田中昭二の発言 (科学技術委員会)

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○田中参考人 東京大学の田中でございます。
 高温超電導についてということで多少御説明させていただきたいと存じます。お配りした資料にございますので、それに基づきましてお話をさせていただきます。
 超電導というものの研究に携わった者にとりまして、高温超電導というのは非常に長い間の夢でございます。二十一世紀の技術革新は核融合と高温超電導である、こういうことをソ連の非常に有名な理論家であるギンツブルグが数年前に言っております。私たちもこれをキャッチフレーズにいたしまして、文部省あたりから多少研究費などをいただいていたわけでありますが、ここで申し上げたいことは、高温超電導というのは二十一世紀なんだというふうにだれもが信じていたわけであります。ところが、最近になりまして突如として高温超電導が目の前にあらわれまして、私たち研究者といたしましては二十一世紀がいきなり目の前に来てしまった、あるいはタイムマシンに乗って二十一世紀に入っちゃったというような衝撃を受けているわけであります。
 そういうことでございまして、長い間の夢でありましたので、幾つかの報告がこれまでございましたけれども、すべて幻として消えてしまいました。そのために、我々研究者仲間では、USOをもじりましてアンアイデンティファイド・スーパーコンダクティング・オブジェクト、つまりうそだというふうに昨年までは言っておったわけでございます。それが昨年の暮れになりまして三十度Kを超す高温超電導体が見つかったということになりまして、それにつれて広大な応用分野があるのではないかということになりました。そしてことしの二月になりまして、九十度Kというような液体窒素温度を超す超電導が発見されたということになりまして、世界的にブームになった、そういうのが現在の情勢でございます。
 それで次のページに移りまして、最近セラミックス超電導という言葉がよく使われております。セラミックスというと瀬戸物ですから一般には絶縁体だというふうに思われる方が非常に多いわけでございますが、そのセラミックス、主に酸化物ですけれども、その一部に金属的な性質を示すセラミックスもあるわけでございまして、それが最近話題になっております高温超電導体の金属性のセラミックスで起きた現象なのであります。
 電気抵抗の原因というのはさまざまございますけれども、金属の中にあります自由電子が不純物やそういうものにぶつかりましてエネルギーを失う、そういうことによって電気抵抗が発生するのでございまして、普通の金属ですと、絶対温度零度に持っていきましても有限の電気抵抗は残るわけであります。ところが、超電導になりますと、ある温度で突如として電気抵抗がゼロになるわけでございますけれども、そのゼロになり方というのがまた非常に異常でございます。
 なぜそうなるかと申しますと、次のページにございます。超電導というのは、実は超電導より高温では常電導と言われておりますけれども、常電導における金属の中の電子の振る舞いと超電導になったときの金属の中の電子の振る舞いは全く違ったものであるということをまず御認識いただきたいと思います。
 いい例が、その上の絵にありますように、水蒸気を考えてみますと、水蒸気というのは水の分子が空気中で自由にばらばらに動き回っているわけでありますけれども、これはある露点以下になりますと突如として水滴、水になってしまうわけであります。その場合に、水蒸気と水とは全く物理的性質の異なるものでございます。それを我々は気相、液相というふうに呼んでおりまして、この転移温度を相転移、こういうふうに呼んでいるわけであります。金属の中でも常電導相の場合には自由電子が自由に動き回っているわけでありますけれども、ある臨界温度以下になりますと、突如として電子同士が手をつなぐような格好になりまして、全体が一つのクモのような動き方をするようになるわけであります。これを私ども協力現象と言っておりますが、この手をつなぐ力が非常に弱いために、ちょっと温度を上げるとまたばらばらの電子に戻って常電導相になってしまう。高温超電導の問題は、この手をつなぐ力をいかにして強くするか、あるいは強い物質を発見するかということにあったわけでございます。
