池上洋通の発言 (地方分権及び規制緩和に関する特別委員会)
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○参考人(池上洋通君) 参考人として発言をさせていただく機会を得まして、大変ありがたく存じております。
私が属しております自治体問題研究所と申しますのは、今から三十二年前に、当時自治体の労働者のつくっておりました労働組合、今日もちろんございますけれども、自治労の中で地方自治の研究を進めようという意欲のある自治体の職員たちがあらわれまして、自治研運動が大変活発になったわけでございます。そして、その職員の有志たちと、それからそれを指導していた研究者との間で研究所づくりの話が持ち上がりまして、三十二年前に結成された、そうした研究所でございます。
これまで大変自主的な研究機関としていろいろな仕事をやってまいりました。今日、機関雑誌、月刊誌で「住民と自治」というのを二万部ほど出版しておりまして、全国に広がる会員の数がちょうど今九千人ほどでございます。そうした自主的な努力で我が国の地方自治の研究を行ってきた団体でございまして、私は今、常務理事としましていわば所長のような仕事をさせていただいております。
それから、私、三年前まで東京の日野市役所の職員でございまして、日野市役所の中で、企画行政、財政行政、財政事務ですね、それから社会福祉、文化行政などに実はかかわっておりました。今の仕事につくために中途退職いたしまして職務についておりますけれども、そうしたいわば自治体職員としての経験も長くございます。なお、現在、千葉大学の教育学部で社会教育概論の講師を実はしておりまして、そうした面からも地方自治行政にかかわりを持って多少勉強させていただいている、そういうふうな関係でございます。きょうはせっかくの機会でございますので、率直なお話をさせていただければというふうに思っておるところでございます。
最初に、基本的な立場のようなものを申し上げておきたいと思いますが、私は今度出されております、そしてここで御審議なさっていらっしゃいます地方分権推進法案には基本的に賛成でございます。私、憲法が定めております「地方自治の本旨」というものを実現するためには、本当にこういういわばそれに基づくところの分権が必要であるとかねて思っておりまして、そうした意味では今度の法案の成立と、あるいは今後の展開に大変期待をしておるわけであります。
それからあわせて申し上げたいことに、四月十三日に行われました衆議院におきます特別委員会で参考人の皆さんが御発言なさっていらっしゃいますけれども、私はそれを拝読させていただきまして、ここには大変傾聴すべきものが多く含まれているというふうに思いました。そういう意味では、院は違いますけれども、御審議なさる折の一つの参考になさっていただければというふうに私の方から申し上げておきたいというふうに思うわけであります。
本日は、私は、先ほど申し上げました経験もございまして、地方自治体の現場から見るとどんなふうにこうしたテーマが見えているのか、それから私自身、実は私の住んでいる町の中だけでも三十ほどの住民団体にかかわっておりまして、福祉の活動や文化の活動などを長い間続けております。そして、いわば主権者といいましょうか、そうした市民の立場から見るとこうしたものがどんなふうに見えてくるのかというふうなこと、そうした立場をあわせながら発言をさせていただきたいというふうに思っておるところです。
最初に、まず大変基本的なことをお願いをしておきたいわけでございますが、今後、法案が成立をいたしまして分権の推進作業のようなものが行われていくだろうと思うんですが、その際にまず第一番目に申し上げたいなと思いますのは、第二条の基本理念を文字どおり具体的に生かした分権の推進作業が必要だということを強調しておきたいわけであります。
それはどういうことかと申しますと、一つ一つの自治体といいますのは本来独立した存在でありまして、分権の推進といいますのは多数決をもって決定できるようなことではないというふうに私は実は考えておるわけであります。個々の自治体の個別の事情に立脚して行われるということがどんな場合にも貫かれるべき性質のものではないかというふうに考えているわけです。
私は、一昨年百十回ほど、昨年百二十回ほど実は全国の各地の自治体に呼ばれましていろいろな研究会や講師などを務めておりますけれども、全国各地をお訪ねすればするほどそれぞれの自治体の持っている歴史的な伝統や生活的な事情の違いというものが明らかでありまして、この法案にあり、また法案の御審議の中でも触れられておりますように、本来の自治体の自治というものを言葉どおり実現するとなりますと、そうしたいわば文字どおりの個性を本当に大切にするような、そうしたものでなければならないというふうに思っておるわけであります。その点では、都道府県はもちろんのことでございますけれども、基礎自治体でございます市町村のすべてが具体的に参加できるような推進計画づくりをぜひしていただきたいというふうに思うわけです。
その前提となりますのは、地方自治体と国、都道府県と市町村、市町村同士の間における自由な意見交換が大事だろうというふうに思っています。これにつきましては私は、ほかのことと違いましていわば拙速ということは許されないんじゃないかというふうに思っておりまして、文字どおり、じっくり時間をかける、そうしたことが必要だというふうに思うわけです。
