田中直人の発言 (国民生活・経済に関する調査会)

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○参考人(田中直人君) きょうは、私は阪神大震災の被災地である神戸から参りました。
 阪神大震災直後、悲惨な状況の中でつぶさに現場の調査等を通じまして感じたこと、あるいはそれから見て今までの町づくりで感じたことを一冊の本にまとめました。その本の内容につきましては、皆様のお手元に届くかと思いますが、きょうはその中で感じたことを御紹介したいと思います。
 まず、レジュメの方をごらんになっていただきたいわけですが、阪神大震災による都市環境の変化によってたくさんの方が犠牲になられたとか、あるいはその中には高齢者とか障害者の方が多かったとか、あるいはライフラインの欠如によって大変なことになったと。そういったことは、マスコミの報道あるいは現地の皆様方の調査等によって十分御理解いただいていることかと思います。
 しかし、そういった一連の阪神大震災での町づくりでの問題というのは日々時間がたつにつれてどこか風化している部分もありまして、改めて私はこれから二十一世紀、超高齢社会という中でどういった町づくりを考慮していくべきかということについて述べてみたいと思います。
 レジュメの方の三番目に移っていただきたいんですが、阪神大震災の後、とにかく強い町づくりということが非常に叫ばれました。都市のいろんなインフラ部分を壊れないようにする。鉄道であり、道路であり、住宅であり、建築物であり、そういったものが壊れなければいいんだという発想でやられました。しかし、都市というのは人が住む場所でありますから、単に器が丈夫だけでは住みにくい町だと言えます。そこで、復興計画というものが進む中で福祉的な町づくりの視点から幾つかの提案をさせていただきました。(OHP映写)
 ここにありますように、少し見にくくて申しわけないんですが、まず、安心して住み続けられる住宅づくりであるとか、住宅にかかわるソフトの技術開発、自立を支援する技術開発と介護・看護システム、こういった一連の細かい提案があるわけですが、私は、提案の中で大きく七つにくくらせていただきました。
 一つは、先ほど井上参考人の方からお話もありましたが、都市の中で自然環境がたくさん残っている部分もあります。今回、神戸という町は六甲山それから大阪湾という海があったわけですが、意外とそういった自然環境が生かされなかったということです。そういったもともとの自然環境を生かした、例えば山の緑、市街地の緑の回廊及び水辺のウオーターフロントによるネットワークをすることによって、日常的にそれらを市民の憩いの場として活用しながら、いざというときは緊急時のいろんな活動に供するということがその一。
 それから、提案のその二は、商店街の再生ということです。今までの商店街というのは、大型店舗等に押されまして、旧市街地では非常に零細な小売、お父さん一人やっているようなお店がどんどんつぶれていっています。市場という非常にコミュニティーの場でもあるところが今回大変な被害を受けました。しかし、逆に今回の震災の中で立ち上がりが一番早かったのはそういった商店街からだったわけです。こういった商店街を再生することによって町の活性化を図ると同時にコミュニティーのコアにしようという提案です。
 その三が、交通とか情報の中心を人を中心にして、とかくハイテクに頼りがちなんですが、とにかく人を中心にしたコミュニティーの場で町の顔を形成する。要はわかりやすい町づくりをやったらどうかというのが三つ目です。
 その四つ目は、空間が非常に複雑で高度化してきました。そういうことで、地下あるいは地上ということで、土地の立体利用等で非常にわかりにくい空間になって、あるいは危険な場所が多いわけですが、そこに安全、快適なつなぎ空間をたくさんつくる、わかりやすくする、快適にする、こういったことを四つ目に挙げました。
 五つ目は、利便性の高い駅前、これはとかく今までの町づくりの中では、例えば大型商業の銀行であるとか、そういった商業施設に占められていましたが、これからの社会の中では、高齢者とか障害者、いろんな人たちが一番便利な場所に一番多くの情報が集まりやすい快適な空間をつくるということがまず大事ですから、そういう駅前という地区についての利便性あるいは快適性を高めた町づくりを提案しました。
 六つ目は、コミュニティーということは非常に今回大事とされました。すなわち、今まで都会に住んでいて声もかけ合わなかった人が声をかけ合う。そして、困ったときにいろんな物を出し合い、あるいは情報を提供し合いながら助け合う、これがまず町に住む、集まって住むという原点である。こういった認識の中で、新たにコミュニティーをどうしたらいいのか、こういった機運が現地では高まりました。この機運のヒントをぜひこれからの高齢社会の中で生かしていく町づくりが必要ではないか。そういったことから、これまでの住宅地のつくられ方の中において、コミュニティーの核となるような仕掛けづくり、これをぜひ入れないといけない。それは勢い、例えば集会所とかコミュニティーセンターをつくればいいのではないか。そういうものではなくて、もう少しきめ細かい、だれがどのようにして使うのか、あるいはどのような場面でコミュニティーを育成していくことができるのか、そういったきめ細かい話が必要かと思います。
