上坪宏道の発言 (科学技術委員会)
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○上坪参考人 理化学研究所の上坪でございます。本日ここでお話をさせていただく機会を得まして、どうもありがとうございました。
お手元に資料をお配りいたしてございますので、それに基づきまして私のお話をさせていただきたいと思います。私のお話は、光科学技術の基本になります事項につきましてまず簡単に御説明申し上げまして、続きまして、その最も基盤的な装置でありますシンクロトロン放射光の施設について御説明いたし、最後に、それを使いました新しい科学技術の発展ということについて御説明申し上げたいと存じております。
最初に、第一ページでございますけれども、光とは何かということを簡単にまず御説明申し上げます。
光と申しますと、私ども日常すべての物を見るものとして考えられておりますが、実は光科学技術の振興という点で取り上げます光と申しますのは若干違っておりますので、それについて簡単に御説明いたします。
まず、こちらに絵がかいてございますが、電気を持ちました粒子、例えば電子、そういったものとか小さな磁石が力を受けて振動いたしますと、そこに書いてございますように波が、電気的な影響を及ぼすものが波となって進んでまいります。これを普通電磁波と呼んでおりますが、この電気を持ったものが非常に速く振動いたしますと実は波長の短い波が、それからゆっくり振動いたしますと波長の長い波が進んでまいります。この波の伝わる速さは、一秒間に地球を七回り半します、一秒間に三十万キロメートルの速さでございます。それから、一秒間にこの波の繰り返しを通常、周波数と呼んでおりまして、周波数が高いものは波長が短い。と同時に、この波はエネルギーが高いというふうに呼んでおります。
日常的なこういう電磁波の種類とその区分けを第二ページに述べさせていただきました。
第二ページで、一番上に通常の電磁波の名前が書いてございますが、一番波長の長い方からラジオ波、次にマイクロ波、次に遠赤外線、赤外線、可視光線、紫外線、真空紫外線、エックス線、ガンマ線というふうになっておりますが、このように名前が違いましても、性質はただ単に電磁波の波長が違うということになっております。その真ん中のところに光の波長が書いてございますが、波長が一ミリメートル近辺がマイクロ波でございます。それから一ミリメートルより短い方、ミクロンのところが赤外線、主として熱を伝える電磁波でございます。それからミクロンのところから短いところの辺に可視光線がございまして、それよりさらに短い方でエックス線、それよりさらに短いところでガンマ線というふうになっておりますが、比較のためにその一番下に自然界のいろいろな大きさを並べでございます。光科学技術と私どもが通常呼んでおりますときの光と申しますのは、この一ミリ程度より波長の短い遠赤外線、赤外線から短いところ、ちょうど名前で何々線とつくところを指していると考えていただければよろしいかと思います。
三番目に、これはまた全く基本的な話で恐縮でございますが、なぜこの光が今改めて注目されるかということを簡単に御説明申し上げたいと思います。
なぜ光かと申しますと、実はそこに書いてございますように物質はすべて原子の集まりでできていて、そして、その物質の性質を決めるのにはその外側の電子が非常に重要な働きをしているということが基本になってございます。そして、この電子が動き回ることで光が発生し、またその光を電子が受け取っていろいろ状態が変わってくるということが日常的に行われておりまして、これが光を用いていろいろな物質を調べる一番基本になっているというふうに御理解いただければと思います。
このページは、そういうことで、もう少し御説明申し上げますと、すべての物質は原子というものから成っておりますが、その真ん中に原子核がございまして、その外側を電子が回っておりますが、内側に回る電子は非常に速く回っておりまして、原子核に強く結びつけられております。外側の電子はゆっくり回っておりまして、結びつけられ方が弱いというのが原子の構造になっております。そして物質の性質といいますのは、どういう原子がどのような結びつき方をしているか、それからその中で電子がどういうふうな役割を果たしているかということで決まってまいります。
