阿部泰隆の発言 (厚生委員会)

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○阿部参考人 神戸大学法学部の阿部でございます。
 本日は、私の話をお聞きいただきますことに、大変感謝しております。
 私は、法律の方からお話しいたします。十分間では詳しいお話ができませんので、お手元の資料をごらんください。こちらの要点をお話しします。
 現行医療法のもとにおける厚生省の解釈運用及び今回の健康保険法改正案には、何重にも違法、違憲の点があると私は思います。
 まず最初に、増床抑制の根拠はあるかということです。
 この改正案は、医療法の定める医療計画が、民間病院に関しても増床を制限する制度であるということを前提としています。
 しかし医療法は、一条では、「施設の整備を推進する」「医療を提供する体制の確保を図り、もって国民の健康の保持に寄与することを目的とする。」としておりますし、医療計画も、「医療を提供する体制の確保に関する計画」と三十条の三に書いてあります。したがって、「無秩序な病院病床の増加のコントロールによる医療資源の地域的偏在の是正」を図るといった厚生省解説に見られるような文言は、この法律にはありません。
 したがって、医療計画は、民間病院に関する限り、法律を素直に読めば、医療過疎地域の医療体制の充実を図るというような医療機関整備計画法でありまして、医療機関が過剰な地域で医療機関の新設を抑制するというような医療機関抑制法という趣旨は読み取れません。このことは、公的病院に関する医療法七条の二と比べれば明らかであります。そうしますと、医療計画を民間病院の増床抑制に使うというのは法律上根拠がありませんので、厚生省の今やっている運用も、私は法治行政に反する異常な事態だと思います。
 次に二番目ですが、医療法三十条の七に基づく勧告と保険医療機関の指定拒否との関連について現行法を見ますと、これは通達で指定拒否をしてきたわけですが、この指定拒否の理由は、不適当という言葉の解釈に依存しています。しかしこれは、詳しいのはこの資料をごらんいただくしかないのですが、法律の解釈を誤ったもので根拠がありません。
 三番目、それで厚生省もこの解釈はまずいと思っていると私は推測しますが、法改正を提案してきたわけです。法律に書けばよいのかということですが、しかし、これも違憲の疑いが濃いと私は思います。
 まず、独占事業については、供給拒否をする場合には正当な理由が必要であります。現行制度では、国民皆保険で、保険を活用しない国民はまずありませんし、しかも、保険医療機関の指定拒否は県知事が一括して行うことになっています。県知事の指定を受けられなければ、どの保険組合の保険をも扱うことができません。この現状では、保険医療機関の指定を受けることなく、つまり自由診療で経営が成り立つ病院はまずありません。
 そうしますと、保険医療機関の指定拒否は、単に保険だけの問題ではなくて、憲法で保障された医療機関の開設の自由を法律的にも制限することになります。医療機関の新規参入を規制するだけでは、既存の医療機関は、既得権の上に安住し、しかも義務を負わないことになるので、患者への医療サービスは著しく劣化すると思われます。
 そこで、もし医療機関について新規参入を抑えたいというか需給調整を行いたいということになりますと、何か方法があるかということですが、現行法でこのような需給調整を行う仕組みは学問上は特許と言われる領域で存在します。例えば、ガス、電気、交通機関といったものです。最近は、それでも規制緩和の動きがあります。
 そこで、医療機関についてそのような需給調整を行うという特許システムを導入するとすれば、医療機関に対していろいろな義務を課することが必要であります。
 私の考えでは、例えば事業の継続義務、過疎地域で廃業するというのは許さないとか、休日、夜間、これは交代で診療しなければいけない。救急病院が足りなくて、救急車のたらい回しなんということは一切できない。そういうことがあるのだったらどんどん新しい病院を許す。そういうことがないようにきちんとした法整備をする。あるいは、学校医とか予防接種などを総辞退などということは許さない。これも全部協力する義務を課する。このような義務との裏腹で新規参入を拒否するという制度を導入することは、まあ許されるかもしれないという気がします。