 七番目は、やはり地域の防災拠点としての避難公園であるとかそういった街路、ネットワークの問題です。これらの都市のインフラというのは、残念ながら神戸はもとより全国を見ても、この関東、東京でもそうですが、同じような地震が来たち恐らく大変なことになるというような都市の環境が現存しております。そういったところに対して、全部スクラップ・アンド・ビルドで大きな道をつくるという発想じゃなくて、現在の都市の骨格を尊重しながら防災的な観点で再整備する、そしてアメニティーの高い空間として日常的な一般の市民の利用に供する、こういった街路の整備、公園の整備等が必要ではないかと、こういうことで七つを挙げさせていただきました。
 そういった一連の福祉の町づくりという視点を踏まえた復興計画の提案があったわけですが、私は、そのレジュメにありますように六つのことを最終的に挙げております。
 まず一番目ですが、重複する部分もありますが、人に優しい安全な都市施設をつくるということです。これはどういうことかといいますと、建築物、交通施設あるいは道路、公園、こういった一連の施設につきまして、現在バリアフリーというものがやられております。しかし、これまでのバリアフリー、例えばビルでしたらハートビル法等整備されておりますが、その中身につきまして見てみますと、下肢障害者、すなわち車いす使用者の方を中心とした整備がほとんどです。障害者といっても、目の不自由な視覚障害者、耳の不自由な聴覚障害者あるいは内部障害者、いろんな方がおられます。今後は、技術的な開発の問題もありますが、より広い範囲での障害を持った方への対応を考えた基準整備が必要であるということです。
 もう一点は、このバリアフリーデザインにおきまして問題が幾つか発見されております。一例を挙げます。
 例えば、道路の歩道の上に点字ブロックというのがありますが、あれは目の不自由な方が歩くためのものですが、一方、点字ブロックがあることによって、つえを使った方あるいは車いすの方あるいは高齢者の方が滑ったり、つまずいたりするという問題も起こっております。逆にあの点字ブロックは非常に景観を壊している、色が悪いということで地味な色に変えたりしておりますが、逆に視覚障害の方からは余計わかりにくいというような問題が出ております。
 すなわち、一つのことを環境整備、社会資本として投資しても、それが一方の方にとっては非常に不合理なことになっているという問題が多々あります。それをよく理解しないで、基準とか条例とかで全国一律にやってしまいますと、これは社会的に大変な資本のむだ遣いだと思います。ということは、よりそういった内容を多くの方に受け入れてもらえるような、すなわちユニバーサルデザインという言葉が最近あるわけですが、すべての人にとってより快適な効果をもたらすような新しい魅力的なデザインを開発する、このことがこれから必要になってくると思います。
 そういった意味での、これまでやられてきた条例、規則、要綱、全国で今たくさんの自治体が取り組んでおられる町づくりにつきまして、さらにそういった技術的な支援対策あるいは現在やられている環境に対する本当にいいかどうかという評価ですね、これをやはりユーザーサイドから見た整備の中で考えていくべきじゃないでしょうか。そういうことを思います。
 その次に私が言いますのは、安心して住み続けられる住宅の建設ということです。
 阪神大震災でも多くの住宅が壊れて、復興の住宅が建てられております。しかし、今、都市の居住者のライフスタイルを見てみますと、必ずしも従来の家族、お父さんがいてお母さんがいて子供がいてというような家族じゃなくて、残念ながら片方の方がお亡くなりになったり、あるいはシングルで頑張っておられる方、ヤングシングル、オールドシングルという方がたくさんおられます。あるいは、仕事の都合でどうしても普通のノーマルな生活タイプが過ごせないという方もたくさんおられます。これからそういった居住者のより多様な姿に対した住宅の供給が要るわけです。
 一方で、住宅を財産として取得するという向きや風潮が大変強いように聞いておりますが、やはり住宅は住んでこそ住宅でありまして、その住宅の空間としての機能もそれぞれの人の都市生活のいろんな部分を満たすものであるべきです。ということで、より多様な住宅が要るわけです。
 現在、被災地の方ではコレクティブハウジングという形で、例えば食事を共同化しまして、それぞれの方が住まう空間と共同で住まう空間を提供する。だから、公営住宅でもグループで申し込むというような形のものを試みにやっております。これからの高齢社会の中では、このコレクティブハウジングのようなものだけじゃなくて、例えば従前からありますようなグループホームとか、いろんなそういった福祉的な配慮、あるいはコミュニティー的な視点に立ったホープ住宅もありますが、そういったものを含めて考えていくべきだろうと思います。そういった意味では公共だけではこの仕事はできませんので、ぜひ民間の優良な事業を支援するような施策あるいは投資をぜひ試みていただきたいなと思います。
 それから、三つ目は保健・福祉サービスの充実と医療との連携と書いております。今回一番もろかったのは病院、医療施設です。一番頼りにすべき病院があっけなく壊れてしまいました。そして、たくさんの医薬品が不足したとか、そういったお医者さんが不足した、看護婦さんが不足した、いろんなサービスの対応ができませんでした。日常においても、これから高齢者がふえていく中でこういった医療へのニーズは高まっていくと思います。単に治療だけじゃなくて健康的な生活を支援する、地域に安心して住み続けるという意味から保健、福祉、こういった関連のサービス、あるいはそういった施設につきまして充実が必要ではないかと思います。