 超電導相に入りますと非常に特殊な現象が起こってまいります。次のページでございますが、超電導相の特徴といたしまして、電気抵抗がある温度で突如としてゼロになるということになるわけでありますけれども、このゼロになり方というのがほぼ完全にゼロということでございまして、その証拠に、超電導でリングをつくりましてこれに電流を流しますと永久に電流が流れる。永久というのは証明しがたいわけですが、一年とか数年のオーダーでは電流が減らないというわけであります。でありますから、例えば、超電導線で地球から月まで線を張りまして、地球で六ボルトの電池をかければ月で電球がつく、それほど電気抵抗が低いということになるわけであります。
 それからもう一つマイスナー効果というのがございまして、超電導の状態になりますと完全に磁気を遮へいしてしまいます。これは超電導独特の現象でありまして、したがいまして、ある物質が超電導になったかならないかということは、電気抵抗だけでなくてマイスナー効果も測定しなければ完全に証明されたということにはならないわけであります。最近、一昨日でありますか、非常に高い超電導体が見つかったという報告がございましたけれども、実はこれはマイスナー効果はまだ観測されていないようでございまして、私どもの中ではまだ少し疑問があるということが言われているわけであります。
 次のページに参りまして、こういうようなことでもう一つ非常に重要な要素がございます。超電導におきます電子の結びつきが非常に弱いということを申し上げましたが、そのために外から磁界をかけるとまた常電導に戻ってしまう。その磁界を我々は臨界磁場と言っておりますけれども、例えば超電導線を巻いて電磁石をつくって強い磁界を発生させよう、そういう場合には、臨界磁場が非常に重要なファクターになっているわけであります。
 それからもう一つ重要なファクターで臨界電流というのがございます。これは、電気抵抗ゼロだから無限に電流が流れるかというと、そうではございませんでして、電流がその線の中を流れますと、電磁気の法則によりましてその周りに磁界を生じてしまいます。この磁界は電流密度に比例いたしますので、ある程度以上電流が流れると自分でつくった磁界で超電導を壊してしまう。そういうことで余り電流が流れると常電導に戻ってしまう、そういうことがございます。これを我々は臨界電流と呼んでおります。でありますので、応用という意味で申し上げますと、臨界磁場と臨界温度というのが超電導体の特徴を示す非常に重要な要素であるというふうになっているわけでございます。
 次に参りまして、超電導の応用というのは非常に簡単でございます。つまり、電気抵抗がゼロになりますので送電、電気を送る損失がゼロになるということであります。それから、これを利用いたしまして非常に強い磁界を簡単につくれるということがございます。それからもう一つ重要なものとして、先ほど申し上げましたようにマイスナー効果がございますので、弱い磁場でありましたらこれを完全に遮へいするという効果がございます。
 二番目に応用例として非常に重要でありますのは、超電導特有のジョセフソン効果というのがございます。これはジョセフソンコンピューターというのでお聞きになったこともあるかと思いますが、超高速コンピューターの素子になるのではないかということで随分研究されたものでございます。しかし、現在のところまだ完成まで至っておりません。そのほか、非常に弱い電磁波を検出できるとか、非常に弱い磁場を検出できるとか、このジョセフソン効果の応用というのは超電導の応用の一つの重要な部分である、そういうふうに思っております。
 こういうように超電導を応用するにつきまして非常に重要なのは寒剤でございます。ある超電導体を冷やすときに、一番簡単なのは冷たい液体に浸してしまうことでありまして、今まで一番よく用いられてまいりましたのは液体ヘリウムでございます。これは絶対温度の四・二度Kという非常に低い温度、摂氏で言いますとマイナス二百六十九度という非常に低い温度でございます。これが超電導の研究で今まで用いられてきましたが、これは一リットル二千円もいたしまして、しかも資源がアメリカに限られておりまして、取り扱いも厄介でありますし、今まで臨界温度がなかなか上がらなくて応用が広がらなかったという原因の一つには、この液体ヘリウムを使わざるを得なかったということがあるわけでございます。ところが、最近になりまして、液体窒素を使っても超電導になるということになるわけでありまして、そうすると液体窒素というのは空気中で幾らでもとれますし、現在一リットル五十円というのは、つまりミルクよりずっと安いわけであります。そういうわけで応用範囲が急激に広がるだろうという見通しを我々に抱かせているわけでございます。
