北野弘久の発言 (宗教法人等に関する特別委員会)

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○参考人(北野弘久君) ただいま御紹介いただきました日本大学の北野です。
 大変微力でありますけれども、約四十年間、税法学及び憲法学を専攻してきました。そうした専門の学問の立場から若干の所見を述べさせていただきたいと思います。
 周知のように、かつての日本では国家が特定の宗教と一体となりまして日本社会を支配し、他の宗教、とりわけ当時の新興宗教を弾圧したという事実がございました。この歴史的な事実への深い反省に立ちまして、第二次世界大戦後の占領末期におきまして、一九五一年になりますが、現行宗教法人法が制定されました。この法律は、いわば宗教性善説に立ちまして宗教団体に法人格を与えるということだけを目的とした法律であります。あれから四十数年を経過した今日、この法律を悪用する宗教法人などがあらわれるようになりまして、日本社会を混乱に陥れるようになったのであります。
 私たちは、宗教法人の教義や宗教活動の本体そのものに介入することはできません。行政が宗教団体を宗教法人として認証しまして、その認証を受けました宗教法人が日本社会でさまざまな公的な保護を受けることになります。行政には、そのような認証をした以上は、俗の部分、最小限度金の流れの面からその所管する宗教法人を把握しておくべき公的な責任がございます。宗教法人としましても、課税その他の面で公的な保護を受ける以上は、みずから進んでその金の流れの透明度を納税者、国民にディスクロージャー、開示する義務を負うと言うべきであります。
 今回の宗教法人法の改正はその点では極めて不十分なものでありますが、私としましては一歩前進であるということで今回の改正は最小限度の法制的整備を目指すものである、こういうふうに認識いたしております。
 この点について若干のコメントを加えておきますと、例えば問題になりました質問権について申しますと、現行宗教法人法第七十九条などに違反する疑いのある場合に限って、しかも宗教法人審議会の了解を得まして所轄庁がその所管する宗教法人に対しまして報告を求め、質問できるというものにすぎないのであります。私は、今回の改正案はむしろ公権力の宗教への介入を未然に防止するための自衛措置と見ております。宗教法人が国民、納税者が納得するだけの財務の透明化を実践しておりますれば、そういうことでやれば公権力は宗教へ介入する口実を持ち得なくなるのであります。
 しかしながら、財務の流れの透明度を確保するものといいましても、今回の改正案では極めて不十分であります。
 例えば、収入金額が一定以上の法人につきましては、改正案では収支計算書の作成のみを義務づけております。しかし、簿記の義務づけ、帳面をつけるという義務づけですね、それから収支計算書と貸借対照表の双方二つの義務づけは不可欠であります。
 さらに、十数法人程度のものを頭に考えておりますが、巨大宗教法人につきましては公認会計士による財務監査を義務づけるべきであります。その前提としまして、公権力の介入を避けまして、人々の信教の自由、プライバシーを真に守るためにも、宗教問題専門家を含む第三者的な審議会におきまして宗教法人の会計基準、会計原則を策定することが目下の急務となります。
 このように、公認会計士による財務監査の対象になる法人はほんの一握りの巨大宗教法人でありまして、大部分のお寺さん、お宮さん、教会などについては全くこの対象にならないのでありまして、各法人の自浄作用にゆだねるべきであると考えております。
 以上のほかに、現行宗教法人法には多くの不備がございます。これらの不備につきましては今回の改正案では検討の対象になっておりません。現行法には宗教活動以外の活動については歯どめはございません。やはり、社会問題化した今日の段階では、宗教活動以外の活動はその法人の宗教活動に関連したものに限ることとしまして、それを超える活動を行う場合には別法人、別組織として行うこととすべきであります。このような規定を宗教法人法に盛り込むだけで国民は宗教法人に信頼を寄せるのであります。
 また、休眠法人などの法人格の売買などが現実に行われておりますが、そういう疑いのある場合においては、所轄庁として何らかの措置を講ずることができるような規定を整備すべきであると思います。また、認証の取り消し期間は現在は一年でありますけれども、これでは短いのでありまして、この一年を三年に延長すべきであると考えております。
 この機会に、今回の改正案の不十分さに関連しまして、日本国憲法で規定いたしますところの政治と宗教の分離、政教分離原則の法的な意義につきまして若干の説明をしておきたいと思います。
 政教分離原則については二つのものがございます。その一つは、皆さん御存じの政治の宗教への介入の禁止であります。この点につきましては日本では戦後五十年間厳格に守られてきました。その二つは、憲法二十条でも明文で規定しておりますところの宗教の政治への支配の禁止であります。
