小林武の発言 (政治改革に関する調査特別委員会)

⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。 詳細は利用規約をご確認ください。

○小林参考人 小林武でございます。本院で審議されている小選挙区制の区割りに係る公職選挙法改正案につきまして、参考人として意見を述べます。
 このいわゆる区割り法案に憲法に則して検討を加えるに当たりましては、それがさきに成立を見ている選挙制度改正のうち小選挙区部分を完成させるものであることにかんがみまして、その問題点を小選挙区制全体との関連で論じたいと思います。
 最大の問題は、この区割りによって、投票価値、いわゆる一票の重みに憲法上許容しがたい不平等が生じる点にあります。すなわち、三百の選挙区のうち人口の最も少ない選挙区と最も多い選挙区との間の一票の格差は、区割り審議会の勧告が基礎とした一九九〇年の国勢調査によれば、最大二・一三七倍、二倍を超す選挙区が二十八、また九四年三月の住民基本台帳では、最大二・二二六倍、二倍以上が四十一選挙区に上っております。
 一票の格差に関しましては、最高裁判所は、現行中選挙区制につきまして幾つかの判例を通して、三・一八倍のケースを違憲状態とする一方、二・九二倍は投票価値の不平等が一応解消されたものと評価できるという示し方によりまして、三倍の基準を合憲の一応の目安としているものと推測させてきました。しかしながら、この最高裁判所の考え方は論拠に欠けたものであります。最高裁は、人口に比例した定数配分が原則であるとしつつも、行政区画、地理的状況、社会状況などの非人口的要素を考慮しなければならないとするわけでありますけれども、それが何ゆえに三倍説を帰結することになるのか、全く説明していないのであります。
 学説は、これに関して、多数が二倍未満説に立っております。すなわち、人口比例が憲法の規範的要請であることから、あくまで一対一が原則であって、立法技術上の必要や真に考慮すべき非人口的要素を取り入れても、一票の格差は選挙区間で二倍未満とされなければならないというわけであります。格差が二倍以上の制度では、実質的に、一人一票の原則が破壊され、憲法の禁ずる複数選挙制、歴史的にはいわゆる等級選挙制でありますけれども、これが生じることになるからであります。
 この二倍未満説の論拠は近代選挙原則に裏打ちされた大変強靱なものでありまして、実は最高裁判決の中にも次のような状況が見られます。すなわち、昨年、一九九三年一月二十日の大法廷判決は、現行中選挙区制の時期における最後の最高裁判決であると目されるものでありますけれども、ここでは、法廷意見は先例どおりの三倍説をとっているかのように見えますが、七名の意見及び反対意見が付されておりまして、そのうち四名の裁判官が二倍未満説に立ち、また二名の裁判官は法廷意見のとった判断方法を批判しております。結局、格差が三倍までなら許容されるとする最高裁判例は、法理論上の根拠に裏づけられたものではなく、むしろ立法府が抜本的な定数是正を一貫して怠ってきた状況への政治的配慮、そしてそれは本来司法府のなすべきではないあしき配慮であると言わざるを得ないわけでありますけれども、そのような政治的配慮を示すもののように思われるのであります。
 新制度の小選挙区制に関しましても、選挙区間の人口ないし有権者数の格差は二倍未満にとどめられなければなりません。この原則は維持されるべきであります。これを緩和すべき理由は見出せないと私は思います。かえって、この原則をより厳格に運用することを要請する事情ないし要素が少なからず見出されます。以下、四点述べます。
 すなわち、第一に、このたびの新制度導入の経過からいって、選挙制度の変更はいわゆる政治改革の一環とされるものでありますが、導入を主張する側から、この改革で格差を二倍以内にして抜本是正を行うとの説明がなされておりました。そのような事情がございます。また、それゆえにこそ選挙区画定審議会設置法も、第三条第一項で「各選挙区の人口のうち、その最も多いものを最も少ないもので除して得た数が二以上とならないようにすることを基本」とするといたしまして、原則二倍未満の基準を採用しているわけであります。これは、立法者がみずからに課した法的責務にほかならないものでありまして、そのことを強調しておきたいと思います。
 第二に、これをめぐりまして裁判所も、小選挙区制導入法成立後に出された一つは東京高裁の九四年六月三日判決、もう一つは広島高裁の同じく
本年九月三十日判決で、それぞれ、最大格差が二・八二倍であった昨年七月の総選挙に関しまして、この格差を合憲としつつも、新制度における格差は二倍未満にとどめられるべき旨を明瞭に判示しております。すなわち、東京高裁でありますけれども、今後の抜本是正では一人に二人分以上の選挙権が与えられることのない基本的な平等原則をできる限り遵守すべきで、そうした基準によって合憲・違憲を判断すべきであるとの趣旨を示しておりますし、また広島高裁も、「議員定数配分規定の抜本的改正、殊に小選挙区制を前提とした改正にあたっては、将来の人口異動を考慮に入れても選挙区間の最大較差二倍以内に納めることが期待される」と述べているのであります。
 第三に、小選挙区制には、一票の重さの不均衡を是正するには区割りそれ自体を変えなければならないという構造上の特性があります。小選挙区制には定数の概念がないわけでありまして、あえて言えば各選挙区とも不動の定数一であるわけですから、定数是正によって不均衡の是正を図るわけにはいきません。現行の中選挙区制における定数是正さえ満足にできず、びほう策を講じることで当座を糊塗するのを常としてきた国会にとりまして、区割りを変えることは至難のわざであるように思われます。そのことを考えますならば、この制度を導入する限り、その出発点において可及的に一対一に近いものにしておかなければならないはずであります。
