平松茂雄の発言 (外務委員会アジア・太平洋に関する小委員会)

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○参考人(平松茂雄君) 杏林大学の平松でございます。風邪を引いて声がちょっとかすれておりますのでお聞き苦しいところがあるかと思いますけれども、御勘弁願いたいと思います。
 さて、私に与えられましたテーマは台湾海峡の軍事情勢ということであります。皆様には余りなじまないテーマかとも存じますので、大体きょう私が話しますことをワープロで打ってまいりましたので、それに従ってお話を進めます。
 中国軍は三月八日から十五日まで弾道ミサイルの発射演習を始め、次いで十二日から二十日まで海空軍による実弾発射演習を実施し、さらに十八日から二十五日まで陸海空軍による上陸作戦を含む共同作戦演習を実施しております。これに対して、台湾側は警戒態勢をしき、また米国は第七艦隊の空母一隻とイージスミサイル艦一隻を台湾近海に派遣しております。
 これから、初めに中国の実施しました軍事演習の内容と目的、次いで中国軍の能力について、その後台湾の軍事能力に触れ、それとの関係で米国第七艦隊の派遣の意味についてお話をし、最後にこれらの演習と我が国の関係について簡単に述べてみたいと思います。
 まず、弾道ミサイルの発射演習ですが、これは西側でM9と呼ばれているミサイルであります。中国では東風十五号と言われているミサイルであります。厳密に言えば、中国側はミサイルの名前を具体的に公表しておりませんので定かではありませんけれども、M9であろう、ほぼ間違いないと見られているものであります。このミサイルが、第一日目に三発、翌日一発、合計四発発射されました。どちらも江西省の楽平を基地とする中国軍第二砲兵部隊、これは戦略ロケット部隊でありますけれども、これが福建省の永安というところから発射したと見られております。
 このM9ミサイルは、八〇年代のイラン・イラク戦争でソ連製のスカッドミサイルが果たした役割に注目して、中国が輸出用に開発生産した短距離弾道ミサイルです。これはロケット推進燃料として固体燃料を使用し、トラックに搭載されて運搬される中国では最新式の移動ミサイルであります。ミサイルの移動式の意味というのは、これは今申しましたようにトラックに搭載されて移動できる、つまり生き残りということで大変重要な意味を持っているわけであります。
 発射準備時間は約三十分で発射できると見られております。射程は六百キロメートルと見られておりますから、台湾対岸の江西省あるいは福建省から発射すれば台湾に十分到達できるばかりか、その時間はわずか五、六分で到達するとされております。しかも、台湾にこのミサイルを撃ち落とす能力はありませんし、これを捕捉する能力もないというミサイルであります。
 この弾道ミサイルは、台湾の北部海域と南部海域の二カ所に向けて発射されました。北部海域は角度を変えれば台北を、それから南部海域は台湾全島を射程内におさめております。つまり、台湾の首都と台湾全島をいつでも攻撃できる能力を保有していることを示すことにより、中国は台湾に対して戦略的に優位に立つことができるわけであります。つまり、場合によっては、これでもって台湾を屈服させることができれば、それで戦争は終わりということになるわけであります。
 さらに、この弾道ミサイルには通常爆弾の弾頭も核弾頭も搭載することができます。中国はこれまでに核実験を繰り返しております。特に、最近の数年間、国際世論に背を向けて核爆発実験を続けております。中国が核弾頭を搭載した弾道ミサイルを台湾に発射することはないと思われますが、しかし核弾頭が搭載できることは台湾に対する政治的、心理的に非常に大きな脅威となるところに意味があると思います。
 もう一つ、その弾道ミサイルを発射演習した目的は、実際に戦争に使うという目的であります。この弾道ミサイルM9は今申しました戦略的な意味と戦術的な意味があるわけですが、戦術的と申しますか、実際に中国が戦争をしかけた場合このミサイルがどういう役割を果たすかということでありますが、それは台湾の空軍施設、具体的には滑走路とかレーダーサイトを破壊し、それによって台湾海峡の制空権を掌握することにあります。
