植田和男の発言 (税制問題等に関する特別委員会)

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○植田参考人 御紹介にあずかりました東京大学の植田でございます。
 それでは、今御指示いただきましたとおり、最初に私の考えますところを簡単に要約させていただきまして、いろいろな点は、後の質疑応答の中で言及ないし議論させていただければと思います。
 ただ、私は、大学で理論を勉強したり教えたりしておりますもので、金融の実務あるいはビッグバンでは法律等が非常に重要になってくると思いますが、その辺に関しては不確かなことが多くて余りお役に立てないかもしれませんが、よろしくお願いいたします。
 そこで、最初の要約といいますか簡単な私の意見の紹介でありますが、まず最初に、どうしてこういう金融ビッグバンのようなものが現在の日本において必要になると考えられているかという背景のようなものを簡単にお話ししまして、それから、将来を望んだ場合にどういう改革の方向が望ましいか、さらに、それに照らしてみますと、現在決まりつつあるビッグバンの内容についてどう評価できるか、最後に、それが今後どういう影響を持つと考えられるかというような順序で話してみたいと思います。
 まず、ビッグバンの背景でございますが、いろいろ言われております。例えば金融の国際化、グローバル化、あるいは政治的なところでは冷戦の終結によりますアングロサクソン関連の制度の優位の確立、あるいは金融の技術の変化等であります。いろいろ言われておりますが、私の考えでは、大きく言いまして、金融の技術の変化の影響が非常に大きいというふうに考えております。
 文献を見てみますと、実は百年ほど前に同じ時期がございまして、二十世紀初めのロンドンでは、朝起きた資産家がベッドの中から世界じゅうに電話で金融あるいはもう少し広い商品ないしサービスの売買の発注をするというようなくだりが、例えばケインズの本なんかに出てまいります。これは実は、十九世紀の後半から二十世紀の前半にかけまして交通とか電話、電報等広い意味での技術インフラ等が発展しまして、その上に乗って出てきた動きではなかったかというふうに思われます。
 これが二度の大きな戦争で中断されまして、さらにその後冷戦等もあって下火になってきたところに、一九八〇年代前半前後から一段とコンピューター、通信技術の発達、さらにそこに冷戦が終結したというようなことがありまして、米国中心に金融の新技術が生まれ、アングロサクソンの制度がそういうもとでいわゆるデファクトスタンダードになり、技術の進展さらに規制の緩和等の動きの中でグローバル化が進み、日本においても金融の国際化、一層の規制の緩和が迫られるということになってきているのだと思います。
 一言最近の金融の技術の性格について申し上げますと、具体例は時間の関係で省きますが、一方で、さまざまな専門化の進展、あるいは今までいろいろ組み合わせて提供されていたような商品、技術が細分化されて提供されているという動きがございますし、さらに一方、細分化されたものが適宜自由に組み合わされて、お客さんのニーズに合ったように変換されるという動きも目立っております。そういう中での一つのインプリケーションは、日本におきます伝統的な業務分野規制が、こういう動きに対して障害になったりあるいは無意味になりつつあるということではないかと思います。
 続きまして、こういう背景のもとで、望ましい規制緩和の方向であります。
 よく言われることでありますが、専門化された商品のそれぞれの市場が自由に発達するということが必要でありますので、まず、金融サービスの価格の自由化が必要であります。さらに、価格が自由につけられるだけではなく、新しい商品が自由に開発されていくということが重要でありますので、そういうような方向にさまざまな規制の緩和等が行われる必要がありますが、中でも業務分野規制の緩和というのは非常に重要であるというふうに思います。基本的には、市場メカニズムがうまく働くためのインフラの整備ということになりまして、具体的には、法律、会計、税制というあたりが基本ではないかというふうに思います。
 さて、そういう動きをにらみつつ、昨年秋からさまざまなところで金融ビッグバンの動きが進んでまいりまして、あしたにも大蔵省関係の審議会の案が出てくるということでありますが、これまでのところ、私が知っている限りで簡単な評価をしてみますと、既に通ってしまいましたが、外為法の改正が非常に大きな影響を持つということが第一であります。
 すなわち、これまで以上に徹底して内外の資本移動が自由になるということでありますので、日本の市場あるいは日本の金融機関のサービスの使い勝手が悪ければ、取引は外国に逃げてしまうというインプリケーションを持ったものであります。したがいまして、この規制緩和措置は、ある意味では日本の金融市場の一層の空洞化をもたらすことになるか、あるいは一生懸命頑張って日本の金融市場をいいものにすれば日本に取引がとどまる、そういう選択をかなり厳しい形で突きつけているものというふうに考えられます。
 価格の自由化が重要であると申し上げましたが、幾つかの典型例あるいは一つの典型例で申し上げますと、株式の委託売買手数料率の自由化という問題がございます。これに関しましては、新聞報道等で見られる限り、明日出てきますのは、例えば来年四月に取引金額五千万円程度のところまで手数料率を自由化する、その後は一九九九年末にかけて完全な自由化を図るということのようであります。時間はかかりますが、望ましい方向で自由化がなされつつあるということかと思います。ただ、もう少し早くやってもよかったのかなという感じを私は持っております。