 それから、四つ目は先ほど申しましたような福祉の視点からは地域コミュニティー。要は、住宅に住むというよりは、これからは地域に住むということの視点が必要ではないかと思います。そのためには、これまでどちらかというと福祉の町づくりというのはハードをつくることが多くあったように思いますが、私は、これから地域において行動、すなわちアクションを支援するプログラム、アクションプログラムでより快適な空間をつくるためにサポートするソフトを技術としてつくるような支援技術が要るんじゃないか。そのためには、必要な人材であるとかリーダーであるとか、そういったものに対するいろんな啓発、研修あるいはそういった人たちを受け入れるような総合的な施設あるいは行政、民間のいろんな活動との連携、こういう多岐にわたるプログラムのことが必要になってこようかと思います。
 それから、五つ目は身近な情報提供ということです。今日、情報化社会とか言われておりますが、テレビとかそういった大きなマスメディアだけじゃなくて、もう少し身近なところで日ごろの生活を改善していくあるいは生活を楽しんでいくというような視点での情報、CATVが昨今いろんな地域でやられておりますが、それにつきましても普及している部分と、いろんな問題があるように聞いております。こういった身近な情報提供体制につきまして、改めて社会資本としてどのような形で投資していくのか。これが今後求められていくと思います。
 それから、六つ目は災害に強い防災拠点。先ほど言ったことにつながりますが、今回最も感じたのは仮設住宅のことです。これだけ科学技術が発達した我が国において、あの仮設住宅は惨たんたる非難を浴びました。住宅技術の進んでいる我が国においてどうしてでしょうか。私は一昨年イタリアへこの関係で調査に行きましたが、イタリアではそういった防災のヤードに、広域のネットワークの中でストックしているのを見ました。その住宅の中身も、日本のようなそういう画一なものじゃなくて、いろんな建築技術を駆使した新しいものが入っておりました。こういったことで、これからは資材のストックということをもう少し開発すべきであり、これを非常時だけのものとしてではなくて日常から一般市民の利用に供するような形で計画すると、こういったことも必要じゃないかと思います。
 そういったことで以上六つ挙げましたが、私は、さらにこれからの町づくりで環境整備の中に必要と思うことを述べさせていただきます。
 それは、全国の町づくり、生活環境の整備の中において非常に方法論が一様化してきた。これは工業化技術あるいは工業化された材料、工法を用いることによって、あるいはいろんなアイデアを持ち込むことによって展開されているわけですが、何となくその地域とか場所に応じたらしさみたいなものが全然なくて、住んでいる人にとってもアイデンティティーを感じるようなそういう場面が少なくなっているんじゃないか。例えば、駅前おりたら、どこでも同じような駅前空間があってみたり、金太郎あめのような町づくりがあります。これをやることのメリットもありますが、やはり一方で、場所を生かしたアメニティーを開発すべきじゃないかと思います。
 もう一つは、やはり住生活の中にたくさんの地域施設がありますが、現在、これを調べてみますと、ほとんど使われていない施設とか形骸化しているものもたくさんあります。これからライフスタイルの変化に合わせて多くの施設が出てくると思いますが、今までつくられてきたいろんな施設、例えばどこかで大きな体育館ができますと隣の県でもまた大きな屋根つきドームができるとか、同じようなことをやっております。そうじゃなくて、もっと国土全体で見た地域施設の計画が、投資が必要じゃないかなと思います。
 以上、時間もありませんのでこれぐらいにとどめますが、最後に、レジュメの最後に書いていますことを少し述べたいと思います。
 私が今一番感じているのは、こういった福祉の町づくりとかいう中で、二十一世紀は超高齢社会で、例えば消費税が上がるとか、国民が抱いている福祉の領域に関するイメージは非常に暗いです。私がこれまで述べてきた福祉というのは、決して障害者とか高齢者の人のための福祉じゃなくて、すべての人が生活をやっていて幸せを感じる、魅力を感じる、こういった町づくりこそ本当の福祉の町づくりだと思います。
 そういった意味で、これからの二十一世紀に我が国が、国際的な関係の中でいろんな難しい問題はたくさんあるわけですが、やはり国民一人一人が地域に愛着を持って、これはすばらしい、これは楽しいなというような場面づくりができるような社会投資をぜひやっていく必要があるんじゃないか。
 そういった意味で、先ほど井上参考人からもお話がありましたが、全体的な総合的な視点からの生活空間を構成する、こういった大きなビジョンがこれから求められていくと思いますので、ぜひ先生方にそういった点で頑張っていただきたい。私たちも研究者、教育者としてこれからやっていきたいと思います。
 どうもありがとうございました。

発言情報

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発言者: 田中直人

speaker_id: 13483

日付: 1997-04-16

院: 参議院

会議名: 国民生活・経済に関する調査会