 台湾に侵攻するということになりますと、当然中国軍の陸軍の上陸部隊あるいは海軍の海兵隊が台湾海峡を渡るわけであります。それには海軍の艦艇によって護衛されて渡るわけでありますが、当然台湾空軍が空からこれを攻撃して阻止するわけであります。したがって、その空軍から上陸部隊を守る、渡海部隊を守らなければいけないわけであります。制空権の意味というのはそこにあるわけでありますが、しかしながら現在の中国の空軍には制空権を掌握するに足る十分の能力はありません。したがって、弾道ミサイルによって台湾の空軍施設を破壊すること、これによって実際の戦争は始まると考えます。これが最初に行いました弾道ミサイルの発射演習の一つの意味であるわけであります。
 その後、いよいよ上陸部隊が渡海を始める、台湾海峡を渡るわけであります。当然台湾側から空軍及び海軍によって応戦されるわけでありますから、そこで台湾海峡で戦闘が行われる。そのときにどうやって戦争を行って渡海するかということを見せたのが、そういう演習をやったのが二回目の演習になるわけであります。海空軍による実弾射撃演習というのは、そういう目的で行われている演習であると考えられます。
 これまでの台湾側の報道を見ていますと、十三日に航空機が四十機以上、艦艇が十余隻、十四日には航空機二十機以上、艦艇四十余隻が参加したということが報道されておりますけれども、それほど多い航空機や艦艇が参加しているわけではありません。意味しているところは、目的は今申したようなところにあるわけであります。
 そして、そのようにして海峡を渡って、最後に上陸作戦が始まるわけであります。もちろん、台湾側の攻撃があって、それを破砕して上陸作戦を敢行する、これが最後の陸海空軍による上陸作戦を含む共同作戦演習というものであります。これがまさにこれから行われるということであります。ことしになりましてから十五万の兵力が福州沖の平楽島に集結しているということが報道されておりますけれども、少しずつ集結し、部隊が個々の演習訓練を行いつつ集まっていて、そしていよいよ上陸作戦を始めるというようなことがこれから行われるのであろうと思います。
 今申しましたように、この三つの軍事演習というのは、中国軍がもし台湾に対して侵攻作戦を行うときにこういうぐあいに行われますよということを見せたわけで、もちろんそのための演習でありますし、同時に外に向かって示したということで、ごく普通のシナリオであろう、細かなところはともかくとして、大ざっぱに言えばそういうことが言えると思います。
 実は、これと同じような演習を昨年の夏から秋にかけて、ちょうど六月に李登輝総統が訪米して、その報復措置として中国が軍事演習を行ったわけでありますけれども、このときとほぼ同じものであると言ってよろしいと思います。ただ、前回は断続的に行ったわけですが、それを今回は一度に集中的に、そして非常に大規模に、しかも演習海域も非常に広く、あるいは台湾に非常に近いところで行ったというところに特徴があると思いますし、それだけ台湾に対する威嚇という点では昨年の比ではなかったということが言えると思います。
 それでは、こうした軍事演習の目的は何かということであります。
 これはいろんな目的があるとは思いますが、台湾の住民を心理的に撹乱し、台湾経済を混乱させ、独立を思いとどまらせるための軍事的威嚇であると言ってよろしいと思います。中国共産党政権の指導者には根強い力に対する信奉というものがあって、つまり軍事力を後ろ盾に政治目的を達成する、力によって政治を変える、そういう根強い考え方があるわけであります。同時に、実際にもし現在の中国が台湾を統一するとした場合、軍事力以外に有効な手段はないというところであろうかと思います。
 今度の軍事演習の効果とかあるいは目的をどう評価するかということは、いろんな見方ができるかと思いますが、しかしつまるところは、やはり軍事力以外に有効な手段がない、あれ以外にないということに尽きるだろうと思います。
 中国にとって台湾の統一は目標ではありますけれども、現実に有効な手段を持たないところから、鄧小平時代以降、一国二制度による解決を基本方針としております。一つの国に社会主義体制と資本主義体制が併存するという矛盾する方針がとられた背景には、中国には台湾を統一できないという現実があります。中国は一国二制度という枠組みの中で台湾が中国から離れていくのを阻止しつつ、他方で中国自身が迅速に政治的、経済的、軍事的に成長して統一の条件を整えることを意図しております。
