飯田久一郎の発言 (予算委員会公聴会)
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○飯田公述人 飯田でございます。
五十三年度の政府予算案は、公共事業と住宅建設を牽引車にして内需を増大させ、景気を回復させようとするものでありますが、この予算が果たして期待どおりの成果を上げられるか否かについては、さまざまな点で疑問が出されているのであります。そういう疑問の中にはまことに合理的だと思われるものもあるのでありますが、私は、土地の問題に焦点を当てて、政府の予算案に対する疑問を述べてみたいと思うのであります。具体的に言えば、土地問題をいまのままにしておいて果たして所期の効果を上げることができるのか、またこの予算によって土地問題をさらに悪化させ、わが国の今後の発展に重大な障害を引き起こすおそれはないのか、という点について述べてみたいのであります。
言うまでもなく、公共事業にしても住宅建設にしても、新しく用地を入手する必要がある場合がきわめて多いのであります。その場合、用地の入手ができなければその実行は不可能であります。また仮に入手できても、用地費が予定よりも大きくふえれば、景気に直接関係のある需要の量、たとえば資材あるいは労働力に対する需要の量はそれだけ減少するわけであります。したがって、公共事業や住宅建設に必要な土地の入手を容易にし、その価格の高騰を防ぐということは、五十三年度予算の執行によって景気の回復を図る上できわめて重要なことでありますが、いまのままで、すなわち土地について抜本的な施策を講ずることなしにそれが果たして可能かと言えば、はなはだ疑問だと言わざるを得ないのであります。
最近、国土庁が発表した数字によりますと、昨年一年間の宅地の全国平均の上昇率は二・六%、そのうち住宅地の上昇率は三・三%と言われております。国土庁は、物価上昇率を考えればこの程度の上昇は心配ないと言っているのであります。もしこの数字が地価の実態を忠実にあらわしているとすれば、確かに地価についてそれほど心配する必要はないとも言えるのであります。わが国の地価水準が諸外国に比べてはるかに高いということは、いろいろな意味できわめて望ましくないことであります。また地価が四十九年にわずかばかり下がっただけで、その後は年とともに上昇率を高めていることも注意を要することでありますが、そのことが五十三年度予算の効果を大きく狂わせるものでないことも確かであります。
問題は、この国土庁の数字に実は大きな疑問があるという点にあるのであります。
昨年十二月二十一日付の毎日新聞によりますと、首都圏、近畿圏などの大都市の住宅地の価格は、昨年になって急激に上昇しているということを伝えているのであります。たとえば東京都の区部の場合に、いわゆるミニ開発に適当な土地を中心に、一年前に比べ三〇%ないし六〇%も暴騰している場合が数多く見られるというのであります。これは住宅用地の売り物がきわめて少なく、完全な売り手市場になっているためでありますが、たとえば最近世田谷区で、亡くなった人の家に、その人の持っていた二千平方メートル程度の土地を欲しいというので、百十軒もの不動産業者が押しかけた例があるということをこの毎日新聞の記事は伝えているのであります。
もちろん、こういう地価の暴騰は、これまでのところ、ミニ開発に適した土地を中心にしたものでありまして、全面的な地価暴騰という状態が生まれているわけではありません。政府が発表した昨年の住宅地の上昇率が三・三%にとどまっているということは、そういうことと、また公表数字が地価の上昇を誘発することを心配して、数字をできるだけ低目にしているという、二つの理由に基づくものと思われるのでありますが、最近の実情は、すでに政府が発表し、また予測しているものとは急速にかけ離れつつあるように思われるのであります。
「住宅新報」という土地と住宅についての専門紙がございます。これらの問題については相当の権威と信頼性のある週刊紙でありますが、その二月三日号によりますと、同紙が昨年十二月十五日現在で調査した大都市圏の地価は、場所によっては三カ月前に比べてかなりの速さで上昇し始めている。特に東京圏の場合には、多くの地域において五%程度の上昇が見られるというのであります。これは年率にしますと実に二〇%の上昇率に当たるのでありまして、土地ブーム時代と全く同じ状態になっているとも言えるのであります。
御承知のとおり、地価というものは、ある場所で成立した取引価格がたちまち周辺に波及するという性格を持っております。地価が上昇傾向にある場合、この波及性は特に大きいのであります。公共事業や住宅の建設に最大の重点を置いた予算の実行が予想されておる現在では、地価の上昇はもはやミニ開発地点にとどまらないで、その周辺に急速に拡大しておって、少なくとも東京圏の場合、住宅地域全体を覆うようになりつつあるように思われるのであります。
現に私が多くの不動産業者に当たって調べたところによりましても、地主が昨年一月の公示価格の三割高以上を主張している場合が数多くあるのであります。中には公示価格の三倍を要求しているという例もあるのであります。公示価格は全く名目的なものになっているということであります。もし、政府が、東京の住宅地について地価の大幅な上昇は見られないということを主張されるのであれば、公示価格の二割高以内で、ひとつ適当な住宅用地をみつけてほしいと思うのであります。
