森谷正規の発言 (商工委員会、外務委員会、農林水産委員会、科学技術振興対策特別委員会連合審査会)

⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。 詳細は利用規約をご確認ください。

○参考人(森谷正規君) 野村総合研究所の森谷でございます。
 私は研究所で技術開発問題を調査しておりますが、特に最近は技術の国際比較の問題について力を入れて研究しております。
 で、本日のテーマは国際経済摩擦ということでございますが、これは言うまでもなく日本が工業製品、貿易製品において非常に力が強いと。で、その力を生み出しているのが技術力でございまして、技術力と貿易摩擦というのは非常に密接な関連がございます。そういう視点から私の意見を申し上げたいと思います。
 日本の技術力はいま非常に強くなっております。しかし、なかなかその強さを認めようとしないという、こういう問題がございます。これは、御承知のように、日本はこれまで欧米に追いつく、キャッチアップということでやってきたわけでございまして、まだまだわれわれはかなわないというような見方をとかくしがちでございます。もちろんかなわない面もたくさんございますが、貿易商品においては決してそうではない。今後まあ先端技術が非常に大きく伸びていくわけでございますが、今後どうであろうかという見通しを持つのが非常に重要であるというふうに考えます。
 結論を申し上げますと、私は、先端技術力においても、先端技術においても日本の技術開発力はますます強くなると。したがって、貿易摩擦の火種は今後とももっと大きくなるかもしれないというふうに考えております。
 で、その根拠を申し上げたいと思いますが、まず最初にいまのイノベーション、御承知のようにこの三、四年来大変なイノベーションでこざいますが、技術が急速に発展するという状況を迎えているわけですが、このイノベーションの性格を考える、それが非常に重要でございます。
 先端技術といいますと、とかくスペースシャトルのようなものを頭に浮かべる。あれは大変なものであるというふうに考えますが、あれも確かに大変な先端技術ではございますが、私はいまのイノベーションというのは、先端技術の大衆化の時代であるというふうに考えております。一つのその典型的な例を申し上げますと、ゲーム・アンド・ウォッチというのを御承知かと思いますが、まあ皆様方のお孫さんが遊ばれるものでございますが、わずか六千円ぐらいの商品にLSI、液晶という先端技術が使いこなされておるわけでありまして、あるメーカーはこれをすでに一千五百万個生産しております。
 私はいまのイノベーションをコストイノベーションである、それから応用のイノベーションであるというふうに考えておりますが、コストイノベーションといいますのは、性能はどんどんどんどん向上する、超LSIというようなものは五年で十倍、十年で百倍というくらい性能は向上しますが、コストは全然変わらない。いまの一番最先端の超LSIがわずか一個千円である、これは十年前も千円でございました。したがって、コストがどんどんどんどん安くなるという、まさにコストを下げるということがイノベーションの原動力になっているということでございます。
 それからもう一つは応用のイノベーションでございますが、超LSIですとか、光ファイバーですとか、あるいはセラミックスですとか、あるいは炭素繊維、これは御承知のようにゴルフのブラックシャフトに使われておりますが、こういうものをいろんな製品に多様に応用していくと、それがごくごく身近な製品にまで入っていくというのがいまのイノベーションの性格でございます。したがいまして、日本は今後も、たとえばパソコンですとか、ワードプロセッサーですとか、あるいはビデオカメラあるいは産業用ロボットといったような量産商品に先端技術を応用していくということにかけては非常に強いわけでありまして、それがまさに貿易商品、大型の貿易商品になるわけです。というようなところから、日本は今後も先端技術において十分強い力を発掘し得るというふうに考えております。
 もう少し広くその日本とアメリカの技術力ということを比較してみますと、もちろんアメリカには日本よりはるかに強い技術がたくさんあります。数から言えばアメリカの方がはるかに多い。しかし、この技術というのはオリンピックではないわけですから、金メダルの数を勘定してもしようがないわけでありまして、どういう商品で強いか、それが大型商品であるかあるいは貿易商品であるのか、そうでないのかということが一番重要でございます。