委員の先生方、既に十分御承知のことと思いますが、今日我が国のとりわけ中山間地域などの自治体に参りますと、お話をお聞きするだけで涙の出るような行政の努力が重ねられているわけでありまして、そうしたことを抜きに分権が語られてもそれは力にならないというふうに率直に思うわけです。その点をまず第一に率直にお願い申し上げたいと思います。
そういう意味では、先ほど申し上げました衆議院のやりとりの中で例えば成田参考人などが、都道府県と市町村の関係をつけるときには本当に市町村の一つ一つの力をよくはからなければならないというようなことをおっしゃっておられますけれども、そのとおりだなということを思いました。
それからその次に申し上げたいと思いますのは、言うまでもありませんが、そうした個々の自治体の独立性を担保しておりますのは自治体の首長や議会を選出しております主権者、住民でございます。そうした主権者、住民の直接選挙があるからこそ基本的に独立性が担保されておるわけでありますので、そうした意味では、主権者である住民の皆さんが直接的に意見を表明できるようなさまざまな条件を整えていただきたいということであります。
後でも時間がございましたら触れようと思いますが、先ほどちょっと申し上げましたけれども、私は障害者運動のボランティアを長い間やっておりますが、例えば目の見えない人にとって行政に参加するとか政治に参加するというのはどういうことなのかということを一つ考えましても実に多様なことがあるわけでございます。例えば具体的に申し上げれば、点字で意見が出されてくるというふうなそれくらいの迫力を持った推進計画がやっぱり必要なのではないかというふうに思っているわけでございまして、その点では、思い切って開かれたそうした機関として推進委員会が働いていただきたいということであります。
そうしたことを考えますと、先ほども寄本教授も触れられましたが、推進委員会の体制をよほどしっかりしたものにしていただかないとならないだろうと思います。委員の人数は七人ということでございますが、それはそれでよいといたしまして、当然地方自治体の代表者に当たるような方が入っていただくことといたしましても、私が特にお願いしておきたいなと思いますのは、事務局の構成におきましても地方公共団体からの直接的な参加をぜひいただきたい、そして実務面においてもいろいろな声をきちんと受けとめることができるだけのそうした組織体制を整えていただきたいということであります。
それから次に、大きなテーマに移ります。
地方自治体の単位でございますが、これについてもさまざまな御議論がございました。私は、衆議院でおっしゃっている皆さんが大方そうでございましたように、また先ほどお話しなさいましたお二人の参考人のお話もそうでございましたように、現在の都道府県、市町村といいますのは長い間の歴史の中で定着をしているものであるというふうに思っておりまして、そういう意味での二層制というものは当面非常に大切にしていく、そしてこの上に立って個々の自治体の自立的な発展を促す政策を展開するということが大変大切ではないかと思います。
その場合に忘れてならない一番基本的なこととしまして、自治体の自立的発展に欠かせませんのは住民参加制度のメニューが豊富化することでございまして、先ほど私は障害者のことをお話ししましたが、そればかりではございません。どんな立場におられる住民の方も具体的に参加できるようなそうしたメニューが求められているということであります。
次に、このことと大変関係することでありますが、市町村合併との関係でございます。私は、市町村合併に一概に反対するものではございませんけれども、安易な市町村合併というものにはやはり赤信号をともしておいた方がよいのではないかということを率直に考えております。
まず第一番目にこのことで申し上げたいと思っておりますのは、いわゆる受け皿論議から発する市町村合併論というのは、私はやはり地方自治の本旨からして正しくないということを率直に申し上げておきたいと思います。国が今日まで持っていた事務を受けるために地方自治体があるのではないということでございまして、先ほどからお話の中でも出ておりますように、むしろ地方自治体の自主性において決定すべきことでありますから、そういう意味では、受け皿が必要だから市町村合併は当然だといったような議論は事柄がひっくり返っている議論だというふうに思いますし、先ほど申し上げました今回の法案の基本理念にそもそももとるものではないかということを私は率直に申し上げておきたいと思うわけであります。
そして、先ごろ選挙がございましたけれども、選挙における投票率をずっと見てまいりますと、もうお気づきだろうと思いますが、一般的に自治体が大規模化していくと投票率が下がるという傾向を実は持っておりまして、これは多くの論者が指摘しておりますけれども、このことが何を意味するかといいますと、自治体の大規模化が住民参加をしがたくするという非常に明確なあらわれであります。私たちはそうではないことを目指さなければならないのではないだろうかということであります。
それからこの関係で二つ目は、これはもっと率直なことでございますけれども、自治体行政と申しますのは申し上げるまでもなく国民、住民の生活単位を確保するものでございますから、生活感覚的に納得できるものでなければならないということがございます。
