有本章の発言 (文教委員会)

⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。 詳細は利用規約をご確認ください。

○参考人(有本章君) きょうは参考人としてお招きいただきまして、ありがとうございます。
 私は、任期制法案は、大学システムや組織の活性化を意図している点を評価いたしまして、法案には基本的には賛成でございます、問題点もございますけれども。そういった観点から申し述べさせていただきたいと思います。
 三十年前に、一九六九年ですが、大学教授のキャリアに関する国際比較研究というものを社会学会に報告したことがございますけれども、それからこの間、大学のシステムや組織、人事制度に関して改革を提案してまいりました。しかし、今回の法案は、そういったシステムや組織、人事制度の限界を打開していくというような側面から非常に可能性を持っておるのではないかということでございます。何点か理由はございますけれども、そういったことを少し述べさせていただこうと思います。
 まず一つは、任期制法案は縦型組織を横型組織にするという可能性があるのではないかというふうに思っております。伝統的な大学組織に風穴をあけまして流動化、活性化を促していく、そして多様な人材の交流を図っていくということによって学問的生産、これは研究生産性、教育生産性といったようなものがありますが、そういう学問の発展を図っていくというところにこの法案の契機を見出すことができるのではないかというふうに思っております。
 日本の場合は、大学組織の閉鎖的構造については既にOECDの調査団とか内外の学者によって指摘をされてきておるわけでございます。社会とワンセット化した大学の終身雇用・年功序列制、これが我々のタームで言いますと競争異動よりも庇護異動型であったというふうになろうかと思います。つまり、十八歳で選抜をしました人材をできるだけ純粋培養しまして、三十歳前後で講師にいたしますと、三、四十年間はところてん式に定年まで庇護されるという構造でございます。
 その結果、ピラミッドの上位校から人材をできるだけ確保していきまして、その結果いわゆる系列校、学歴主義、学閥、インブリーディング、たらい回し人事といったようなものが優勢になる傾向が見られます。これは大学版の学歴社会でございまして、世界的に見ましてやはり閉鎖的な構造を持っておったのではないかということでございます。
 二番目に、日本の大学は現在、欧米のモデルをキャッチアップする構造から独自のリーダーシップを発揮するという構造に変えていく時期に来ていると思います。つまり、世界的に見て通用性や互換性を持ったそういう組織、人事制度もそうでございますが、といったものにしていかないといけない段階に来ておるわけでございます。
 明治以来の百年間は、先進国の大学のモデルを移植して、それを日本の中で加工したり応用したりしていくという、基本的にはそういう構造を持っておったわけでございます。こういうキャッチアップ型の構造というのは歴史的な成果、使命というものを果たしてきたわけでございますが、現在はさらに学問の世界で国際的な競争も激しくなってまいっておるわけでございまして、そこを突破していくような、世界に通用するような組織、構造にしていかなければいけないということでございます。
 お手元に資料をお配りしておりますが、資料一ページに、エポニミーという観点から世界の学問中心地の移動を調べております。従来のフランス、イギリス、ドイツから、二十世紀には学問中心地がアメリカに移ってまいっております。現在、日本の大学では、理工系や医学系を中心にしまして世界的にトップレベルに到達をいたしておるわけでございます。そういう意味では百年間のキャッチアップ型の構造というのは非常に効果を持ったということが言えると思うんです。しかし、科学引用索引、サイエンス・サイテーション・インデックスといったようなものを使って国際的に学者の学問的生産性を調べる、そういう研究などを参考にしますと、現在まだ日本は中心地をきわめるというところまで行っていない。ノーベル賞受賞者等もまだ少ないという現状がございます。ピークのところを上げていくと同時に、底上げをしていくという課題があるわけでございます。
 やはり大学は学問をするところでございますので、組織の中心は人、物、金、情報でございますが、特に人が重要でございます。そういう意味で、今回の任期制というのは人の流れというものを非常に重視していく、人事の流動化を図っていくということでございまして、先ほどから申しておりますような、日本のシステムや組織の底上げをしていくということの根幹をなすというふうに考えられると思います。
 三番目に、学問の論理に対応したような組織を構築していくという必要性がございます。これは法案の中でもうたっておりますが、先端的、学際的、総合的な学問領域、これは学問のフロンティアでございますが、ここに対応して創造的な学者や研究というものが要請される段階に参っております。
 先ほどから申している日本のシステムの中心にあったのは講座制でございます。これは明治二十六年に昔の帝国大学に入れられたわけでございますが、その当時は学者が大学へ居つかないという傾向があったわけです。これをできるだけ確保して日本の学問を発展させるためにつくったわけでございます。これがかなり現在まで大きな大学では中心になってきた制度でございます。
 しかし、その制度というのはやはり限界がございまして、三十歳前後で講師等を任用して、将来性にかけてやるわけですけれども、その人が必ずしも能力を発揮するとは限らないということが起こってくるわけです。定年まで三、四十年間、仮に生産性を上げない、非常に言葉は悪いですが無能であった場合には、その学問領域の発展が思わしくない、あるいは後継者養成が思わしくないというようなことも起こってくるわけでございます。
 任期制というのはそれを五年程度、分野によっては、人文・社会科学系は十年程度でもいいと思うんですが、五年程度でそういうリスクを抑えていくという意味も持っているわけでございます。欧米のシステムというのは、若いときには任期制を設けて年をとってテニュアにしていくというふうにしておるのは、そういう観点からやっておるというふうに考えられるわけでございます。
