外務委員会アジア・太平洋に関する小委員会

1996-03-27 参議院 全49発言

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会議録情報#0
平成八年三月二十七日(水曜日)
   午後五時一分開会
    ―――――――――――――
   小委員の異動
 三月二十一日
    辞任          山本 一太君
 三月二十二日
    補欠選任        笠原 潤一君
 三月二十六日
    辞任          畑   恵君
 三月二十七日
    補欠選任        畑   恵君
    ―――――――――――――
  出席者は左のとおり。
    小委員長        武見 敬三君
    小委員
                大木  浩君
                笠原 潤一君
                野沢 太三君
                高野 博師君
                寺澤 芳男君
                畑   恵君
                川橋 幸子君
                照屋 寛徳君
                立木  洋君
                武田邦太郎君
                佐藤 道夫君
                矢田部 理君
    事務局側
        常任委員会専門
        員       大島 弘輔君
    参考人
        ハーバード大学 エズラ・F・
        教授      ヴォーゲル君
        東洋学園大学助
        教授      朱  建栄君
        東京大学助教授 田中 明彦君
    ―――――――――――――
  本日の会議に付した案件
○アジア・太平洋に関する件
 (中国・台湾情勢について)
    ―――――――――――――
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武見敬三#1
○小委員長(武見敬三君) ただいまから外務委員会アジア・太平洋に関する小委員会を開会いたします。
 まず、小委員の異動について御報告いたします。
 委員の異動に伴い、去る二十二日、笠原潤一君が小委員に選任されました。
 また、本日、畑恵君が小委員に選任されました。
    ―――――――――――――
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武見敬三#2
○小委員長(武見敬三君) この際、お諮りいたします。
 小委員会の運営につきましては、外務委員会の理事、オブザーバーの皆様に幹事をお願いし、御協議いただくことといたしたいと存じますが、御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
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武見敬三#3
○小委員長(武見敬三君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。
    ―――――――――――――
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武見敬三#4
○小委員長(武見敬三君) アジア・太平洋に関する件を議題といたします。
 本日は、最近の中国・台湾情勢について、ハーバード大学教授エズラ・F・ヴォーゲル君、東洋学園大学助教授朱建栄君及び東京大学助教授田中明彦君に御出席いただき、御意見を聴取いたしたいと存じます。
 この際、参考人の方々に小委員会を代表して一言ごあいさつを申し上げます。
 皆様には御多忙のところ、当小委員会に御出席いただきまして、まことにありがとうございます。
 本日は、最近の中国・台湾情勢について忌憚のない御意見を拝聴し、今後の調査の参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願いいたします。
 それでは、会議の進め方について申し上げます。
 まず初めにヴォーゲル参考人、次に朱参考人、田中参考人の順でお一人二十五分程度で御意見をお述べいただき、その後、小委員の質疑にお答え願いたいと存じます。
 それでは、ヴォーゲル参考人からお願いいたします。ヴォーゲル参考人。
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エズラ・F・ヴォーゲル#5
○参考人(エズラ・F・ヴォーゲル君) 台湾問題に関するアメリカの見方ですが、中国が恐れていることは台湾の独立運動と私は思っている。中国の目的は、軍事的に台湾をとるよりも軍事的手続を使って政治的な影響を及ぼしたいというのが中国の目的だと私は思います。
 李登輝大統領が去年アメリカを訪問したとき、アメリカは台湾の独立運動を支持していると中国はすごく心配したんですね。私は、アメリカのそういう運動、ちょっと誤解もあったかもしれないんですね。アメリカ人が心配したことは、特にアメリカ政府の人が心配したことは、三原則を守るか守らないかと心配して、それでアメリカ政府の人は、我々は必ず守るから変化はないということを説明したんですけれども、中国は結局原則よりも台湾内の政治について心配したという状態じゃないかと私は思います。
 李登輝はコーネル大学から博士号をもらって、台湾に戻ってすごくいい気持ちで、台湾は独立になっても構わない、アメリカも支持する、アメリカは選挙もあって、新しい共和党の人がアメリカの議会議員になって多分李登輝を支持するんじゃないかという気持ちがあった。ですから、その政治状態は非常に複雑になって、中国は独立にならないようにどうしたらいいかと。余り方法がなかったので軍隊の手続しかないかというふうに思った。
 私の個人的な判断では、中国はそういう手続はミサイルを使って、北京の見方は李登輝の訪問以来は手続はかなり成功したんじゃないかという見方があると思います。というのは、李登輝が訪問したとき台湾の独立運動が強くなるんじゃないかと。株市場は少し下がって、台湾の資本は海外へ行ってしまって、台湾内の投資の不安が高まって、それから台湾の政府も少し遠慮するようになったということで北京は成功したという見方があると思います。
 アメリカ人はそういう問題を見て、やっぱり七〇年代と今の見方はかなり違ってきたと思います。七〇年代、冷戦の時代にアメリカが心配したのはソ連のこと。英語でチャイナ・カードという言葉があって、中国とかなりいい関係をつくった。中国とアメリカの利害関係は似ている面もあって、ですから七一年にキッシンジャーが中国を訪問して以来、非常に実務的な話をしたんです。大体七二年から八九年まではアメリカと中国の関係はかなりスムーズにいったわけです。別に我々は中国はいいと思わなかったんですけれども、実務的で両方ともイデオロギーのことを余り言わなかった。
 八九年に状態が変わってきて、そのときの中国の見方とアメリカの見方はかなり違うと思うんですね。どうしてアメリカが変わってきたかというと、中国の説明は、アメリカはコンテインメント、封じ込め政策をとろうとしているんじゃないかと中国人が判断した。どうしてそうなったかというと、中国人の目から見ると、例えば去年の二月のイースタンアジア・ストラテジカリー・レビュー、戦略報告があって、アジアの兵隊たちは減らさないと。その前にアメリカのEASIという報告があって、数年前にはアメリカの兵隊を減らすと。北京の目から見ると、どうして今度減らさないのか、どういう敵を考えているか、中国ではないかという疑問。それから、ベトナム戦争以来アメリカはベトナムとの関係を正常化しなかったのにどうして急に今ベトナムとの関係は正常化してきたか、それもやっぱり中国のことを考えているのかなと。
 それからエイジアン・リージョナル・フォーラムでアメリカがASEANの軍備の話を、安全保障問題を取り扱ったらいいんじゃないかと大体二、三年ぐらい前からアメリカが進めた。アメリカがどうしてあれを進めたかというと、北京の目から見ると、アメリカはアジア各国と連絡して、中国に対する封じ込め政策を今はどんどんとれるんじゃないか。日米安保、それからベトナムとも関係はよくなるし、それから東南アジアはどんどんそういう手を組んで、それは中国に対して封じ込めるという説明があるんです。
 アメリカ国内の実際とは全然違うと私は思います。どうして中国はアメリカを誤解したかというと、私の目から見ると、中国は民主主義の状態が余りよくわかっていないんですね。民主主義の世論ということを余り理解していないんじゃないかという気がするわけです。つまり、天安門事件のときアメリカ人がテレビを見て、あれは独裁的な国ですね、悪い指導者が民主主義を支持する国民も殺した、それは全然悪いと。それでアメリカの世論ができ上がった。
 大体のアメリカ人は、中国について実際に余り興味を持っていないし、はっきり言うと知識も余り高くないと自分は認めるべきだと思います。余り知識がないからテレビの影響は物すごく強かったんですね。ですから、八九年の天安門事件以来、大体のアメリカ人が中国はもう全然だめだという見方があるんです、指導者が悪いと。そういうアメリカの世論ができ上がって、アメリカの議会もそういう世論を取り込んで、議会も中国に対して余りいい気持ちを持っていない。
 それから、アメリカの指導者クリントンは物すごく敏感な政治家で、世論がそういうふうに認めているから自分も中国に対して余り親しくならない方がいいんじゃないかと。大体のアメリカの政治家の判断ですね。中国は指導者があれほど悪いことをしたとアメリカの新聞は中国に対して物すごく悪口を言う。
 私は、最近北京を訪ねてアメリカの専門家と話して、封じ込め戦略があると向こうがおっしゃったので、アメリカは封じ込め政策だけではなくて中国に対する戦略は残念ながらないと私は説明した。
 我々の政府は、まとまった戦略がないけれども、中国に対する反感は天安門事件以来非常に強い。そうしますと、アメリカは民主党だけではなくて、ブッシュ大統領の共和党もF16を台湾に売ろうとしたわけですね。それは、選挙運動をやったときテキサス州の投票は非常に難しくて、F16をつくる会社のあるところのテキサスで発表して、F16を台湾に売ろうとした。九二年の選挙運動のときに共和党がやったと。
 それから、アメリカも政治運動があって、天安門事件のすぐ後、ブッシュ大統領は北京を批判しなかった、やっぱり米中関係は大事であると。外交関係のために彼は最初はそれほど批判はしなかった。しかし、アメリカの国民は物すごく反応が強かったので、クリントンは選挙運動のときにそれを使おうとした。ブッシュ大統領は十分に人権のことを考えない、それはけしからぬと。天安門事件の後、アメリカの世論は中国に対する態度が物すごく強くて、クリントンは人権に対してもう少し我々は厳しくやろうと。そのときは、最恵国政策と人権ということを一緒にやる。人権の状態がよくならないうちは我々は最恵国の待遇をしないということを言って、それは別に戦略というよりも選挙に勝つためにそういう説明をした。
