若林正丈の発言 (外務委員会アジア・太平洋に関する小委員会)

⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。 詳細は利用規約をご確認ください。

○参考人(若林正丈君) 若林でございます。
 私は、台湾政治及び台湾の近現代史を専攻している者でございます。本日は、台湾政治と台湾海峡両岸関係についての関連について思うところを述べよという御指示でございますので、台湾政治専攻の立場から所見を述べさせていただきたいと思います。
 お手元に要旨をお配りいただいていると存じますが、その最初の太い文字の方がいわば結論でございます。まず、しり切れトンボになるといけませんので、それを敷衍する形で先に結論を述べさせていただき、後に、八ポイントありますが、重点的にそれを支えるポイントでございますが、それを述べさせていただきます。
 昨年六月に台湾の李登輝総統が米国を訪問いたしまして、その後、中国がミサイル演習を含む強い反応をとりました。その際、私の脳裏に浮かんだ日本のことわざがございます。「雉子も鳴かずば打たれまい」ということわざでございます。キジは非常に高い鋭い声で鳴くというふうに言われておりますが、中国はキジが鳴いたと。鳴かなければしばらくはほかにいろんなこともあるんだけれども、中国という猟師は、キジが鳴いたのでこれ以上鳴くと撃つぞということを台湾及び米国、日本その他国際社会に対して示威をする、本気で撃つ気はなかったんでしょうけれども示威をしてみせたのが今回の事態になったというふうに思うわけでございます。
 しかしながら、台湾は単なるキジであろうかというふうに考えますと、後で申し上げますように、御承知のようにいわゆる台湾の奇跡と言われるような経済発展をいたしまして、さらにその上に政治の民主化をやってきたわけでございまして、その成績によって国際社会の一メンバーとしての一定の正統性をかち取りつつある。かち取りつつあるからといって、現在外交関係を持っていない国家が直ちに外交関係を結ぶというようなことは当面予想できないわけでございますが、そういう一定の正統性を持っている。
 さらに、米国が防衛的な武器は売却するということを約束しておりますので、武器体系の更新なども、台湾から見れば不満ではございますが着々と進んでおる。したがって一定の防衛力を持っている。さらには、米国の議会のように世界でも強力な一つの政治組織が台湾の存在に好感を示しているということもございます。一定の支持もあるわけでございます。
 したがって、中国は経済面では台湾を既に単なるキジとはみなしていないといいますか、キジではないと。APECでも台湾を受け入れておりますし、経済面では単なるキジではない、一つの人格を認めているということでございますが、政治的にはまだキジとみなしているわけでございます。
 こういう状況が続くのであれば、中国が政治面でも台湾を一つの人格とみなすという方向がとられないのであれば、台湾海峡の政治的緊張が長期的に見た場合に緩和に向かうということは余り楽観できないというふうに思うわけでございます。
 中国が、政治的に変わってしまった台湾という現実を受け入れるという新しいサイドの現実主義をとることができるならば、両岸が近寄っていくというよい方向への循環が考えられるわけでございますが、そうでないとすると悪い方向への循環というものも考えられて、東アジアの国際秩序がそこで変わっていくことも想定しておかなければいけないのではないかというふうに考えております。
 これが私の発言の要旨でございます。
 それで、まず最初に強調したいポイントは、その論旨の一に書いてあることでございますけれども、民主化ということは、一番平らかに言いますと、政府の権力を行使する重要な人々が自由で公正な選挙によって選出されるシステムができるということでございますけれども、そういう意味での民主化というものが現在の台湾において行われた場合に、単にそれが政治制度の改革ということではない、それを超えた内容を含むということを申し上げたいわけでございます。
 日本の少し古い言葉で申し上げさせていただきますと、単にそれは政治制度の改革だけじゃなくて、一種の国体が変わるという内容を含むのではないかと私は認識しているわけでございます。日本は太平洋戦争を経まして天皇人権の国家から主権在民の象徴天皇制の国家に国体が実際には変わったわけでございますが、台湾の場合、余りに平和的に行われたので、国際社会では余り変わったという認識をきちっと持てない場面があると存じますけれども、やはりそのような内容、一種の国体が変わったというぐらいの内容を持つものであるということをはっきり認識すべきなのではないかということでございます。
