田口一男の発言 (本会議)
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○田口一男君 ただいま議題となりました老人保健法案につきまして、私は、日本社会党を代表し、総理初め関係大臣に質問いたします。
私は、常々、健やかに老いた幸福な老人たちをわれわれの周囲に持つことは社会全体の利益である、こう考えております。
その思いから、まず総理のお考えをぜひとも明らかにしていただきたいと思います。
それは、この臨時国会で、わが国の年金受給者にとって直接、間接大きな影響のある法案が二つ審議されておるのであります。
その一つは、いわゆる行革関連特例法案でございます。いろいろ性質、目的の異なっているものを、ただ金減らしのために、文字どおり玉石混淆でない石々混淆ともいうべきもので一本となって出ておりますが、その中に「厚生年金保険事業等に係る国庫負担金の繰入れ等の特例」があります。
もちろん、国庫負担率が五%減ったからといって直ちに年金額が引き下げられるとは申しません。しかし、年金財政に重大な悪影響をもたらすであろうことは、すでに本議場等を通じて指摘されておりますように必至であります。
私は問題としたいのは、そのあおりを受けて、来年の年金改定実施時期が、厚生省の概算要求で切り込まれていることであります。昭和四十八年の法律改正以来、年金受給者の強い要求にこたえて、与野党合意のもとに続けてまいりました実施時期の繰り上げ措置を、来年は厚生年金、福祉年金は五カ月分、国民年金については半年分、切り捨てようとしているのであります。
もう一つは、この老人保健法案でございます。費用負担の公平化をうたって患者に一部負担を強いるばかりか、現に三十七都道府県で実施をしておる老人医療費支給対象年齢の繰り上げに対してすら、悪意に満ちた批判と、その措置の取りやめを要求していることでございます。
総理は、しばしば、二十一世紀を展望してと言われておりますが、そのために政治生命をかけようとする真の行財政改革は、高齢化、都市化、国際化という未来社会へ向けて、国民のニーズに即応した行政の見直しであり、国民生活の一層の向上を目指した行財政の民主化と、公的、社会的部門の拡充でなければなりません。
高齢化社会という、わが国にとって避けて通れない問題への対応として、老人福祉が単に物質的側面にとどまってはならないことはもちろんでありますが、いま指摘をいたしました老人医療費の有料化や、年金の物価スライド時期の延伸措置は、その根底に、老人を社会の進展に寄与した者として処遇しようとする考えもなければ、健全で安らかな生活を保障する意図もない、言うならば、物質的生産に寄与しない老人たちを、お役御免の、社会の負担物としかとらえていない発想がまかり通っていると思えてなりません。(拍手)
総理、いかがでございましょうか。そうでないと言われるのならば、少なくとも年金支給時期の切り捨ては再考すべきではないでしょうか。現状どおりとするため、通常国会に特例法を出すと明言していただきたいのであります。
次いで、本法案の内容に沿って、問題点を指摘しながら質問いたします。
まず、厚生大臣にお尋ねします。
きょうは大蔵大臣お見えでありませんけれども、大蔵大臣はかつて厚生大臣当時に、私どもの質問に答えて、医療保険制度改革のスケジュールを積極的に示され、また日本医師会長との関係についても歯に衣を着せない御発言等もあり、関係団体の中で、渡辺大臣の話なら木戸銭払っても聞く価値があるとさえ評価をされておったのでございます。そういったことを思って、いま厚生大臣、どうお考えでしょうか。
その一つは、経済の基調が低成長に移行しているにもかかわらず、医療費のみは所得の伸びを上回って急激に上昇を続けているということについてでございます。
さきの臨調答申にも具体的な提言がありますが、それを待つまでもなく、このことは現下の国民医療が抱えている最大の課題であります。私は、明後年には二十兆円余にも達するであろうと言われている国民医療費の伸びは、薬づけ、検査づけ、こういった不安を拡大し、果てしなく医療費の肥大化をもたらす主要な原因となっている現行出来高払い方式を改めなければならぬと思うのですが、いかがでございましょうか。もしこのまま推移をするといたしますと、各医療保険への国庫負担額はどのくらいになるでしょうか。
私は、この老人保健法案を見る場合に、いま申し上げた医療費の上昇によって、老人医療費の負担に、わが国の医療保障制度が耐えられなくなったからというふうにとれるのでありますが、どうでしょうか。そうではなくて、問題は、いま述べた急激な医療費上昇に医療保険全体が対応しがたくなっている、とのことにあるのであって、老人医療費はそのごく一部にすぎない、こう考えておるものでありますけれども、厚生大臣、どうお考えでしょうか。
大臣は、この老人保健法案の成立を急ぐの余り、現行の出来高払い方式は新設の老人保健審議会で見直すと言いながら、すでに日本医師会長との間で、出来高払い方式は維持し、老人保健でも適用することで合意したと言われておりますけれども、真意のほどを明らかにしていただきたいのでございます。
同時に、臨調答申も述べておりますように、「老人医療の特性を踏まえた合理的支払方式」を老人保健審議会での結論を得た後、老人保健制度を実施すべきではないかと思いますけれども、御見解を承りたいと思います。
