件整備でありますから、これを中期的な政策でしっかり固めていくべきではないかという気がするわけであります。その点に関しては、私どもは、日本経済の構造改善というのは、産業構造の改善を意味すると同時に、企業の投資環境の改善そのものを意味するわけでありますから、こういうきちんとした展望のもとで政策を運営されますと、政策に対する信頼も出てくるし、また数値計算以上の投資誘導効果も出てくるということであります。その点、少し議論が産業連関効果が落ちたとかふえたとか、乗数効果がどうとかというような議論に片寄り過ぎているのではないでしょうか。
以上が第一点であります。
第二点は、これまでの日本の経済の政策運営のパターンが非常によく出てきていると思いますのは、西ヨーロッパ諸国の政策等々と比べまして特に痛感いたします点でございますが、何か一つの政策ですべてを片づけようというこの発想ですね。たとえば高度成長期においては、金利さえ動かせば景気は調整できた。このときは金利万能論が出てくる。次いで出てまいりますと、輸出主導型である。輸出主導型が行き詰まると、今度は公共投資だ。一つ一つやっては反転し、行き詰まっては別な方策をとる。こういうような意味で、非常に失礼な言い方になるわけでありますが、政策運営に首尾一貫性が感じられない。非常に場当たり的であり、一面的である。こういう印象をぬぐいがたいのであります。したがって、今度は公共投資が行き詰まると何であるか。今度は少し消費をふやしたらどうだろうかというような議論が出てくる。あるいはそうかもしれないですね。したがって、この点についていささか私どもの方から理論的に提言いたしますと、少し政策の総合的効果ということについてお考え願いたいということですね。何か一つですべてを片づけるというのは、公共投資一辺倒で経済の刺激効果が上がらないということにつながるわけでありますが、きめの細かい政策を組み合わせてその総合的効果をねらうという政策理論、いわばわれわれが言う政策のシステム化を図りませんと、特に現代資本主義における複雑な構造を前提として考えた場合に、政策効果が上がるわけがない。
一例を挙げますと、公共投資を今回ふやして雇用問題が片づくか、私は不可能だと思います。それは、今年度の予算は一面では限られた範囲で雇用創出効果があるということも言えますが、同時にこの特定産業に対する、不況業種に対するスクラップ化法案に示されるとおり、もし他の諸政策が伴わないとしますと、設備の共同スクラップ化が失業をふやす危険性につながる、そういう二面性があるわけであります。一面では雇用を促進する効果がありながら、なお他面では雇用問題が悪化する要因も実は含んでいるわけであります。この点に関して、たとえば制度改革であるとかあるいは有効需要の面から雇用を考えるということだけじゃなくて、現在の低い有効求人倍率を上げるためには、日本の雇用市場の構造を考え、その失業者の実態をよく調べ、その中に占める中高年齢層だとかあるいは婦人パートタイマー等々の日本における特有の労働市場における供給問題を考え、供給圧力がなぜ高いかという問題にもメスを入れて社会政策を拡充するということが、中高年齢層の供給圧力を引き下げる。これも、有効求人倍率を引き上げるりっぱな政策なんであります。需要の面だけでこういう雇用を考えるというのも、これまたクラシックなケインズ政策であります。そういう形で政策をいろいろ組み合わせて政策運営を考えなくちゃいけない。
その意味からしますと、公共投資と減税という問題に関しましても、二者択一的な単年度予算編成的な枠の中で議論するのではなくて、中期政策のかなめとしての社会開発投資、あるいはそれに対して組み合わせていく、経済に対する即効性、景気刺激に対する即効性、あるいはまんべんなく景気刺激効果が行き渡るという意味での減税効果、こういったものをむしろ組み合わせて、短期の政策と中期の政策の整合性に関して議論を詰めていくということが必要じゃないかと思います。私は、日本のいまの経済能力からいたしまして、公共投資を軸とする成長と減税による景気刺激政策というのは並立し得ると思います。これはりっぱに組み合わせていけると思いますね。それらの意味で、第二の問題としては、いま言った政策の総合効果という点を申し上げておきたい。
それから、時間がございませんので簡単に第三点。もう少しこれからの経済政策には政治システムの問題を組み込む必要がありはしないかという点が第三点でございます。
これから公共投資が主導型で景気が刺激される。もう御存じのとおり、政府の、前倒しの件数にいたしますと、公共事業の保証額の八割近くは地方自治体の前倒しに依存しているという実態がはっきりしてまいっておりますが、いずれにしましても、この公共投資と地域の問題、あるいは最後は住民の問題という関係はいやでもこれは表面化してまいります。そのときに、もしこれを机上の乗数効果理論として何倍の効果が上がるはずだと幾ら計算されましても、公共投資に対する住民の合意が得られない、コンセンサスが得られないということが、実はもう経済の効率を非常に低下せしめる重要な要因になってまいります。そういう抵抗がなければという計算を幾ら示してみせましても、私どもは現実の経済政策としては信用できないのでありまして、むしろそういう数値計算をなさる前に、どういう形で公共投資をだれのために使うかという政策形成過程の問題まで含めまして、これからの景気刺激の方向なり内容について新しい政治システムを考える方が、長い目で見ますと、日本経済の復興に対しては大変有効な役割りを果たすのではないかという気がいたします。
そういうことで、あと申し上げたい点は多々ございますが、こういう政策を実現するために、住民の参加という問題と同時に、もう少し市場に対する政策的介入について政府は自信をお持ちになった方がいいと思う。これをやりますと、すぐ統制だということになりますね。
しかし、この点に関しましては一つ例を挙げますと、西ヨーロッパ、EC諸国が最近造船に関して行いました共同決定政策の形態を示しておきたいと思うのであります。この領域では、ヨーロッパ諸国は造船工業がもう構造的問題だ、これは市場メカニズムに任せておくことはできない、介入するのが当然というので、これを社会的行動と呼んでおります。そうしてその際に、労働者に対する影響を調査し、十六万幾らの労働者に影響が来るわけでありますが、それのための職業再訓練であるとか、事業転換に関して、欧州投資銀行を初めとしてきちんと資金をつけて秩序整然と撤退する、こういう政策がヨーロッパはとれるわけですね。
残念ながらわが国は、率直に申しまして、どうも時間がないので端的に申し上げてしまいますが、切り捨て型という印象を免れがたいわけであります。そうしてこれに関しては、正しい介入は当然なんだという点での政策理論をもう少し練り直される必要があるだろう。日本のこれまでの経済運営では、こういう政策による市場の管理というか制御というか、これが余り経験がない。なれてない。これはほっておけば伸びていくという成長の体質だろうと思うのですが、これからが本当の政策能力がためされる時期が来るのじゃないかという気がしますね。したがって、この意味で与野党問わず、まず中期の展望を持った経済政策論をきっちりと立て、その論争を繰り返すことで問題点を次第に明らかにし、そういう展望に立った政策を予算に反映していくという、こういうことをぜひお願いしたいわけであります。現在の予算の論争点は余りにも単年度編成型でありまして、その中で財源を奪い合うというきわめて短期的視点に偏り過ぎてはいないかというのが、最後に申し上げたい私の印象でございます。
時間が参りましたので、これで終わりにします。(拍手)