 アメリカの技術が強いのは、これはもう御承知のように、たとえば国防、宇宙開発がございます。これはもう当然でございまして、国防は日本の国防の研究開発費の百倍を超えるお金を投じているわけですから、これはもう全然足元にも及びません。宇宙開発も非常に大きな格差があるのは当然でございます。あるいは原子力もかなり弱い、あるいは航空機、これも軍事技術と非常に密接に関連がありますので、まだまだアメリカにかなわない。あるいは民生の分野で言いますと、たとえば医療機器のようなものはかなり弱い——最近は日本もかなり力をつけておりますが。こういうどちらかといいますと特殊な、非常に高度な技術にアメリカは力を入れる。それは基本的に市場が小さいわけであります。日本はどちらかといいますと、まあ技術的にはそれほど高度でないものに力を入れる、そこに先端技術をどんどん使いこなして大量に生産していくというのが日本の方向でございます。
 ここで一言申し上げておきたいのは、国防、宇宙開発、これに強ければこれが技術を先導していく、したがって、アメリカはやがて日本をまたひっくり返すのではないかというような意見もよく言われますが、私はそういうふうには思いません。いま国防、宇宙技術と民生産業技術はかなり性格を異にしております。したがいまして、国防、宇宙からの波及効果は——これはまあないとは言いませんが、それはまあ多少はありますけれども、そんなに大きくないと、むしろアメリカの問題はこの国防、宇宙開発に非常にお金を投じる、お金よりもむしろ人を投じる。一番優秀な人が国防、宇宙開発の分野に行くというのがいまのアメリカの一番の泣きどころだろうというふうに考えております。それが民生産業の技術がおろそかになってきた最大の理由であるというふうに考えております。逆に言いますと、日本が幸いながら防衛負担が軽いというのは、これは金の問題もあるかと思いますが、私はむしろ人の問題にある。最も優秀な人が自動車ですとか、鉄鋼ですとか、VTR、こういった製品の開発に携わってきたというのが、これがまあ日本の強さでございます。
 今後を考えましても、アメリカはとかく新しいものを開発するというのが好きでございまして、これは御承知のように、アメリカというのはフロンティアスピリットが非常に旺盛でございます。これはいまでも健在でありまして、たとえば超LSI、これは非常に高度な技術ですが、しかし、やることは大体決まっている。いかに線を細く書いてたくさんトランジスタを一つのチップに詰め込むかという、こういうことは余りアメリカは力を入れない。ジョセフソン接合素子という全く新しい原理の製品をやりたがるというのが、これがまあアメリカの国民性でございますが、それがだんだんだんだん普及するころになると日本が力をつけていくという……、したがって、アメリカは常にどうも損な役回りばかりやらせられるといういらいらが生じてくるはずだろうというふうに考えております。
 たとえて申し上げますと、アメリカと日本の技術の争いというのは、わかりやすく表現しますと、サッカーとラグビーの試合であるというような表現をよく申し上げるわけですが、アメリカは国防、宇宙開発もやっておりますし、あるいは福祉技術のようなものも非常に力を入れております。それから、もちろんテレビだとか自動車もつくっております。で、非常に広く展開しているというのがアメリカでありまして、日本はもっぱら民生産業の量産商品に集中的に力を入れる。たとえて言いますと、ラグビーでキック・アンド・ラッシュというボールをけ上げて全員が一団となって突っ込んでいくというような形の争いといいますか、それが貿易に出ているわけでありまして、しかも、どちらかといいますと、アメリカの一番手薄な部分に全員が一丸となって突っ込んでいくわけでありますから、これはアメリカが悲鳴を上げるのも無理はないというふうに考えます。
 こういう話を官庁などでもよく申し上げるわけですが、しかし、私が日本の技術が強いと言いますと、弱い分野はどこかという質問がすぐ出てまいります。私はこれが大変危険であるというふうに思います。
