新田俊三の発言 (予算委員会公聴会)
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○新田公述人 四点ほど御質問がございましたが、簡単にお答えいたします。
まず第一点の、市場に対する社会的介入という言葉で御質問なさいましたか、一般に市場経済に対する政策的介入という表現を使っておりますけれども、これは介入という言葉から受けるように、必ずしもすぐ統制ということではなくて、いまは何といっても資本主義という体制を前提とした政策運営をやるほかございませんから、市場というのが現に存在して、その機構を無視して政策を運営することは当然できないわけであります。ただ、市場経済に任せておいて問題が解決するかといいますと、これはわれわれ学者の間でいう市場の失敗という現象が出てまいりまして、何か短期的にはうまくいくように見えるけれども、それが積み重なっていきますと、国民経済的には大変問題が悪化していくということがまずありまして、その事実があるからそれに対して一定の制御を加えようではないかという発想もまた出てくるわけであります。最初から統制するとかどうしても介入するとかということでなくて、その市場に対する介入というのは、現実の市場の失敗という現象がまずありまして、これに対しててこ入れする必要があろう。それはたとえば先ほど挙げました構造不況業種の問題なんか、造船なら造船は市場経済に任せておくと無政府的に整理されるだけで、雇用問題に対しても有効な手が打てないだろう。あるいはもうちょっと長い目で見ますと、エネルギー問題なんか典型的でありまして、これもやはり市場経済に任せておいたのじゃ問題は解決しない。あるいは交通問題なんかもそう言ってよろしいと思いますね。だから、アメリカですら、コンレールであるとかアムトラックとかというような形での制度があって公的介入をやる。これはもう先進国ではごくあたりまえのことである。問題は、どういうところで市場の失敗という現象が生じているか、どのような手段でそれに介入するかということでありますけれども、これは一概には言えないのでありまして、そのときどきの問題によってきめ細かく運営しなくちゃなりません。ただ、大まかに言いまして、こう言えるのじゃないでしょうか。われわれがやはり考えなければいけないのは、国民生活の改善であり、全体の福祉の向上だ、これは一種の国民的目標だ、それに対して市場の活動を利用しながらその目的を実現するような政策としては、基本的には誘導という政策をとらざるを得ないだろう。したがって、企業の投資活動でもそうでありますが、われわれが目指さなければならない目標に対して好ましい方向に投資を誘導するという弾力的な政策論が私は必要だと思いますね。これは政策的介入という中に含まれてよろしいと思います。しかし、逆にまた問題によりまして、これは直接国家的管理のもとに置かなければならぬ、どうしてもそうしなければ国民経済の全体の均衡が破壊されるといった場合には、国民のコンセンサスを得まして、直接的に国家管理あるいは国有化というケースだって生ずるでしょうが、そういう政策もやはり考えなければいかぬだろう。これを全般に含めまして、その問題の必要によって政策的介入ということを考えざるを得ない時期にもういまは来ておるのじゃなかろうかという点でございます。
それから第二点の戦略産業という言葉は、われわれが比較的新しく使い出した概念でありますが、いかなる段階でも経済の発展には産業構造上の特質がございます。その産業構造上の特質というのには一定の、何かが伸びればそれが関連分野を引っ張っていくという成長主導産業的な産業が出てまいりますね。高度成長ではそういう役割りを果たしたのが自動車と家電といったような耐久消費財部門であった。これが日本の重化学工業化的体質をきわめて急速に確立していった。いまはそれが限度に来ている。したがって、何か自動車とか家電にかわりまして一番わが国にとって大事な産業というのを育成しなければならない、それが一体何であるのかという議論に産業政策論としては問題が移行しているわけであります。それに関して、われわれはむしろ耐久消費財のようなフローの領域から社会資本ストックという領域に産業形成の軸を移していけ、それを育成することがいろいろな形で各産業に影響を与えていくという産業連関的な効果も重視しなければならぬだろうということであります。それが新しい戦略産業という意味で、私は都市再開発等々を具体的に挙げるべきだと思うのですね。