 民主主義の国だから、そういう中国に対する態度はどんどん厳しくなって、クリントン政権はそういう政策があって、中国は物すごく反感を持った。中国の目から見ると、クリントン政策は北京の政府に反対する人たちを支持したという気持ちで、我々アメリカ人が感じたのは人権の普遍性の原則があるからで、北京が考えたのは政治の目的があるんじゃないか、結局反政府の人間を支持すると。そうして中国とアメリカの関係はどんどん悪くなった。
 それから、アメリカ人も八七年以来は台湾との関係がどんどん親しくなるんですね。というのは、八七年に民主化の傾向があって、関係も非常に親しくなって、アメリカ人は八七年以来は台湾に対して気持ちがどんどんよくなって、冷戦も終わった。そういうようにいろんな動きがあって、台湾に北京が少し悪口を言っても我々は余り心配しないんじゃないかと。そういう背景があって、結局アメリカは民主主義の国だから、戦略よりも北京に対する反感が強くなったという状態。それを背景として李登輝が当選された。
 これからどうなるかというと、アメリカ人が今期待しているのは、やっぱり台湾と北京は話し合って平和的に台湾海峡の問題、両岸の関係を台湾と北京は決めるべきだと。我々は前の三原則、三つのコミュニケのとき、台湾と北京の人たちは両方とも中国、そういう見方なので、今でも我々アメリカの立場として無事にそういう両岸の問題を解決すれば我々は反対しないと。
 ただ問題なのは、もし北京が台湾を本当に攻撃したらアメリカはどうするか。今、我々の政策はあいまいで、力を使うのは英語ではユージング・フォース・ウイ・オポーズ。ですから、武器を使えば我々は反対する。どういうふうに反対するかあいまいにしておく。どうしてあいまいにしておくかというと、北京が何をしても我々は何もしないと余りはっきりさせると北京は危険なことをする可能性もある。もしどういうことがあっても我々は台湾を支持するということなら、台湾は非常な冒険をする心配もあるから、ですから政策としてあいまいにしておきたい。
 もし何か異常な状態ならアメリカはどうするか。最近第七艦隊も動いて、戦う状態になればアメリカと日本の関係はどうなるかという問題について、もし実際にアメリカ人の命が亡くなり、それを日本が助けてくれないと、アメリカの日本に対する反感は物すごく強くなると私は思います。イラク戦争も皆さんよく御存じだと思いますけれども、アメリカ人が命をかけて日本はお金だけを使う、人間の血を流すつもりは全然ないと、アメリカ人が日本に対する反感を持つ可能性は十分あり得ると思うんです。
 韓国の問題もそうだと思います。もし朝鮮半島が何か異常な状態なら、アメリカ人は命をかけて人が殺される。それを日本は人をくれないしアメリカの援助をしないと、アメリカの世論は日米安保はどういうことかと非常に意見が強くなると思うんです。台湾もそうだと思うんです。もし台湾で何か異常な場合にアメリカ人が亡くなる、それに日本は十分に助けてくれないと、アメリカの世論は、日米安保はどういうものか、我々は命をかけているけれども日本人は命をかけないと。それでアメリカの反感が強くなる可能性も十分あると思うんです。
 ですから、日本がもし日米安保は非常に大事だと思えば、何か協力的な態度を異常な場合はとるべきだと私は思います。日本人の目から見ると、アメリカ人が何か変なことをすると日本側も巻き込まれる心配が十分にあり得ると思いますけれども、私の目から見ると、アメリカは真剣に物を考えて、簡単に戦わないと思います。ベトナム戦争以来、アメリカの世論を見ますと、例えばソマリアでもアメリカ人が殺されると心配して簡単に兵隊を送らない、冒険なことは今の状態では余りしないと思います。慎重に武器を使おうと。
 それから、アメリカはアジアに兵隊たちを残すか残さないか。十年とか十五年以内とか二十年以内にアメリカはアジアから兵隊を全部引くという説明もあると思いますけれども、私はそうは思いません。今、アメリカの国防予算は全体で二千五百億ドル、その二%ぐらいは日本と台湾のために今使っているんです。今、我々は毎年四十億ドル、それから韓国で三十億ドル、全部で七十億ドルぐらいは東アジアで使っている。それは国防予算全体の三%ぐらいで、そのくらいはやっぱり東アジアが全世界の経済の中心になっているから、我々の国防予算の三%ぐらいを使うのに批判する人はほとんどいないと思います。ギングリッチ氏は、予算の増加は反対したけれども、国防予算の増加には反対しなかった。
 結局、アメリカ人は十年とか十五年とか二十年だけではなくて長く、今の我々の経済状態はそれほど悪くならないと私は思って、少なくとも二十、三十年、そういうアメリカのプレゼンスは残すと私は思っております。
 どうもありがとうございました。
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武見敬三#6
○小委員長(武見敬三君) ありがとうございました。
 それでは次に、朱参考人にお願いをいたします。朱参考人。
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朱建栄#7
○参考人(朱建栄君) 外務委員会小委員会でお話をするといういい機会を与えていただきましてありがとうございます。
 私の話は中国の政治と台湾海峡の問題ということですけれども、まず中国の政治についての基本的な認識、次に中国の政治と台湾問題との関連、さらに最後にはこれに基づいて幾つか感想と提言を申し上げたいと思います。
 まず、中国の政治の概況です。
 日本では今の中国をポスト鄧小平時代と呼んでいるんですけれども、もし去年後半以降の中国の情勢を細かく見ると、これはほぼ江沢民の時代と呼んでもいいんではないかと思います。九二年から九五年の初めまでは江沢民体制への転換期であって、それ以後、鄧小平氏の健康状況の悪化そして権力構造の変化によって、今、江沢民総書記がほぼ政治の全権を掌握しているんではないかと思います。
 そのあらわれとして、去年から江沢民氏は幾つかの新しい政策を打ち出しております。一つは反腐敗闘争で、この開放政策が始まって以来、一番高い位の北京市のトップ、党中央政治局委員の陳希同氏を解任に追い込みました。反腐敗闘争によって一部で江沢民指導部に対して距離を置いていた勢力あるいは地方が、その後相次いで江沢民指導部への支持、忠誠を尽くしたと見られます。
 第二は、鄧小平の政策の中では改革と開放政策は主に沿海地域牽引の政策ですけれども、それに対して去年から沿海の発展を維持しながら一方で東西地域の格差の是正に本腰になるという政策が打ち出されました。それも恐らく現指導部の権力の基盤あるいは全国のバランスを考えたことだと思われます。
 もう一点は台湾の政策だと思います。やはりこれまでの政策との間に微妙な調整もあったのではないかと思います。
 そして、軍に対してですけれども、日本、香港などの一部の見方では軍が暴走している、軍の軍事演習の決定に対して現指導部は事後承認したというような見方がありますけれども、去年の江沢民と軍指導部との関係で見ればそのような判断は恐らく間違っているんではないかと思います。
 聞いたところでは、去年五月の軍の宣伝工作会議で今の軍総政治部主任干永波氏は、江沢民を中心とする指導部の軍に対する権威に関してはいささかなりとも疑いを持つべきではないという話があったと言われています。そして、七月以降台湾海峡での一連の軍事演習、それは江沢民指導部が指導して行ったと私は見ております。さらに、十月には軍のトップ人事のほぼ総入れかえとも言えるほど、軍事委員会副首席に二人が追加され、そして実際にその中の一人の張万年氏は今の軍の日常業務の責任を負っていると見られています。そして、総参謀長、総後勤部長などの人事は全部かわりました。これらの一連の動きを踏まえて、去年後半の五中全会をもって江沢民の権威がほぼ確立されたと私は認識しております。
 第二点です。
 江沢民は基本的に権力の掌握に成功したと申し上げましたけれども、しかし江沢民の指導部の政治指導のパターンと、これまでの毛沢東、鄧小平の時期とはやはり当然違うということは言うまでもありません。かつて毛沢東と鄧小平は、ほぼ軍、政治、そしていわゆる人脈の上ですべて絶対的な地位があって、反対意見も完全に押し切って何かを進めることができたんですけれども、それに対して、経済の改革・開放に伴って中国では、江沢民指導部はやはり各方面の意見に耳を傾けざるを得なくなっていると思います。
 現在の中国において政治に発言力がある主な集団で言えば、大まかに分ければ、第一には今の党と政府の指導部、第二には長老グループ、第三には軍首脳部、第四は地方の指導者、そして第五はマスコミと一般の民衆です。したがって、今の台湾問題に関しても、ただ軍の突き上げという見方で見るのは私はちょっと偏りではないかと思います。この問題に関して長老からそして一般の民衆に至るまで、台湾の統一ということに関しては譲っていいという声はほとんど出ていないと思います。
 今回、この三月中旬まで続いた中国の通常国会、全国人民代表大会の表決、投票のパターンから見ても、国内の治安問題などに関する検察部の活動報告に対して、三〇%の反対と棄権票が出ました。二千六百名の代表の中で七百人以上が賛成しなかったわけですが、台湾問題に関する李鵬の活動報告では、絶対独立を認めない、統一は必ず実現するという報告に対して、二千六百人の中で反対と棄権者は全部で九名で、九九・五%以上が賛成したわけです。このような中国の一般の社会の動きについても私たちは配慮をすべきではないかと思います。
 このような政治の現状を踏まえて、次に中国の政治と台湾海峡、つまり台湾問題との関連の話に進めさせていただきたいと思います。
 最近まで台湾海峡で、また台湾の内部でさまざまな動きがありました。しかし、私たちはこのような細かい動きを超えて全般的な中国の姿勢、さらに両岸関係をもし見れば、もうちょっと別の見方もできるんではないかと思います。中国の内政の政治状況から見た結論の一つとしては、中国は台湾問題で進んで現状を変えるというような政策はとっていないという点です。
 中国にとって、まず来年の香港返還というのが優先課題であります。香港返還は中国にとって少なくとも二つの重要な意味があります。第一は、経済の近代化にとってそれは不可欠な存在であるからです。今までの中国の開放政策は一応成功をおさめたと言えますけれども、中国が吸収した、導入した海外からの資本の実に六割以上は香港から来ています。中国の開放経済にとって香港の平和的な返還は不可欠であります。第二は今の中国の国内経済の抱えているいろいろな問題、さらに中国の開放政策それ自体が工業先進国アメリカ、日本などとの友好関係の上に立っているとも言えます。