さて、土地の現状がいま述べたようなものであるといたしますと、住宅建設や公共事業あるいは民間設備投資の中で、政府が最も期待しています発電所の建設が期待どおり実行されることに対しては、きわめて大きな疑問があるのであります。これらの事業や住宅建設のうち、新しく用地の入手を必要とするものについては、その入手難と高価格という二つの面で、景気に対する効果が大きく悪影響を受けることは必至だと思われるのであります。具体的に言えば、事業や建設が予定どおり進まない上に、予算や融資された資金の中で、予想以上の金額が土地所有者の手に渡って、富める者をさらに富ませるだけであり、内需の増大にはそれほど貢献しないということになるおそれがあるのであります。しかも、すでに急上昇し始めている地価は、予算の実施によってさらに上昇速度を速めて、五十四年度以降の公共事業や住宅建設に対して大きな障害となるおそれもあります。このことは、景気の前途に対する不安を強め、五十三年度の景気回復にも水を差すことも十分考えられるのであります。
こういう事態を避けるためには、たとえば新しく借り入れる住宅ローンの金利を利子補給などの方法で引き下げることによって、地価上昇による負担増をカバーして、住宅建設の落ち込みを防止するということも一つの方法であります。また、過去の住宅ローンに対してある程度負担の軽減を図ることによって、消費需要の増大を図ることもこの際必要かと思われるのであります。しかし、これらの方法だけでは土地の入手難を解消できないという点など考えますと、問題の十分な解決は不可能であります。
一方、政府は、地価に対する監視の強化と法人に対する土地課税の緩和などによって、事態の悪化に対処できると考えているようでありますが、その効果には大きな疑問があるのであります。
結局、抜本的な土地対策を早急に実行する以外に道はないと思われるのでありますが、政府の対策の無力さあるいは抜本的対策の具体的内容について述べる前に、土地問題というものの性格、たとえば土地の需給と地価の関係などについて簡単に述べてみたいと思うのであります。
世間には、地価を抑えれば土地の供給は減り、地価が上がれば供給がふえると考えている人が多いのであります。土地の供給をふやすためには、個人の土地譲渡所得税を軽減すべきだと言う人もおります。この考え方は、税を軽減すれば地主の手取りがふえる、その結果、地価の上昇と同じ結果になるという点で、このような地価引き上げ論と同じ考え方の持ち主であります。もしこの考え方が正しいとしますと、いまのように地主が極端に土地を売り惜しんでいる場合に、これから先必要な大量の宅地を手に入れようとすれば、地価を大幅に引き上げるかあるいは譲渡所得税を大幅に軽減するか、いずれかの方法しかないということになるのであります。ところが、地価はいまでも西独の二十倍以上というように高く、一方、宅地の最大の供給源とも言える市街化区域のA、B農地の場合に、その譲渡所得税は、現在でも譲渡益が二千万円以下の場合には一五%、それ以上は何十億円でも二〇%の分離課税を適用されるというように、極端に安い課税が行われているのであります。これをさらに軽減しようとすれば、税金を免除する以外にないのであります。したがって、地価のこれ以上の上昇も、譲渡所得税の大幅な軽減も、きわめて望ましくないということであります。結局、土地問題の抜本的な解決は、このような考え方に基づく限り、不可能だということになるのであります。
しかし、幸いなことに、こういう世間の考え方というものは、生産の可能な普通の商品と土地のように有限なストックとの間にある大きな違いを無視している点で、誤っているのであります。普通の商品の場合は、御承知のとおり、価格が上がれば供給がふえ、価格を無理に抑えれば生産は減り、供給も減るのでありますが、土地の場合は、価格の抑制は、それが効果的な方法で長期間にわたって行われることになり、国民もこの政策が持続するということを信ずるようになれば、供給をふやす働きを持っているのであります。地価の抑制には、人々の土地に対する執着を弱めるという働きがあるからであります。土地の供給が少ないということは、人々が土地を手放さないということであります。そして、土地を手放さないというのは土地に対する執着が強いからであります。
では、なぜ土地に対する執着がいまのように強いのか。いまの異常に高い地価のもとでは、土地の利用による収益の利回りは、大抵の場合きわめて低いのであります。それを考えますと、結局人人が、土地の値上がりによる利益が今後もきわめて大きいので、土地はどんな資産に比べても有利である、しかも安全であると確信しているということが土地に対する執着が強い原因だと思われるのであります。
こういう確信は、大都市圏の住宅用地として適当な土地のように、今後も大きな需要が見込まれるけれどもそれをふやすことは至難である土地については、いまでもきわめて強いのであります。しかも、こういう土地の持ち主のうち圧倒的な大部分を占める農民などの個人的な地主には、ほとんどの場合土地をまとめて売らなければならないという事情はありません。したがって、こういう人たちは、今日では大抵の人が、金が必要なとき、たとえば息子のために家を建ててやる、娘を嫁にやる、そういうように金の必要なときに、それに見合う分だけ土地を売るというような習慣を持っているわけであります。こういう状況のもとで地価が上昇したりあるいは譲渡所得税の軽減が行われれば、手取りの増加に見合うだけかえって売却面積を減らすというおそれが強いのであります。