次の四ページでございますが、ではなぜ光がこういった物質の性質に重要な役割を果たすかと申しますと、そこに書いてございますように、光が原子のところにやってまいりますといろいろな作用を行います。まず一番基本的なのは、光がやってまいりますと、原子の中にあります電子に当たりまして光が散乱されます。と同時に、場合によりましてはその光を電子が吸い取って外側の軌道に移ることになります。こういった原子が光を受け取ることを原子が励起すると申しまして、この励起した原子はやがて、そのすぐ下に書いてございますように、別の光を出すことがございます。このように、光が原子とか分子に当たりますと、原子が励起したり光を散乱したり、あるいは光のかわりに電子をけ飛ばして出したり別の光を出したりという、非常に多様な現象が起こってまいります。このことは何を意味するかと申しますと、光を使いますと、いろいろな現象が物質の中で起こり、またいろいろそれを見る手段が多くできてくるということにほかならないわけでございます。そのほか物質がございますと、通常よくやられておりますように、光を吸収したり反射したり、それからあるいは物質の表面から電子が出てまいります。あるいは光が物質の中で曲げられる、回折する、あるいは光を使っていろいろな反応が起こる、こういったいろいろな現象を光を用いまして物質の中で起こすことができるわけでございます。
そういったわけで、次の五ページに光を用います物質の研究の重要性というのを取り上げでございますが、最近光技術が特に重要であると言われる大きな理由は、二十世紀の後半になりまして、改めて科学技術の中で新しい物質、材料、そういったものの開発が重要項目に取り上げられております。また、第二番目には、情報とか電子技術、こういったものが次の世代の学問のキーテクノロジーになるであろうというふうに言われていること。それから人間を取り巻くいろいろな生命現象の解明ということが非常に大きな課題になっていること。この三つのいろいろな分野におきまして、実は光を用いる物質の研究というのが重要な役割を果たしているということが、今改めて光科学技術の高度化が必要だと言われる大きな原因になっているのだと思います。これにつきましては後でまた簡単に御説明申し上げます。
と同時に、最近光科学技術の発展が非常に可能になってまいりました重要な要素といたしまして、そこに書いてございます新しい光を出す源、光源が開発されております。きょう私が後で御説明申し上げます放射光、シンクロトロン放射光というのは、こういった意味での一つの新しい光源でございます。そのほか、黒田参考人からお話がございますレーザーも、二十世紀の後半から非常に大きな役割を果たしている新しい光源でございます。
第二番目には、そういった光源の開発とともに、非常に多種多様な測定技術が発展してきたということが新しい局面を開いているということがございます。と同時に、そういったテクノロジーを駆使いたしまして新しい物質、これは金属、半導体、高分子、それから生体活性物質といった、いろいろな意味での新しい物質を合成する、またはつくり出す方法が発展してまいりまして、そして、そういった物質をつくり出した後のいろいろなものを調べるキーテクノロジーとして光を用いることが重要になってきている、こういった状況でございます。
以上が、光がなぜ今また必要になっているのかということの簡単な御説明でございます。
次に、先ほど申し上げました新しい光源の一つとしてのシンクロトロン放射光について御説明申し上げます。
第六ページにちょっと簡単な絵がかいてございますが、まず最初に言葉の御説明を申し上げます。
シンクロトロンというものについてまず簡単に御説明いたします。
シンクロトロンは、そこに絵がかいてございますが、粒子を非常に高いエネルギーにまで加速する加速器でございます。シンクロトロンには、陽子を加速します陽子シンクロトロンと電子を加速いたします電子シンクロトロンがございますが、放射光の光源として使われておりますのは電子を加速いたしますシンクロトロンでございますので、一応電子についてそこに並べてございますが、磁石をここに書いてございますようにドーナツ状あるいはリング状に並べまして、その中を真空のパイプでつなぎまして、そこを、一定の半径の軌道の上を電子を走らせながら徐々に加速していくことがシンクロトロンでございます。この場合、その絵の電子の子のところの上に白い箱がございますが、ここが高周波で加速する部分になってございまして、これで徐々にエネルギーを上げながらぐるぐる回していく。その場合に軌道を一定に保つために磁石の強さを強くしていくのがシンクロトロンでございます。