具体的に申し上げます。
高齢社会ということが盛んに言われておるのでありますが、ゴールドプランを作成するときに東京の中野区でお年寄りの行動調査というのを実はやっております。その結果を読んでまいりますと、七十歳前後のお年寄りが一日に歩ける距離というのが出てまいりまして、それは大体一キロだという調査結果が出ているんです。一キロということはどういうことかと申しますと、おうちを出ていって五百メートル行ったら戻ってくるという距離なんです。つまり、出かける距離は五百メートルだということなんです。
そのことを考えたときに、一人一人の生活圏を単位にどのような行政をつくるかがやはりこれからの行政の基本でなければならないことは明らかだというふうに思うわけです。それにこたえるような行政単位をどうつくるかということが二十一世紀に向かって求められておりまして、その意味では安易な大規模化はどうしても避けなければならないということになってくるわけであります。
それからさらに、先ごろ起きました阪神・淡路大震災を経験いたしましたが、あそこで改めて見直されておりますのは、地域社会的な人間関係がどんなに重要であったかということでございます。もうよく知られておりますように、バケツリレーで火を消しとめた地域がございましたけれども、そうしたことができるような人間関係が形成できる単位を自治単位の基礎にするということを本気になって考えませんと、これまた高齢社会のもとで安心とか安全とかということを得ることはできないわけであります。
それからさらにまた環境型社会という問題もございまして、手ざわりのできるような生活圏でお互いのプログラムをつくるということでございませんと、町を愛する、地域を愛するということにはならないわけでありまして、すぐれた環境条件を形成することになっていかないという点はございます。
いずれにしましても、そうした点から考えますと、二十一世紀型の地域社会を展望したときに、狭域行政、広域でなくて狭域、狭い範囲での行政をどうするかということがむしろ重大な課題になっていることは明らかなわけです。
先ほど申し上げました中野区の例で都市計画的にそれを計算してまいりますと、五百メートルを行ったり来たりということで考えられる人口想定といいますのは、都市計画上では最大規模で一万人であります。そうしたことを考えた場合に、私たちがそういういわば生活の願いにこたえることのできる地域社会組織をどうするかということを創造的に選択できるようにしなければなりません。
この点では既に努力も始まっておりますけれども、住区協議会のような努力であるとか小学校区の協議会であるとかといったふうなものが既に始動している自治体もございますが、そうしたものを基礎にした自治体の展望をどうつくるかということになっていくのではないでしょうか。
さらにまた、機能別の地域組織についても自主性を確保する方向で考えなければならないかもしれません。保健医療であるとか福祉であるとか教育であるとか、あるいは防災であるとかという単位でございますけれども、これはアメリカで行われている地方自治体の形に、いわば機能別の地域組織をそのまま地方自治体として認めていく、そうした制度がございますけれども、そうしたことを私たちは本気になって研究してみなければならないのではないかというふうに考えているところであります。
また、これに関連しまして、政令指定都市におきます行政区に対する住民参加を本気になって考える時期だろうというふうに思います。区長の公選ないしは準公選、あるいは議会の設置のようなものを考えないといけないのではないかということです。
神戸に伺って震災の後のさまざまなお話を伺ってみますと、行政区単位で何かができなければならないということを皆さんが口々におっしゃるのでありまして、そういう意味では、ああした重大な経験から私たちはもっと真剣に学ぶ必要があるかなというふうに考えておるところであります。
それからさらに、非常に大きくなってしまっている、既に大きくなってしまっている行政単位につきまして、むしろ分割も検討をしなければならないのではないかというふうに思っておりまして、いわゆる大都市になり切れなかった、合併をしたけれども大都市になり切れなかった実は自治体があるわけでございまして、むしろ積極的に単位の分割を考える必要が今出てきているのではないかというふうに思っているところであります。
もちろん、交通・情報・通信システムの発達を背景にしまして広域行政が必要になってくることも事実でございまして、これにこたえるためには、私はやはり都道府県行政をどう活性化していくかということを第一に考えるべきだというふうに思います。また第二には、一部事務組合あるいは個別課題の協議組織としてこれまで自治体の間で大変努力をして積み上げられているシステムがございます。これを一層活性化していくこと、それから新たにできました広域連合などの方法を組み合わせまして、自治体ごとの自主的な意思に依拠したところの広域行政を展開することが最も現実的ではないかというふうに思っておるわけであります。
申し上げておきたいと思いますのは、千人ぐらいの単位の自治体もあり何十万人という単位の自治体もあって、基礎自治体であってもそうした単位があってそれぞれの個性というものを語ることができるのでございまして、一律に人口規模で発想するような考え方からははっきりとやっぱり我々は脱する必要があるということを申し上げておきたいわけであります。