 その次に参りまして超電導の歴史でございますけれども、一九一一年にライデン大学のカマリン・オンネスという先生が窒素の液化、ヘリウムの液化に成功いたしまして、液体ヘリウムを用いまして水銀の電気抵抗をはかっておりましたところ、四度Kあたりで突如として電気抵抗がゼロになることを発見いたしました。この先生は非常に偉い先生でありまして、この現象は現在の理論だととても説明がつかないということを見抜きまして、スーパーコンダクティビティー、こういう名前をつけたわけでございます。その後、量子力学が出現いたしましたけれども、超電導の原因というものを説明することはできませんで、物性物理学の最後のなぞと言われていたわけでございます。
 それを解決したのが四番目にございますバーディン、クーパー、シュリーファーの三人でございまして、この人たちがBCS理論というものをつくりまして、その当時の超電導現象というものをすべて説明した非常に壮大な理論をつくられたわけでございます。その功績によりましてこの三人の先生はノーベル賞を受賞されたということでございます。特にバーディン先生は、トランジスタの発明によってその前にもノーベル賞を受賞されておりますので、二度ノーベル賞を受賞されたという輝かしい経歴がございます。このBCS理論で実は物性物理学は終わったというような意見もございましたけれども、現在に至りましてこの理論はもはや適用できなくなった、そういう事態に現在入っているわけでございます。
 最近の超電導ブームのきっかけをつくりましたのは、IBMのチューリヒ研究所のベドノーツとミューラーという人が、昨年の三月に、ランタンとバリウムと銅の酸化物で三十度Kでどうも高温超電導があるらしいという報告をしたわけでございます。それが八ページの絵でございます。その絵によりますと、実際に超電導になっているのは十度K以下でございますけれども、電気抵抗は三十度Kあたりからだらだらと下がってくる。どうも超電導じゃないかということを言ったわけでございます。しかし、その出しました雑誌が「ツァイトシュリフト・ファー・フィジク」という現在では余り読まれていないドイツの雑誌でございましたことと、今まで余りにもこういう報告が多かったために、世界じゅうだれ一人として信用しなかったわけであります。これは私がミューラー博士に直接会ってお聞きしたことでございます。それで、私どもが昨年の十一月にこの物質を取り上げまして、次のページにありますように、黒でかいた線がそうですけれども、三十度K以上で急激に抵抗が減少する、そして超電導になるということを確認いたしました。しかも、その物質がミューラーたちのつくった物質の中に一部まざっておりました特殊な物質であるということも確認したわけであります。
 その前に、臨界温度の上昇の歴史というものをちょっとごらんになっていただきたいと思います。
 次のページでございますけれども、横軸が年でございまして縦軸が臨界温度でございます。一九一一年に水銀というのが四度Kであります。それから一九七三年にニオブ3ゲルマニウムという物質で二十二・三度という記録を出して以来、十三年間〇・一度も上昇しない、そういうことがございました。でありますから、七十年間でたった十八度しか上昇しなかった。これを概想いたしますと、二〇〇〇年になりましても三十度Kに到達しないということでありまして、私ども研究者にとりましては非常に苦しい時代が続いたわけでございます。
 ところが、先ほど申し上げましたような昨年の暮れのブレークスルーによりまして、それ以後の進歩は目覚ましいものがございます。次の表にございますが、これは年でなくて日にち付でございます。十二月八日、これは私どもが最終的に確認した時点でございますが三十度K、それから二十二日に四十度Kに私ども到達いたしました。それから二月十六日には、アメリカのヒューストン大学のチュー教授が九十五度の物質を発見したという報告をいたしているわけであります。そして三月十八日に百二十五度Kを出したというドイツのグループの報告がございましたけれども、実はこれは最近少し疑惑というとオーバーですが、怪しいということになっておりまして、現在世界で認められている臨界温度の最高は九十五度K前後ということになっているわけであります。それでも、ごらんになりますように液体窒素温度をはるかに超えておりまして、液体窒素温度での応用は可能であるということになっております。