それに対しまして、最近は、ほとんど形はシンクロトロンと同じですが、エネルギーを上げないで、ただそこにため込む電子の数を多くする蓄積リングというのがつくられるようになりました。それが、二番目に御説明しておりますが、形は上のシンクロトロンと全く同じでございますが、ただエネルギーをだんだん高くしていくのではなくて、いつもエネルギーを一定にしながら中にため込む電子の数をふやしていくものを蓄積リングと申します。
放射光というのはでは何かと申しますと、その下に絵がかいてございますが、電子をこういうふうに磁石の中でぐるぐる回しておりますと、やがてエネルギーを失っていくことが重要な問題になっております。その理由は、下に書いてございますように、電子が磁石の中を通りますと、実は進行方向に直角の方向に力を受けます。先ほど一番初めの絵でお示しいたしましたが、電気を持ったものが力を受けますと、実は電磁波が発生いたします。その電磁波は、その走っております電子がほとんど光の速さと同じ場合には、実は進行方向に向かった非常に細い光線になって出てまいります。六ページの下の左側の絵でございますが、角度の広がりが大体千分の一度ぐらいの非常に細い帯状のところに強い光が発生してまいります。電子が力を受けて向きを変えますと、この光の帯はちょうどサーチライトのようにずうっと矢印の方向に移ってまいります。こういうふうに出るのを放射光と呼んでおります。実際には右側の絵のように回っておりますのが電子の集団でございますので、その電子の集団がたくさんの非常に強い光を進行の接線方向に出すというのがシンクロトロン放射光でございます。
第七ページにその放射光の特徴について列挙してございます。一番の特徴は、非常に広い範囲、第二ページで電磁波の分類を申し上げましたが、あそこのほぼ全領域の波長領域にわたって非常に強い光が出てまいります。しかもその明るさが、例えば普通のランプ、エックス線の光源その他に比べましても、けた違いに強いということであります。それから、前のページで御説明いたしましたように、電磁波の出ていく方向が非常に狭い方向に限られておりまして、指向性が非常によろしいということでございます。そのほか、偏光、これはちょっと専門的でございますが、電気的または磁気的な力を及ぼす面が一定の方向を向いているということでございますが、偏光であるということ。それから、前のページで御説明いたしましたように、電子の塊が磁石の中を通過するときだけ光を出すことができまして、そのために非常に短い時間の光ができる、それが何遍も繰り返していくという特徴もございます。それから、明るさとか波長分布が非常に正確に計算できておりますので、これを使いますとほかの光の強さの絶対構成ができるというような利点もございます。
それで、七ページの下にはその様子を書いてございますが、横軸には波長をオングストローム単位でとってございます。最近はオングストロームという単位は使わないようになりまして、三けたずつ区切ってまいりまして、ミリメートルの三けた下がミクロン、その三けた下がナノメーターと申しますが、ちょうどオングストロームに直しますと十オングストロームのところが一ナノメーターに相当いたします。ここに代表的な放射光の発生装置から出てまいります光の強さを挙げてございますが、最近、民間会社ないしはその他のところで小型の放射光施設の開発が進められておりますが、それの典型的なものが十億電子ボルトの小型放射光施設でございます。それから発生いたします光は大体十オングストロームぐらいのところが一番強くて、強さもその左側に書いてあるようなものでございます。明るさは左側に10の12乗、10の14乗というふうに書いてございます。これはただ目安と考えていただければよろしいかと思いますが、一日盛り上がるごとに強さが十倍になっております。現在日本にございます最もすぐれた放射光の施設でございます高エネルギー物理学研究所の放射光施設、通常フォトンファクトリーと呼ばれておりますものが二十五億電子ボルトのものでございまして、そこに二・五GeVと書いてあるのがそれでございます。