 このような外部環境をみずから壊してまで台湾の現状を変えようという動きは私はあらわれていないと思います。最近の一連の軍事演習の間にもアメリカに対して台湾を武力攻撃する意思はないということを通告したし、そしてその後は、今月三十一日からの銭其シン外相の訪日、来月十九日には銭其シン外相とアメリカのクリストファー国務長官との会見が予定されています。したがって、最近の中国の一連の軍事演習は、さっきヴォーゲル先生がおっしゃったように、軍事手段をもって台湾の内部の動きに影響を及ぼすというのが主なねらいではないかと思います。
 第二点です。
 台湾と大陸の関係は、もしこの十年という流れで見れば幾つかの特徴が見出されます。一つは、中国の開放政策に伴って台湾と大陸との間の経済交流、文化交流ないし間接的な政治の対話も始まっています。この流れは既に相当深いところまで進んでおりまして、両方ともそれを壊す決意はなかなか下せないという状況ではないかと思います。経済関係だけで見ても、台湾の大陸に対する投資は二百億ドル以上という統計があります。一方、貿易の関係でいえば、双方の去年の貿易の数字は二百十徳ドル以上ですけれども、大陸の台湾への輸出は五十億ドル、台湾の大陸への輸出は百六十億ドル以上と、台湾にとって断然有利な構造になっています。このような双方の関係の接近あるいはその接近の中で、台湾が徐々にアジア開発銀行、APECに復帰するということを中国も経済実態として認めてきた。
 このような流れがある一方、もう一つの両岸関係の特徴も見なければならないと思います。すなわち、大陸と台湾の双方とも政治、経済の両面で転換期に入っているということですね。中国の大陸で江沢民体制はほぼ固まったと申し上げましたけれども、政治改革そして経済改革というのはこれからさらに五年十年続いていく課題だと思います。台湾にとっても政治の民主化は決して今回の総統直接選挙だけで終わるものではなく、これからまだいろんな調整が続いていくと思いますし、台湾の経済構造はそれ以上に産業構造の変更、そして海外への進出というような戦略の転換が迫られています。
 このような中で中国が転換期に応じてそれを乗り切ろうとする方法としては、恐らく、すべて外交問題に関してはなるべく現状維持したい、すなわち台湾との関係でもなるべく現状のままにしたい、形の上で独立という方向はぜひとも避けたいということですけれども、それに対して台湾がこの転換期を乗り切ろうとする方法は、まさに現状をなるべく突破しようということですね。静を求める中国と動を求める台湾との間にそれぞれやはり摩擦の要因があると考えられます。
 ただし、今回の状況、選挙に関して、中国は事前そしてその直後まで一連の軍事演習が行われて、それが国際的にかなりのマイナスの影響を及ぼしたというのは事実ですが、逆に言えばこれらのマイナスの影響を承知の上であえてここまでしたというのは、やはりこの台湾の問題を現状のままに維持したいということですね。
 選挙の結果に関してもいろんな見方ができます。私から見れば、去年十二月初めの台湾の立法院の選挙の投票の結果と比較すれば、当時、統一派の新党の得票は二二%、今回は二五%です、二人の統一派の総統候補の得票を足してということですが。民進党の去年末の得票数は一三%、今回は彰明敏候補は二一%です。そして李登輝の国民党は、去年は四六%、今回は五四%になったわけですね。
 ということは、やはり大陸との関係は極めて重要だということで、台湾の中でも、今すぐ独立を主張する勢力からの多くの票数が現状維持を主張する李登輝のところに票が流れたということが言えます。そして、この票数を現状維持と見るならば、二五%の統一派の候補の支持率を合わせてみれば、私は台湾の民衆が選んだのは現状維持、そして安定だと思います。このような中で、恐らく今後、摩擦がありながらも双方が駆け引きをしながら今の枠組みをある程度、数年間は維持していくんではないかと思います。
 中国は、一九七九年、当時の葉剣英国家主席の台湾に対するアピールの中で、実際に武力による台湾統一、いわゆる吸収合併の政策を放棄しました。今の中国が主張しているのは、武力の行使を放棄しないということの二つの前提は、台湾が独立を宣言することと、それに外国が手をかすことですね。すなわち、現状に対しては中国が武力を行使しないということは、ほぼ今まで約束があったとも考えられます。
 そして、これからのことを考えれば、今回の事件を通じて国際的なやや予想外の強い反応があったことと中国国内の政治、経済の要因が一部の極端な主張に対して大きな牽制になったこと、そして両岸の経済、人事、文化の交流というものはやはり大きな流れになっていること、それらを考えれば、今後いろんな複雑な要因、要素は残りながらも戦争には至らないんではないかと思います。
 第三の内容に入りますけれども、ここで中国というファクターを見るに当たって、それは台湾問題あるいは日米安保に関してですけれども、それを見るときに私は幾つかの提言を申し上げたいと思います。
 第一は、そもそもこの中国というファクターを見るときに、一部の外部の主観的な要素をやはり排除する必要があるんではないかと思います。ヴォーゲル先生もおっしゃったように、アメリカ国内の多くの議論は、結局中国の現状を余り理解していないということです。ヴォーゲル先生のようなアジアをよく知っている方、知日派、知中派というのは、アメリカでは残念ながら非常に少ないと私は理解しております。
 一方、アメリカ国内あるいは日本国内で今ちょうど日米安保の再定義の問題を抱えているので、沖縄問題も一方にありますので、やはりその存続のためにあえて理由づけを考えようと。そのために台湾海峡の問題がいろいろ強調されたという部分もあり、私は少し冷静に分けて考えるべきだと思います。今の中国は、日米安保に対して、基本的にはそれはやむを得ないということで、反対ということには至っていません。しかし、もし日米安保の再定義において特に台湾海峡という問題に触れるとなると、それは日中関係、米中関係にとって不安定な一つの複雑な要因になると思います。
 想起していただきたいのは、一九六九年十一月、佐藤栄作首相が訪米して、台湾問題は日本の安全保障にとって極めて重要だという発言をして、その翌年から中国は一年以上にわたって日本の軍国主義復活批判を行いました。そして実際に米中接近、日中接近の後、日米安保に対して中国は賛成あるいは支持するという立場をとってきたわけです。ただし、その前提になっているのは、この日米安保は、中国そして台湾海峡という問題をその前提としないということだと思います。この点、歴史の経験も我々は重視する必要があると思います。
 このような台中の分析の中で、私はもうちょっとバランスのとれた、国際的に比較を行った分析が必要ではないかと思います。
 例えば、中国の軍事演習については触れませんけれども、台湾は九二年以降、アメリカ、フランスから大量の先進兵器を購入して、九四年五月の李登輝と司馬遼太郎氏との週刊朝日での対談では、我々はアメリカなどから先鋭な戦闘ヘリコプター、戦闘機を大量に購入したのでこれから三十年はもう怖くないというようなことを言ったり、去年六月の李登輝の訪米直前の二週間のうちに台湾は四回も軍事演習を行い、そのうち三回は李登輝本人が現場に臨んで激励の演説を行っているわけですね。中国の後の一連の軍事演習の後でも台湾は軍事演習を行ったわけです。
 もちろん、日本から見れば台湾の演習は防御的なものです。ただし、もし一つの中国という枠組みの中で見れば、双方の一連の軍事演習というのはすなわち相手に対して影響力はあるんだと、少なくとも中国にとってはそういうふうに示す内部的な必要もあると思われます。
 そして、日本近海でのミサイル発射、軍事演習に関しても、三月十五日の東京新聞によれば、台湾は実際に九四年から与那国の近海で軍事演習をずっとやってきたと。そしてその後、大陸との関係が緊張した後、その地域での軍事演習はさらにふえたわけです。この地域で既に軍事演習が盛んに行われていたという前提に触れないで中国が突然そこに撃ち込んだということだけでは、私は認識は不十分になると思います。
 ついでですけれども、日本の沖縄に関して、中国は当然日本の領土だと認めています、一部の小さい島、中間線などの問題はありますが。しかし、恐らく世界でも唯一台湾だけは、琉球は日本がもう既に放棄して、そして今は日本の領土とは認めていないという立場です。国際的な比較の中で見ても、日本が韓国との間に抱えている領土問題、ロシアとの間に抱えている問題などから見ても中国はあくまでも国内問題優先。もちろん台湾問題は国内問題とみなしているんですけれども、ほかの国とはなるべく現在の枠組みを維持したいというところが主なポイントではないかと思います。
 この台湾問題に関して、一つは中国人同士の話し合い解決を望むということは、私はそれは最善のシナリオだと思います。外部の国が圧力を加えたり、もちろん中国人同士でも軍事衝突になるというようなこと、それは地域の安定に影響を及ぼし、また中国人同士、中国人世界にとっても決していいことではないと思います。
 しかし、やはりこの問題については、ただ外国人の見方だけではわからないという点を申し上げたいと思います。もし、中国のミサイルを東京湾の外の沖に落とされたとすれば、それは日本人の九五%以上がまとまるでしょう。しかし、台湾は今回の選挙の反応から見てもいろんな経済界の動きから見ても、結局はこれはやはり中国という枠組みの中での反応であるということですね。それは知るべきではないかと思います。
 もう一点は、中国人同士の駆け引きのパターンですけれども、両方の指導者とも常に高い掛け値をかけて、大きい声をかけて相手にプレッシャーをかける、また第三者に同情を求めると。よく言われますけれども、日本人同士ではあうんの呼吸で三割のことを言えば相手に通じるというのですが、中国人同士では一二〇%の話を言って駆け引きをする、まあアメリカも中国と同じだと思いますが。こういうような幾つかの動きだけで一喜一憂するのではなく、やはり長期的な流れでこの問題を見ていく必要があるのではないかと思います。
 最後ですが、このような台湾と大陸との関係に対してどのように対処すればいいかということです。
 私は、日米安保の存続それ自体には中国は反対していないし、日米同士の話し合いで解決すべきことだと思いますが、その中で前提として中国という要素に触れることは極めて危険だということを申し上げたいと思います。日米安保などもこれからのことを考えると日本の役割は一体何なのかと。個別のケーススタディーで見るという一つの方法もありますけれども、もし戦後の日本、これからのアジアにおける日本を考えれば、アジアと欧米とのかけ橋、そして今は特にアメリカと中国の間の橋渡し役を務めるということが一番期待されているのではないかと思います。
 その中で、台湾問題に関しては一つの中国の枠組みの中で中国人同士の話し合いによる解決を求めるという態度をはっきりとるべきですし、日米安保はあくまでも日本自身の問題として定義して、この定義を余り拡大して中国さらに朝鮮半島ほかの地域でも不必要な猜疑あるいは不安を引き起こすというようなことは避けるべきではないかと思います。
