朱建栄の発言 (外務委員会アジア・太平洋に関する小委員会)

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○参考人(朱建栄君) 外務委員会小委員会でお話をするといういい機会を与えていただきましてありがとうございます。
 私の話は中国の政治と台湾海峡の問題ということですけれども、まず中国の政治についての基本的な認識、次に中国の政治と台湾問題との関連、さらに最後にはこれに基づいて幾つか感想と提言を申し上げたいと思います。
 まず、中国の政治の概況です。
 日本では今の中国をポスト鄧小平時代と呼んでいるんですけれども、もし去年後半以降の中国の情勢を細かく見ると、これはほぼ江沢民の時代と呼んでもいいんではないかと思います。九二年から九五年の初めまでは江沢民体制への転換期であって、それ以後、鄧小平氏の健康状況の悪化そして権力構造の変化によって、今、江沢民総書記がほぼ政治の全権を掌握しているんではないかと思います。
 そのあらわれとして、去年から江沢民氏は幾つかの新しい政策を打ち出しております。一つは反腐敗闘争で、この開放政策が始まって以来、一番高い位の北京市のトップ、党中央政治局委員の陳希同氏を解任に追い込みました。反腐敗闘争によって一部で江沢民指導部に対して距離を置いていた勢力あるいは地方が、その後相次いで江沢民指導部への支持、忠誠を尽くしたと見られます。
 第二は、鄧小平の政策の中では改革と開放政策は主に沿海地域牽引の政策ですけれども、それに対して去年から沿海の発展を維持しながら一方で東西地域の格差の是正に本腰になるという政策が打ち出されました。それも恐らく現指導部の権力の基盤あるいは全国のバランスを考えたことだと思われます。
 もう一点は台湾の政策だと思います。やはりこれまでの政策との間に微妙な調整もあったのではないかと思います。
 そして、軍に対してですけれども、日本、香港などの一部の見方では軍が暴走している、軍の軍事演習の決定に対して現指導部は事後承認したというような見方がありますけれども、去年の江沢民と軍指導部との関係で見ればそのような判断は恐らく間違っているんではないかと思います。
 聞いたところでは、去年五月の軍の宣伝工作会議で今の軍総政治部主任干永波氏は、江沢民を中心とする指導部の軍に対する権威に関してはいささかなりとも疑いを持つべきではないという話があったと言われています。そして、七月以降台湾海峡での一連の軍事演習、それは江沢民指導部が指導して行ったと私は見ております。さらに、十月には軍のトップ人事のほぼ総入れかえとも言えるほど、軍事委員会副首席に二人が追加され、そして実際にその中の一人の張万年氏は今の軍の日常業務の責任を負っていると見られています。そして、総参謀長、総後勤部長などの人事は全部かわりました。これらの一連の動きを踏まえて、去年後半の五中全会をもって江沢民の権威がほぼ確立されたと私は認識しております。
 第二点です。
 江沢民は基本的に権力の掌握に成功したと申し上げましたけれども、しかし江沢民の指導部の政治指導のパターンと、これまでの毛沢東、鄧小平の時期とはやはり当然違うということは言うまでもありません。かつて毛沢東と鄧小平は、ほぼ軍、政治、そしていわゆる人脈の上ですべて絶対的な地位があって、反対意見も完全に押し切って何かを進めることができたんですけれども、それに対して、経済の改革・開放に伴って中国では、江沢民指導部はやはり各方面の意見に耳を傾けざるを得なくなっていると思います。
 現在の中国において政治に発言力がある主な集団で言えば、大まかに分ければ、第一には今の党と政府の指導部、第二には長老グループ、第三には軍首脳部、第四は地方の指導者、そして第五はマスコミと一般の民衆です。したがって、今の台湾問題に関しても、ただ軍の突き上げという見方で見るのは私はちょっと偏りではないかと思います。この問題に関して長老からそして一般の民衆に至るまで、台湾の統一ということに関しては譲っていいという声はほとんど出ていないと思います。