それから、時間がありませんから簡単に申しますが、都市再開発に関しては、特にいま民間企業あるいは日本の市場で進んでおります産業構造の知識集約化という現象がございまして、これがいわゆる技術集約的で非常にシステム化された性格を持つ産業でありますが、これらの産業に対して都市再開発産業というのは非常に大きな育成効果を与えていくということを指摘しておかなければならぬと思います。したがって、道路に対する投資とは波及効果がもうまるで違う、現代の産業構造に適合した政策運営が可能であろう。ただ、これは単に技術論で論じてもらいたくないのですね。産業政策はあくまで手段であって、なぜ都市再開発をやるかというのは、国民生活、特に日本の経済における国際的な社会資本ストックの貧困、これがいまの日本の生活問題の最大問題であるという社会的ニーズから出た政策だということをあわせて銘記していただきたいと思うのであります。
それから三番目でありますが、自動車や家電の突出輸出ではだめだという議論は私かねてから主張していることでありますが、現在の輸出構造が、いま申しました論理の延長上から申し上げますと、日本で産業構造の変化が起こっている、その変化によってだんだん押し出されている産業部門が自動車や家電である、そう解釈していただいていいと思うのですね。そこに産業構造上のずれが出ている。これは押し出され輸出という言葉を私も使うわけでありますが、こういった産業が輸出の先導になりましても、それによって日本の経済の国内市場が引っ張られ、それによって国内経済の構造が改善されるというのは、その性格一つ取り上げましてももうはっきりしているわけでございまして、そういうことは期待できない。そういうことが輸出主導型による経済成長には限度があるということを昨年からわれわれが主張し続けてきた根拠で、それがいまはっきりと実証されつつあると見ていいと思いますね。それが行き詰まるだけではなくて、この種の型は、円高に関する政府の見通しが甘かった、こういう突出した輸出部門における輸出競争力のパターン、市場構造の変化から生ずるところの競争力の強さについての見通しの甘さがあったのではないでしょうか。つまり、いまの円高というのは通貨の、対ドルレートの調整という形で直ちにブレーキがかかるという構造にはなっておりません。したがって、この辺は、放置しておきますと、こういう突出した輸出部門が円高をもたらし、それが国内の繊維をたたくという悪循環につながってくるだけですね。したがって、また国際的な摩擦も大きい。これはわれわれがみずから早目に手を打って規制すべき問題ではなかろうか。ただ、これは輸出を全部抑えるという意味にとってもらっては困るのでありまして、御質問にありましたように、日本の産業構造が変わっていきますと、それに合わせまして輸出構造も変えていってほしい、それをわれわれは輸出構造の知識集約化と言っているわけです。その担い手は、プラント輸出を中心としたものになるべきだろう。ただ、ぼくはこれはちょっと限界がいま出てきていると思いますね。プラント輸出は、御承知のとおり基本的なエンジニアリング技術をしっかり確立した上でないと本当に国際市場で競争することはできません。日本の高度成長的体質は、基本的技術に関しては外国から導入するというパターンをとり続けておりましたから、いまその限界が出始めております。したがって技術政策、特にエンジニアリング企業の育成に関するような産業政策が早急に確立されなくては輸出構造の転換もできないだろうという気がいたします。
第四点に関しては、中期計画的な発想がなぜわが国で出てこないのか。財政計画一つとりましても、スウェーデンを初めヨーロッパ諸国が中期財政計画の時代に移っているのはもう御承知のとおりだろうと思いますが、先ほど挙げました造船の計画に関しましても、一九八〇年までのEECの中期計画に基づくところの産業再編成の一環で実施されているものであります。したがって、これまでの惰性に押されて、直ちにその投資効果が上がるからやるとか、あるいはその投資効率を考えまして、道路に投ずることがさしあたっては収益を伴って返ってくるとか、そういう短期的な経済視点で公共投資が行われてはならないのであって、むしろ日本経済の構造の変革に関する中期プログラムを立てて、それに基づいて中期財政計画も立て、そして財源問題についても検討を加えて、急にやって息が切れることがないように、確かな足取りで、時間をかけて日本の経済を変えていく。したがって、その意味からしますと、政治構造が変わっても、政策については引き続いてそれが中断されることなく、たとえば十年のターム、期間で受け継がれていくというような考え方が必要じゃないでしょうか。その点が西ドイツなんかとの大変な違いだと思います。同じようにドルに対して通貨が上がっても、マルク高を国民生活に利用し得るようなそういう体質の国と、円高によって直撃を受ける産業がたくさん出てくるというような違いは、やはり西ドイツの経済政策がいろいろなところで中期的視点で取り組んできた成果がそういうところに生かされているのじゃないかと思いますね。
以上、簡単でございますが、四点についてお話ししました。