一応一オングストローム程度までの光を非常に強く出すことができます。それに対しまして、最近さらに波長の短い方で明るさの強い放射光源が必要だということで検討が進められておりますのが、六十億電子ボルトの放射光施設でございますが、「六GeV SOR」と書いてあるのがこれに相当いたします。さらにそれに新しい挿入光源を使いますと、それに「+ウイグラー」と書いたものになっているわけでありますが、大体光の強さが高エネルギー物理学研究所のものの百倍から一万倍近くになることがおわかりいただけるかと思います。それにアンジュレーターという特殊な装置を使いますと、さらに二けたぐらい光を強くすることができるわけでございます。
このようなより波長の短い方に、より強い光が欲しいという要求が最近いろいろな分野から強く出ておりますけれども、それの一つの理由といたしまして、第八ページに、どのような使われ方がなされているかということで、簡単に御説明申し上げます。ここに書いてございますのは放射光の利用ということでございますけれども、波長の短い光がいろいろな分野でどういうふうに使われているかということの御説明というふうに考えていただければよろしいかと思います。先ほど申し上げました幾つかの主要な分野においてどのように使われているかというのを分類してここに挙げさしていただいております。
まず第一番目に、新しい物質とか新しい材料の開発の上でこういった光がいかに大事かという点を五点ばかり列挙してございますが、一つは、物質がどういうふうにできているのかということを調べることができるわけです。特に、先ほど申し上げましたような放射光が非常に明るくて非常に小さなスポットになって出てくるという点を利用いたしますと、実は非常に小さな材料、通常一ミリ以下、場合によってはミクロン単位の材料までとか、気体の試料のような非常に微小、微量の試料を使った構造解析ができるようになってきているということ。それから、超高圧、超高温、超強磁場あるいは超低温といった極端条件のもとでのいろいろな物質の性質を調べることが可能になっているということが重要でございます。それからもう一つは、光の強さが非常に強くて、しかも先ほど申し上げましたようにパルス、ある時間だけぱっと出てくるという性質を使いますと、時間を分けていろいろな現象がどういうふうに進んでいくかということを調べることができる。その一つの例といたしましては、例えば地球の中での鉱物の結晶がどういうふうに成長してくるかというのを超高圧、超高温の中で調べていくことができるわけでございます。それから、化学反応がいろいろ起こっていくときに途中の中間段階でどういうものができていくのかというようなことも調べることができるわけでございます。それからもう一つ重要なテクニックといたしまして、ある物質の中で特定の原子の構造がどうなっているかということを調べられるわけでございます。例えば最近では、血液の中のヘモグロビンというのは酸素を運びまして炭酸ガスを肺に戻すという重要な役割を果たしておりますが、その中にあります鉄の原子が非常に重要な役割を果たしておりますが、その周りがどうなっているのかというような、特に鉄の周りだけというようなことに中心を置いて見る場合には、この放射光というのは非常に有効な働きをいたすのでございます。
まあ同じようなことで、長くなりますので簡単にさせていただきますが、そのほか表面——最近、触媒だとかいろいろな機能を持った膜をつくっていくという場合のその膜とか、触媒の表面でどういう役割が果たされているのか、それから、二種類の違った性質の半導体を合わせた界面でどういったことが起こっているのか、そういったことも調べられますし、それから、十億分の一から一兆分の一程度の微量の成分の分析が可能になってまいります。十億分の一の微量の成分の分析と申しますと、ちょうど中国の全人口の中に一つだけ異分子がいるのを探し出すぐらいの精度のいい分析手段でございまして、これが今後放射光を使った非常に強力な分析手段となるのではないかと期待されているわけでございます。それから、最近は新しくいろいろな光を使いまして光化学反応を行う、それの一つの手段としても使われているわけでございます。
そのほか、例えば半導体の材料をつくりますときにどうしても途中で、きれいに並んでいるものの中に異端者が出てまいりましてそこに傷が出てまいりますが、そういった傷が実際にどのようにできているかというのを新しいテクニックで見ることができる。そういったいろいろな技術が進んでおります。