 それ以後の経緯をちょっと書いてございますのがその次のページでございます。私たちは一九七五年でございますから今を去る十二年前にセラミックス超電導の研究を開始いたしました。その当時、鉛酸バリウムという物質をやっておりましたので、なぜこういうセラミックス超電導体が超電導になるかということの原因を追求してまいりました。それで、先ほど申し上げましたように昨年の三月にミューラーらが超電導があるんじゃないかということがございましたが、十二月八日になりまして、ある特殊な物質で我々が高温超電導の確認をいたしたわけでございます。これがアメリカに伝わりまして、世界の高温超電導研究を触発したというふうに歴史的になっております。
 その後はもう続々でございまして、次のページにありますように、ベル研究所、それから日本の分子研、電総研、続きましてアメリカのヒューストン大学でチュー教授が九十五度K、ほとんど同時に、我々の誇るべきことかと思いますが、東大の氷上助教授が、実はチューさんは物質名を発表していなかったのですが、同じ物質で高温超電導になるということを見出しております。それから中国でも同様の発見がございました。それで三月二日、たった二週間後でありますが、我々もイットリウム・バリウム・銅の酸化物という物質で九十五度Kに到達しているわけでございます。その後、金材研それから無機材研も続々と参入いたしまして、一九八七年三月十八日の有名なニューヨークの物理学会に入ったわけでございます。この意味は後で申し上げます。
 それで、現在わかっております高温超電導物質というのは、その次のページにございますように、クラス・ゼロというのは第ゼロ世代でございまして、これは私どもが研究してまいりました物質でございます。その次がクラス・ワンで第一世代でございまして、これも私どもが見出した物質群でございます。その次が第二世代でございまして、これがチュー教授を初めとして発見された物質群でございまして、臨界温度が非常に高い物質でございます。
 ここで注意申し上げたいのは、Ln1と書いてありますこのLnというのは、いわゆるランタナイト系に属する希土類でございまして、これはさまざまな元素がございます。チューさんが見つけたのはイットリウムという物質でございますが、イットリウムでなくても、イットリウムでもその他のものを入れても、超電導としては全く変わらないということをはっきり認めたのは、実は私どもを含めて日本のグループでございます。現在は、九十五度Kの高温超電導体というのは実に十種類近くもある。しかも、それは皆同じ性質を示すというふうになっております。
 こういうふうなセラミック高温超電導体の特徴というのが次に書いてございます。
 長所といたしましては、臨界温度が極めて高い。百度K近くに達するということでございます。それから、先ほど申し上げました臨界磁場も極めて大きく、将来百万ガウスの電磁石をつくることも可能ではないか。百万ガウスというのは大変な強い磁界でございまして、「可能」と書いてございますが、これはつくっても恐らく機械的な力は持たないだろう、そう言われるほど強い磁場でございますが、現在は東北大学にございます三十万ガウスという強磁場が世界で最高のものになっております。
 短所といたしましては、何せセラミックスでございまして、普通の金属と違いまして、もろくて展性、延性に欠けるということがございます。それからもう一つこれまで短所と言われておりましたのは、臨界電流が普通のこれまでの超電導体に比べて非常に小さいのじゃないかということを言われておったわけでございますが、先々週になりましてIBMの研究所が非常に大きな臨界電流を見出しまして、私どもは、この臨界電流は、最新のファインセラミックス技術、半導体技術の導入によって恐らく近い将来短所は克服されるというふうに信じております。