 以上です。ありがとうございました。
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武見敬三#8
○小委員長(武見敬三君) ありがとうございました。
 それでは、次に田中参考人にお願いをいたします。田中参考人。
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田中明彦#9
○参考人(田中明彦君) 東京大学の田中明彦です。本日はアジア・太平洋に関する小委員会にお招きいただきましてどうもありがとうございます。私は、日中関係と台湾海峡情勢ということで私見を述べさせていただきたいというふうに思っています。
 まず第一に、台湾の総統選挙と今回の台湾海峡危機の意味をどういうふうに考えるかということについて申し述べさせていただきたいと思います。
 今回の選挙とこの一連の危機にはいろんな意味があったと思うんですね。その中で、私は四つほど申し上げたいというふうに思います。
 まず第一は、今回、李登輝総統が五四%の支持を集めて当選なさったということは、アジアにおける民主化の進展ということを非常にシンボライズする出来事だったというふうに思っています。これは台湾の方がよくおっしゃるわけですが、今回の選挙は中国五千年の歴史の中で初めて民主的な指導者選出が行われた例であるというふうにおっしゃっているんですね。
 御承知のように、台湾では一九八〇年代の後半以降から権威主義体制から徐々に離脱が始まって民主化の方向が進んできましたけれども、台湾の民主化の特徴の一つは、韓国などと違いまして、かなりゆっくりと民主化をするというやり方です。韓国の場合は一気に憲法を改正して大統領を選ぶという形にしましたけれども、台湾の場合はエスニックな問題、本省人と外省人と言いますけれども、とりわけ台湾に日本統治以前から住んでいられた中国人とそれから中国内戦の後に台湾に渡ってこられた外省人の方の間の対立ということもあってかなりゆっくりしていたわけですが、今度の総統選挙で台湾の民主化のプロセスがほぼ仕上がった、議員だけでなくて大統領も国民の手で選ぶということができた、こういう意味があると思います。これは、台湾における民主化の動きの仕上げであるということに加えて、アジアにおける民主化がまた一段と進んだと、そういう意味もあると思います。
 つまり、かつてでありますと、アジアでは民主主義なんというのはなかなか難しいんだというような意見が非常に強かったわけで、日本とインド、あとスリランカもそうですけれども、そのぐらいしか民主主義的だと言われる国はなかったわけですが、これが八〇年代後半からいろんな国で民主化が進んだ。台湾のようないろんな事情を抱えている、エスニックな問題も抱えているところで民主化が進んだ、これは大変大きな意味があるというふうに思います。ですから、アジアにおける民主化の進展ということが第一ですね。
 第二には、その選挙を挟んで行われた中国の軍事演習とかミサイル試験、これを通して明らかになったことですけれども、この東アジアにおいてはまだまだかなり軍事緊張の可能性があることを示したという意味があると思います。
 細かく申し上げませんけれども、昨年の李登輝訪米以来、台湾海峡を挟んで中国が行った軍事演習はたびたびあるわけですし、ミサイル実験もあった。昨年の十二月、台湾の立法院の選挙の際にも軍事演習がありました。これに反応するようにアメリカも警戒して、去年の十二月には、報道によればそのときもニミッツという空母が台湾海峡を通ったと言われています。今度の三月初めから以後は、報道されているとおり、ミサイル試験とそれからかなり大規模な軍事演習を行うということがあったわけです。これも報道されているわけですけれども、我が国でも三月の十二日とか十三日のあたりには沿岸の小さい島が占領されるんじゃないかというようなことを懸念する観測もあったというふうに聞いています。
 私は、中国の指導者の意図からすると、ここで軍事衝突をするあるいは武力行使をするというような意図はなかったと思っていますけれども、ただこれだけ緊張が高まりますと、だれかが間違いを犯すと大変な軍事衝突になるという可能性があったことは間違いないと思うんですね。今回の場合は幸いなことにだれも決定的な誤りは犯さなかったということなんだと思います。歴史的に振り返って見れば、台湾海峡を挟んでこれだけ緊張が高まったのは一九五八年以来であるというふうに言っていいと思います。
 ただ、台湾海峡危機の意味はこれだけではなくて、第三番目に私は、そういう軍事緊張にもかかわらず、やはり台湾と大陸との間には大変密接な経済的相互依存の関係が深まっているということを今回の事態は示したと思います。
 先ほど朱先生から、台湾から中国への貿易の量とか直接投資の量の御紹介がありましたけれども、貿易も直接投資もともに大変伸展しているわけで、ですから大陸にとっても台湾にとってもどちらにとってもいつまでもこの台湾海峡において緊張を高めておくというコストは大変高い。
 ですから、関係改善は大変難しいわけですけれども、それにもかかわらず、今回選挙が終わってみると、出てきている報道の中には、大陸においても台湾においても関係改善を進めなければいけないというシグナルがかなり出されています。もちろんこれで直ちに関係改善ができるというものじゃないと私は思いますけれども、これだけ緊張があったにもかかわらず関係改善のシグナルが出てくるということは、そこには大陸と台湾の間の両岸関係の非常に深く進行しつつある経済的相互依存関係があるというふうに見なきゃいけないと思います。
 ただ、そうはいいましても、四番目に、今回の一連の事態を理解するときに重要なことは、これが古典的な国際関係ではないということですね。通常、軍事緊張といいますと主権国家と主権国家の間での軍事緊張が高まる、そういうモデルを想定するわけですけれども、今回起こったことは全く古典的でない、非古典的な国際関係の典型であります。
 両方の政府とも中国は一つだと言っているわけです。実際にはどちらにも政府、領土、軍隊があるわけです。それにもかかわらず、中国共産党も中国は一つだと言うし、中国国民党の公式な政策は中国は一つだと言っています。台湾の中にもちろんそこから離脱して独立したいという声があるのは間違いありませんけれども、オフィシャルな関係においてはどちらも中国は一つだと。
 しかしながら、実態を見れば、そこに一つの国家が存在しているというふうには言えないわけですね。ですから、ある種のフィクションがここに働いているわけで、このフィクションをもとにしたシンボルをめぐった争いというのが非常に強く出ているということです。
 この場合の二つの関係は、南北朝鮮とはかなり違うわけです。南北朝鮮の場合はどちらも承認する国を認めているわけですね。今で言えば、中国は北朝鮮も承認していますし、韓国も承認しているわけです。ただ、この台湾海峡両岸関係の特徴は、中国は台湾を承認した国とみずから外交関係を決して持とうとしないわけです。ですから、この関係というのは通常の国際関係における二つのパワーの間の衝突というのとやはり複雑に異なる面を持っているというふうに言えると思います。
 ただ、実際には経済面、文化面、スポーツなどの面で徐々に台湾はいわゆる普通の国になりつつあるわけですが、やはり最後のところで中国にとってこれだけは受け入れられないというものが残っていると。やはり余り古典的と言えない。中国にとって受け入れがたいのは、台湾が独立と言葉で言うことと、それから首脳がアメリカとか日本のような重要な国を訪問することなんだと思います。
 ですから、この台湾海峡情勢を見ていて日本人が学ぶべきことは、そういう非常に複雑な、通常のノーマルな国際関係とは見えない関係が我が国のすぐ南方に存在する。もともとのゆえんをたどればその歴史的背景に日本は関係していないわけじゃなくて、もちろん非常に関係しているところに日本がこの問題に対処するときの難しさがあると思います。
 さて、以上のような観察をした上で、それでは今の段階で日本にとっての台湾あるいは台湾海峡というのはどんな意味があるのかということについて、少し私見をまた述べさせていただきたいと思います。三つに分けて考えたいんですが、第一は政治的な意味、第二は経済的な意味、第三は戦略的な意味です。
 政治的な意味から考えますと、台湾は日本にとってみると中国の一部であります。日本は中国と一九七二年に国交正常化をしたときに共同声明で「日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する。」というふうに言っていますし、その後で「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。」と言った後、「日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。」というふうに言っているわけであります。
 この「ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。」というのは、その前のカイロ宣言で台湾が中国に返還されるべしというふうに書いてあることは遵守されなきゃいけないとポツダム宣言に書いてある。ですから、これを理解するということは、つまり日本はサンフランシスコ講和条約で台湾を放棄したわけですけれども、その行き先について見ると、中国が言っているとおり、中国の不可分の一部であるということをほぼ認めたという、そういう書き方になっているわけです。
 さらに、一九七八年に日中平和友好条約を両国間で結んでいますが、第一条で「両締約国は、主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等及び互恵並びに平和共存の諸原則の基礎の上に、両国間の恒久的な平和友好関係を発展させるものとする。」というふうに規定してありますから、日中平和友好条約によれば両国ともお互いの内政に干渉してはいけないということになっているわけです。
 ですから、政治的な意味でいえば、台湾について日本はこれを中国の一部だと認め、中国が一つであるという見解を認め、これが内政の問題だとすれば日中平和友好条約によって日本がこれに干渉することはできないという立場になると思います。ですから、このような法的な考え方からいけば、この台湾の問題について日本国として言えることは、この両岸の問題は中国人の間の問題でありますというふうに言うしかないわけです。
 ただ、日本国民として多分言えることは、後でもう少し述べますけれども、台湾海峡をめぐって武力行使が起こるというようなことは、日本にとって利害が全く関係ないわけではない、つまり地理的に近接しているという意味からいって武力行使が起こるということは日本の利害にも関係する。ですから平和的に解決してほしい。それからまた、もう少し一般的な国際法の考え方からいえば、内政問題であってもこれの解決に武力あるいは武力の威嚇を用いるということは一般的に言って望ましくない。ですから、その面での日本が中国に対して、内政問題であっても武力の威嚇、武力を使うということは望ましくないという意見の表明をすることは直ちに内政干渉になるわけではないというふうに思います。