 今回、この三月中旬まで続いた中国の通常国会、全国人民代表大会の表決、投票のパターンから見ても、国内の治安問題などに関する検察部の活動報告に対して、三〇%の反対と棄権票が出ました。二千六百名の代表の中で七百人以上が賛成しなかったわけですが、台湾問題に関する李鵬の活動報告では、絶対独立を認めない、統一は必ず実現するという報告に対して、二千六百人の中で反対と棄権者は全部で九名で、九九・五%以上が賛成したわけです。このような中国の一般の社会の動きについても私たちは配慮をすべきではないかと思います。
 このような政治の現状を踏まえて、次に中国の政治と台湾海峡、つまり台湾問題との関連の話に進めさせていただきたいと思います。
 最近まで台湾海峡で、また台湾の内部でさまざまな動きがありました。しかし、私たちはこのような細かい動きを超えて全般的な中国の姿勢、さらに両岸関係をもし見れば、もうちょっと別の見方もできるんではないかと思います。中国の内政の政治状況から見た結論の一つとしては、中国は台湾問題で進んで現状を変えるというような政策はとっていないという点です。
 中国にとって、まず来年の香港返還というのが優先課題であります。香港返還は中国にとって少なくとも二つの重要な意味があります。第一は、経済の近代化にとってそれは不可欠な存在であるからです。今までの中国の開放政策は一応成功をおさめたと言えますけれども、中国が吸収した、導入した海外からの資本の実に六割以上は香港から来ています。中国の開放経済にとって香港の平和的な返還は不可欠であります。第二は今の中国の国内経済の抱えているいろいろな問題、さらに中国の開放政策それ自体が工業先進国アメリカ、日本などとの友好関係の上に立っているとも言えます。
 このような外部環境をみずから壊してまで台湾の現状を変えようという動きは私はあらわれていないと思います。最近の一連の軍事演習の間にもアメリカに対して台湾を武力攻撃する意思はないということを通告したし、そしてその後は、今月三十一日からの銭其シン外相の訪日、来月十九日には銭其シン外相とアメリカのクリストファー国務長官との会見が予定されています。したがって、最近の中国の一連の軍事演習は、さっきヴォーゲル先生がおっしゃったように、軍事手段をもって台湾の内部の動きに影響を及ぼすというのが主なねらいではないかと思います。
 第二点です。
 台湾と大陸の関係は、もしこの十年という流れで見れば幾つかの特徴が見出されます。一つは、中国の開放政策に伴って台湾と大陸との間の経済交流、文化交流ないし間接的な政治の対話も始まっています。この流れは既に相当深いところまで進んでおりまして、両方ともそれを壊す決意はなかなか下せないという状況ではないかと思います。経済関係だけで見ても、台湾の大陸に対する投資は二百億ドル以上という統計があります。一方、貿易の関係でいえば、双方の去年の貿易の数字は二百十徳ドル以上ですけれども、大陸の台湾への輸出は五十億ドル、台湾の大陸への輸出は百六十億ドル以上と、台湾にとって断然有利な構造になっています。このような双方の関係の接近あるいはその接近の中で、台湾が徐々にアジア開発銀行、APECに復帰するということを中国も経済実態として認めてきた。
 このような流れがある一方、もう一つの両岸関係の特徴も見なければならないと思います。すなわち、大陸と台湾の双方とも政治、経済の両面で転換期に入っているということですね。中国の大陸で江沢民体制はほぼ固まったと申し上げましたけれども、政治改革そして経済改革というのはこれからさらに五年十年続いていく課題だと思います。台湾にとっても政治の民主化は決して今回の総統直接選挙だけで終わるものではなく、これからまだいろんな調整が続いていくと思いますし、台湾の経済構造はそれ以上に産業構造の変更、そして海外への進出というような戦略の転換が迫られています。
 このような中で中国が転換期に応じてそれを乗り切ろうとする方法としては、恐らく、すべて外交問題に関してはなるべく現状維持したい、すなわち台湾との関係でもなるべく現状のままにしたい、形の上で独立という方向はぜひとも避けたいということですけれども、それに対して台湾がこの転換期を乗り切ろうとする方法は、まさに現状をなるべく突破しようということですね。静を求める中国と動を求める台湾との間にそれぞれやはり摩擦の要因があると考えられます。
 ただし、今回の状況、選挙に関して、中国は事前そしてその直後まで一連の軍事演習が行われて、それが国際的にかなりのマイナスの影響を及ぼしたというのは事実ですが、逆に言えばこれらのマイナスの影響を承知の上であえてここまでしたというのは、やはりこの台湾の問題を現状のままに維持したいということですね。
