中里実の発言 (税制問題等に関する特別委員会)
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○中里参考人 中里でございます。
私、学者でございますので、極めて理屈だけのお話をさせていただきます。政策論はもう先生方の御専門ですので。
私の専門は、国際課税とそれから今のような金融取引課税、特に、デリバティブ及びセキュリタイゼーション等最先端の金融商品に関する課税が専門でございますけれども、ここではそういう話とは別の、もっと一般的なお話をさせていただきます。
レジュメに沿ってお話ししていきます。
まず、課税の目的なのですけれども、これは、税収確保と、それから課税をすることによって何らかの政策目的、誘導目的を達成するという、この二つのバランスの中に租税制度があるということで、どちらも大切だと言わざるを得ません。
現行の租税制度が直面する問題点はさまざまあるのですけれども、まず、高齢化の時代ですから、何といっても税収の確保の要請というのはここ数十年日本にとって極めて重要な問題になってくるだろうと思われます。税収なしに高齢化に対応するわけにはいかないということです。
それから、国際化の時代でございますので、国際競争力確保の視点から税制を考えていく、特にその誘導効果等を考えていくという視点も必要になってくると思われます。
それと、先ほどの竹内先生のお話と全く密接に関連するのですが、情報化の時代でございますので、国際化ともこれは絡んできますけれども、さまざまな執行の困難が生じてまいります。税務署の方で所得等を捕捉できないということが出てきますので、執行確保の要請というのがそこから出てくるだろうということで、さまざまな問題が絡んで難問として我々の前に突きつけられてくるわけです。これらをバランスよくどうやって解決していくかということが我々の課題でございます。
その中で、中期的な展望、ここ数十年、数十年を中期的というかどうかわかりませんけれども、中期的な展望をどのように考えていったらいいかということで、以下、幾つかの分野に分けてお話しさせていただきます。
まず、個人課税の方向性ですけれども、これは、消費税を大幅に増税して消費税中心主義に移行するのが望ましいと考えます。
所得課税の抱える問題は余りにも大きい。その第一の問題点は、貯蓄の抑圧効果でございます。
稼いだときに所得税を課され、それが貯蓄に回されて利子等の資産所得を生んだときにまた課税されるという税制のもと、所得課税のもとでは、貯蓄するよりも消費した方が生涯税負担は軽くなりますので、これは貯蓄を抑圧する効果があるわけでございます。高齢化の時代にこのような税制がふさわしいかどうかは、大いに疑問のあるところです。
それから、最近の流れですけれども、所得課税の中に時価主義という考え方が拡大してまいっておりますが、時価主義というのは究極的に全部の局面に応用することは難しゅうございます。
上場されている金融商品については時価評価は可能ですが、例えば土地等について時価主義で含み益に毎年課税したら、これは大変なことになってまいります。時価主義は部分的にしか採用されない。そうすると、毎年含み益に課税される資産とそうでない資産との間のアンバランスが出てきますので、その意味でも所得課税は大きな問題点を抱えているわけです。
そもそも日本の経済発展を租税制度で説明するとどうなるかと申しますと、これは、マル優を初めとする資産所得軽課によって民間部門の貯蓄が誘発され、それが設備投資に回されて資本蓄積に回り、高度経済成長が達成されたというのがまずまず妥当な経済学的な説明だろうと思います。つまり、所得課税を骨抜きにしたから日本は経済的に発展したという点がないわけではないということです。
消費税に関しては大変に大きな誤解がございます。消費税というと悪税だと考えていらっしゃる方、非常に多いのですが、消費税、付加価値税の税率が一五%、高い場合には二五%に達しているECで人々が不幸にあえいでいるということはないわけでございますから、むしろこれはいい税金だろうというふうに私は考えております。
逆進性というふうな批判もありますけれども、これは、所得を基準として考えるから逆進的になるのでございまして、所得を基準として考えれば所得税がいい税金になるのは当たり前のことで、そういうことをおっしゃる方は論理が逆転している。むしろ、消費に応じて課税するのが望ましいという立場に立てば、所得税は望ましくない税金だということになってくるわけです。そもそも、仮に逆進的であることが悪いことだといたしましても、租税制度全体として考えてどうかという視点もございますから、消費税だけをあげつらって悪い悪いと言うのは、これは考えものであろうと思われます。