 日中平和友好条約は内政についてはもちろん決めていませんけれども、日中平和友好条約でも日中両国とも国連憲章の精神にのっとってお互いの間の紛争を解決するのに武力を使ったり武力の威嚇を使ったりはしないというふうにお互い言っているわけですから、これは直ちに台湾問題に適用できませんけれども、現在の国際社会の一般的な流れからして、国内問題であっても武力の行使や武力の威嚇は望ましくないということを言うのは私はそれほどおかしくないと思います。以上が政治的意味であります。
 第二の経済的意味については、私は台湾は日本にとって非常に重要な貿易相生地域であるということをやはり確認しなければいけないというふうに思います。中国市場の重要性は最近ますます重要視されておりますし、これは全く当然なことであります。
 ただ、一九九五年の統計だけで考えてみますと、例えば日本が一九九五年、去年中国に輸出したのは大体二兆円であります。台湾に対して行った日本の輸出は二兆七千億であります。ですから、中国市場は大変巨大ではありますけれども、額だけから見ますと九五年は台湾に輸出した方が七千億円だけ多いわけであります。ちなみに、韓国への輸出というのはやはり台湾と同じぐらいありまして二兆九千億ぐらいでありますから、輸出市場として見ると中国は去年は台湾や韓国よりも少ないということが言えると思います。
 輸入先ということになりますと、中国からは去年は三兆三千八百億円輸入していまして、中国は日本に対してかなりの貿易黒字を持つ国です。これに対して台湾は、日本に対して一兆六千億の輸出をしています。ですから、台湾に対しては日本は貿易黒字、韓国に対してもそうだというようなことになっております。ちなみにアメリカと比べてみますと、日本は最近アメリカへの輸出が大変減っていますけれども、それでも昨年十一兆円売っております。ですから、アメリカ市場は中国と比べると五倍の意味があるということが言えるかと思います。そのようなことを考えますと、台湾との経済的な実務関係を維持するというのは、これは日本にとって非常に重要な意味を持つ、日本の国益であるということだろうと思います。
 ちょっと数字をいじくってみますとなかなかおもしろいんですけれども、そうやって中国と台湾を分けてみますとそういうことになるんですが、例えば中国と台湾と香港を全部足してみるとどのぐらいになるかといいますと、日本は中国、台湾、香港を全部足した地域に対して七兆三千七百億円ぐらい売っているんです。この七兆三千七百億というのはどのぐらいと比較できるかというと、ASEANに対して売っているのが七兆二千三百八十億です。それからEUに対して売っている分が六兆六千億ぐらいです。ですから、もし中国と台湾と香港とを合わせると、これはアメリカには及ばないけれどもASEANとかEUと大体並ぶぐらいの地域であるということであります。ということは何を意味するかといいますと、台湾海峡の平和ということがこの日本にとってみると非常に今や大きくなりつつある市場を確保する上で重要だということだと思います。
 ですから、中国と台湾を分けてみますと台湾の方がちょっと多いわけですが、これを足してみると日本にとって今非常に重要な地域になっている。ですから、経済的な意味で言っても台湾海峡が不安定になるということは、日本の経済的利益にとって大変問題があるということが言えると思います。
 最後に戦略的な意味であります。
 これは、端的に言いますと、台湾海峡における中国の軍事力が日本にとって脅威になるかどうかという話だと思います。現在のところ、台湾海峡の部分で軍事演習した中国軍、それからミサイル演習した中国軍の能力それ自体が直ちに日本にとって脅威になるかといえば、私はそうではないというふうに言えると思います。確かに中国がミサイルを台湾近海まで飛ばすことができるということは日本の沖縄県にも飛ばすことができるということを意味するわけですから、それ自体なかなか不安を持つ面もあると思うんですが、これは特に今になって明らかになったわけじゃなくて、かつてからずっとそうです。それにもかかわらず、中国が今のところ、今の中国の軍事力で日本に脅威を与えるということは考えられない。
 ただ、この台湾海峡の問題が中国にとって厄介なことは、これを中国は内政だというふうに言っているわけですけれども、もし台湾を容易に占領できるような軍事力を中国が持つに至ったとすれば、これは必ずしも内政で済む問題ではないというふうに私は思うわけです。というのは、今の中国軍には台湾を容易に占領する能力は私はないのではないかというふうに思っているんですが、台湾を圧倒するような、台湾を武力でもって容易に占領できる能力を中国が仮に持つようなことがあったとすれば、台湾は島でありまして、日本の沖縄県と大して離れていないわけですから、そうしますと中国軍は渡洋上陸能力を持つということになります。
 ですから、内政問題であるというふうに言って準備された軍事力であっても、周りの国からしてみればそれ自体大変不安なものに感じるということはあり得るわけであります。ですから、日本にとっての台湾の戦略的意味というのは、つまり台湾海峡において中国が台湾を圧倒するような武力を持つというのは望ましくないということになるというふうに思います。
 ただ、さらに難しいのは、それでは中国が圧倒的な能力を持たないようにするために台湾は対抗上どんどん軍拡すればいいかというと、これも日本にとっては実は望ましくない。つまり、台湾と大陸の間で軍拡競争がどんどん始まっていくということは、軍拡競争自体は直ちに戦争につながりませんけれども、大規模軍事演習というようなことがたびたび行われて、その間で間違いが起こるということは大規模な軍事衝突が起こる可能性が増すわけですから、これ自体大変望ましくないと、そういうような意味を持つものです。
 最後に、そういうような台湾のことのいろいろな意味合いを考えた上で、さらに先ほどの近い過去の台湾海峡の危機の意味づけを考えた上で、日中関係、中国との関係の展望をどんなふうにして見たらいいかというようなことについて私の考えを述べさせていただきたいと思います。
 まず第一に、中国をどんな国だというふうにとらえたらいいか、あるいはここまでの一連の経験を通じてどんな国だととらえ直したらいいかということであります。
 一九七九年、日中平和友好条約を結んだ後に日本は中国に対して政府開発援助を供与するということを決めました。このときの当時の日本の政府、大平内閣ですけれども、が考えたことは、私の理解する限りでは、安定し西側に友好的な中国というものを形成していくことは日本の利益である、だからこういう姿勢を示す、安定して西側に友好的な中国を支えるような政府開発援助を進めていくことは日本の利益につながる、だからこれを行うんだということだったと思います。
 安定し西側に友好的な中国というその位置づけは、冷戦が終わったことで若干変化しました。つまり、冷戦が終わったことで東側というものがほぼ存在しなくなりましたから、その反対現象として西側というものの意味もあいまいになった。ですから、現在恐らく日本人にとってかなり受け入れやすい、望ましい中国像というのは、安定してアジア太平洋の平和、世界平和に貢献するような中国、これが日本の利益になる、そういう考え方なんじゃないかと思います。
 それでは、安定しアジア太平洋の平和、世界平和に貢献する中国というものがどうやったらもたらされるかというと、そこで考えなきゃいけないのは、先ほど朱先生のお話にもあったんですけれども、中国がどうもかなり古典的と言うべきか十九世紀的と言うべきか、そういう国際政治観を依然として保持している。
 先ほどの朱先生のお話で、江沢民さんは軍から無理やり押されて嫌々ながら台湾政策で強硬策をとったんではない、そうではなくてこれは江沢民さんの路線だというふうにおっしゃったと思うんです。私もこの分析は正しいと思うんですね。ですから、私は軍事演習というのは武力による威嚇だと思いますが、この武力による威嚇は中国指導部が嫌々ながらとったというよりは、台湾の内部に対してその台湾に住む人々の考え方を変えるために計算して行った威嚇戦略だというふうに思います。
 先ほど朱先生がおっしゃいましたように、一つの考え方からすれば、中国にとって十二月の立法院選挙よりも独立支持派が減り統一派がふえたということは、まさに中国の武力威嚇がある程度台湾の人々に効果を与えたというふうに解釈できないわけでもないわけです。
 ですから、これがもし中国が望んだことだとすれば、中国という国の現在の指導者の中にはよその国、台湾は国じゃないわけですから必ずしもそうは言えませんけれども、国際関係において相手方の意向を変えさせるために武力ないし武力の威嚇を使うということもためらうわけではないというその現象がここに出ているんだと思います。
 他方、中国はそうやって武力の威嚇はしましたけれども、朱先生もおっしゃいましたけれども、これでもって現状を次から次へと変えていってやろうと思っているわけではなくて、どちらかというと現在の経済的相互依存が中国の国家の未来にとっての利益だという認識もある。この微妙な二つのところが今の中国をとらえる上で重要な点だと思います。
 最後に、それでは日本が中国に対してどういう方針をとったらいいかということについて、全くの私見でありますけれども簡単に五つほどの点を述べさせていただきます。
 第一は、日本は民主主義国家ですから、政府が国民の価値を体現した発言をするのは当然なことであります。ですから、日中関係について日本側が中国にとって望ましくないことがあったとすれば、これははっきりと発言するのは当然だろうと思います。第二に、しかしながら中国の置かれた事情その他、それから現在中国が特に日本にとって脅威でない、そういうことから考えますと、全面対決に至るようなことは避けなければいけない。
 三番目に、そのための具体的な方策として見ると、私は日中関係を単に二国間の関係であるというふうにとらえるのではなくて、アジア太平洋あるいは世界全体のさまざまな多角的な枠組みの中に取り込んで、その多角的な枠組みを支える価値観のもとで日中関係の動きを調整するという方針が必要だと思います。
 それから第四番目に、中国との関係を調整する場合、やはり諸外国、とりわけ同盟国アメリカとの協調ということを慎重に図っていかなければいけない。この場合、特に中国に対して脅威をあおるような必要はありませんけれども、日米間でさまざまな事態について対応できるような協議その他を行っておく必要がある。
 最後に五番目に、そういうようないろいろなことはあっても中国はやはり日本にとって非常に重要な隣国であって、基本はやはり私は日中友好というか中国との友好関係は日本の国益にとって非常に重要だということを常々イメージすることだというふうに考えております。