 私はいま日本として考えるべきことは、何をやらないかということだろうというふうに思います。何ができるかではなくて、何をやらないか、何をやるべきでないかということがいま非常に重要になってきている。といいますのは、貿易というのは輸出があり、同時に輸入がないといけないわけでございますが、御承知のように昨年あたりから日本の黒字幅は非常にふえております。私がいま大変心配しておりますのは、原油価格がかなり値下がりを始めております。これは見方によっては二十ドルくらいに下がるという見方もございますが、それが世界経済に与える影響はどうだろうか、逆オイルショックはというような話がよく出ます。しかし、その原油が下がるということのマイナス、これに関して日本の黒字幅がべらぼうにふえるということの指摘がほとんどないのは不思議に思うわけですが、たとえば原油が二十ドルに下がりますと、それだけの要因を考えますと百五、六十億ドルくらいの黒字の要因が出てまいります。となりますと、いまでも日本は世界からお金をかき集めているんではないか、マージャンでいきますと一人浮きのような状態で、ついにOPECまでハコテンになってしまうというような時代になろうとしているわけでありまして、日本はますますほかの国から恨まれるという、それを非常に気にしているわけでございます。
 しかし日本にも構造的に弱い部門がございます。申しわけないんですが、農業はやはり構造的に弱いんではないか。これは土地の問題が致命的でございますが、ほかにもたとえば労働コストが非常に安ければ国際競争力が強いという、したがって新興工業国、発展途上国が追い上げてくるという、こういうものもたくさんございます。これからはその強い分野と弱い分野のバランスをどうとるかということが非常に重要なポイントになってくるように思います。いまは強い分野はどんどん伸ばしていく、日本にももちろん弱い分野はありますが、それを何とか保護しよう、これは農業に限らず工業でもそういう面があるわけでございますが、やはりこれでは通用しない。強い分野をどんどん伸ばしていくんであれば、弱い分野をやはり開放しないといけない。農業を開放すべきかどうかというのは私はちょっと意見を差し控えさしていただきますが、私はむしろ工業だろうというふうに思います。
 いま山口さんがおっしゃいましたように、農業製品の輸入をしましても、五億ドルとか八億ドルという金額でございます。石油が二十ドルに下がりますと、百数十億ドルの黒字になるわけでございます。私はこれは大変厄介な問題になると思います。ですから、その解決策としては工業製品を輸入しないといけない。何とか工業製品を輸入すべきであるというのがこれからの日本の方向だろうというふうに考えております。
 ところが、日本の市場は非常に高度なものを要求するということでありまして、いろいろ探してはいるんですが、なかなか日本の市場で売れるような製品がない。あるいは自動車の部品にしましても、日本の自動車に組み込めるような部品は探してもなかなかないということだろうというふうに考えております。そこで、日本が技術を、これはアメリカにもあるいは新興工業国、発展途上国にも提供する、日本ができるだけ協力をしてあげる、それで工業製品の輸入をふやすということを今後はやるべきだろうというふうに考えております。それをやらなければ、こういう原材料価格が下がっていくという状況が続きますと、黒字幅はどんどんふえる。となると、どうしても輸出をさらに減らさざるを得ない。
 これまで日本は輸出立国できたわけでございますが、だんだん輸出は悪であるというふうな見方も出てくるんではないか。まあ悪というのはちょっと言葉が過ぎるかもしれませんが、輸出は決して望ましくないというような見方も出るんではないかということも恐れております。
 そういう状況になりますと、まさに世界貿易は縮小均衡になるということになりますので、繰り返しますが、日本の技術力は強いという自覚を持って、どんどんその技術を外に出して製品を買い入れる、それによって世界貿易を発展さしていく、それくらいの力は日本は持っているはずだというふうに考えております。
 以上で私の意見を終わります。(拍手)

発言情報

speech_id: 109814462X00119830223_006

発言者: 森谷正規

speaker_id: 27661

日付: 1983-02-23

院: 参議院

会議名: 商工委員会、外務委員会、農林水産委員会、科学技術振興対策特別委員会連合審査会