 もちろん、宗教法人も社会的な存在としまして憲法二十一条が規定する表現の自由を保障されておりまして、その政治に関するさまざまな提言などの、提言というのは意見という意味でありますが、提言などの実現を政治的に働きかけるという政治活動は許されます。また、その宗教法人の構成メンバーの個々人が一市民として選挙運動などの政治活動を行うことももちろん許されます。
 憲法二十条が政教分離原則との関係で禁止しておりますのは、そういう政治活動ではないのでありまして、その宗教法人が組織的に集票活動、選挙運動などの政治活動を行うことでありまして、アメリカなどの実際例に従いましてこういったことは禁止されておると、こういうふうに考えざるを得ないのであります。こうした政治活動は、憲法が禁ずる宗教の政治への支配につながるから許されないのであります。今私たちが日本で問題にすべき政教分離原則はこのレベルのものであります。
 従前の政府見解は、専ら戦前のあの忌まわしい政治の宗教への介入の歴史的な経緯を念頭に置きまして述べられてきた政府見解にすぎないと言わねばなりません。この段階で、日本の立憲民主主義の真実を守るためにも、この宗教の政治への支配の禁止という政教分離原則を我々は虚心に認識すべきであると考えます。
 このような観点から申しますと、その法人の実質、サブスタンスですね、その法人の実質が政治団体、営利団体などと認められるような場合には、宗教法人法におきまして認証の取り消し事由、解散命令の請求対象とされるべきであると言わねばなりません。
 以上は宗教法人法プロパーに関する当面の私の所見ですが、人々が納得するだけの金の透明化を図るためには、宗教法人税制の整備も不可欠であります。
 この点について巷間誤った議論が行われております。現行税制は、宗教法人に対する法人税の取り扱いを他の公益法人と一緒に規定しております。しかし、この規定の仕方は学問的には誤りでありまして、何が収益事業であるかは各公益法人等の性格、目的、規模ことによって異なってくるのでありまして、当面、宗教法人を他の公益法人と切り離しまして、早急に宗教法人税制のあり方を見直すべきであると考えております。
 そこで、まず幾つかのことだけを申し上げたいと思いますが、公権力の宗教への介入を避けまして、人々の信教の自由、宗教活動の自由を守るためにも、宗教法人活動の実態を踏まえまして、宗教法人にふさわしい収益事業の範囲を世俗の部分から画定する、そういうことは非常に大切でありまして、これは公益法人等一般とは切り離して行うということであります。
 このような観点から幾つかのことをさらに申し上げたいと思いますが、財テク的に運用されます一定の金融収益をも収益事業に組み込むべきであります。
 第二番目に、現行税制は金の入る面、インプットしかとらえておりませんが、お布施などの金のアウトプット、出の面をもとらえる必要があります。政治活動、営利活動などに用いた部分は税制上収益事業分とみなすべきである。こういうことであります。
 第三に、さきに指摘しました日本で問われておる政教分離原則の観点から、その宗教法人の実質が政治団体、営利団体と認められる場合には課税上は宗教法人としては扱わないこととすべきであります。
 私は、現行法のもとでも、このような法人に宗教法人非課税の規定を適用することは、アメリカでの例にかんがみまして憲法学上適用違憲、憲法違反にも二つありまして法令違憲と適用違憲がありますが、この場合、適用違憲を構成すると考えております。
 第四に、さきに指摘しました巨大宗教法人につきましては、公認会計士の財務監査を受けている場合に限りまして現行法の宗教法人非課税の原則を適用することとすべきであります。
 以上、若干のことを申し上げましたが、もう時間がそろそろなくなりつつありますが、第五に、収益事業所得に対する法人税率を現在は軽い税率にしておりますが、これを普通法人並みに引き上げるということが必要でありまして、これはマーケットの論理、市場原理からいきまして、アメリカでは全くこういうやり方でやっております。そして、現在の寄附金控除制度も廃止するということは不可欠であります。
 以上、時間の関係で大急ぎで若干のことを申し上げました。こういった点につきましてもぜひ今後国会におきまして、さらには政府におきまして十分に御検討いただきたいと思います。
 このような不十分な宗教法人法の改正案についてすら、私には理解できないことでありますけれども、反対をしておる巨大宗教法人があると新聞は報道いたしております。これは国民的な規模でその真実を我々は主権者として解明すべきであると考えております。私は、今回の改正案を一日も早く成立させまして、その上で、ただいま指摘しました諸項目につきまして第二次改正という形で主権者、国民に提案すべきであると考えております。
 それにつけましても、多年の懸案でありました宗教法人法の今回の改正案、非常に不十分でありますけれども、ともかく取りまとめられたことに対しまして、村山内閣に対して心から敬意を表したいと思います。日本の立憲民主主義にとって一歩前進となるからであります。
 御清聴いただき、ありがとうございました。

発言情報

speech_id: 113414446X00819951204_007

発言者: 北野弘久

speaker_id: 6984

日付: 1995-12-04

院: 参議院

会議名: 宗教法人等に関する特別委員会