 具体的な話もあるかと思いますけれども、とりあえず私の話はこの辺で終わらせていただきたいと思います。
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武見敬三#10
○小委員長(武見敬三君) ありがとうございました。
 以上で参考人からの意見聴取は終わりました。
 これより参考人に対する質疑に入ります。
 なお、質疑はお一人往復五分以内でお願いをいたします。
 質疑のある方は順次御発言願います。
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野沢太三#11
○野沢太三君 私は自由民主党の野沢でございますが、諸先生方には大変貴重なお話を賜り、まことにありがとうございました。
 四月になりますと、クリントン大統領が来日をされまして、日米の安保条約の再定義をしようという準備をただいま進めております。この動きと今回の台湾海峡における紛争といいましょうか緊迫した情勢というものは、私は無縁ではないと思うわけでございます。
 この安保条約は、日本の安全を守るということがまずございますけれども、あわせて東南アジアの安定のために大変意義のある条約ではないか。これは先生方が既に指摘されているとおりだと思いますが、現段階でこの日米安保条約の果たす役割についてそれぞれの先生方から一言ずつコメントを賜ればありがたいと思います。
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エズラ・F・ヴォーゲル#12
○参考人(エズラ・F・ヴォーゲル君) 前は、朝鮮半島で何か戦争が行われるような心配があったとき、アメリカは日本に対して、異常の場合になったら日本の協力をお願いしたいという状態は非常にはっきりあった。カーター大統領が北朝鮮を訪ねてから、そういう異常な状態にまだなり得ないんじゃないかと。それからみんなほうっておいたんです。
 ですから、多分同じように、今台湾の状態が緊張して、異常の場合に日本の反応がどうなるか、アメリカは危惧していると私は思っております。ですから多分、多少そういう話も始まったんじゃないかと私は思います。私は九月から政府から離れてきて、最近の状態は細かいところまでは聞いていないけれども、そういうことはきっとアメリカ人は危惧していると私は思っています。
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朱建栄#13
○参考人(朱建栄君) 私は、日米安保は日本にとって重要なもので、それは維持されていくことは当然だと思います。ただし、それはやはりあくまでも日米両国間の関係にとどめるべきであって、かつて旧ソ連の脅威ということで東西両陣営の対立があった時代で、ソ連あるいは共産主義というようなことを敵にしていたんですけれども、冷戦以後の今の時代においてそのような定義を拡大解釈することは必ずしも日本自身にとっても有利ではないんではないかと思います。日本の外交活動の余地を狭めるものになると思います。ですから、東南アジアないし全アジアにおける日本の役割というのはあくまでも平和的な、そしてこの問題とは切り離した形でやるべきではないかと思います。
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田中明彦#14
○参考人(田中明彦君) 冷戦が終わった後の日米安保関係の意味は、私は基本的にはアジア太平洋地域の安定を確保する機能が最重要であるというふうに思っております。
 現在、日本に対して直接軍事的脅威を与える国は当面見当たらないわけです。その中で日本にとって一番懸念すべきは日本が直接攻撃されるということで、もちろん常にこれは注意しておかなければいけないことですが、最終的にはアジア太平洋地域全体がいかに二十一世紀に向けて戦争とか混乱を来さずに繁栄の中で推移していくかということだと思うんですね。
 このためにアジア太平洋地域においてさまざまな試みがなされているのは事実であります。その重要な問題として、例えば多角的な枠組みとしてのASEAN地域フォーラムとか、それ以外にAPECにおける首脳間の話し合いとか、こういうものを複合的にもたらしていってアジア太平洋を平和的に推移させるということは重要でありますけれども、先ほどの私の報告でも申し上げましたけれども、台湾海峡に見られるように軍事緊張が起こらないというようなことは全く言えない。武力による威嚇ということは可能性としてある。
 こういう中で、この地域の国々が不必要に軍事拡大をしないようにするためには、これは日本をも含めて、日米安全保障条約というのが有効に機能することが最大の役割を果たすというふうに私は思っています。
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野沢太三#15
○野沢太三君 ありがとうございました。
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寺澤芳男#16
○寺澤芳男君 ヴォーゲル先生に質問したいんですが、八九年の天安門事件のときに私はワシントンに住んでおりました。あのときに生々しい、繰り返し繰り返し映し出されるテレビの映像、これを日本とアメリカがどのぐらいの量を報道したのか比較することは私にはできませんが、とにかくあのときのアメリカでのテレビの映像というのはすごいインパクトを、ショックをアメリカの普通の国民に与えたと思います。それ以来中国に対する反感というのがアメリカの普通の人々の心の中に起きてきた。
 それで今、本当に民主的な手続を経て台湾で新しい指導者が誕生したわけですが、そういうことを両方考えると、中国に対しての反感、それから逆に台湾に対しての親近感というか、そういうものがもしアメリカの国民の間に今あるとすると、十一月五日の大統領選挙を控えて世論に最も敏感なアメリカの議会が今後どういうふうな態度を中国に対してとるのか、台湾に対してとるのか、今までのあいまいさというものをずっと続けられるのかどうか、先生の率直な気持ちを教えてください。
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エズラ・F・ヴォーゲル#17
○参考人(エズラ・F・ヴォーゲル君) 寺澤さんの前提は正しいと思います。というのは、八九年の天安門事件の影響はアメリカ人に対して物すごく強かった。そういう気持ちですね。当時、寺澤さんがワシントンにいらっしゃるうちも繰り返したんですけれども、最近も同じ天安門事件のテレビ番組をまた繰り返すわけですね。中国の問題が大体アメリカのテレビに出ると、その八九年にとったフィルムをまた繰り返すわけです。ですから、そのインパクトは今でも物すごく強い。
 それから、台湾の影響は八七年以来の民主主義で、最近も台湾はワシントンの友達もすごく多いんですね。ですから、圧力団体それからロビーイングは物すごくうまい。五〇年代に台湾からアメリカへ留学してそれから台湾に戻ってきた李登輝だけではなくて例えば外務大臣も、アメリカの留学生も多くて、ですからワシントンの影響を物すごく、英語もうまいしワシントンのことをよく知っているし、友達がいっぱいいる。ですから、台湾の影響は物すごく強い。
 ただ、李登輝がアメリカを訪ねてから台湾に帰ってきて中国の反応は物すごく強い。ですから、アメリカ人は少し遠慮するようになっていると私は思います。議会議員は、李登輝がアメリカを訪ねていきたいというとき、みんな無責任だと。李登輝はアメリカを訪ねていいと。結局どういう効果があるか、外交にどういう影響を及ぼすか、全然考えていなかったと私は思います。ただ、李登輝はいい人だと、アメリカの大学で博士号を取って、それから悪いことを全然しなかった。
 例えばアラファトはワシントンを訪問しているし、それからアイルランドのジェリー・アダムズもワシントンを訪問している。そういう人間はワシントンを訪問して、李登輝は立派なアメリカの博士号を持っているのにどうしてアメリカへ来ないかという意見はだれでも持っていた。
 ただ、今はやっぱり北京の反応を見て少し遠慮することになっているわけです。例えば、ことし李登輝をまた招待したい気持ちがまだあると思うんです。特に共和党は李登輝をまた招待したい。それから、最恵国待遇をやめるかどうか、アメリカの議会は十分に議論する可能性があると思いますけれども、最後には続くと、私は間違いないと思います。というのは、クリントンは選挙の前で中国とけんかしたくないという気持ちが非常に強いし、それからもし李登輝が本当にもう一度アメリカを訪問したら大変なことになると。それは李登輝自身も十分わかっていると思います。ですから、李登輝はことしとか来年はアメリカを訪問しないと思います。共和党は招待したい、そういう気持ちはあり得るけれども、クリントン政権自体は許さないと私も思うし、それから李登輝も来ないと私は思っております。
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武見敬三#18
○小委員長(武見敬三君) ただいまの寺澤委員からの質問の中に、いわゆる台湾、中国に対するあいまい性、これはストラテジックアンビグイティーと言っていますが、このあいまい性を継続することが果たして可能かという質問がありましたが、これに対してはいかがでしょうか。
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エズラ・F・ヴォーゲル#19
○参考人(エズラ・F・ヴォーゲル君) それは継続すると思います。それは変わらない。そういう政策は、むしろアメリカの新聞は今もう少しはっきり台湾を支持するということを言いたいけれども、結局アメリカの利害関係を考えて、政権の専門家は今のあいまいさは必要だとよくわかっているから、そういう点は変わらないと私は思っております。
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大木浩#20
○大木浩君 自民党の大木浩でございます。
 主として朱先生に御質問したいんですが、朱先生が先ほど御発言をまとめて、日本としては中国本土と台湾の間の橋渡しというのは余りできない、しかし中国とアメリカとの間の、何とおっしゃったかちょっと言葉は忘れましたが、調停ですか、は何かできるんじゃないかとおっしゃいましたね。それは具体的にどういうことができるかということをお聞きしたいんです。
 ただ、御質問の前に私の方のコメントを先にして恐縮なんですが、日本の場合には調停といいましても全く野球の審判のようにどっちのチームにも属さない調停者ではなくて、やはり日本とアメリカの間には現在軍事的な同盟関係があるわけですし、それからもちろん中国とは友好関係は維持しておりますけれども同じような関係ではない、そういうことですね。それから、先ほどからいろいろお話がありますように、最近中国の方がいろいろと動いておられるけれども、中国の現状あるいは意図について透明性がやや足りないということを我々は感じております。そういう危惧もありますから、やっぱり国民としてはそこに何らかの中国に対する割り切れない気持ちが残っている。
