中野良顯の発言 (文教委員会)

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○参考人(中野良顯君) お手元にお配りいただきました「児童生徒の問題行動等について」という十五ページの資料を用いて意見を申し上げたいと存じます。
 最初にありますように、まず問題行動の分類、それから日本の問題行動の趨勢、その分析と対応、予防、そして児童生徒の健全育成、そういう順序で申し上げたいと思います。
 まず、二ページの問題行動の分類でございますけれども、いろいろな分類の仕方がございますが、コントロールの不足による問題行動と、コントロールし過ぎによる問題行動という分け方がございます。オーバーコントロールとかアンダーコントロールという言葉が使われますが、コントロール不足の中には、いじめや校内暴力とか反社会的行動といったようないわゆる攻撃型の行動が含まれます。逆にしつけられ過ぎといいますか、この過剰になっている場合に、不安とかうつとか引きこもり、登校拒否、自殺といったような問題が起こりがちになります。
 日本の問題行動で最近話題になっておりますいじめの発生状況のグラフをそのページに掲載いたしました。これは文部省の調査結果でございますが、昭和六十年度をピークとして急激に減っておるという傾向を持っておりましたけれども、大河内清輝君の事件が起きた平成六年、そしてその後、文部省等がさまざまな対応をしたにもかかわらず、平成七年度にはさらにふえているという傾向をごのグラフは示しております。
 学年別のいじめの発生件数を見ますと、中学一年生が一番多く、中学二年生がそれに次ぎます。そして、小学校六年生、さらに中学三年生、小学校五年生といったように、中学時代の問題が非常に大きいことが推測されます。
 攻撃型の問題行動の二つ目は校内暴力ということでございますが、三ページにございますように、校内暴力はじりじりと増加をしてきているということがこのグラフからわかります。中学校の発生件数は一九九五年に非常に多くなっていることがわかります。発生学校数というデータは横ばいですけれども、やはり少しずつ上昇ぎみの傾向が見られます。高校の発生件数、これも増加をしておりまして、発生学校数もふえつつあるということが憂慮されます。
 逆に、問題行動と申しましても、非社会性の問題行動として典型的なものに登校拒否というものがございますが、文部省の統計では、長期欠席者のうち、学校嫌いを理由に五十日以上長期欠席する児童生徒というふうに定義をしております。
 小学生で五十日以上の欠席者は病気が一番多いわけでありますが、一万五、六千人前後で横ばいをしておりますけれども、学校嫌いというのは一九八四年にはわずか四千人でありましたが、一九九七年になりますと、病気とほぼ同じ一万六千人に近づいていることがわかります。中学校の長期欠席者はもともと学校嫌いによるものが他を圧しておりまして、その数は六万人を超えているという憂慮すべき現状にあります。
 さらに、三十日以上の登校拒否という統計が九一年度からなされておりますけれども、下のグラフにございますように、九六年度には小中学校合わせて九万人を超えていることがわかります。
 直接のきっかけというのは、小学校の場合には本人の問題、家庭生活、学校生活という順序ですが、中学校になりますと学校生活に起因するものがトップになっておりまして、次いで本人の問題、家庭生活ということになります。学校生活ということになりますと、一つは勉強についていけるかどうか、もう一つは友人関係、いじめ等も含めたそうした対人関係上の不愉快な出来事ということが考えられます。
 登校拒否の区分についてはさまざまな方法がございますけれども、文部省統計では、不安など情緒的混乱の型、無気力型、複合型、遊び非行型、そして意図的に学校に行かないで生きるといったような、ウェー・オブ・ライフといいますか、生き方としての登校拒否、こうしたものがございますが、不安など情緒的な混乱の型と無気力型が多いことがわかります。
 さらに、五ページには保健室登校、保健室に登校しているお子さんのデータでございますけれども、一九九〇年度の調査と九六年度の調査、二回、学校保健会の調査がございます。一校一日当たり保健室利用者数、いずれも九六年の方が増加をしております。心身の健康問題の年間発生状況では、慢性疾患に次いでいじめが多くなっていることがわかります。白いグラフは高校、黒いグラフは中学、灰色のグラフが小学校でございます。
 体の問題で保健室に来談をしておりますけれども、心の問題を背景に持っているという場合について、グラフは小中高校で高校が一番多いわけでございますが、現在継続支援中の心の問題の事例も、一九九〇年度に比べますと増加をしていることがわかります。現在、保健室登校しているということ、つまり在籍学級には行けずに保健室で勉強をしているお子さんが推計で一万人を超えるという状況がございます。
 六ページは高校中退でございますが、高校中退の子供の数は約十万人前後でございます。アメリカなどに比べますと高校中退率は非常に低いわけでございますけれども、しかしこれも、高校生の数が減ってきているということを考えますと、決して中退率が減少してはいないということがわかります。