また、法人の土地税制の緩和によって宅地開発業者の企業意欲と活力を強めましても、買いあさりによって開発のための素地の価格のつり上げを行うだけであって、供給の増加につながらないことも十分に考えられるのであります。
さらに、政府は地価を監視するということを言っておりますが、単なる監視や指導が効果のないことは、これまでの経験によっても明らかであります。また、仮に一部の地域で一時的な地価凍結を行うことにいたしましても、抜本的な政策に基づくものでない限り、その期間だけ売りどめをされる、地主が売りどめをするということだけに終わる可能性が多いのであります。
では、どうすればよいか。土地の供給の少ないということも地価の高いということも、土地への執着が強過ぎるためであって、そういう執着の強さというものは、大きな値上がり益が見込まれるために、土地こそ最良の資産であると人々が確信していることから生まれているのであります。そういう事情がある以上、何らかの方法でこの確信を弱める以外に道はないと思われるのであります。そのためには地価を長期間凍結する、あるいは地価の上昇は認めるけれども、今後の値上がり益は譲渡所得税によって全部徴収するなどという方法が考えられるのでありますが、ここでは、現在の国土利用計画法の活用によって地価の凍結を行うという方法について述べてみたいと思うのであります。
具体的に言いますと、三大都市圏の市街化区域全体に対して、規制区域の指定を行い、地価の凍結を行うのであります。もっとも、現行法では、地価の凍結といっても、物価上昇率程度の地価上昇を認めることになっているのでありますが、これを完全凍結に変更する、そして凍結期間も初めから十年以上とする必要があるのであります。人人の土地に対する執着が強過ぎるのは、土地こそ最も有利な資産であると確信しているためでありますが、もし物価上昇率程度の上昇を認めることになりますと、金利の下がった今日、やはり土地が一番有利な資産だというふうに考えることに変わりはないからであります。
ところで、地価の凍結は、短期間のものであればもちろんのことでありますが、長期間のものであっても、しばらくの間は土地の供給を減少させるおそれがあります。甘過ぎる土地政策になれた地主たちが、売りどめあるいは売り惜しみによって凍結をやめさせようとする可能性が大きいからであります。これに対しては、買い控えによって対抗するということも有力な手段でありますが、さらに効果的なのは固定資産税の強化だと思われるのであります。
住宅用地の最大の供給源である個人所有地のきわめて大きな部分は市街化区域の農地でありますが、そのうちA、B農地に対しては、近傍の宅地に比べて数分の一程度、またC農地に対しては、完全に農地としての課税が現在行われているのであります。市街化区域という、宅地利用のための公共施設が現実に行われ、あるいは行われようとしている特別の地域において、農地に対するこういう固定資産税の極端な軽減というものは、税負担の公平という点で大きな問題があるだけでなく、こういう土地課税の安さということが土地保有の有利さを大きくすることで土地の供給を妨げる原因の一つにもなっているのであります。もし、この固定資産税について、市街化区域のすべての農地に対して原則として宅地並み課税を行うことにすれば、地価の凍結に対して売りどめ、売り惜しみによって抵抗することは税負担の関係で困難になり、一時的な供給減少を防ぐこともでき、また地価凍結の効果を早めることもできると思うのであります。もっとも、こういう宅地並みの課税の実施については、いまでも環境保全や食糧生産という点で強い反対論があることは御承知のとおりであります。確かに市街化区域の中の農地にはそういう面での効果がないとは言えないのであります。しかし、いまのように固定資産税の軽減を主要な手段にして農地を保存するというやり方では、地主の考え一つであしたにでもそれがミニ開発などの用地に変わる可能性が決して少なくないのであります。これではいつ消えてなくなるかわからない公園のようなものであって、都市農地保護論の趣旨にも沿わないと思われるのであります。そこで、こういう欠点を排除し、同時に税負担の公平の原則を守るために、宅地並み課税を免除する農地は、公共用地に転換する以外には永久に農地にしておくことを義務づける、一方、宅地転換の自由を認める農地に対しては宅地並み課税を行うという選択方式を実行すべきだと思うのであります。
いま述べた地価の凍結と宅地並み課税の条件つき実施ということは、よく言われる土地私権の制限の一種でありますが、それによって土地の供給増大と地価の抑制の双方が期待できるという点で、公平かつ効果の大きい私権制限であります。短期的には住宅建設や公共事業の進行を助けて、景気の浮揚に大きく貢献し、長期的には都市の改造、農業の構造改善、エネルギー対策など、大きな問題にきわめて大きな効果が期待できるのであります。いまの国会においてこの問題についても十分な御検討を切望したいのであります。
以上でございます。(拍手)