 第四の、そして最大の問題点は、今般の区割りで一票の価値に不合理な格差を設けることが、小選挙区制全体との関連においては二重の不平等をもたらすことになる点であります。すなわち、小選挙区制は、周知のとおり、その制度原理上、選挙区ごとに、また全体としても、五〇%程度の死票を生み出します。しかも、政党の組み合わせなど、状況次第でそれがもっとふえることを経験則が教えております。このことは、小選挙区制が、有権者意思の議会への反映という面で有権者の多数を不平等に扱い、かつ、政党間において得票率と議席占有率とが近似すべきことを要求するいわゆる結果価値の平等の原則に違背する制度であることを示すものであります。そうであるとすれば、それに加えて一票の重さ、つまり投票価値の平等まで損なうことは、許容される余地のない事柄であると言えるだろうと思います。
 それにもかかわらず、今般の区割り法案は、出発時点で既に約二・一四倍、本年の住民基本台帳によれば約二・二三倍という格差を抱えているわけです。その点で、この法案は、投票価値の不均衡に限っても、その最初の実施をもって違憲と判断されるべきものと思われます。
 ここにおいて強調されるべきは、やはり立法府自身の使命ないし責任の問題であります。
 憲法第四十七条は、選挙制度の選択を法律事項とすることで、それを国会の一定の裁量的判断にゆだねております。同時に憲法は、この国会の裁量的判断を統制する原則を幾つか設けているわけでありまして、それは、国会が主権者国民により正当に選挙された代表者によって構成されるべきであることを定めた前文及び第一条、平等選挙の原則を詳細に規定した第十四条第一項、第十五条第三項及び第四十四条ただし書き、さらに選挙活動の自由を保障した第二十一条その他にわたりますが、国会は、これらの原則を遵守しつつ、それを積極的に実現する選挙制度づくりをする責務を担っていると考えられるわけであります。このことは、憲法が、国会が主権者国民の代表機関であることを尊重し、かつ民主主義的力量に期待していることを物語るものであると言えます。
 それにもかかわらず、衆議院は、みずから一九八六年に行った定数の抜本是正が必要であるとの決議の履行さえせずに、今、小選挙区制導入の仕上げをしようとしているわけであります。そして、この新制度は、遺憾ながら、内容と手続の双方とも憲法の期待するところに背くものと言わざるを得ません。
 すなわち、政治的評価はさておきまして、純粋に制度原理上の問題に限って論じるわけでありますけれども、まず、大量の死票を構造的に生み出し、有権者国民の持つ選挙において平等に処遇される権利を侵害するものであります。
 また、国民代表制につきましては、これを、国民意思と代表意思の事実上の類似が重視されなければならないという、いわゆる社会学的代表の意味にとらえるのが現代憲法に関する今日の共通理解でございますけれども、それによれば、国民の多様な意思をできるだけ公正かつ忠実に国会に反映させる選挙制度が憲法上要請されることになりますしかるに、小選挙区制は、この要請の対極にあるものでありまして、国民意思の反映にとって最も不適切な制度であると言わなければなりません。
 そして、小選挙区制のもとでは、これも制度原理上、小政党が徹底して排除されることになりますが、これは、国民の中の少数意見の切り捨てを意味するものでありまして、立憲民主主義の基本精神とは全く相入れない、重大な問題点であります。
 さらに、小選挙区制導入の過程をめぐっても、本年一月下旬の関連法成立手続は、憲法上説明のつきかねるものでありました。とりわけ、法制度上の協議機関とは言えない、当時の内閣総理大臣と自由民主党総裁の間のいわゆるトップ会談を受けまして、国会が、さきに衆議院が否決した自民党案とほぼ同様のものへと修正することを次期国会に義務づけつつ、実施する意思のない政府案をひとまずは成立させておくという立法テクニックを用いたわけでありますけれども、このことは、法的巧緻を通り越しまして、もはや政治的トリックの域のものでありました。
 結局、小選挙区制の立法は、遺憾ながら、実体上もまた手続上も、国会に、国民代表議会としての自覚と、憲法を実現する任務を負った最高機関としての責任が欠如していることを示したものと言わざるを得ないのであります。
 区割り法案に戻りますならば、さきに述べました意味で、それは選挙における平等の保障を二重に侵害するものであると言えるわけでありますが、このことは、国民の権利の侵害のみを示すものではなくて、国会自体が二重にゆがんだ鏡と化してしまうことを物語っております。国会はそのことによって国民の信頼を失います。また、国会に存立の基礎を置く内閣もその権威を低めるという事態が生じます。このことは必定と申せましょう。私は、そのような事態の到来を心底憂えるものであります。
 国会が、我が国民主主義百年の計に思いをいたして、慎重な審議を重ねられますことを心より願う次第であります。
 これをもちまして、私の参考人としての意見陳述を終わります。(拍手)

発言情報

speech_id: 113104573X00519941101_006

発言者: 小林武

speaker_id: 30010

日付: 1994-11-01

院: 衆議院

会議名: 政治改革に関する調査特別委員会