戸井田三郎の発言 (本会議)

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○戸井田三郎君 私は、自由民主党を代表して、ただいま趣旨の説明のありました老人保健法案につきまして、総理並びに厚生大臣に若干の質問をいたし、御所見を伺いたいと思います。
 戦後、わが国は、経済の発展と相まって医療保険制度の充実、公衆衛生対策の推進等により国民の平均的寿命が著しく伸長し、世界有数の長寿国になったことは、われわれ国民にとって実に喜ばしいところであります。しかし他方、出生率は年々低下し、人口構造の高齢化は、世界に例を見ないほどのスピードで進行をいたしております。したがって、今後の社会保障における最大の課題は、何といっても、この超スピードで到来する高齢化社会への対応でなければなりません。
 しかも、この老齢人口の量的拡大に対して生産年齢人口は、二十一世紀には四対一になると言われております。当然、老人扶養の国民的負担は増大の一途をたどることが予想されます。
 しかし、わが国の経済は、もはや従来のような高度成長は望めません。一方、わが国の社会保障は、給付の面では欧米先進国に遜色のない水準に到達しておりますが、負担の面では、はるかに低い水準にとどまっております。すなわち、資源を海外に依存する日本で、高度成長は望みがたい、高齢化社会は急速に来る、出生率は低下し、生産人口は減る、社会保障の水準は欧米並みに達したが負担の水準は低いというわが国の現状で、これからの社会保障を後退させないという至上命題を維持するためには、どうしても異常な決意で対応しなければなりません。まさに、国民総ぐるみの課題と言わなければならないのであります。それには、厳しい事態を率直に訴え、きれいごとではなく本音で勝負する努力をしなければならないと思います。
 本来、自由社会は、自由競争を原理とするかわりに、そこには当然弱い者を助ける相互扶助の精神と責任がなければならないのであります。もしその責任を果たさなければ、自由社会はまさに弱肉強食の社会になるからであります。だからといって、相互扶助に無原則に頼って自助の努力を放棄するならば、その社会は没落の一途をたどります。そこでもし、高度成長の夢捨てがたく、安易に過大な給付を求め続けるならば、わが国の社会保障に明るい未来はありません。
 私は、高齢化社会の対応を目指して、より堅実な社会保障制度の実現のためには、新たな負担の国民的合意を求めることさえ考えなければならないのではないかと思います。総理の率直な見解を求めてやみません。
 老人保健法案は、総理の諮問機関である社会保障制度審議会においても、「医療に傾斜しすぎたこれまでの制度の欠陥を改善し、公費を中心とした予防等の事業を拡大強化しようとしていること」に一応の評価を与え、また、社会保険審議会においても、「老人保健制度を創設し、壮年期からの健康管理を推進することにより、健康な老人づくりを目指しているもので、評価に値する。」と答申をいたしております。
 私も、老人保健法案は、高齢化社会に対応して総合的な老人保健対策を推進するものであると同時に、行政改革の基本理念に沿うものであると評価をいたしております。ただ、その内容については議論を尽くすべき問題もありますので、それらの諸問題につき、厚生大臣の見解をお伺いいたしたいと思います。
 まず第一に、診療報酬の支払い方式についてであります。
 診療報酬支払い方式については、種々なる議論がなされております。現行出来高払い方式には、医療費の歯どめがない、医療費のむだを誘発するといった欠陥があるので、これを基本的に見直すべきであるという議論がある一方に、出来高払い方式には、医学の進歩や社会の変化に対応できる、患者の個性に応じた医療を行えるといった長所があるので、これを変えることは適当でないという考え方もあります。
 私は、医師との信頼関係のない医療制度はナンセンスだと思っております。それだけに、その信頼を裏切るような医師は、また断固糾弾されなければならないとも思っております。したがって、診療報酬の支払い方式も、医師と患者の信頼関係を前提に、患者の症状に応じて最もよい医療が行われるようなものでなければならないと思っております。
 現行支払い方式が、一部の悪質な商業主義的悪徳医師に乱用されたからといって、制度そのものを否定することは妥当でないと思います。もし仮に老人保健の支払い方式が変わるとすれば、一人の医師が二つの支払い方式で患者に対応しなければならなくなります。全く不合理であります。したがって、支払い方式の基本を変えることは慎むべきことであると思うが、厚生大臣の御所見を伺いたいと思います。
 次に、老人保健審議会の設置についてであります。
 私は、本来、審議会は行政府の独走を戒めるものであると思っておりますが、一部には、審議会は行政府の隠れみのであるという不安と意見もあります。
 老人保健審議会は、医療に対する専門家が大局的な見地から、法の運用に誤りなからしむるものであると思うが、行政改革が叫ばれている現在、既存の審議会を活用することを考えられないものか。
 また、すでに保険医として登録されている医療機関を、さらに老人保健取扱機関として新たな登録指定をすることはいかがなものであろうか。これも含めて大臣の御所見を伺いたいと思います。
 第三に、老人医療費の問題を考えるに当たり重要なことは、その負担の仕方であります。
 老人保健法案においては、保険者から徴収する拠出金を、老人医療費の実績のほか各保険者の加入者数によって案分していることは、現行制度の費用負担の不均衡を是正する意味で有効な方法であると思いますが、一方、お年寄りの方々に、従来無料であった老人医療に一部負担を導入したことは、十分国民の理解を求める努力をしなければならないと思います。
 われわれは、財政が苦しいからといって安易に負担を求めることは慎まなければならないし、常に国民の過重な負担を避ける努力と社会保障全体についての計画的、体系的な合理化、効率化を進めていかなければならないことは当然でありますが、私は、より高い保障を求め、より広範な社会保障制度を実現するためには、常に自助の努力と適正な負担に対する新たな国民的合意を定着させることが、高齢化社会に対応するための大きな要件であると思っております。
 また、このことが、一部の人々の中に、福祉の後退であると指摘する者もありますが、無自覚な無料化は、かえって堅実な社会生活を保障するゆえんのものではないと思います。高齢化社会に向かって堅実な活力のある社会保障制度を定着するためには、新たな社会秩序を求めていかなければなりません。厚生大臣の率直かつ真摯な御所見をお伺いいたしたいと思っております。
 最後にお伺いしたいことは、保健事業についてであります。
 この制度の目玉の一つである予防から治療、リハビリテーションに至るまでの一貫したサービスの供給は、治療偏重の現行制度を改めようとするものであり、評価すべきものであると思います。ただ、制度がいかによくても活用されなければ絵にかいたもちになります。
 ここ十数年の老人健康診査の受診率を見ると、全老人人口のわずか二二%前後というのが実情であります。多額の金を使って実効が上がらなければ大変であります。保健事業を実施する側においても、必要な施設やマンパワーが確保されなければ、せっかくの保健事業も十分実施することはできません。
 このように、保健事業を効果的に実施するためには幾多の問題があります。厚生大臣の見解を求めて、私の質問を終わります。(拍手)
    〔内閣総理大臣鈴木善幸君登壇〕

発言情報

speech_id: 109505254X00719811015_013

発言者: 戸井田三郎

speaker_id: 28548

日付: 1981-10-15

院: 衆議院

会議名: 本会議