また、消費税の逆進性を解決することは、手続的には容易でございまして、生活保護を受けている方とか御老人には、一定程度生活保護の支払いをふやすとか老人に対して福祉を手厚くするとかということで、消費税増税分をそちらでカバーするということは可能ですから、消費税を全体として累進的にすることは容易でございます。
それから、借金を消費しても課税されるのはけしからぬという考え方がありますが、借金をできるのは豊かな証拠でございまして、借金もできない人が一番かわいそう、消費税も払えない人がかわいそうなので、借金して消費するとはどういうことかといいますと、将来生ずるであろう所得を前倒しして消費するわけですから、これは課税して何の差し支えもない。貧しい人の考慮はまた別です。
それから、資産税にも欠点がございまして、これは、人間の能力には課税されないけれども、物に対してだけ課税されるということで、親から豊かな才能を相続した人間は課税されずに、親から財産を相続すると課税される。優秀な人だけが得をする税制ということになるんだろうと思います。
そうしますと、結果的に何がいいかといいますと、資産税はいろいろ議論はあるんでしょうけれども、所得税の減税と消費税の増税というのは、これは理論的には必然的なことだろうと思われます。所得税の減税は既に実施済みですから、消費税の増税もこの間実施されましたので、今後は、より一層その傾向を強めていくということだろうと思われます。
その際に注意すべきことは、消費税の税率は過大に表示されるということでございまして、今、所得百万円でその百万円を消費に回すといたしますと、二五%の所得税をかけると二十五万円の税収が上がります。百万円の所得があってそれを消費に回す人に二五%の消費税を課税しますと、これは八十万円の消費に対して二十万円の消費税ということになりますから、消費税は二十万円しか上がらないわけで、消費税というのは税収が同じ税率のもとでは所得税よりも低い、つまり、税率が高目に表示されることがございますので、その点も御理解いただけたらと思います。
それから、企業課税の方向性ですけれども、これは課税ベースの拡大による、できれば付加価値課税への移行というのが望ましいのではないかと思います。少なくとも、法人税の減税は消費税の増税とセットでなければ困難であろうというふうに思われます。
法人所得課税自体には大変に大きな問題がございまして、例えば、法人に課税する際に、その所得に対して課税しなければならない必然性というのはないわけです。法人の生み出した付加価値に課税してもよろしいわけですし、法人の資本金額に応じて課税してもいいわけですし、何を選ぶかは政策論の問題でありまして、法人に課税するから所得に課税しなければいけないというのは論理的には誤りです。法人所得税は、むしろ法人セクターへの投資を抑圧する効果がある程度ございますので、できれば国際標準程度にとどめておくのがいいというふうに考えます。
その後、さまざまな図が書いてありますけれども、ここはどういうことかといいますと、要するに、企業の生み出した価値というのは所得ではなくて付加価値なんだ、企業活動の成果というのは所得ではかるべきではなくて付加価値ではかるべきである。付加価値というのは、利益、これが株主の取り分です、それから支払い利子、これが債権者の取り分、それから支払い賃金、これが労働者の取り分、この三つの合計額として計算されるわけです。
法人税の課税ベースとして理論上可能なのは、二ページの「法人税の課税ベース」というところに書いてあるところでございますけれども、所得に対する課税、これが法人所得税、それからアメリカの財務省方式の支払い利子の損金算入を否定する方式、それから付加価値税、それから、ちょっと話は別ですが、レソト税というのがございます。
売り上げから仕入れを引いて、そのほかに引けるものとして、自己資本コスト、支払い利子、支払い賃金の三つがあるわけですけれども、法人所得税では自己資本コストは引けずに支払い利子と支払い賃金のみが引けるということで、自己資本形態で資金を調達した場合と借入金で資金を調達した場合とで扱いがアンバランスになる結果として、借入金による資金調達が優遇されるという効果がございます。