そのほか、情報・電子の基本素子の開発としては、そこに書いてございますような光を使ったいろいろな素材の開発、加工の技術が期待されております。
第九ページには、生命科学の分野でも非常に大きな期待があるということを列挙してございますが、一番大きいのはたんぱく質。これまで私たちがその構造をなかなか知ることができませんでしたたんぱく質の構造、特に巨大なたんぱく質の構造がだんだんわかるようになってきております。これは実は新しい酵素、いろいろな機能を持った酵素をつくり出す役割とかいうことも重要になっておりまして、最近たんぱく質工学というような分野で急に発展していこうとしておりますが、そのたんぱく質のいろいろな性質を調べるのになくてはならない役割を果たしております。それからもう一つ重要なことなんですが、筋肉の動きをエックス線で調べる、それの新しい方法が放射光を使って開発されておりまして、これが今後、筋肉にかかわるいろいろな病気の解明その他にも役に立つのではないかと期待されているわけでございます。
それからもう一つ、最近アメリカあたりで注目されておりますのが、三番目に書いてございます冠状動脈造影撮影法ということでございます。冠状動脈にヨードを流し込みまして、ヨードに吸収されやすいエックス線で写真を撮りまして、その後ですぐヨードに吸収されないようなエックス線で二枚写真を撮る、その差し引きをやりますと血管の部分だけがきれいに浮き出てくるというテクニックでございまして、これが外国では新しい循環器の診断になるのではないかと注目されているわけでございます。
そのほか、微量物質の分析等で重要な役割を果たしてございますし、最近はそのほかに自由電子レーザーの開発に使われるとか、エックス線顕微鏡を開発していろいろな分野に応用しようというようなことも考えられております。
こういったいろいろな分野に使われることが、実は一番初めに申し上げました、光科学技術の高度化の重要なキーテクノロジーに放射光がなっていることの大きな理由でございます。
次に、こういった放射光の利用を行う場合の技術的な開発課題につきまして、若干御説明申し上げます。
これはお手元に一枚別の資料として差し上げてございますが、これは高エネルギー物理学研究所の安藤、千川両教授がおまとめになりました高エネルギー研のレポートに出ております最近の統計でございまして、高エネルギー研のフォトンファクトリーのエックス線の領域の利用者がどのようにふえているかという年次の経緯でございます。大体縦軸を対数にとりまして直線でふえておりますので、これはある意味で何年かたちますと倍になる、倍々ゲームのようなふえ方になって、非常に需要が多くなっているということを示しております。
こういったわけで特に短波長領域、十ページに戻らしていただきますけれども、エックス線領域の需要がふえている。それからエックス線領域でさらに新しい仕事がどんどん開かれているということで、エックス線領域の非常に強いすぐれた光源をつくろうというのが一つの技術開発の重要な課題になっております。特に重金属に一番敏感なエックス線を出す波長領域が必要だということでございますが、この重金属というのは、最近の高温超電導の問題等もございますし、今後材料開発のかぎになります重要な金属でございますが、こういった金属に非常に敏感なエックス線を出すような領域、具体的に申しますと、〇・一から数十オングストロームが主となるような短波長領域が必要だということになります。
それから二番目に、さらに明るくしたいということであります。これは先ほど申し上げましたように現在は一ミリぐらい、筋肉なんかの撮影に数時間とか数十分とかかかっておりますが、明るくなりますとこれがもっと小さな試料で済む、さらにもっと短い時間で済むということが可能になりますので、明るさを上げたいということでございます。
それから、光というのは光源がじっとしているということが重要でございまして、そのためには光の位置、電子が走っております位置が一ミクロン程度以下の精度で安定にならなければいけない。これも非常に重要な技術でございます。こういった非常に高性能の光源をつくる技術の開発が必要になっておりますが、一方、後でお話があると思いますが、工業利用その他のためには、今度はハンディで簡便に扱える、こういった光源も必要になってまいります。四番目にそういった部分の開発が必要とされているわけでございます。