 最後に自殺でございますが、小中学校児童生徒の自殺者数は、全体としては減少の傾向をたどっていることがわかります。
 問題行動全体の動向といたしましては、やはりいじめが一校当たり発生件数で一・五件というように、全国小中高四万校以上の学校の中でいじめの問題が六万件近く起こっているということがわかります。登校拒否も例年増加をたどっておりまして、昭和四十一年度の調査開始以来、最高の数値になっております。今余りマスコミでは取り上げられておりませんけれども、校内暴力の増加は大変憂慮されるところでございまして、攻撃型の問題行動に対する対応ということが一つの緊急の課題になっているかと思われます。
 こうした問題行動をどう分析し対応するかということに関して申しますと、八ページにございますように、いじめや校内暴力の神話と事実ということで申しますと、加害者は外面は強そうに見えるけれども内面は不安定で壊れやすく、他の子供たちより自尊心が低いといったような常識がございますが、事実は逆でありまして、加害者は自尊心も低くないし、別に不安や心的な問題を持っているとは限らない。加害行動をむしろ正当化し、いじめは好きだというような言動を発する場合が多く、発見された後も加害者の側で被害者に謝罪をするといったような行為はまれであることがわかります。
 いじめ問題は田舎よりも大都市の方が多いというのも誤りでありまして、知覧町の場合などは人口一万四千でございましたけれども、やはりいじめの問題は起こっている。つまり、都市と農村の差はないということであります。学級、学校規模が大きければ大きいほどいじめや校内暴力が多いか。これも、小規模校であっても問題は起こるということであります。
 また、眼鏡、肥満、そばかす、頭髪の色といったような身体的な特徴をきっかけとしていじめが起こるという考え方がありますけれども、そうではなくて、被害者の側の不安な傾向、あるいは報復をしないといったような弱々しさ、いじめを受けても仕返しをしないというメッセージ、そうした心理的特徴がむしろ被害者の最初のきっかけになるということがこれまでの研究で明らかになっております。
 ほとんどのいじめが校内よりも登下校中に起こるという見方も間違っておりまして、昼休み、あるいは先生が職員会議をしている時間、朝自習の時間、休み時間といったような校内で多く起こっております。日本の調査では、中学生の場合、休み時間に六三%、部活動で二六%、放課後二〇%、授業開始前が二八%ということで、登下校ではわずか一八%にすぎない。いわば大人の目を盗んだ学校場面でのいじめというものが多いことがわかります。
 また、いじめが学校での成績不振と挫折を原因とする欲求不満のはけ口として起こるという見方ももっともらしい見方でありますけれども、必ずしも学業成績不振と相関の関係はないということであります。また、加害者が貧困家庭の出身であるということも間違いでありまして、いじめの行動の出現と家庭の経済状態は関係がないということであります。
 一方、非社会的行動の代表である登校拒否をどうとらえるかということでございますが、典型的には不安型と恐怖型というのがございますけれども、不登校によって何らかの利益を手に入れている道具的行動というふうにこれを行動主義的に見れば考えることができるわけであります。
 学校に不快源がある場合には、学校に行かないことによって不快源から回避することができる。学校でしかられたので、逃げ出すということで不快源から脱出をする。また、家庭に滞在することによって家から離れることの不安を取り除くことができる。あるいは遊び型、非行型の登校拒否の場合であれば、テレビを見たり遊び仲間と一緒に過ごしたりすることができるといったようなことがあります。そういう意味で、問題行動をその機能によって分類して、それぞれに応じた対応が必要であると考えられます。
 問題行動全体に対する予防ということで考えますと、十ページのように予防の等式というものがございます。図にありますように、問題行動の発生は一種の分数であり、分母は対処技能、社会的支援網、自尊感情。分子はストレスと傷つきやすさの個人差。分母が小さく分子が大きいほど問題行動は起こりやすいということになります。
 ストレスというのは、環境がもたらす心身への負荷あるいは不快刺激。これにも引っ越しとか両親の離婚とか大きなストレスイベントもありますけれども、毎日の暑さ寒さ、騒音といったようなデーリーハッスルというタイプのストレスもございます。
 ストレスが大きく、かつ、その本人が生来傷つきやすい体質のお子さんである場合には問題は起こりやすくなる。しかし、対処技能、対人問題、葛藤に適切に対応する能力といったようなもの、あるいは社会的な問題解決能力といったようなものを教育によって指導することにより、スキルを増大させることで分子の大きさを相殺することは可能であります。