その欠点をなくすためには、支払い利子の損金算入を停止してしまえばいいわけです。これは私の考えではありませんで、アメリカの財務省の考え方です。それをやりますと、今度は賃金だけが控除されてしまう。つまり労働集約的な産業に有利ということになってしまいます。
付加価値税は、この支払い賃金の損金算入も否定した法人税だと考えられます。つまり、すべての生産要素の投入に対するフローを損金算入を否定するということで、まことに中立的な税金ということになります。
そうすると、純粋に理屈の上からいいますと、法人所得税を廃止して消費税をその分増税するというのが一番望ましい結論になりそうですが、ところが、そうはいかない理由がございます。それは、法人所得税の負担をほかの先進諸国以上に下げるわけにはいかないということでございます。リヨン・サミット等で、課税引き下げ競争への参加に対して、日本はそういうことは行わないと国際的に公約したこともございますので、国際標準以下に法人税を軽減するということは、これは日本としてはやってはいけないことだろうと思われます。
そうすると、国際標準まで法人所得税を下げ、その見返りとして課税ベースを拡大していく、場合によっては消費税も増税していくというのが望ましい方向性なんだろうと思われます。消費税増税は今世紀いっぱいできないということであれば、法人税の課税ベース拡大でその税率軽減を図っていくというのが理屈の上でも一番合っている。それも嫌だというのであれば、環境税等も一考に値するのではないかというふうに考えております。
以上、所得課税に関しては、所得税、法人税を軽減して、中長期的ですが消費税の税率を上げる、これのみが理屈の通る唯一の方法であるということが結論でございます。
それから、課税の繰り延べに対する対応というのがございまして、ここにも所得税、法人所得税の欠点が露呈されるわけですけれども、利益操作が非常にやりやすいということが起こってまいります。それに対応するためには、時価主義ということが出てくるんですが、先ほど言いましたとおり、時価主義は非常に不公平になる可能性がある。しかし、所得課税にこだわるのであれば、時価主義は必然的でございます。その時価主義の対象というのは広がっていくだろうと思われます。時価主義が広がれば連結納税等は不必要になります。なぜならば、子会社の株式が時価で評価された場合に、子会社に赤字があればその株式はマイナス、含み損が出てきますので、必然的に親会社の損益に反映されるということでございますので、この辺はさまざまな効果があるということです。
それから、デリバティブを用いた課税繰り延べというのが非常に可能なんですけれども、これは所得課税の枠内での対応というのは本質的には不可能ではないか。もちろん、時価主義である程度対応は可能ですが、本当に本質的には難しいのではないかというふうに思います。
それで、消費税の増税も難しくて所得課税で対応していくためにはどうしたらいいかといいますと、次に申し上げます執行の強化というのがぜひとも必要になってくるだろうというふうに思われます。
竹内先生のおっしゃったことと全く重なりますけれども、外国為替法改正により生ずるさまざまな執行上の困難、これは私、法律家ですから、こうやるとインチキができるというようなことを先生方の前で申し上げるわけにはいきませんけれども、さまざまなことが可能でございます。それから同時に、デリバティブ取引等の進展に伴って所得税、法人税の執行の困難が生じてくるわけです。
どういうふうに生じてくるかというと、一つは、源泉徴収が難しくなる。源泉徴収というのは、利子とか配当とか、所得の性質を限ってそのものについてだけ適用されるものですから、デリバティブ取引を使って利子を事業所得に変えてしまえば、これはいとも簡単にできる話ですから、源泉徴収はたちどころに逃れられるとか、それから、申告納税の困難、これは時価主義等と絡んで出てきますけれども、そういうものが予想されます。
ですから、どうしても執行の強化というのが必要になってまいります。つまり、所得税、法人税が源泉徴収が非常に難しくなってきて、その中で執行の強化を図るためには、申告納税制度を整備するしかないわけでございまして、申告納税制度をきちんと諸外国並みに動かすためには、以下の改正が国際標準でございます。これがない申告納税制度は自発的納税制度ということで、納税が自発的というのは論理矛盾でございますから、それはあり得ない話です。