その次に、シンクロトロンだけではなく、先ほど申しましたアンジュレーターとかウイグラーとか、そういった新しい光源を入れてそこから特定の光だけを出す、この技術の開発も急がれているわけで、既に高エネルギー物理学研究所のフォトンファクトリーでは数台のアンジュレーター、ウイグラーが開発されて挿入されておりますが、こういったものを自由に駆使する技術というのが今後必要になってまいります。
そのほか、こういった短波長で非常に明るさの強い光源が出てまいりますと、それを使った光学素子、検出システムというものの開発が重要な課題になってまいります。
以上七点が今後緊急に行わなければいけない技術開発課題であろうというふうに考えております。
次に、時間がございませんので進めさしていただきますが、十一ページにこういった放射光の歴史を簡単に書いてございます。
放射光がわかりましたのは、先ほど申しましたように高エネルギーの加速器ができてからでございますが、高エネルギー加速器で七千万電子ボルトの電子シンクロトロンでアメリカで初めて観測されましたのが一九四六年、昭和二十一年から二十二年でございます。それの理論的な予測をアメリカのシュイシガーという方がやりましたのが一九四六年でございます。このシンクロトロン放射光の重要性を日本の科学者は非常に早くから注目いたしておりまして、一九六〇年代には高エネルギー加速器を、日本の場合ですと東京大学原子核研究所に電子シンクロトロン、これは十二億電子ボルトの電子シンクロトロンがございますが、これを使いまして放射光の実験を始めております。これが一九六五年、昭和四十年にやっておりますが、これは世界でも最も早い時期にやっております。その時代から後になりまして欧米では、高エネルギー研究用のいろいろな蓄積リングがたくさん出てまいりまして、これを使った放射光の研究が非常に盛んになっております。これはすべて実は高エネルギー実験用につくられました加速器をときどき使わしてもらうという寄生的な利用をやっているわけです。
その後、こういったものの重要性に着目しまして、それの専用の光源リングをつくろうというのが起こりまして、日本ではやはり東京大学の原子核研究所に三億電子ボルトのものがつくられました。これも世界では最も早い部類に入っております。この後、アメリカ、フランス等でもほとんど同時期にこういったものがつくられております。
一九八〇年代に入りますと、中型と呼んでよろしいのか大型と呼んでよろしいのか若干問題があるのですが、日本では、高エネルギー物理学研究所のフォトンファクトリーが二十五億電子ボルトの専用リングをつくりまして、これが先ほどの千川先生の統計でもおわかりいただけますように、非常に多くのユーザーを集めております。一方、アメリカでもブルックヘブンで二十五億電子ボルトの専用リングが建設されておりますし、イギリスでもダルスベリーで二十億電子ボルトのものができております。それから比較的小型でございますが、西ドイツではベルリンのBESSYというところでつくっておりますし、そのほか小型のものにつきましては、日本でも通産省の電総研にありますものと、それから文部省の岡崎研究機構の分子科学研究所にも小さいのがございます。こういった中型、小型の専用リングが使われるようになってまいりました。先ほど申し上げましたような技術の発展方向を踏まえまして、一九九〇年代には大型で高性能の光源リングが必要になろうということで、アメリカでは七十億電子ボルト、ヨーロッパでは六十億電子ボルトの計画が既にスタートしておりまして、昭和六十八年ないし昭和六十九年に完成予定ということになっております。
そこに、明るさとか、それからどういうふうに必要になりどういうふうに装置が改良されてきたかというのを、これも高エネルギー物理学研究所の小早川、安藤、神谷、北村、松下、中原の諸先生方のレポートから引用させていただいておりますが、高エネルギー物理学研究所も、先ほど私が何ページかに挙げましたものにいろいろな工夫を凝らしまして、明るさをどんどん上げてまいっております。既にフォトンファクトリーBM(ロー・イプシロン)と書いてあるところまで現実に来ておりまして、それからさらにマルチプルウイグラーというのがつくられております。こういったことで進んでおりますが、ヨーロッパで考えられております六十億電子ボルト、ESRFというのがその右側の方の楕円になっておりますし、その外側にあります八十億電子ボルトのニューリングというのは、例えばそういったものができますとそのくらいのところに来るという予測のカーブがそこに挙げてございます。これは一オングストロームの辺の放射光の明るさを指しております。
