前島英三郎の発言 (社会労働委員会)
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○前島英三郎君 発議者の皆さん、早朝から御苦労さまでございます。私は、自民党の立場から、原子爆弾被爆者等援護法案につきまして提案者に対して幾つか質問をさせていただきます。
今日までの原爆被爆者の皆さんへの政策を振り返ってみますと、原爆被爆者の方々が原爆の放射線を浴び今なお健康障害に苦しんでおられるなど、健康上特別の配慮を必要とするという特殊事情に着目いたしまして、昭和三十二年に原爆医療法、続いて昭和四十三年には原爆特別措置法が制定され、健康診断あるいは医療の給付が行われるとともに、医療特別手当、特別手当、原爆小頭症手当あるいは健康管理手当、保健手当、介護手当、葬祭料の支給等の対策が講じられてきておるところであります。また、近年は被爆者が年々高齢化している実態に対応いたしまして、原爆養護ホームの整備あるいはホームヘルパーの派遣、相談事業の充実、各種手当の引き上げ、健康診断の強化等、保健、医療、福祉の全体にわたりましてかなりきめ細かく施策の展開が図られていると私は感じております。
予算面におきましても、厳しい財政事情のもとではありますが、このような施策の充実のために年々着実に増額されてきておりまして、平成元年度では千二百十九億円を確保されております。三十五万六千人の被爆者一人一人の方々が安心して療養を受け、健康管理に万全を期し、あるいは生活の必要に対応していくのにそれ相応の配慮がされてきておりまして、被爆者の福祉の向上に大きな役割を果たしていると私は思っております。このように原爆放射線による健康障害という他の戦争犠牲者には見られない特別な犠牲に着目した施策としてはかなりのことを行ってきていると思いますし、今なお原爆の後遺症で苦しんでいる被爆者の皆さんに対して今後ともできる限りの施策の充実に努力していかなければならないと考えております。
一方、我が国は、核兵器による惨禍をこうむった世界で唯一の国でありますし、私たち自民党といたしましても、政権を担当する与党といたしまして政府と一体となって、広島、長崎の悲劇を再び繰り返さないというかたい決意のもとに、平和憲法の遵守、国是である非核三原則の堅持というのを政策の基本にいたしまして、究極の目標であ
ります核兵器の廃絶と恒久平和の確立を全世界に粘り強く訴え続けてまいりました。
近年の世界平和のための貢献の例を幾つか挙げましても、昨年六月の第三回国連軍縮特別総会では、当時の竹下内閣総理大臣が核軍縮の実現を強く訴え、軍縮問題についての基本的考え方及び具体的な貢献策を示すとともに、国際協力構想の一つの柱であります平和のための協力の具体的な進め方を明らかにするなど、大きな貢献をいたしてまいりました。その際の我が国の提案に基づきまして、本年の四月に京都において我が国初の国連軍縮京都会議も開催されました。また、本年一月パリで開催されました化学兵器禁止国際会議では、当時の宇野外務大臣が化学兵器の使用、開発、製造、保有のすべてを包括的に禁止する条約の早期締結を訴えました。さらに七月、パリで開催されました先進国首脳会議では、米ソ両国の戦略核の削減、化学兵器の世界規模での禁止等を盛り込んだ政治宣言の採択に大きな役割を果たしてまいりました。このように我が国は、戦後一貫して究極的核廃絶と世界恒久平和の確立に向けまして努力を傾注してまいりましたし、また着実にその成果を上げてきているところであります。
去る五日の本委員会におきまして、提案者は、被爆者援護法の制定は非核政策と一体のものであると答弁されておるわけでありますが、私は被爆者対策と究極的核廃絶への努力とは別な手段で進めていくものと思いますが、そのいずれにいたしましても、私たちは最大限の努力を行い、政府も大きな成果を上げてきたと思っております。また、今後ともこれは努力を傾注していかなければならないという決意をまず申し上げておきたいと思うのであります。
そこで、質問に入ってまいりますが、被爆者援護法の基本的な考え方について御質問をしたいと思うんですが、私は本法案には幾つかの重要な問題があると考えております。
そのまず第一は、国家補償のあり方、考え方についてであります。
本法案の第一条に言う「国家補償の精神」につきまして、提案理由説明では、国際法違反の原爆を投下した米国に対する請求権を放棄した責任と戦争を開始し遂行した責任に基づく補償であると説明されております。原爆投下はまさに非人道的な行為でありますし、世界のいかなる地域におきましても、どのような理由があろうとも今後二度と繰り返してはならないものであると私も強く思っております。しかし、それが今定められている国際法上違法と言えるかという法的な問題につきましては議論の余地のあるところであります。政府の見解では、国際法の根底にある人道主義の精神には反するが、しかし国連憲章を含む今定められている国際法が核兵器の使用を禁じているかと言えば、そこまでは言えないとのことであります。しかし、そのような議論をするまでもなく、仮に国際法上違法であったといたしましても、日本国民がアメリカに対する請求権を放棄した日本政府に対して損害賠償を求める権利はないということは、提案者が引用されています昭和三十八年十二月七日のいわゆる下田訴訟の判決でも言っておるところであります。
一方、戦争の遂行の責任を言われておるわけでありますが、政治論として国の戦争責任というのはともかくといたしまして、法律論といたしますと、戦争の開始及び終結というようないわゆる統治行為について、国の不法行為責任など法律上の責任を追及し、その法律的救済を求める道は開かれていないと承知いたしております。国の戦争責任ということを言われるならば、当時の国民はすべて何らかの形で戦争にかかわり合いを持ったと言えましょうし、あるいは戦争の犠牲になっているわけでもあります。これを国家補償の名において補償していくとするならば、その補償は他のもろもろの戦争犠牲者へと際限なく行われなければならないということになると思うんです。
そこで、私は被爆者対策というものは国の不法行為責任に基づく補償というような性格のものではなくて、原爆放射能による後遺症という特別の健康障害に苦しんでおられる被爆者の皆さんに対し、国が政策的見地に立って国民的合意の得られる公正、妥当な対策を講じていくべきものであると考えておるわけであります。その意味では、現行制度の充実こそが被爆者の皆さんの福祉の充実につながるものと考えますが、提案者がなぜに現実に即した対策ではなくて国家補償ということにこだわられるのか、被爆者対策についてのみ国の不法行為責任を問おうとされておられるのか、その理由をまずお示しいただきたいと思うのであります。