いまさら申し上げるまでもなく、老人医療の現状は、医療保障に偏って保健サービスの一貫性を欠いていることは、関係審議会等からつとに強調されておりますように、施策の中心は老人が健やかに老いることを可能とするものでなければなりません。にもかかわらず、政府案は、薬づけ等の不安と医療費の高騰をもたらす原因をそのままにして、患者一部負担の導入と各医療保険制度からの共同拠出によって大衆負担の増大を図り、結果、老人の受診を抑制することだけしか考えていないと言わざるを得ません。
七十歳以上の疾病動向にはっきりと出ておりますように、老人特有の慢性疾患や老齢化に伴う心身の機能低下のすべてを病気として診療を加えてみても、その効果は限られているでしょうし、現状のままで推移すれば、将来の負担は膨大なものとなるのみならず、医療資源の適正かつ効率的な配分を大きくゆがめることになるでしょう。
私は、老人医療費を無料化して受診しやすくすれば十分なのではなく、老人病の予防や健康管理が伴わなくてはならないと思います。したがって、日常生活の中で食事、運動、休養のバランスを改善することにより、疾病をコントロールすることを目指し、かかりつけの医師及び保健婦の連携を中心とした一貫性のある包括的なサービス、特に在宅者への訪問サービスを確保することが重要であると思います。私たちは、このような方式を「薬剤依存から生活療法へ」と言っております。そうなれば、医療施設への診療報酬は、現行の点数出来高払いの方法でなく、日常的な健康管理や慢性疾患に対する生活療法の評価を基本とした、たとえば登録人頭払いを採用することが適当となるのではないでしょうか、どうでしょう。
さらに、このようなかかりつけの医師制度を円滑に進めるためには、医師、医療施設の適正配置や、病院と診療所の機能分化、高額医療機器の共同利用等が行われなければなりません。また、今日なお未解決の僻地、無医地区、休日、夜間診療等の隘路解消のためにも、本案提出と相まって具体的計画の提示がなければならないはずでございます。厚生大臣、いかがお考えでしょうか。
私は、このような従来から問題になっておることを指摘をいたしましたけれども、本法案の特徴とも言っております四十歳からの保健事業と関連をしてさらに申し上げたいと思います。
私は、先ほど、診療報酬支払い方式についてのはっきりした御見解についてお伺いをいたしましたけれども、もう一つ本法案の致命的欠陥と言わなければならないものは、保健医療サービスを担う人員及び施設の確保、整備について、展望もなければ、現状を改善しようとする意図すらないことでございます。
たとえば、国民健康保険事業のための保健婦をいまだ置いていない市町村があり、設置市町村でも、本来の業務は片手間で、他の一般行政事務に使われておるということは周知の事実でございます。そこで、このような現実を踏まえて、それぞれの制度に分かれております保健婦、看護婦、ホームヘルパー、ケースワーカー等が健康と福祉に関するサービスに従事しておりますけれども、この充足計画と、医師の協力を得て地域保健サービスといったものを統合して、住民の必要に応じて家庭に派遣するなどしてはどうでしょうか。自治大臣としての御見解を承りたいと思います。
四十歳からということにつきましても、最近の健康上の諸指数が示す傾向から、これを三十五歳からとすべきではないかと思いますが、厚生大臣の御見解を承りたいと思います。
次に、退職者医療についてお伺いいたします。
定年退職後、被用者保険から国民健康保険に移ると、にわかに七割給付にダウンすることや、一方で被用者健保にある任意継続給付制度は、期間は二年しかない上、労使双方分の保険料を月々納付しなければならないことなどは、先刻承知のはずでございます。政府案は、このような矛盾を放置したままで、悪名高い財政調整まがいの共同拠出を企図しておりますけれども、負担の公平を唱えるならば、国民健康保険の給付率を引き上げて、給付の平等を実現すべきではないでしょうか。
また、地方公共団体の単独事業である老人医療費支給対象の繰り上げ措置について、これを取りやめさせようとのことでありますけれども、これは問題であります。むしろ、老人医療費負担軽減が重要課題となった老人福祉法制定の経過からも、全国一律に六十五歳からとすべきでないでしょうか。地方自治の立場から見て自治大臣の御見解を、そして厚生大臣のお考えを承りたいと思います。
私は、繰り返し申し上げていますように、問題は老人福祉の観点から接近すべきであって、単純な財政対策論だけでは事は済まないのであります。そうはいっても、老人医療対策の財源は問題であることは私ども認識しています。ただ、診療報酬支払いの方式一つをとってみてもわかるように、国民健康保険や健保のあるべき姿のビジョンを欠いたまま、老人医療だけを先行させることは、老人の権利を抑圧し、生命の尊厳の軽視につながるとの批判を免れ得ません。
臨調答申の要望もあって、政府は本法案の成立を至上課題として取り組む姿勢は、それなりに首肯できますけれども、成立を焦るの余り、本法案の焦点ともいうべき支払い方式の見直し、老人保健医の指定も行わず、現行の点数出来高払いのままでこの法案が成立すれば、新しい保健事業の実施と相まって、老人医療費問題はさらにどろ沼化することは必定であります。
行財政改革をもって国家百年の計と気負ってみえる鈴木総理、大山鳴動してネズミ一匹の老人保健法とさせないことを、きっぱりと内外に宣言していただかなければなりません。(拍手)その御決意のほどを伺って、私の質問を終わります。(拍手)
〔内閣総理大臣鈴木善幸君登壇〕