その次のページには、現在の日本ないし外国の主なSORの施設がございますが、一番下に先ほど申し上げましたアメリカの放射光施設、アルゴンヌの国立研究所につくることになっておりますが、それが七十億電子ボルト。完成予定の一九九〇年というのは先ほど申しましたように九三年ぐらいになっております。それからヨーロッパの連合でつくりますものがグルノーブルに既に建設作業が始まっております。
以上が放射光の現状でございますが、最後に、私の方から、光科学技術、特に放射光を中心としたものを進めるに当たりましてこういったことが必要ではないかと思っておりますことを、思いつくままに列記させていただいたのが十三ページでございます。
一番大事なことは、こういった光科学技術を進めるに当たっての基盤施設を整備することでございまして、しかも、世界の最先端を行くような施設の整備が必要でございます。こういったものは今後国でおつくりになるわけでございますが、こういったものの需要が、大学あるいは国立研究所だけではございませんで、だんだん産業界その他にも広がっておりますので、こういったものをつくります上では、産業界や国公立研、あるいは大学といったもの、あるいは省庁の枠を超えた新しい運営形態とか研究協力ができるような組織が必要なんではないかというふうに考えております。それから共同利用。こういったものを使うに当たりまして、我が国の科学技術はともすると施設をつくるというところには比較的予算がついてまいりますが、それを使う上では人員、予算とも窮屈になってくるというのが現状でございまして、新しい最先端の装置というのはできてからさらに磨きをかけるということが重要でございますので、そういった施設の整備ということも大事ではないかというふうに考えてございます。
それに関連いたしまして、実は三番目に挙げておりますが、こういったものをつくりましたときに、これは今や日本にとっては、アジアとか世界のいろいろな国々にも多く開放された施設であるということが重要なことになっているのではないかというふうに考えております。事実、こういった計画が発表されますと、アジア各国ないしは世界の各国から、できたら使わせてほしいという声が出てまいります。それと同時に、そういった類似の研究機関が外国にもございますので、そういったものとのギブ・アンド・テークがはっきりとできるような国際研究所間の非常に充実した協力体制、私は、ここにネットワークと書いてございますが、そういったものをつくり上げることが必要ではないかというふうに考えるわけでございます。
次に、こういった装置ができましたときに大事になりますのが、それを使います研究者、技術者の養成でございます。私は現在理化学研究所におりますが、こういった国立ないしは準国立の施設で非常にすぐれた第一級の研究施設ができてまいりますので、そういったところでも今後大学院教育あるいは社会人教育ができるようなフレキシブルな体制をとるのが必要ではないかというふうに思っております。それと同時に、いろいろな研究者のリフレッシュをするという意味で、電池で申しますとときどき充電するというような意味で、ある一定期間研究者をデューティーから解放してこういった最先端のところで十分研究に没頭できるというような制度、ここではアメリカの大学の制度の名前をとりましてサバティカル制度と書いてございますが、実情はそういったある一定期間デューティーから離れて最先端の研究をやる充電期間を取り入れるということもいろいろなところで必要なんじゃないかというふうに考えております。それから、いろいろなところでよく叫ばれておりますが、最近いろいろなところの研究所の平均年齢が毎年上がっていくというようなこともございますので、もう少し若い人たちが入ってこれるようなフレキシブルな運営体制が必要なんではないかというふうに考えております。
以上、簡単でございますが、私の話を終わることにいたします。