 それで、世界の研究の状況でございますが、その次のページにございます。昨年の暮れにこういうようなブレークスルーがございました後に、一気に研究が世界的に広がりました。ところが余りにも急激であったために、研究者がその情勢がよくわからないということがございまして、ことしの三月十八日にアメリカ物理学会が緊急のシンポジウムを開催いたしました。そのときには私も招待されて参りましたが、三千名という物理学者が集まりまして、夜中の三時半まで徹夜に近い集会を続けたというので、史上空前の集会になったわけでございます。その後、日本でも物理学会、応用物理学会でそれぞれ二千名、千五百名ほど集めて大変な関心を集めたわけでございます。それから四月になりましてアメリカのマテリアル・リサーチ・ソサエティー、材料学会ですが、これも約千名、それから二十九日にセラミック・ソサエティーで千名、その他続々と世界各地で高温超電導のシンポ、しかも国際シンポジウムをやるというようなことになってまいりまして、これに全部出席すると体がもたないというような状況になっております。
 続きまして次のページの世界の研究状況でございますが、この分野の研究で非常に感じますことは、ナショナリズムが基礎研究の状況から非常に高まってきている。アメリカではどう、日本ではどう、中国ではどう、こういうような国分けの話が専ら盛んでございます。米国におきましては非常に活発でございまして、IBMの研究では百五十名ほど、それからベルでも百名以上、その他国立研、大学が非常に参入いたしまして、ざっと考えただけでも千名以上の研究者たちが非常にアクティブに研究を進めております。日本もかなり活発でございまして、大学、国立研等を見ますと大体五百名ぐらいかなというふうに思っておりますが、実は企業がそれぞれ内部で動員をしておられるようでございまして、その様子がわかりませんけれども、もう恐らく千名に達しているのじゃないか、そういうふうに私は推測しております。ちょっと意外かもしれませんが、中国が非常に活発でございます。もともと中国のごく少数でありますが、私たちと同じ酸化物超電導の研究をしていたグループがございます。その人たちが中心になって一斉に立ち上がったわけでございまして、特に今回の物質で重要となります希土類元素の大資源国であるということで、国策として推進しております。現在七百名が研究に参加しているということであります。西独はちょっとまだ立ちおくれておりますが、フランスは固体化学に非常に強みがございまして、現在立ち上がって懸命の追跡をしております。ソ連は最近来た人に聞きますと、立ち上がりは極めて遅かったわけでございますけれども、元来、基礎材料の研究に非常に強みを持っておりますので、最近かなり動いているのじゃないかと思いますが、真相はよくわかりません。
 次の段階に参りまして、今後の研究動向でございますが、その前に、実はアメリカの動向でございますが、これは私たち非常に重大な関心を持っているわけでございます。それというのも、この参考資料にございますが、デュレンバーガーという上院議員の方が超電導競争力強化法案というのを三月三十日に提出いたしました。これは新聞報道によりますと、数日前に下院でも同様な法案が提出されているようでございます。これはデュレンバーガー上院議員の提案説明の議事録を読みましても明らかに日本を目標としておりまして、日本に対して負けるなという意味の法案でございます。これは通るかどうかわかりませんけれども、アメリカの今の動きを非常に象徴しておるわけであります。
 それから、その次の参考資料のNSF、「ナショナル・サイエンス・ファウンデーション」でございますが、これは最近出したニュースでありまして、これによりますと、ミッドサマー、つまりことしの夏ごろにはナショナル・アカデミー・オブ・サイエンスの報告書がまとまる、そういうことを言っております。そして理事長のブロックというのがおりますが、それが日本に対して特に頑張れというようなことを言っておりまして、完全に高温超電導の研究開発では、今、まだ基礎研究だと私たち思っているわけなんですけれども、実は非常に激しい日米対立の様相が展開されておる。これに対してお願いは後で申し上げます。
 それで、今後どういうふうな研究動向をとるだろうかということでございますが、一つには、現在百度Kまで到達したわけでありますけれども、それをさらに高温化するための探索研究が進むであろう。その目標は何といっても室温超電導でございます。それから二番目には、やはりBCS理論がもう崩壊した以上は、新しい理論体系をつくって物性研究が非常に進歩するであろう、そういうふうに思っています。それから三番目には、少なくとも現在既に実用可能の素材があるわけでありますから、これをいち早く実用化するという実用化研究が進歩するであろう。これは後で荻原さんからいろいろ御説明があるかと思います。