 次に、中国の軍事力水準、台湾侵攻能力について論じてみたいと思います。
 九三年から九五年までの三年間、中国軍は軍事訓練改革というものを実施いたしました。特に九四年以降大規模な軍事演習が頻繁に実施され、訓練改革の検証が行われました。この訓練改革の内容というのは、一言で申せばハイテク条件下における共同作戦能力の演練であります。現代の戦争では陸海空三軍が参加した統合作戦が常識となっており、中国軍の当面の最大の任務である台湾侵攻作戦も当然統合作戦となるわけであります。
 中国軍は八五年に百万人の兵員削減を行い、それによって近代的な軍隊へと生まれ変わってきております。しかしながら、陸海空それぞれの内部での近代的な訓練改革というのは進行しておりますが、陸海空を超えた、そういった敷居を取っ払った統合作戦訓練というのはほとんど行われていないということをこの軍事訓練改革を行った総参謀部自身が認める通達を発しております。
 これは大変重要な通達で、このときはまだ今回のような緊迫した状態にはないわけで、そういう意味で正直に総参謀部が自分の能力をさらけ出しておる。注目していいと思いますけれども、中国にそのような能力がないから、そのような能力を持たないことには戦争はできないし、台湾統一もできないということを正直に認めているわけであります。
 この通達を出したときの総参謀長というのは、昨年の秋に中央軍事委員会の副主席に抜てきされました張万年という人であります。この人は、一説によりますと、今回の軍事演習を指揮している台湾指揮所の総指揮であるということが言われているわけであります。これはむしろ当然の人事でありますけれども、それだけに現在中国が台湾に侵攻するかどうかを考える上での非常に重要な一つの要素になると思います。つまり、中国軍の最高指導部自身が、現在まだ中国軍には台湾を渡海するだけの近代的な軍事力を持っていない、だから早く持とうということであります。
 もう一つ、中国軍には近代的な部隊で渡海作戦ができないということは、これは揚陸能力からも言えます。揚陸能力というのは、台湾海峡を渡るのに必要な部隊を送るだけの輸送能力があるかという問題であります。これを英国のミリタリー・バランスから算出しますと、現在の中国軍の揚陸能力というのは、戦車七百両、兵員八千人程度でありますから戦車一個師団あるいは海軍陸戦隊一個旅団程度で、そういう意味では大量の軍事力を短時間で渡海することは事実上不可能であるということがわかります。
 それでは、中国軍には台湾に軍事侵攻する能力はないのか、あるいはやらないのかということになると思うんですが、中国は、繰り返し主張していますように、台湾の独立、外国の支援が現実となるときには台湾を解放するということを言っているわけであります。そういうような事態になったときには、犠牲が出るのを恐れず、経済制裁を科せられさりが、あるいは国際世論の非難を浴びようとも、恐らく民間の船舶、漁船、航空機などを徴発した、そういう意味では非正規の手段を投入して、国家的な動員態勢を形成して軍事介入するということは考えられます。
 中国という国はこれまでの歴史を見ても、数年前の天安門事件にしても、あるいはさらに十五年前の中越戦争にしても、まさかと思うような、我々の常識からいったら行わないだろうというような戦争を平然として行っているという歴史的な事実、あるいは中国という国は建国以来の四十五年間に大小十余回の戦争をやっているという、そういう事実を考えざるを得ない。そして、こうした戦争というのは何らかの形で国家の領土、国境線とかあるいは主権に何らかの形で関係しているというようなことを考えますと、台湾という主権、領土に関連する問題ではやはり譲らないということもあり得ると思います。
 しかし、今まで申しましたように、台湾海峡、海を渡る作戦というのは、これは容易ならぬことでありますから、常識的に言えば渡海作戦で台湾をとるということは考えられないと思いますけれども、やはり若干の疑問は残るということであります。