一つは、質問検査権の強化でございます。日本の質問検査権は先進諸国の中でスイスに次いで弱いというふうな結論を私は持っております。出かけて調査させていただく、コピーもとらしていただけない、場合によっては、罰則はありますけれども、拒絶できるというような制度になっております。アメリカやフランスでどうなっているかというと、資料を持ってこい、持ってこないとみなし課税を行うぞという制度になっているわけですから。イギリスでもそうでございますけれども。そこまでするのがいいかどうかはともかく、質問検査権が今のままでは申告納税制度は機能いたしません。不公平が生ずるわけです。
それから、さまざまな情報申告制度が必要になってくるだろう。これは今の支払い調書のようなものをもっと拡大して、いろいろな取引の局面に応じて、さまざまな課税資料を金融機関なり取引先が税務署に対して提出するという制度でございます。アメリカ等で非常に発達している制度です。
それから、納税者番号制度の採用も、これはどの範囲で採用という問題はもちろんあるかもしれませんけれども、基本的には、入れなければ申告納税制度にはならないと思います。
それからもう一つ、日本では裁判に行ったときの立証責任が常に国側にございますので、自分のことは自分が一番知っているんですから、納税者にある程度、常にとは申しませんが、ある程度立証責任の転換というのも必要になってくるのではないかと思います。これは恫喝に近いわけですが、申告納税制度というのはこれくらい厳しい執行体制のもとでなければ成り立たない、ここがポイントでございまして、それがいいのかどうかは政策論的に国会の方で判断される問題なんだろうと思いますし、学者がどうこう言える問題ではございません。ただ、そういうことになるんだという論理的な帰結を申し上げました。
結局、所得税、法人税では対処できない問題に対して、消費税の増税が無理な場合に何があるかというと、流通税によって補完していかざるを得ないというふうに考えます。これは有価証券取引税とか取引所税とか印紙税とか、そのようなものを通じて、これは取引が行われれば必ず課税されるものでございますから、補完的に導入しておくということに関しては、手続的にはそういうあり方があるのではないかと思います。
それから、このような流通税は、近代経済学的に申しますと、トービン・タックスという議論がございまして、過大なボラティリティーに対応するということで、要するにバブルをふやす効果があるというふうに言われておりますので、まんざら捨てたものでもないという議論もございます。
「結び」に入らせていただきますけれども、今から二十年ほど前に就職を決意するときに、日本の高齢化というものが、自分が年をとるころ、日本は高齢化していて年金ももらえないのではないかと非常に心配になりまして、それでは租税法学者になろうというふうに、余り大した理由じゃありませんが、決意いたしました。
それで、このような、国民に選ばれた、民主主義の制度のもとにおける代表の先生方の前で、その政策的判断の参考にしていただけるかもしれない理論的な基礎を中立的に提供する機会を与えていただいたことを非常に感謝いたします。
考え方の差はいろいろあると思うんですが、皆、国民の幸せを考えているという一点においては、これは同じでございます。私が言ったのと全く反対のお立場の方も、それは日本を悪くしようと思ってそう考えているわけではございません。また、私が消費税を好きなのも、日本を悪くしようと思ってそう考えているわけではないのでございます。
あと三十年をしのげば、日本の未来は明るいだろうと思われます。人口構成が極端に変化する時期、特に高齢者人口がふえる段階で経済が一定程度停滞するのはある程度仕方のないことです。今まで高齢者の人口比率が少なかったからこそ、日本は経済発展を、欧米諸国と比べて強い競争条件のもとで行うことができた。今まで我々はラッキーだった。そのツケが、ツケと言ってはなんですが、来るわけですから、それを嫌がっているわけにはいきません。ヨーロッパ、特に北欧において、消費税、付加価値税というのがむしろ社会民主党的な方々によって支持されているということがここでの重要なポイントなのではないかというふうに思います。
この他に、私の専門であります国際課税の問題等があるんですが、ここでは、これは時間の関係で省略せざるを得ません。
それから、地方課税については、中西先生の方から言いたいこと、いっぱいあるんだろうと思われますので、私は省略させていただきます。
以上でございます。(拍手)