 社会的支援網、ソーシャル・サポート・ネットワークというのは、その本人がどれだけ孤立しているか、あるいはどれほど友達があり、相談できる大人がいるかということでありまして、二番目の対策は、そうした子供の対人関係やその能力を高めること、そしてネットワークを強めることであります。
 そして、自尊感情、これは自尊心あるいは自分を価値ある存在と評価して大切にする感情のことでございます。
 こうした一次予防等式に従いますと、登校拒否とかいじめの予防というのは、まずストレス源としての学校や家庭や地域の持つ不快さ、嫌悪性の性質を明らかにし逆転させること。ストレス反応の個人差を考慮して、弱い子供に対しては日ごろから目を配り、たくましく育つように積極的に育成する。傷ついたときには早目に手当てをする。分母を膨らませる方法として、生涯学習社会に必要な学ぶスキル、対人関係のスキルの組織的教授を行う。わかる授業、考えさせる授業、個人差を考慮した授業などが重要になってまいります。
 学校では、孤立児に注目をして、友達や助けてくれる大人がふえるように教師が調整をする、あるいはリーダー的な子供と組み合わせをして仕事や発表をさせる。孤立児を仲間に入れる子供を奨励し称賛をするといったような対応が必要になってまいります。
 自尊感情、これは自尊心ということでありますけれども、少し困難な課題に挑戦して成功する経験、あるいは他人に役立つことをして感謝される経験を提供するといったようなことが必要になってまいります。
 問題行動というのは、やはり複合的な要因から起こると考えられます。学校の改善、家庭の改善、地域社会の改善、それから社会全体の改善、それぞれのシステムの各成分がこぞって改革をするということが必要になってまいります。
 学校の改善としては、ゆとりある学校をつくるということでありますが、やはり現在の日本の学級規模というのは先進国と比べますと著しく大きい。これは第十五期中教審答申の中でも指摘しているところでございます。教員一人当たりの児童生徒数を減らさなければきめ細かな指導は難しい。
 二番目は、人間形成専門家の配置。学校教育は生徒指導と学習指導という車の両輪で行われておりますけれども、特に生徒指導に関して専門家が配置されていないということが、日本の戦後教育におけるバランスを失った教育の欠陥である。教師は学習指導の専門家ではあっても人間形成の専門家ではない、あるいは人間形成の専門家であったとしても学習指導と兼務を余儀なくされているところに大きな問題がございます。
 学校経営を改善する。これは、行動の指針を明快にし、規則に従えば強化を受け、規則を守らなければ罰を受けるといったような行動の原理が重要になります。二番目は一支援関係をつくる。教師同士の支援関係、子供同士の助け合いの関係が希薄になっている。三番目は、個人差を考慮する。それから、子供同士の助け合うファシリテーターを育成するといったようなことが重要になってまいります。
 家庭教育としては、やはり子供をモニターして、今だれとどこにいるかを親が知りていること。ささいな問題は無視して、重大な問題はきちっとしつける一貫性のある子育てをする。また、子供自身が問題解決のスキルを学習できるように親がそのモデルになる。子供の行動をしっかりとフォローして、ささいな行動でもよい行動には必ず言葉かけや御褒美で報いるようにする。親子で一緒に楽しめる活動を見出し、子供と過ごす時間を確保する。子供の成長に関心を示し、あきらめず子供に期待し、学校でのことを話し合う。家庭生活のルールをつくり、子供が現実の自分に気づくように、なんじ自身を知れということを要求する等々の家庭の教育の改善が必要であります。
 地域としては、学校、家庭、地域の連携ということが必要でありますが、私どもが関係している松戸市の場合にも健全育成会議という試みをしておりますけれども、そうした活動に対する財政的な援助というものを継続的に行われることが望まれます。
 社会の改善としては、よい大人のモデル、あこがれの対象となるような大人をふやすということと、社会に貢献する企業を強化するということも重要かと存じます。
 今年度の朝日新聞文化財団の企業の社会貢献賞では、イトーヨーカ堂が環境・資源問題などに積極的に取り組んでいる点が評価されている。社員にやさしい賞では日本航空。障害者雇用賞では、松下電器産業が一・六%を超える障害者雇用を実現している。日本IBMが雇用の国際化を図り、花王が消費者志向賞を、また関西電力が地域と共生賞、安田火災海上は社会支援賞。
 しかし、これらの賞の理由を見ますと、自分の社内の労務管理がよいからといって賞を受けるというのは、ちょっといささか理由が弱いといいましょうか、社会に貢献するということに対して国家が報奨を出すような制度がむしろ必要ではないかというふうに思われます。
 以上、児童生徒の健全育成に関しましては、学校、家庭、地域社会、そして社会というものの改革が必要かと思われます。

発言情報

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発言者: 中野良顯

speaker_id: 15972

日付: 1997-11-18

院: 参議院

会議名: 文教委員会