それから次に、先ほどからお話が出ております委任事務の処理、役割分担のようなことについて申し上げておきたいと思います。
まず第一に、先ほどから御意見ございますように、私も機関委任事務は廃止すべきであるという意見を持っております。そして、その後の委任事務の処理、役割分担につきましては、いろいろな方法が考えられると思いますけれども、国と都道府県、市町村が文字どおり対等の立場で十分な話し合いを持って行われなければならないというふうに考えておるところであります。
それからさらに、これも自治体にとっては大変大きな関心事でございますが、財政の問題がございます。国からの事務移管が財源の確保を伴うものでなければならないことは言うまでもありませんし、また財源の確保の上で国が果たすべき責任があることはこれまた言うまでもございません。
その点でまず第一番目に申し上げたいと思いますのは、個別の事業におきます国庫支出金の一般財源化がこの間ずっと進められてきましたけれども、私は安易な一般財源化はやはり行うべきではないというふうに率直にこの際申し上げておきたいと思います。仮に委託関係のようなものを機関委任事務において置きかえるようなことがあったにしても、その関係は国の責任として明確にしておく必要があるだろうというふうに思っておるわけであります。
それから二つ目に、この間の問題で申し上げておきたいと思いますのは、先ほど寄本教授もおっしゃいましたけれども、東京一極集中によります著しい経済格差を考慮しますと、地方交付税制度の抜本的な改善、思い切った規模拡大、財源規模の拡大を行わない限り地方分権は実質的なものになることは考えられません。
先ほど私、中山間地域の自治体のお話を申し上げましたけれども、いろいろその場所に行って財政についての組み立てのお手伝いまでするわけですが、本当に来年度の予算は組めるのかなというところまで切羽詰まった思いで組んでいる自治体が少なくないことをぜひ御理解ください。そういう意味では、私たちは今、財政調整制度という大変すぐれた制度を持っておるわけですから、これの抜本的な改善によって手当てをするということは欠かすことのできないテーマであるというふうに確認をしておく必要があるというふうに思うわけでございます。
それから次が、地方自治体で今、大変頭を悩ましていることでございますけれども、昨年の十月に自治省からいわゆる行政改革指針という新しいものが出されました。しかし、事務の移管といいますのは直接的に事務量の拡大を意味しておりますから、職員の増大はもう必然のものになっているわけです。今、地方自治体の長あるいはまた担当者たちはその板挟みに遭っておりまして大変苦しんでいるわけです。
もちろん行政改革指針は一般的に直ちに職員を削減しろなどということを提起しておるわけではございませんけれども、しかし同時に、いわば通達として出されました職員の適正配置というふうなことについての通達を読みますと、やはり削減と思わざるを得ないということになっておるわけでありまして、今の自治体の現場は大変混乱の中にあります。
私たちは、簡素な行政をつくるという原則は原則としまして、同時に事実において必要な職員の配置についてためらってはならないと思っておるわけでございまして、その点では、先ほど申し上げました二十一世紀社会が高齢社会であり、かつ環境型の社会を目指す、そして大震災に見られるような安心、安全ということを求められる社会であるということを考えたときに、私たちが公務労働あるいはまた公務員の配置ということについてはもっと積極的な観点を持つ実は必要に迫られているというふうに思っておるわけであります。
それからこのことに関連しまして、民間委託をどんどん進めるというふうな議論がございますけれども、そして私は民間委託に一概に反対するものではございませんけれども、安易な民間委託の拡大が自治体行政をゆがめておることも事実でございます。
率直に申し上げますと、これまでいわば直接的に経営していた部門を民間委託いたしますと、その民間委託をした部門を管理する部門をまたつくらなきゃならないということになりまして、これまで直接経営だったらそんな管理部門は要らなかったのに、余計ないわば財政負担がかかっておるという例が実は少なくございません。
それからさらに、そればかりではなしに、民間委託をしてしまいますとその委託をしたところでまた職員を採用したりしますから、事業を縮小しようにもしようがないという場面がいっぱい出てくるんです。これがもともとの直接経営でしたら職員異動で縮小が幾らでも自在にできたものを、できないということになっているのでありまして、実はこれが物件費としてはね返っておりまして、今日の経常収支比率を引き上げる要因になりつつあります。実は財政的にも重大な問題になってきておりまして、その点では私は、ぜひ民間委託についてもこれからのいわば分権ということを考えるときに真剣に考えなければならないテーマかなというふうに思っているところであります。
時間が参りましたので、あと実は政策的条件、例えば産業政策であるとか地方分権の基礎になる問題であるテーマ、それから先ほどちょっとお話の出ました地方議会についてどう考えるかというふうなテーマがございますけれども、一応発言を終わりにさせていただきます。
ありがとうございました。