 ほかに限定的な作戦としては、例えば大陸沿岸の小島を今軍事演習をやっている勢いに乗じてとるとか、あるいは海上封鎖をやるとかいろんなことがあり得ると思いますけれども、一番効果的なのは弾道ミサイルを発射することであろうと、私はそう思います。弾道ミサイルというのは、本来の戦争目的のほかに、みずからの被害を最小限にとめつつ、相手の目標や場所を限定的に使用することができる兵器であります。これに核兵器が搭載できるぞといっておどかせばなお有効であるわけであります。
 本年の初頭にニューヨークタイムズがリークした、総統選後、台湾が独立した場合には中国が弾道ミサイルを毎日一発三十日間台湾に撃ち込むということを言ったと言われているわけでありますけれども、こういうことも常識から考えると考えられないかもしれませんが、しかしやはり弾道ミサイルの一つの意味はそういうところにあるわけで、これを飛ばすだけでも意味があると思います。
 例えば、台湾の島を越えて東部の海域に撃ち込むとか、あるいは実際に台湾の島の上に撃ち込むとかというようなことはあり得ないことではないし、中国の持っている力を現実的に効果的に発揮するという点では、弾道ミサイルが一番有効であろうというふうに思います。
 湾岸戦争があったときに中国が台湾に侵攻するのではないか、そういう情報が流れました。そのときに、国民党の機関紙の中央日報という新聞が社説の中で、高度成長により台湾の大衆は非常事態に対する心理的適応能力が非常に脆弱になっているということを言って、それに対しての警告を発したことがあります。弾道ミサイルというのは、そういう意味では一番効果的な手段であろうというふうに考えます。
 他方、台湾の軍事力でありますが、中国の軍事侵攻に対して、あるいは軍事的威嚇に対して対抗できるかといえば、これは簡単な問題ではありません。それは、例えば中国は核弾頭と各種弾道ミサイルを持っておりますが台湾はそのようなものは全くない、あるいは中国の軍事力は三百二十万もの大量の軍隊を持っているのに対して台湾はわずか五十万とか、いろいろこういった点を挙げますと、簡単に比較はできないわけでありますけれども、アメリカの軍事的支援がなければ、現在の段階では台湾の軍事力は量的にも質的にも中国の軍事攻撃に耐えられるようなものではないと言ってよろしいと思います。それは、アメリカが台湾の強力な軍事力を保有することに一貫して反対してきたからであります。台湾がもし強力な軍事力を保有すると、大陸反攻を実施することを恐れたからであります。
 特に、七九年の米中国家関係樹立以後、台湾の軍事力というものは非常に低下する状態にあって、そこで台湾は軍事力の近代化を進めているわけであります。その一つが米国からF16を百五十機入れるという計画であるわけですが、しかしまだそれは配備されてはいないわけであります。したがって、中国軍が戦争をしかけるとすれば今であるということであります。つまり、F16が配備される前であるということになると思います。であるからこそ、アメリカが第七艦隊の艦艇を派遣した理由があるわけであります。アメリカは台湾の軍事力が脆弱であることを十分承知しているということであります。そういう意図から、アメリカは空母インディペンデンスとイージスミサイル艦を派遣することになったわけであります。
 こうした第七艦隊の派遣により、台湾海峡の危機というのはひとまず私は回避されるだろうと見てよいと思いますけれども、しかしアメリカがこれだけの艦艇をアジアに展開したことは最近にはなく、アメリカがそれだけ中国軍が力を行使することを抑制しようという立場のあらわれであると考えてよろしいと思います。台湾問題というのは、恐らく解決することなく今後も続くと思われるのであります。
 今後、中国の軍事演習がこれで終わるかどうかということにさらに触れたいと思いますけれども、私は、選挙が終わったからといって終わるのではなくて、総統に就任するまでの期間、何かやはり中国はやるだろうということ、そしてその後も恐らく台湾に対して統一のための政治交渉のテーブルの場に座らせることを目的とした軍事的な圧力を加えるだろうというふうに思っているわけであります。
 最後に日本との関係ですが、ちょっと時間がありませんでしたので、これは後に回したいと思います。
 以上であります。ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 平松茂雄

speaker_id: 28047

日付: 1996-03-19

院: 参議院

会議名: 外務委員会アジア・太平洋に関する小委員会