 その内容を申し上げますと、若干込み入りますけれども、戦後、台湾にある国家というのは中華民国を自称しておるわけでございますが、これは清朝を倒したいわゆる辛亥革命でできた国家でございます。その後、この国家が日本と戦争をしたわけでございます。そして、勝ちました。その後、中国大陸で内戦が起こりまして、中国共産党がこの国家を支えていた組織を台湾に駆逐したわけでございます。台湾では、中国と内戦をしている、中国共産党政権と内戦をしているという前提で戒厳令が長期にしかれました。それから、憲法を棚上げする臨時条項というような法律が行われました。
 これらが独裁政治の根拠になっていたわけでございますが、民主化するということはこういう法律を廃止しなければいけないということでございますから、国家体制が共産党と内戦をしているぞという体制からそうでない体制に戻るわけでございます。さらに、戦後の国家の政治権力を握っているグループは基本的には蒋介石氏とともに中国大陸から移った人々であって、いわゆる外省人と呼ばれる人のエリートであったわけです。しかし、民主化しますと、やはり民意の反映ということがございますから、そのエリートは台湾土着の人と次第次第に入れかわっていく。ですから、台湾化していくということになるわけでございます。
 そうしますと、中華民国というのは、中国の近代の革命と戦ってきたという正統性で台湾で存在してきたわけでございますが、民主化によって、民主化の際の選挙は中国大陸では行わないわけでございます、台湾だけで行うわけでございますから、主権在民の原則によれば、台湾の民意にのみ基づく政治権力がそこに生まれた、既に生まれたわけでございます。それを私は、中華民国第二共和制とでも言っておけば変化の内容が理解しやすいのではないかというふうに考えておる次第でございます。
 そういう台湾の変化と中国大陸の変化を対照してみますと、次に佐藤さんの方から両岸の経済関係については述べられると思いますが、経済交流は台湾の民主化と同時に進んでおりまして、経済的には両岸は結びつく傾向にあるわけでございますが、御案内のように中国大陸におきましては一九八九年に天安門事件が起こりまして政治改革はとんざいたしております。その一方で台湾は順調に政治改革が進んでいきまして、私が今申し上げましたような変化が起こったわけでございます。したがいまして、今の状況を描写するならば両岸の関係というのは、結びつく経済、離れる心というのがいい要約なのではないか。
 この結びつく経済と離れる心の方程式はどうやったら解けるのか。これがなかなかよくわからない。それが、現在、台湾海峡両岸関係が世界に難題を投げかけている理由であるというふうに考えております。
 申し上げたい二番目のポイントは、こうした台湾の変化というものが台湾の国際的地位、台湾を国際社会でどのように扱うかという国際政治の、国際社会のルール、それを私は、ニクソン訪中の上海コミュニケが出ました、そしてさらに田中訪中によって日中共同声明が出たその年の名前をとって一九七二年体制とでも言っておけばいいというふうに思っておるわけですが、それを動揺させているという認識でございます。
 この体制というのは言うまでもなく一つの中国、つまり中国の合法政権というのは中華人民共和国である、そして台湾はその中華人民共和国の一部であるという中華人民共和国政府の主張を尊重して台湾とは民間関係のみを持つという原則ですね。さらに、米国の場合は台湾関係法という法律でこれにもう一つ重要な条件を加えまして、台湾の前途の決定については平和的に行われなければならないということを決めたわけです。平和解決の条件というのがあります。これについては、中国はこれを受け入れるとは言っていないわけでございますけれども、アメリカ及び日本もどの程度か、口では言っていないわけでございますが、その平和解決を望むということは国際社会が条件づけていることであろうというふうに思うわけでございます。
 ところが、もう一つ暗黙の前提は、台湾というのは当時は国民党の独裁国家であったという条件、さらに台湾と中国、いわゆる両岸関係というのは共産党と国民党の関係、国共関係であるという前提であったわけでございますが、先ほど来申し上げましたように、いわゆる国体の変更とも言うべき台湾の変化によってこういう前提は崩れているわけでございます。
 それに対して、御案内のように中国が軍事演習で台湾を威嚇するという行動をとりました。これは、平和解決が原則であるという七二年体制の了解からすれば、中国の方がこれを変更しようとしているというふうにも見られるわけでございまして、七二年体制はまたここでも動揺させられているというふうに私は認識しておるわけでございます。