 選挙の結果に関してもいろんな見方ができます。私から見れば、去年十二月初めの台湾の立法院の選挙の投票の結果と比較すれば、当時、統一派の新党の得票は二二%、今回は二五%です、二人の統一派の総統候補の得票を足してということですが。民進党の去年末の得票数は一三%、今回は彰明敏候補は二一%です。そして李登輝の国民党は、去年は四六%、今回は五四%になったわけですね。
 ということは、やはり大陸との関係は極めて重要だということで、台湾の中でも、今すぐ独立を主張する勢力からの多くの票数が現状維持を主張する李登輝のところに票が流れたということが言えます。そして、この票数を現状維持と見るならば、二五%の統一派の候補の支持率を合わせてみれば、私は台湾の民衆が選んだのは現状維持、そして安定だと思います。このような中で、恐らく今後、摩擦がありながらも双方が駆け引きをしながら今の枠組みをある程度、数年間は維持していくんではないかと思います。
 中国は、一九七九年、当時の葉剣英国家主席の台湾に対するアピールの中で、実際に武力による台湾統一、いわゆる吸収合併の政策を放棄しました。今の中国が主張しているのは、武力の行使を放棄しないということの二つの前提は、台湾が独立を宣言することと、それに外国が手をかすことですね。すなわち、現状に対しては中国が武力を行使しないということは、ほぼ今まで約束があったとも考えられます。
 そして、これからのことを考えれば、今回の事件を通じて国際的なやや予想外の強い反応があったことと中国国内の政治、経済の要因が一部の極端な主張に対して大きな牽制になったこと、そして両岸の経済、人事、文化の交流というものはやはり大きな流れになっていること、それらを考えれば、今後いろんな複雑な要因、要素は残りながらも戦争には至らないんではないかと思います。
 第三の内容に入りますけれども、ここで中国というファクターを見るに当たって、それは台湾問題あるいは日米安保に関してですけれども、それを見るときに私は幾つかの提言を申し上げたいと思います。
 第一は、そもそもこの中国というファクターを見るときに、一部の外部の主観的な要素をやはり排除する必要があるんではないかと思います。ヴォーゲル先生もおっしゃったように、アメリカ国内の多くの議論は、結局中国の現状を余り理解していないということです。ヴォーゲル先生のようなアジアをよく知っている方、知日派、知中派というのは、アメリカでは残念ながら非常に少ないと私は理解しております。
 一方、アメリカ国内あるいは日本国内で今ちょうど日米安保の再定義の問題を抱えているので、沖縄問題も一方にありますので、やはりその存続のためにあえて理由づけを考えようと。そのために台湾海峡の問題がいろいろ強調されたという部分もあり、私は少し冷静に分けて考えるべきだと思います。今の中国は、日米安保に対して、基本的にはそれはやむを得ないということで、反対ということには至っていません。しかし、もし日米安保の再定義において特に台湾海峡という問題に触れるとなると、それは日中関係、米中関係にとって不安定な一つの複雑な要因になると思います。
 想起していただきたいのは、一九六九年十一月、佐藤栄作首相が訪米して、台湾問題は日本の安全保障にとって極めて重要だという発言をして、その翌年から中国は一年以上にわたって日本の軍国主義復活批判を行いました。そして実際に米中接近、日中接近の後、日米安保に対して中国は賛成あるいは支持するという立場をとってきたわけです。ただし、その前提になっているのは、この日米安保は、中国そして台湾海峡という問題をその前提としないということだと思います。この点、歴史の経験も我々は重視する必要があると思います。
 このような台中の分析の中で、私はもうちょっとバランスのとれた、国際的に比較を行った分析が必要ではないかと思います。
 例えば、中国の軍事演習については触れませんけれども、台湾は九二年以降、アメリカ、フランスから大量の先進兵器を購入して、九四年五月の李登輝と司馬遼太郎氏との週刊朝日での対談では、我々はアメリカなどから先鋭な戦闘ヘリコプター、戦闘機を大量に購入したのでこれから三十年はもう怖くないというようなことを言ったり、去年六月の李登輝の訪米直前の二週間のうちに台湾は四回も軍事演習を行い、そのうち三回は李登輝本人が現場に臨んで激励の演説を行っているわけですね。中国の後の一連の軍事演習の後でも台湾は軍事演習を行ったわけです。