 四番目に、学問中心地をきわめました欧米のシステムにちょっと目を向けてみますと、全体的に終身雇用制、年功序列制の人事システムをとっておりません。そういう点で共通性がございます。任期制の原理によりまして、試補制度やテニュア制度といったものをしいております。それから、不偏主義の原理によりまして、庇護異動、特殊主義、身内主義、縁故主義、インブリーディング、こういったものをできるだけ抑制するようにしております。それから、競争主義の原理によりまして、業績の実績をもって評価をしていく。大体四十歳前後になってテニュアを与える、終身在職権を与えるというような構造にしておるわけでございます。
 そういったようなシステムの特徴をデータ的に見てみますと、カーネギー財団の大学教授職の国際比較研究というものが最近発表されました。それの結果をちょっと参考にさせていただきますが、資料の二ページに書いておりますように、これは世界十四カ国、香港が入っておりますが、一応十四カ国の二万人の学者に対して調査をやったもので、世界最初の大規模なものでございます。
 この調査の結果は、詳細は申し上げられませんが、三ページにありますように、性別では七六%が男性、平均年齢では四十五歳といったような特徴が見られますし、それから在籍した高等教育機関の数で見てみますと、大学や専門分野によって違いがある、国によって違いがある。こういうふうに大学教授の世界というのは非常に多様でございます。多様であるということを特徴にしております。それから雇用形態も国によってかなり違いがございます。南米では非常勤型が多くなっておるというようなこともございます。興味がございますのは、資料四、四ページでございますが、大学教員というのは大学に対してよりも自分の学問である専門分野に対して忠誠心が高いということでございます。こういう特徴を持っておるのが大学教授でございます。
 問題は、資料五にありますように、世界平均〇・八回大学を移動しております。日本の教員は〇・五二回でございます。生涯では世界平均が一・六三であるのに対して日本は〇・七八でございます。つまり、欧米の国では大体二回程度大学をかわっておるわけでございますが、日本は一回就職をしますとその大学から動かないという傾向があるわけでございます。先ほどの終身雇用型でございます。こういった特徴が先ほどの任期制的なシステムを入れているところとそうでないところの違いとしてあらわれてきておるということでございます。つまり、日本では大学教員の大事に関しては流動性が乏しいという構造を呈しております。その辺を今度の法案では変えていくというところに特徴があろうかと思います。
 今メリットの側面から申し上げましたけれども、問題点も多少ございますのでその辺を少し申し上げますと、まず一つは、大学教員というのは、流動性に関しては総論は賛成ですが、各論ではやや消極的でございます。資料六は、ちょっと古いですが、日本の理工系教員を対象にした全国調査でございます。これで見てみますと、流動化には大学教員はおおむね賛成をしておるんですけれども、専門分野によってはかなり否定的な側面もございます。医学系が一番流動化には賛成ですし抵抗が余りないということがございますが、分野によって三〇から五〇%程度が任期制に賛成で、問題点もいろいろあると。資料六のところ、六ページのところにありますような、弊害としては、細かな研究になってしまうとか、そういうような点が指摘をされておるわけでございます。
 それから二番目には、任期制というのはどうも研究重視になる傾向があるということです。教育を軽視してしまう傾向が起こるんではないかという危惧がございます。研究の方は比較的評価方法が確立されております。ですから、任期制を五年とか十年というふうに入れていきますと、短期間の間に実績の上がる研究評価が中心になっていく傾向がある、教育の方は等閑に付されるという問題が起こってくるんではないかということでございます。
 これから日本の大学で大事なのは、研究も非常に大事なんですが、高等教育が大衆化をしてきておりますので、教育をどういうふうにしていくかということが非常に大事なわけですね。そういうときに教育の方へ力を入れないということになってきますと、これは非常に大きな問題が出てくるわけでございまして、この点は考慮しないといけない。だから、任期制を入れると同時に、評価のやり方を研究一辺倒でやらないで、教育とかサービスとか管理運営とか、こういったようなものを考慮しながら考えていくということが非常に重要になってくるわけでございます。
 それから三番目に、持てる大学等がだんだん強くなって、持たざる大学や持たざる教員が弱くなっていくようなマタイ効果が起こるんではないかなということがございます。ですから、これも先ほどの評価方式を一元的なモデルにしないで多様なモデルにして、考えていくということによって改善を図っていかないといけないということではないかと思います。
 それから四番目に、それと関連しますが、画一的な任期制の実施は問題があるわけでございます。選択的任期制ということを法案ではうたっておりますが、これは私は賛成でございまして、できるだけ柔軟にソフトランディングをしていくということが少なくとも当面は大事なんではないかなと思います。専門分野、セクション、セクターによって大学人の世界というのは非常に多様性を持っている、先ほど申しましたような構造を持っておりますので、これを無視していくということはできないということでございます。それから、学問の自由ということを大学人は非常に大事にいたしますので、ここのところをきちっと担保してやっていくということが大事だろうと思います。そういったような問題点というものがあろうかと思います。
 大体そういうようなことでございますので、一応結論的には、問題点はありますけれども、この日本の組織、システムを活性化していくという点で重要な法案であるし、基本的には賛成できるということでございます。
 以上であります。

発言情報

speech_id: 114015077X01519970603_004

発言者: 有本章

speaker_id: 1312

日付: 1997-06-03

院: 参議院

会議名: 文教委員会