 そういう状況のもとでアメリカと中国の間で日本がどういう調停的な仕事ができるのか、この点をコメントいただきたいと思います。
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朱建栄#21
○参考人(朱建栄君) 今いきなりいろんな秘策はないと思いますが、例えば二つの分野で、一つは人権問題、もう一つは中国の軍事力と外部とのいわゆる透明性の問題の二つの分野で橋渡し役ができるのではないかと思います。
 私が申し上げたのは、調停ではなく、米中双方とも構造的に対立する要因もあれば互いに協調し合うという要因もありますので、決定的な決裂は米中双方ともそれは慎重に避けようとしているし、恐らく今後も基本的にはないと思います。しかし、完全に仲よくして日本を越えていく恐らく唯一のシナリオは中国の完全民主化だと。すなわち、天安門事件への反動でアメリカがいきなりさっと中国へ飛びつくというようなことでしょうけれども、近いうちはその可能性はないと思います。
 この二つの分野で橋渡し役と申し上げたのは、例えば人権の問題です。それは一方、今の世界で個人の人権というものの意識が向上している。その点について中国ももっといろんなことを外部の意見を傾聴して改善していくべきではないか。個々の具体的な事例も踏まえてそれをやっていくということですね。一方、アメリカに対してはアジア的なやり方で、一つはアジア的な部分ともう一つは中国の発展途上国としての部分、いわゆる開発独裁という段階における部分、この両方のことはアメリカに説明する必要があるのではないかと思います。
 今のアメリカの対中人権批判の中には、例えば中国の一人っ子政策でさえ批判されています。このことを果たして批判していいのかどうか。日本も多分自分なりの判断はあると思いますけれども、それは率直にアメリカに伝える。一方、個人の人権の問題それは中国の方で社会全体の発展権、集団的な人権というような考え方で、今、タイとかマレーシアもみんな同じ言い方をとっていますけれども、それと個人の人権、この両方あわせて発展させていくことの重要性を説明する必要があるのではないかと思います。
 軍事的な面ですけれども、中国の脅威に対しては、田中先生が今おっしゃったんですけれども、恐らくアメリカも日本も内心では中国は現在日本にとってもアメリカにとっても脅威ではないという点です。しかし、やはり脅威と思われている部分の大きな理由の一つは中国の不透明性です。ですから、その不透明性に関しては外部の懸念を中国に伝えることです。今の段階でアメリカはその点どうしても中国から見れば上からぱんぱんと押しつけるような言い方で、反発が先に成り立つんですね。
 この数年の間に米中関係で相当多くの誤解が生じたと思うんですけれども、例えば九三年に銀河号事件がありました。中国の船にイラン向けの禁輸の化学物資を載せたとしてアメリカは臨検を要求した。中国はそれはないと。でも、アメリカは無理やりにそれを要求して、最後に中国は一応一歩下がって、サウジアラビア、アメリカ、中国の共同検査ということをして、結局何もなかったということです。その直後にまた、アメリカ議会ではオリンピックの北京開催に反対する決議があったわけですね。そういうふうなことで、中国人の反米感情を引き起こしたという重要な副作用があったと思うんです。
 そういう中で、アメリカが中国に何を言おうと、さっきヴォーゲル先生がおっしゃったように中国では消極的な面でしか受けとめないわけです。その中では、日本は中国に十分言う余地はありますし、ことし一月からの日中間の安保協議などの場は今後大切にしていくことも必要ではないかと思います。ただし、アメリカに対してもこの中国をアジアの国として、そしてこの問題の複雑さというところを伝えることは私は必要ではないかと思います。
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大木浩#22
○大木浩君 ありがとうございました。
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立木洋#23
○立木洋君 最初にヴォーゲル参考人にお尋ねしたいと思います。
 中国とアメリカが上海コミュニケを結んでから二十四年を経ました。この間のことを詳しく申し上げることはできませんから申し上げませんけれども、ことしの二月二十三日にアメリカのペリー国防長官が国防大学の講演の中で、アジア太平洋地域におけるアメリカの予防的防衛戦略の四つの柱の一つとして中国への関与の政策ということについて述べられました。これについては、それは封じ込め政策でもなく融和の政策でもなく二つの中国を支持する政策でもありませんということを述べられながら、それは上海のコミュニケを基礎として、台湾関係法での台湾自衛への援助、健全な北京と台湾の関係の促進を再確認するものだと
 いうふうに述べられたと思うんです。
 私は、先ほどヴォーゲル先生がおっしゃった中国の人権問題についての意見では共感する面が幾つかあります。その問題はその問題として非常に重要ですけれども、アメリカの対中政策の中で、例えば李登輝総統が台湾の国際的な地位を高めようとすることに手をかすということは、一つの中国という約束に異なった対応をするという結果にはならないだろうか。
 あるいは台湾関係法で武器の供与の問題については、台湾の自衛については協力をするとおっしゃりながら、一九八二年には御承知のように台湾に対する武器の援助、これはだんだん減らして最終的には全部解決するということが述べられていたにもかかわらず、御承知のように、先ほどおっしゃったブッシュ大統領のときに結局F16戦闘機を百五十機も売却を約束するというふうなことになって、減らすどころかふやすという結果になったんです。こういうふうなことは、事実上台湾に対する武器の供与を減らすというのではなくてふやすという結果になる。これもやはり我々が見れば正当さを欠くのではないか。そういう問題点はアメリカとしてはやはりよく考えて、環境を激化させないような努力をしていただきたいというふうに考えますが、この点についてはいかがお考えか。
 それから来参考人にお尋ねしますが、李登輝総統が当選される前の一九九三年の十月に、御承知のように一つの国、二つの政府という立場に立った主張を展開しました。これについてはその後、昨年いろいろな形で大変厳しい批判が中国の新華社、人民日報等で行われたということは挙げるまでもなく明確であります。
 この問題について、そういう批判はされましたけれども、今度当選した李登輝総統の、何といいますか、政府と言うのはまずいかどうかは別として一応政府と言わせていただくとするならば、これを現在の中国はどういうふうに見ているのか、その根本的な性格をどう見ているのか。少なくとも五四%の台湾の人々が投票したという結果から生まれた政府ですから、これをどう見ているのかという問題です。
 この間、銭其シン外相が述べられた発言を報道されていたのを見たわけですけれども、そこで述べられていた点によりますと、一つの国、二つの制度という問題については香港よりもより緩やかな態度を我々は台湾に対しては今後とっていきますと。ある新聞のコメントでは、軍隊を持つことをも認め得るというコメントをもしていました。
 この一つの国、二つの制度という問題について、現在の中国の政策は、昨年一月に述べられた江沢民総書記の八項目、これからさらに進んだ内容のものなのかどうなのか、銭其シン外相の発言が。
 この二点についてお二人の参考人からお聞きしたいと思います。
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エズラ・F・ヴォーゲル#24
○参考人(エズラ・F・ヴォーゲル君) クリントン政権の目から見るとこういう問題があるんですね。七二年の上海コミュニケを守りたい、ただアメリカの世論が変わってきたからどういうふうにそれを整理したらいいかと。そういう問題はいつもあった。九四年ですか、李登輝はハワイ経由でメキシコに行きたかったが、当時はクリントン政権はほとんど断ったんです。結局、飛行機から出て少し遊ぶことはいけないという言い方だった。
 だけれども、それ以後アメリカの世論はまた変わって、やっぱりもとの政策を守りたいけれども、台湾に対して気持ちはどんどんよくなってF16も売ってしまった。それから、最近やっぱり演習のためアメリカの気持ちはもう少し武器を売ったらいいんじゃないかと議員たちも言うし、アメリカの新聞もよく言うけれども、政権、特にペリー長官、国務省とホワイトハウスは、李登輝に対して、もう少し丁寧なやり方もあるけれども、やっぱり中国と今けんかしたら大変なことなので、ですからコミュニケーションの幅以内で少し変わっても、世論に対して少し変わってもいいけれども、もとのコミュニケを守るという気持ちは政権は非常に大事であるとわかっている。ですから、前のコミュニケは守るけれども、やり方としては少し台湾に対してやわらかいという感じですね。
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朱建栄#25
○参考人(朱建栄君) 私の最初の話の中では中国人的な表現法ということにちょっと触れましたけれども、最近までの中国の李登輝批判についても注意深く分けて見ていただければ、実は李登輝氏をここまで罵倒し批判したのは中国マスコミであって、党の政治局委員以上の指導者は一人として李登輝を名指しで批判したことはないんです。それで、今回の選挙以後、当選された指導者とは当然交渉していくという姿勢に既になっています。ただし、中国が言っているのは、口先ではなく行動で示せということです。この選挙の後、李登輝を相手に鋭意交渉していくというのが趨勢ではないかと思います。
 また、この李登輝批判ですけれども、日本などで見れば、ここまで批判されたらもう互いに握手をするということすらも不可能だということに思川われがちですけれども、まず李登輝本人は割り切っています。アメリカのコーネル大学を訪問した後で中国は四回連続で李登輝のコーネル大学での演説について批判したんですけれども、そうしたらそのコメントを求められた李登輝氏は、かつて中国はソ連を批判したときには九つの大論文がありました、九評。今、私に対しては四つしかないということを言っていたんです。そして、今回の選挙の直前に中国との関係の改善についてはっきりと意思を表明したんです。ですから、基本的には今後は李登輝を相手に双方交渉のことを模索していくものだと思います。