 これが今後の研究動向でございます。ただ探索研究で非常に難しいところは、いつ何が起こるかまだわかっていない。つまり理論が全然ございませんので、手探りの作業になってまいりますので、あした室温超電導が見つかったと言われても不思議でないかもしれませんし、十年頑張っても出ないかもしれないという非常に難しい立場にあるわけでございます。
 その次に、過去の発明、発見との比較がいろいろされておりますので、ちょっと御紹介いたします。
 「ビジネス・ウイーク」が最近スーパーコンダクターの特集をいたしまして、その中では、エジソンによる電球の発明とかベル研究所によるトランジスタの発明に匹敵する、そういうことを言って非常にあおっております。それから二番目に、これはソ連のタス通信の言葉でありますけれども、核分裂の発見に匹敵する、つまりこれが現在の原子力利用に結びついているわけでございます一番目が、これは私の意見でございますが、一九一一年にドイツのフリッツ・ハーバーによって発見された空中窒素固定法に匹敵するかもしれない。と申しますのは、これによりまして空気中の窒素をアンモニアにする方法が見つかりまして、肥料が非常に安く大量生産できたために、現在の地球の五十億の人口が養われているわけでありまして、今回の発見もそれに似たような地球的規模を持つようになるのじゃないかというのが私の推測であります。なぜかと申しますと、地球が情報とエネルギーと農業、食糧によって成り立っているといたしますと、今回の高温超電導の影響というものは情報の分野でもエネルギーの分野でも両方に非常に大きな影響を与えるのじゃないか、そういう点があるためであります。
 その次に、液体窒素超電導でもどういう応用があるかということでございます。これは径ほどお二人の方に説明いただけると思いますが、ざっと考えただけでもこういうような非常に大きな応用分野が開かれているわけであります。特に磁気浮上その他は京谷さんが御説明されると思いますが、加速器におきましても非常に重要な進歩がある。ちょっと時間があれして申しわけありませんが、アメリカで威信をかけた超特大の加速器の計画が進んでおりまして、約一兆円をかける、それにこの酸化物超電導を使ったらどうかという意見が最近有力になっております。そういたしますと、五十マイルの円周のトンネルを掘るのが実は五マイルで済むというのが推進派の意見であります。そのほか核融合とか、特に宇宙では、現在日陰に置けばもう既に超電導になるわけでありますから、非常に広範な応用が考えられているということで、一昨日もNASAの人からそういうような意見が私のところに寄せられてまいりました。
 そのほかエレクトロニクスにおきましてもさまざまなことが考えられておりまして、特に超電導配線ですとワンウェハーの上にコンピューターが全部乗ってしまうかもしれない、そういう革新的なことが起こる可能性が多分にございます。そのほか医療システムにもそういうことがございます。電力、これも非常に大規模超電導システムが実現する可能性が出てまいるということで、これは径ほど御説明があるかと思います。
 今後の展望と課題でございますけれども、私たち超電導の研究に携わった者といたしまして、今回のことは非常に教訓的でございまして、材料研究というものが超電導を含めましていかに重要かということを再び認識したわけであります。先ほど申し上げましたように、十年以上にわたる停滞に耐えるような非常に困難な研究で、ございますが、息長くやる必要がある。それはやはり国家の助成がどうしても必要になるのじゃないかというふうに考えております。
 それから超電導に関しましては、室温超電導がもしあるとすれば、石にかじりついても、これをどうしても達成しなくてはいけない、そういうふうに私どもは考えております。これはどうしてかと申しますと、当然でありますけれども、室温超電導が発見されればこれは新しい産業革命必至というのが世界の科学者の常識になってきたわけでございます。半年前は、室温超電導などと言うとばかじゃないかと言われたのですが、現在ではあり得るという方向にほぼ一致しているようでございます。