 もちろん、日本から見れば台湾の演習は防御的なものです。ただし、もし一つの中国という枠組みの中で見れば、双方の一連の軍事演習というのはすなわち相手に対して影響力はあるんだと、少なくとも中国にとってはそういうふうに示す内部的な必要もあると思われます。
 そして、日本近海でのミサイル発射、軍事演習に関しても、三月十五日の東京新聞によれば、台湾は実際に九四年から与那国の近海で軍事演習をずっとやってきたと。そしてその後、大陸との関係が緊張した後、その地域での軍事演習はさらにふえたわけです。この地域で既に軍事演習が盛んに行われていたという前提に触れないで中国が突然そこに撃ち込んだということだけでは、私は認識は不十分になると思います。
 ついでですけれども、日本の沖縄に関して、中国は当然日本の領土だと認めています、一部の小さい島、中間線などの問題はありますが。しかし、恐らく世界でも唯一台湾だけは、琉球は日本がもう既に放棄して、そして今は日本の領土とは認めていないという立場です。国際的な比較の中で見ても、日本が韓国との間に抱えている領土問題、ロシアとの間に抱えている問題などから見ても中国はあくまでも国内問題優先。もちろん台湾問題は国内問題とみなしているんですけれども、ほかの国とはなるべく現在の枠組みを維持したいというところが主なポイントではないかと思います。
 この台湾問題に関して、一つは中国人同士の話し合い解決を望むということは、私はそれは最善のシナリオだと思います。外部の国が圧力を加えたり、もちろん中国人同士でも軍事衝突になるというようなこと、それは地域の安定に影響を及ぼし、また中国人同士、中国人世界にとっても決していいことではないと思います。
 しかし、やはりこの問題については、ただ外国人の見方だけではわからないという点を申し上げたいと思います。もし、中国のミサイルを東京湾の外の沖に落とされたとすれば、それは日本人の九五%以上がまとまるでしょう。しかし、台湾は今回の選挙の反応から見てもいろんな経済界の動きから見ても、結局はこれはやはり中国という枠組みの中での反応であるということですね。それは知るべきではないかと思います。
 もう一点は、中国人同士の駆け引きのパターンですけれども、両方の指導者とも常に高い掛け値をかけて、大きい声をかけて相手にプレッシャーをかける、また第三者に同情を求めると。よく言われますけれども、日本人同士ではあうんの呼吸で三割のことを言えば相手に通じるというのですが、中国人同士では一二〇%の話を言って駆け引きをする、まあアメリカも中国と同じだと思いますが。こういうような幾つかの動きだけで一喜一憂するのではなく、やはり長期的な流れでこの問題を見ていく必要があるのではないかと思います。
 最後ですが、このような台湾と大陸との関係に対してどのように対処すればいいかということです。
 私は、日米安保の存続それ自体には中国は反対していないし、日米同士の話し合いで解決すべきことだと思いますが、その中で前提として中国という要素に触れることは極めて危険だということを申し上げたいと思います。日米安保などもこれからのことを考えると日本の役割は一体何なのかと。個別のケーススタディーで見るという一つの方法もありますけれども、もし戦後の日本、これからのアジアにおける日本を考えれば、アジアと欧米とのかけ橋、そして今は特にアメリカと中国の間の橋渡し役を務めるということが一番期待されているのではないかと思います。
 その中で、台湾問題に関しては一つの中国の枠組みの中で中国人同士の話し合いによる解決を求めるという態度をはっきりとるべきですし、日米安保はあくまでも日本自身の問題として定義して、この定義を余り拡大して中国さらに朝鮮半島ほかの地域でも不必要な猜疑あるいは不安を引き起こすというようなことは避けるべきではないかと思います。
 以上です。ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 朱建栄

speaker_id: 13421

日付: 1996-03-27

院: 参議院

会議名: 外務委員会アジア・太平洋に関する小委員会