 ただし、一国二体制と一国二政府の問題ですけれども、アメリカの対中政策も今もなるべくあいまいさを保つと。中国のこれらの問題でも恐らくあいまいにやっていかざるを得ない部分があると思うんです。中国が主張しているのは一国二体制、すなわち二つの制度の共立共存、北京は中央政府、台湾は地方政府ということですが、李登輝が主張しているのは一国二政府、対等の二つの政府、一つの中国の枠の中での。これについて、確かに越えられないような溝もあるように思いますが、しかし中国的なあいまいさの中では完全に乗り越えられないとも思いません。最初に申し上げましたように、楊尚昆氏がかつてこう言いました。双方がテーブルにさえ着けばどんなことでも話し合っていいということを九二年に当時の国家主席が言ったわけです。
 考えてみれば、一国二体制という考え方自体、ほかの国においては生まれてこない発想なんです。一つの近代国家の枠組みの中では一つの国は当然一つの体制ですけれども、中国はもう一つ体制を持ってもいいと。一応一つの中国の中だったら香港は五十年間資本主義をやってもいい、そして台湾はさらに自由にやっていいということですけれども、この溝を埋めていくためには相互理解をふやして、そしていろんな交流で相互依存を含めて相互信頼関係をつくっていくことが必要だと思います。それについては今のところまだまだ多くの難問が残っていますのですぐには解決にはならないと、私はちょっと慎重的な見方をとっています。
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笠原潤一#26
○笠原潤一君 最近非常に不可解な事件が中台、米韓、日韓合わせて幾つかあると思うんです。それはいろいろとお尋ねしたいんだけれども、しかしそれは別として、実は私は天安門の事件当時、その日に天安門に入ったんです。あの熱狂的な学生とあのあれを私は見ていまして、いや、これは完全に革命が起こるんだと思ったけれども、結果的にはああいうふうに鎮圧されたんです。そのときに非常に中国に親しいのがおったんです。今、鄧小平はどこかへ行っている、必ず彼は鎮圧すると言っているといって、これはある日本人の中国に非常に親しい人と話したんです。結果的にはそのとおりになったんです。まさかと思ったんだけれども、そうなったんですね。
 実は文化大革命、それから天安門事件、なおかつ今の中国のいろんな状況を、私は何回も行っていませんけれども、ちょっと向こうへ行ってみると大体その土地のにおいで私は直観的にわかるくらいそういうことが非常に勘でわかるという、自分で威張るわけじゃないんですけれども、どうも中国には第三の事変が必ず起きてくると、私はそう見ていますよ。
 これは朱先生、どうですか、そういう第三の文化大革命、それから天安門に続いてまた何か起こるような、中国にはそういうものが内包していると私は思っていますよ。これは私の杞憂であればいいんですが、その点ちょっとお尋ねをしたいということですね。
 それからもう一つは、中国の中にある不透明性というのは、中国のいろんな人と話してみて、いろんなあれを見てみますと、中国はやっぱり易姓革命の歴史と王道の思想がいろいろに交錯してくるんですよ。そのたびごとに中国はいろんな問題を起こしています。ですから、今度も中台の問題でいろいろあって、恐らく李登輝さんの方がうまいから今はやっていますけれども、それ以上にどうも最近の中国を見ていると非常に何か不安定な感が否めないと私は思うんです、直観的に。その点について朱先生はどう思っていらっしゃるか、ひとつお尋ねしたいと思うんです。
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朱建栄#27
○参考人(朱建栄君) 第三の事件の話ですけれども、まず第一と第二の事件に触れなければならないと思います。
 第一の事件が文化大革命ですね。当時のも沢東もカリスマ的な存在で文化大革命を発動した。結局この十年間やって大半の中国人は、一体それは何だったのかと。その反省で改革・開放政策が始まったわけですね。当時の中国の党の総書記趙紫陽氏がこう言ったわけです。文化大革命がなければ中国にこれほど早く開放政策が来ることもなかったということです。
 社会主義、共産主義国家はいっぱいありました。中国よりも先にロシア、ハンガリーなどの国でみんな経済改革をやったんです。しかし、既得権益の階級を打ち破ることはできなかったんです。でも文化大革命で、やはり中国はこのままではだめということで開放政策につながったということで、私はまず中国人は大きな教訓を得たと思います。
 その教訓が第二の事件には微妙に影響したと思います。すなわち、安定が第一ということで極端に反応して、とにかく抑えようということを指導部の文化大革命を経験した人で、やはり条件反射的にとにかく抑えようというようなことと、当時の状況の中でやはりいろんな複雑な要因で保守派の反応などで結局ずるずるそうなったという一面ですけれども。
 この第二の事件については、私は二つの見方が必要だと思います。
 第一は、この事件自体の真相は何だったのか。アメリカでも、今ヴォーゲル先生がおっしゃったように、何か事件があるごとに繰り返し報道されますけれども、日本のNHKでは九三年六月四日の夜九時半にやはり三十分の番組をやったわけですね、天安門事件は何だったのかと。
 結局、当時の天安門広場に唯一残ったのはスペインの国家テレビの人たちですね。ほかの人はみんな追い出されたんですけれども、彼らが残って、彼らがすべてカメラで撮ったんです。そして、学生のリーダーの一人が後に台湾にまた戻ったんです、かつて台湾から来たんですが。この二つの情報源でさらに照らし合わせてみると、天安門広場では虐殺はなかったということはもうはっきり私は自信を持って言えます。ただし、やはり軍が入ってくるときにいろんな要因によって発砲した、それは間違いないし、大衆の反発、特に腐敗反対などの運動を弾圧したという結論には変わりはありませんけれども、でもそれはイコール当時の中国は明らかにすべての民主化を弾圧したということなのかどうか。当時の状況の中で複雑な要因があったという一面も今だからこそもうちょっと振り返って見る必要があるのではないかという点です。
 第二点は、これは中国にとって第一回目の事件と同じように教訓になったと思います。当局にとっては、それはやはりここまで、まず一つ目先の対応として、この事件がずるずると行って最後に収拾不可能なような状態になって軍隊が使われた。それに対しては、今の中国では軍はもう武装警察と切り離して、軍を絶対こういう内政のところには直接動員しない、武装警察を使うというようなことでやったり、あるいは過敏にも、ちょっとでも動きが出れば、すぐその人を捕まえたり事件が大きくならないようにするというテクニックな一面の教訓もありますけれども、恐らくもう一つ重要な教訓はあったと思います。
 このようなことで、もう一回もし弾圧というようなことを軍隊を導入してするとなれば、共産党の信用、あるいは国における最後の威信というのは完全になくなる。ですから、なるべくそれを避ける形で対応していくと思います。
 ただし、言われるとおりに、不安定な状況は今後やはりあると思います。経済のいろいろな問題、特に今当面の不安定の要因の一つとしては国有企業の改革ですね。中国は二〇〇〇年までに社会主義の市場経済という枠組みを基本的につくり上げるという目標を掲げています。その目標の実現のためには、まず国有企業の活性化が必要です。
 しかし、中国は今ジレンマに置かれています。国有企業の改革を進めようとすれば大量の失業者が出る、それによって社会的不安定になる、しかし進めなければ次の改革はあり得ないというところで、あるいは今の腐敗なども相当そういう現象が深刻化しているので、そのような動きが出てくることはあり得ると思います。
 しかしまた、中国社会自体が六年、七年前と比べて大きく変わったということも理解する必要があると思います。例えば、当時の中国では貧富の格差、指導部に対しての不満、保守派と改革派というような対立が非常に激しかったんですけれども、九四年末の中国の世論調査で、北京、上海、広東などでは中流意識を持った人は、全体のアンケート調査を受けた二千人くらいの中で九割に達したんです。
 もちろん内陸部との摩擦とかいろんな問題はありますけれども、中国の中の先進地域、その中の学生がリードして、そして都市の住民が一緒に呼応してすぐ参加して体制を倒すというような大きな流れになるまで、私は今のところそのような動きは出てくる可能性は少ないと思います。でも、小さい動きは今既に各地にストライキとかそれはありますけれども、合流して大きなことにはならないんではないかと思います。
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高野博師#28
○高野博師君 三人の先生方に簡単に一問ずつお伺いしたいと思います。
 まずヴォーゲル先生ですが、国際問題あるいは安全保障の問題で欧米と日本の決定的な違いは、いざというときに欧米の場合は血を流す覚悟ができている、命をかけるということと、日本はそれができない、あるいは金しか出さないとよく言われますけれども、日米安保との関係で、朝鮮半島あるいは中台関係で規模の大小を問わず有事のときに、日本は憲法上の制約から血を流せないというか助けられないということになったときに日米安保体制は崩壊するのではないか、あるいは日米関係は決定的な影響を受けるのではないかというふうに思いますが、その辺の御意見をお伺いしたいと思います。
 それから来先生は、日米安保について日本は日本自身の問題に限定すべきだ、日米安保の再定義等で朝鮮とか中国とか台湾等に触れることは危険だと、こうおつしゃいました。この日米安保の再定義の問題で、冷戦が終わった後、我々がどうして必要なんだという議論をするときに、アジア太平洋の安全と安定ということを議論するときに、具体的に台湾とかあるいは朝鮮とかというものに触れないで国民を納得させることができるのかどうかということですね。この辺についてお伺いしたい。
 それから田中先生には、台湾問題が日本にとってどういう意味があるのかという中での三つ目の戦略的な意味の中で、中国が圧倒的な力を持って台湾に対応する、これは望ましくないと。台湾と沖縄は非常に近いというか、日本に近いということもあって、将来的に中国が軍事力を増強する、平和的にも統一したときに日本にとって非常に近くなるので脅威になると見るのか。この辺をお伺いしたいと思います。
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エズラ・F・ヴォーゲル#29
○参考人(エズラ・F・ヴォーゲル君) 今、高野さんがおっしゃったように、有事の場合ですと、日本は命をかけないで血を流さない。アメリカ人が亡くなれば多分日本に対する反応は非常に強い。アメリカはその点で世論がかなり強くなると私は思いますね。イラク戦争のとき日本はべらぼうの資金を使ってもやっぱり批判が残った。ですから、特にアジアの場合ですと、日本の近辺で例えばアメリカ人が亡くなって日本人が血を流さないと、アメリカの反応はすごく強くなると私は思います。
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