鍵田節哉の発言 (本会議)

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○鍵田節哉君 私は、民主党を代表いたしまして、ただいま提案のありました労働基準法の一部を改正する法律案について、橋本総理大臣並びに伊吹労働大臣に質問をいたします。
 法案に対する質問に先立ち、冒頭、現下の憂慮すべき雇用情勢につき、総理の御認識と今後の対応策をお尋ねいたします。
 去る三月二十七日に発表された総務庁の調査によりますと、二月の完全失業率は三・六%と調査開始以来最悪の数字を記録し、雇用は極めて深刻な状況に陥っています。また、こうした雇用危機は個人消費を一層萎縮させ、住宅投資を初め企業の設備投資の悪化にもつながり、景気回復を妨げる大きな要因ともなっております。
 かつて細川内閣は、雇用情勢が悪化した一九九四年一月、総理大臣を本部長、全閣僚を委員とした緊急雇用問題等対策本部を設置し、精力的に失業の防止や各種対策の実施に取り組み、大きな実積を残しました。一方、橋本内閣は、緊急対策本部が改組された産業構造転換・雇用対策本部を就任翌月の一昨年二月二十一日にただ一度開催したのみであり、今日の危機的状況に至っても、なお何ら有効な手だてを講じておりません。また政府は、倒産負債額が過去最悪となっているにもかかわらず、倒産企業の労働者の状況把握さえ十分にしていないのではないでしょうか。
 雇用問題は、総理を初めとした全閣僚が協力し、政府を挙げて取り組まなければならない最優先の課題であります。政府は、現行の対策本部を緊急雇用対策本部へと改め、従来の施策の拡充に加え、直ちに、雇用対策法に基づく強力な施策の発動と政府の総合的雇用創出計画の策定など、機動的かつ抜本的な雇用対策を行うよう強く求めるものであります。この点について、総理の明快なる答弁をいただきたい。
 さて、今回の労基法の改正案の提案理由として、我が国を取り巻く内外の環境の変化と労働者の働き方や就業意識の多様化の進行が挙げられております。確かに、我が国において、その根底となる幾つかのシステムに変化が生じてきていることは事実であります。一つには、急速な少子化の進行と人生八十年時代の到来であります。二つには、男女共同参画社会実現へのうねりであります。三つには、先進国にふさわしい国際公正基準に沿った労働条件の整備であります。
 現在、パートや派遣へのニーズが女性を中心に高まってきていると言われていますが、これは、正社員では休暇もとれず、時間外労働も極めて多いことが原因であり、決して本来のニーズから選択を行っているわけではありません。また、毎年五百件を超える過労死の申請が出され、年間四千時間を超える労働で健康を損なう労働者も後を絶ちません。好景気に転じたときには、時間外労働に対する指針だけでは歯どめがきかなくなることは火を見るより明らかであります。さらに、我が国のILO条約の批准状況は極めて低く、国際的に共通の公正な労働基準づくりに努力する姿勢が弱いことが繰り返し指摘されております。
 こうした現状を考慮したとき、労基法の全面施行から五十年の節目となる今日、まず行わなければならないことは、男女がともに働ける環境づくり、高齢者が六十五歳以上まで働ける環境づくり、そして私たち一人一人が日本の経済力にふさわしいゆとり、豊かさを実感できる条件づくりでなければなりません。その意味で、今回の改正案は、労働条件の明示、年次有給休暇の年二日増など評価すべき点も一部含まれておりますが、これらは世界的労働基準から著しくおくれている分野であり、むしろ遅きに失した改正であります。
 一方、審議会において労使の意見が対立した項目については、ほとんどが使用者側の意見をもとに法案が作成されており、規制緩和の美名のもとで労働者の権利が著しく侵害されかねない、まさに労働基準法の改悪案と断ぜざるを得ません。
 以下、特に大きな課題についてお尋ねいたします。
 第一に、時間外労働の上限時間が法案に明記されておらず、政府が真剣に時間外労働に歯どめをかけようとする姿勢が見られないことであります。
 日本社会のあり方に鋭い視線を注いできた著名なオランダのジャーナリスト、カレル・ヴァン・ウォルフレンは、我が国男性の過密な労働の実情を、「麻痺した社会の犠牲者たち」として次のように指摘しております。戦後の日本の偉業は「日本人の個人生活の犠牲の上に成り立っている。会社で心身のエネルギーを使い果たしてしまうため、社員たちはまともな家庭生活を営む元気を失くしている。中間階級の男性社員は目を覚ましている時間のほとんどすべてを企業に吸いとられる結果、会社の外で個人的な目的のために使う気力はもう残っていない。」と。今また女性をも、このような過酷な労働条件に追い込むおつもりでしょうか。