 業務分野規制緩和の方向としましては、御案内のように持ち株会社を使う方式と業態別子会社を使う方式で、やはり少し時間をかけて進むという方向が見えておりますが、いろいろな制約がついていること、特に保険の分野がさまざまな問題で非常に保守的になっていることが全体のペースをおくらせているという懸念を私は持っております。
 ビッグバンの影響でありますが、まず金融業界の中でいろいろな変化が起こるであろう。端的に申しますと、金融業はこれまで広い意味のいろいろな規制に守られまして進んできた業界であったわけでありますが、その規制が順次取り払われていく、本格的に取り払われるということでありますので、ほかの普通の業界と同じような方向にかなりの程度行くということであります。その意味は、非常に簡単なサービスを提供するだけでは余りもうからなくなるということであります。例えば株式の売買の取次業務程度では、手数料率が非常に低くなると考えられますので、大したもうけは出なくなるということであります。
 どういう場合にもうかるかといえば、明らかなことでありますが、他人がなかなかまねのできないようなイノバティブな商品・サービスを考え提供した者の勝ちということであります。しかし、だれがそういうサービスを提供できるようになるかということを現在の時点で予想するのは非常に難しいことではないかと思います。
 また、違うディメンションで申し上げますと、競争は、例えば外資系の金融機関対日本の金融機関という次元で一つ行われると思いますし、業務分野規制が緩和される方向に行きますので、日本のさまざまな違った業界の間で競争が厳しくなるという次元もございますし、さらに、既存の業界の中で相対的に強い企業と相対的に弱い企業の間の競争が激化し、弱い企業が駆逐されていくという意味で競争が起こるという次元もあるかと思います。場合によっては、三番目の次元がかなり厳しい影響を個別の企業にはもたらすのではないかというふうに私は思っております。
 国民経済へのプラス・マイナスでありますが、参考になりますのはイギリスのビッグバンであります。十年ほど前にやや小さい規模で似たような動きがあったわけでありますが、ビッグバンが始まりまして一年たった後、イギリスのマスコミが、ビッグバンでどういう層が一番メリットを受けたと考えるかというアンケートを実施しております。その結果によりますと、大まかに申し上げますと、最大のメリットを受けるのは、金融業界ではなくて、そのユーザーであるという結果が出ております。例えば最大の票といいますか回答をもらった層は機関投資家であります。これが三二%。それから金融機関以外の資金調達あるいは運用を行うような企業、これが一九%という答えが出ておりまして、ビッグバンの最大のメリットの享受者はユーザーであるということだと思います。
 最後に、ビッグバンへの障害といいますか、あるいはビッグバンが進むに伴って予想される幾つかの問題について触れたいと思います。
 最初に、今の点と関連しますが、ユーザーはメリットを受けるわけでありますが、必ずしも一様にメリットを受けるわけではありませんで、メリットの受け方にも濃淡があるということだと思います。例えば大口のユーザーのメリットの方が小口のそれより大きいということが恐らくあるのではないかというふうに思われます。
 さらに、ユーザーに限らず、一般国民あるいは関連の金融機関の従業員というようなことで申し上げますと、恐らく懸念される影響は、分配の不平等化が進行するということではないかと思います。もちろん、その裏側としまして、広い意味での労働市場の流動化、雇用の流動化、あるいは賃金の伸縮度合いが高まるというようなことがないとビッグバンはうまくいかないということではありますが、そういう意味で、うまくいった場合にはさまざまな問題が労働市場の周りで起こってくる。これにどういうふうに対応するかということは一応考えておかないといけないことではないかと思います。
 二番目に、言い古されたことでありますが、改善はされつつありますが、足元の不良債権問題がビッグバンとの間で問題を起こす可能性があるということは言うまでもないかと思います。
 最後に、現在進行中のビッグバンの評価と関連するわけでありますが、市場インフラの整備をもっと進めないといけないということだと思います。
 法律、会計、税制と申し上げましたが、特に、まず法律につきましては、恐らくことしから来年にかけて提出されるような法案だけでは不十分でありまして、現在検討が始まっておりますような金融サービス法、すなわち金融業全体をにらむような法律の制定が不可欠ではないかというふうに思います。
 あと、税制につきましては、来年四月に先ほど申し上げましたように国際資本移動が一層自由化されるという中で、いいか悪いかは別にしまして、ある種のグローバルスタンダードと余り乖離した税制を維持し続けることのデメリットが目立ってくる可能性があるということと、さまざまな金融商品ないし金融所得間の税率が必ずしも一様でないことからいろいろなゆがみが発生しているという点を是正していく必要があるのではないかなというふうに私は思っております。
 とりあえず、以上で私の話を終えさせていただきたいと思います。(拍手)

発言情報

speech_id: 114004587X00619970612_004

発言者: 植田和男

speaker_id: 4023

日付: 1997-06-12

院: 衆議院

会議名: 税制問題等に関する特別委員会