 第三点は、このほど行われました総統選挙の結果というもののメッセージをどのように受けとるべきかということでございます。
 御案内のように、李登輝現総統が五四%という得票率で当選いたしまして、二位の台湾独立を主張している民主進歩党、民進党の彭明敏候補を三十数%離しまして当選いたしました。日本の新聞には李登輝氏圧勝という見出しが載ったわけでございます。
 ここで想起しなければいけないのは、李登輝氏に対して中国は隠れ台独派、中国の言い方では台独をひっくり返しまして独台と言っているんですが、中華民国という名称のまま独立してやろうという腹づもりなんだと、こういう認識でございますが、そういうレッテルを張りまして厳しく非難したわけでございます。言うまでもなく、彭明敏氏は公然と独立を主張しているわけであります。この二人の得票率を合わせますと七五%、投票した選挙民のうち四人に三人がこの二人を支持した、中国がまさに攻撃した人間を支持したということが注目すべき第一点でございます。
 第二点は、多少台湾政治内部問題に入りますけれども、李登輝氏が獲得した、あるいは彭明敏氏が得るはずであった票の三〇%ぐらい、つまり民進党の基礎票の三〇%ぐらいは李登輝氏に投票されているというのが合理的な推論であるというふうに言われておりまして、私も選挙のさまざまな数字から判断してそれは正しいというふうに思っております。これが注目すべき第二点でございます。
 第一点の李登輝プラス彭明敏、これが七五%という数字は、中国に対してもまた世界に対しても非常に明白な台湾の民意のメッセージであると思います。それは、中国の現政権が主張している統一政策、統一方針というものに対して明確にノーと言ったということでございます。
 第二の点、民進党の支持者が李登輝氏も支持したという一種のクロスボーティングが起こったわけでございますが、これは李登輝氏が国民党を超えて、さらに民進党と協力して一種の連合政府を組織し得る政治基盤が存在しているということをあらわしているのではないかというふうに考えられます。既にいろいろ水面下では動きがあると私は聞いております。
 したがいまして、私が言いますところの中華民国第二共和制というものが来月の五月二十日をもって一応形がつくわけでございますが、それの正統性を国際的に認知してもらいたいという願望は、台湾の民意においても、また台湾の政治の社会においても減少することは考えられないというふうに考えます。諸般の情勢からことし一年ぐらいは対外行動を緩和するということはあり得ると思いますけれども、長期的に見て、長期的というのは李登輝政権の四年間というふうに見ても、この願望が低下したりそれを反映する行動がなくなるという期待を持つのは現実的ではないだろうというふうに思います。これに対して中国が強く反応すれば、再びこの間のような事態が起こる可能性はあるのではないかというふうに思います。
 私としては、台湾海峡両岸関係の変化というものは、まず第一に、第一段階としては鄧小平氏の非常に賢明な現実主義がもたらしたものだというふうに考えております。七〇年代末に、御存じのように「改革と開放」というスローガンを掲げまして非常に柔軟な政策をとってきました。
 台湾政府についてはどうかといいますと、中国は、中国共産党は社会主義を国是としているわけでございますが、その外に資本主義経済によって反映している経済体としての台湾の存在を認めたわけでございます。御存じのように、一国家二制度という毛沢東時代の中国からは考えられないフォーミュラが提出されました。台湾の経済的存在、西側の資本主義体系の中で発展してきた経済的存在を認めるということによって両岸関係は大きく緩和して経済交流は発展してきたわけでございます。
 ですから、次の段階としまして、両岸関係が発展するためには、台湾が民主化して国家の性格が変わってきた、脱内戦化して台湾化したという政治的現実を中国がのみ込んでくれない限り順調な解決はなかなか難しいのではないかというふうに考えるわけでございます。台湾が変わったという現実をきちっと受け入れなきゃいけないのは、中国だけではなくて他の国家も国際社会も同様であるわけでございまして、台湾が昔のままの独裁国家であるという前提で国際社会のルールが、一九七二年体制というのができているわけでございますが、それの基盤は動揺しているという認識を我が国も持つべきではないかというふうに考える次第でございます。
 以上でございます。

発言情報

speech_id: 113613974X00419960403_003

発言者: 若林正丈

speaker_id: 30880

日付: 1996-04-03

院: 参議院

会議名: 外務委員会アジア・太平洋に関する小委員会