 しかし、それでも既得権に安住するおそれがありますから、そこをきちんとやっているかどうかは、きちんとした仕組みで審査するということが必要です。そのためには、やはり患者も参加する、首長が参加するぐらいではとてもだめで、患者代表が参加するといった仕組みが必要であります。
 さらに、このように特許企業としての義務を医療機関に課せば、新規参入を規制することが許されるのかということになりますと、やはり若干疑問があります。新規参入への規制というのは、行政が需要と供給の状況をそれなりに適切に判断できるということが前提になっています。
 それで、先ほど池澤参考人は、十分な病床数の計算ということをおっしゃられました。これは、本格的な専門の話で、私の世界ではわかりませんが、ちょっと素人的に考えましても、医療の需要というのは、やはり診療科ごとに算定する必要がある。ところが、それは非常に難しいというか不可能だと思います。
 例えば、飲食店の総量規制が必要だと。この辺で外食する人は何人だから、飲食店の数は幾つと決めてみたところ、数は十分だったが、中華料理ばかりだったり、すし屋ばかりだったりということも起きます。それはおかしいのではないか。そういうことを役人が計算するのは不可能だ。やはりこれは、市場で決めていくしかない。そうなると、すし屋ばかりだとすれば、例えば極端なことを言えば、耳鼻科ばかりだったとすれば、これは、「医療を提供する体制の確保を図り、もって国民の健康の保持に寄与する」という医療法の目的に背馳すると思います。
 次に、医療機関の指定拒否は単なる契約の拒否ではなくて、営業の自由を禁止するに等しいというふうに考えますと、その要件は明確でなければいけません。しかし、「医療計画の達成の推進のため」とか「特に必要がある」といった文言は、極めて不明確であります。
 さらに、この改正案四十三条ノ三の第四項の第三号は、「其ノ他適正ナル医療ノ効率的ナル提供ヲ図ル観点ヨリ」「保険医療機関トシテ著シク不適当ナル所アリト認ムルトキ」にも、保険医療機関の指定を拒否できるということになっていますが、これは余りにも抽象的で、行政の裁量が広過ぎて、これでは行政は医療機関を何とでもできる、生殺与奪の権限を握るということになります。これはいかにもひどいのではないかと思います。
 それから、この医療法の勧告に従わなかったからという理由で、医療法ではなくて健康保険法で不利益に扱うという制度は、江戸のかたきを長崎で討つ仕組みでありまして、行政手続法三十二条二項に反する仕組みであります。行政手続法を改正するのかということにもなります。どうも整合しないと思います。
 それから、医療計画は、かえって駆け込み需要を招来して、医療機関の抑制には必ずしも役立たなかったという問題もあります。
 あと、今病床が足りない地域で医療機関の進出の申請があった場合でも、その間に他の病院がいっぱい申請して、新しい申請を抑えるといった運用もあります。医療計画はこのような運用も惹起するので、病院の増床を必ずしも抑制していないと思います。
 それから、この手続ですが、「地方社会保険医療協議会ノ議ニ依ル」とか、弁明手続というのがありますが、これは悪いことをやった場合は役立つのですが、病床が多過ぎるかどうかというときにはほとんど役立たないと思います。余り権利保障の手続はないということになります。
 最後に、このように、現行法の仕組みと調和せず、かつ、違憲の疑いもある法案がなぜ法制局をそのままパスするのか、私は、法制局がここできちんと説明するということが必要だし、それについてしっかりした議論を踏まえた上で、国権の最高機関が判断されるということが必要だと思います。
 このままでいけば、後は裁判所が判断することになりますが、裁判所で違憲との批判を浴びないように、法律論をきちんとやった上で御判断いただきたいと思っています。
 以上で終わります。どうもありがとうございました。(拍手)

発言情報

speech_id: 114204237X00819980414_008

発言者: 阿部泰隆

speaker_id: 4398

日付: 1998-04-14

院: 衆議院

会議名: 厚生委員会