五島正規の発言 (臓器の移植に関する特別委員会)
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○衆議院議員(五島正規君) ただいま議題となりました臓器の移植に関する法律案について、提出者を代表いたしまして、その提案の理由及び内容の概要を御説明申し上げます。
欧米諸国では、既に脳死をもって人の死とすることが認められ、脳死体からの臓器移植は日常的な医療として完全に定着しており、年間九千件を超える心臓や肝臓の移植が行われております。その移植成績も、新しい免疫抑制剤の開発などにより年々向上しており、多くの患者がこの医療の恩恵を受けております。
アジア地域でも、一九八九年から一九九五年までの間に、心臓移植については韓国四十八例、シンガポール十四例、タイ七十七例、台湾九十四例が行われたところであります。
一方、我が国においては、脳死は人の死か、脳死体からの臓器移植は認められるのかについて議論があり、臓器移植以外では助からない多くの患者は、迫りくる死の影におびえつつ、移植を受けることができる日を一日千秋の思いで待ちわびながら無念の涙をのんで死を待っておられるのが現状であります。ごく一部の方は移植を受けるためにやむを得ず海外に渡航しておられますが、海外においても多くの患者が移植を待っており、外国人である我が国の患者に対する門戸も徐々に狭まってきていると聞いております。こうしたことから、患者やその家族からは、我が国においても脳死体からの心臓や肝臓などの臓器の移植の道を開いていくことが強く求められております。
この問題につきましては、日本医師会生命倫理懇談会が、昭和六十三年一月、「死の定義」について、従来の心臓死のほかに脳の不可逆的機能喪失をもって人間の個体死と認めてよいとの報告をしております。
この報告書においては、
脳の死については、厚生省研究班の判定基準を必要最小限の基準として大学病院等の倫理委員会において基本的事項を定め、これによって疑義を残さないように、慎重かつ確実に判定を行うべきことであること、
脳の死による死の判定は、患者本人またはその家族の意思を尊重し、その同意を得て行うのが現状では適当であること、
脳の死による死の判定は、それが日本医師会等で一般的に認められるとともに、患者側の同意を得て、適切な方法で、医師によって確実になされるのであれば、それを社会的及び法的に正当なものと認めてよいと考えられること、
脳死判定による死亡時刻としては、初めの脳死判定時と、その後六時間ないしはそれ以上たってからの脳死確認時とが考えられ、死亡診断書の死亡時刻はそのいずれによってもよいが、死後の相続の問題に備えて、もう一方の時刻も診療録に記録するものとすること、
臓器移植は、臓器提供者及び受容者本人、またはそれらの家族が十分な説明を受け、自由な意思で承認した場合に、日本移植学会の定める指針に従って行うものとすること、
以上の内容が盛り込まれているところであります。
その後、平成四年一月に臨時脳死及び臓器移植調査会が、脳死を人の死とすることについてはおおむね社会的に受容され合意されているといってよいとした上で、一定の要件のもとに脳死体からの臓器移植を認めることを内容とする答申を提出しましたことは、皆様御承知のとおりでございます。
これを受けて、超党派の生命倫理研究議員連盟や各党・各会派の代表者から成る脳死及び臓器移植に関する各党協議会の場で検討、協議が重ねられ、平成六年四月には臓器の移植に関する法律案が衆議院に提出されました。その後、厚生委員会における参考人の意見聴取や、いわゆる地方公聴会の開催が名古屋市、仙台市、福岡市の三カ所で行われたものの、必ずしも十分な審議が行われたとは言えない状況でございました。このため、昨年六月には、審議を促進し一日も早い法制化の実現を図るとともに、移植医療が広く国民に受け入れられ浸透することを期待し、提出者から修正案が提出されましたが、昨年秋の衆議院解散に伴い、残念ながらこの法律案は廃案となるに至りました。
しかしながら、人工臓器の開発がいまだ十分でない今日、我が国においても、心臓、肝臓等の移植医療を国民の理解を得つつ適正な形で定着させ、人種、国籍を問わず人道的見地に立って、移植を待つ患者を一人でも多く救済できるようにしていくことは、一刻の猶予も許されない緊急の課題であります。
我が国においても、角膜及び腎臓については既に移植が行われており、医療としても定着していることは、皆様も御承知のとおりであります。
重度の腎臓障害により人工透析を受けている患者は、毎年約一万人ずつ増加してきており、現在では十五万人を超えるに至っております。これらの患者の方々は、人生を終えるまで人工透析を毎週受け続けるという大変な不自由な生活を強いられておりますが、腎臓の移植を受けた方々は生活の質が格段に改善され、多くの方が社会復帰を果たされているのであります。
このように、腎臓障害の患者の方の生活を大きく改善させる腎臓移植でありますが、残念なことに、近年、その件数は減少傾向をたどっております。この背景には、脳死・臓器移植問題の影響があるのではないかと指摘する声もあり、腎臓移植を含めた我が国の移植医療全体をさらに推進していくためにも、早期に脳死・臓器移植問題の解決を図っていかなければならないものと考えます。
このため、脳死体から臓器を摘出できることを明確にするとともに、臓器提供の承諾を初めとする臓器の移植に関する手続や臓器売買の禁止などを盛り込んだ包括的な臓器移植立法の一日も早い成立がぜひとも必要と考えております。
このような見地に立って、平成六年四月に提出された法律案の内容に、昨年六月に提出された修正案の内容を加え、臓器の移植に関する法律案を再度提出した次第であります。
以下、この法律案の主な内容につきまして御説明申し上げます。
まず第一に、この法律は、移植医療の適正な実施に資することを目的とすることとしております。
第二に、臓器の提供に関する本人の意思は尊重されるべきことや、臓器の提供は任意にされたものでなければならないことなどの臓器移植の基本的理念を定めております。
第三に、医師は、臓器提供についての承諾がある場合には、移植術に使用するため、脳死体を含む死体から臓器を摘出することができることとしております。ここで、脳死体とは、脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止するに至ったと判定された死体を言い、その判定は、一般に認められた医学的知見に基づき厚生省令で定めるところにより行うこととしております。
第四に、臓器提供の承諾についてでありますが、平成六年四月に提出された法律案では、本人の意思が不明等の場合においても、遺族が書面により承諾しているときには臓器の摘出ができることとされておりましたが、この法律案では、この部分を削除し、本人が生前に臓器提供の意思を書面により表示しており、かつ遺族が拒まない場合または遺族がないときにのみ臓器の摘出ができることとしております。ただし、当分の間の経過措置として、角膜及び腎臓については、本人の意思が不明等の場合で、遺族が書面により承諾したときは、脳死体以外の死体からの摘出も行うことができることとしております。
第五に、臓器の移植に関する記録の作成及び保存義務並びにその閲覧について定めております。
第六に、臓器売買及び臓器の有償あっせんについては、これを禁止することとしております。
第七に、業として臓器のあっせんをしようとする者は、厚生大臣の許可を受けなければならないこととしております。
第八に、平成六年四月に提出された法律案においては、法律の施行後五年を目途として検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるべき旨が規定されておりましたが、本法律案では、この法律の施行後三年を目途として検討が加えられることとしております。
このほか、必要な罰則規定等を定めるとともに、この法律の制定に伴い現行の角膜及び腎臓の移植に関する法律は廃止することとしております。
なお、この法律の施行期日は、公布の日から起算して三月を経過した日としております。
以上が、この法律案の提案理由及びその内容の概要でございます。
何とぞ、慎重かつ十分御審議の上、速やかに御可決くださいますようお願い申し上げます。