 それから、私が非常に心配しておりますのは、現在のアメリカその他の基礎研究の段階で起こっておりますナショナリズムをどうして克服して国際協調へ持っていくかということではないかと思います。これほど重要な発見でございますと、成果は人類共通の財産だというふうに考えるのが適当ではないかと考えております。その例といたしまして、トランジスタが発明されたときにATTベルはトランジスタの基本特許を公開いたしました。そのためにその後の情報化社会の建設が非常に早まったということがございます。アメリカは逆に超電導の技術を保護せよという意見が非常に高まっておりまして、これから将来、日本がリーダーシップをとるかアメリカがリーダーシップをとるかというようなことになってまいるわけでございますが、その場合に人類共通のものという観点をぜひ貫いていただきたい、そういうふうに思っているわけであります。
 それから幸いにして、アメリカが日本を唯一の敵と言うのはちょっとぐあいが悪いのですが、コンペティターというふうに認めておりますので、アメリカで流されております技術ただ乗り論、これを何とかして克服する絶好のチャンスにめぐり会ったというふうに私どもは考えております。ここで基礎研究からきちんと日本はやっているんだということを何とかして示したいというのが私どもの悲願でありまして、実はアメリカのアナハイムの材料学会に、日本の「ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジック」という雑誌がございまして、これに日本の高温超電導の論文が八十四編載っておるわけです。それを千冊持っていきまして、ただでばらまいてきて、とにかく日本のこともよく認識してほしい、そういうようなことで私たちも努力してまいったわけでございます。
 それで、今後の施策に対するお願いでございますけれども、こういうような素材の研究を推進するときに思い切った国の研究開発が必要ということは当然でございますが、大きなナショナルプロジェクトをつくって推進したらどうか。ということは、素材の研究もそうでありますけれども、例えば、後でお話にございます磁気浮上のプロジェクトを推進するとか、そういうような応用に関する壮大な方策をお立てになれば、超電導の研究はそれにつれて非常にアクティベートされるだろう、そういうふうに思っているわけであります。
 それから二番目に、実は最近まで超電導の研究者は非常に少なかった。マーケットもほとんどないのと同様でありましたので、研究者、技術者が非常に不足しております。特にアメリカは元来超電導の元祖でありますが、日本はそれほどでもなかったということで、例えば、研究者の数が三分の一以下だったのじゃないか。現在日本の企業も超電導研究に非常に多数の人員を動員するようになってまいりましたが、実は、超電導の専門家というのはほとんどいないと言ってよろしいわけであります。電気抵抗ゼロだから簡単だということでお考えと思いますが、実は超電導というのは非常に奥行きの深い学問でございまして、専門家を養成するのは大学時代から養成しなければいけないのじゃないか、そういうふうに私は思っています。そういう意味で、国公立大学に例えば超電導工学講座というふうなものを増設されることがどうしても急務であろう、そういうふうに思っております。そのほか国公立研究所の増員、それから民間企業の技術育成、そういうようなことが、アメリカとの対抗というのは非常にまずいのですが、世界の研究の流れに沿って、現在、国が至急になされるべきことではないかと私たちは思っております。
 三番目に、先ほども申し上げましたように今はチャンスでございますので、ぜひ国際交流をいろいろな場でやっていきたい。今のアメリカの動きから申しまして、本当に研究交流に乗ってくるかどうかわかりませんけれども、とにかく今の段階から研究あるいは国際交流というものをやっておきませんと、将来大変なことになるのじゃないかというのが私の心配であります。特に、今日本の研究動向というものは非常に注目されております。アメリカの議員の先生たちも非常に動いておりますので、あるいは国会議員のレベルでこういうような交渉、交流を至急始められることが必要なんじゃないだろうか、そういうふうに思っている次第でございます。
 甚だ簡単でございますが、これで終えさしていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)

発言情報

speech_id: 110803911X00219870526_002

発言者: 田中昭二

speaker_id: 2308

日付: 1987-05-26

院: 衆議院

会議名: 科学技術委員会