 私は、昨年の男女雇用機会均等法改正に際し、女子保護規定撤廃に当たっては男女共通の時間外労働の上限時間を法案に明記するよう強く求めてまいりました。また、このことは政府の目標でもある年間千八百時間労働の実現に不可欠なものであります。法案に具体的な明記がなく、しかも上限時間を超えた際の罰則も定められていない中で、政府はどのように実効性を担保できるとお考えなのか、伊吹労働大臣の明確なる答弁を求めたい。
 第二は、休日労働、深夜労働に対する新しいルールがないことであります。
 休日、深夜の過重な労働は、勤労者の健康を損ない、育児や介護などの家族的な責任を果たすことを困難にするものであります。特に深夜業については、人が持つサーカディアンリズム、いわゆる日中リズムが崩れると健康障害の可能性も指摘されており、やむを得ないものを除き、その導入には慎重な対応が必要であります。政府は、今後の我が国における深夜労働をどのように位置づけているのか、また、労基法において休日労働、深夜労働に関する新しいルールの確立が必要不可欠であると考えますが、労働大臣の御所見を賜りたい。
 第三は、新たな裁量労働制の拡大であります。
 現在、裁量労働制は、弁護士など特定の専門的職業にしか認められておりません。この裁量労働制を、今回は、事業運営上の重要な決定が行われる事業場において企画、立案、調査、分析などの業務に従事する、いわゆるホワイトカラー全般にまで拡大しようとするものであります。これらの分野は、従来からふろしき残業やフロッピー残業が日常化している職場であり、現在の状況において裁量労働制が認められたならば、こうしたサービス残業が追認されることとなり、このままでは実際の労働時間はむしろ長くなり、賃金のカットのみされることは明白であります。
 また、制度の導入に当たっては、当該事業場に労働者の代表が半数を占める労使委員会を設置するとの規定があります。しかし、現在、中小企業における労働組合の組織率は極めて低く、労使の力関係は明白であり、時間外労働の三六協定に見られるごとく、労働者の代表にふさわしくない人たちによる決議が横行することが懸念されます。裁量労働制の導入には慎重な検討が必要であるとの審議会での労働者側の意見や、労働省自身の裁量労働に関する研究会での社会的コンセンサスが必要との報告も無視し、法案化が強行されており、労働者の職業生活を守る最低基準を設けた労働基準法の精神を逸脱し、使用者側の一方的な意見を採用した暴挙であると言っても過言ではありません。
 以上の理由により、今回の法案による新たな裁量労働制の導入には大きな懸念を禁じ得ません。今後、引き続き労使間の合意形成に向けた審議会での論議が必要であると存じますが、労働大臣の御見解を伺いたい。
 最後に、変形労働時間制の要件緩和であります。
 変形労働時間制は業務の繁忙期に所定労働時間を延長するものであり、実施方法や運用を誤ると労働者の負荷は極めて過重なものとなります。しかし、今回の法案は、単に現在のままでは使い勝手が悪いという経営側の恣意的な理由を採用しております。一年単位の変形労働制を導入する場合は、健康確保や家庭生活への影響などに留意し、週の所定労働時間基準を現行の四十時間を下回るものとするよう強く求めるものですが、労働大臣の御見解を賜りたい。
 また、今回の法案は、立法化の検討過程も異常であると言わざるを得ません。これまで労働法は審議会での公労使合意による答申が通常でありましたが、今回は労働者側が強く異を唱えたいわゆる例外的な法案であり、このような法案を今回国会に強行提案されたのにはその背景にどのような意図があるのか、お尋ねいたします。
 我々国会議員に課せられた使命は、法案審議の過程で、働く者の声に耳を傾け、立法府の英知を結集し、法案を改悪と言われることなく真に改正と評価されるものへとしていくことであります。労働条件の根幹にかかわる労基法は、現在のみならず将来の勤労者の人としての生き方、そして二十一世紀の日本社会の姿に重大な影響を与えるものであります。人の働き方は労使の十分な合意によって決められるべきであって、経営側の恣意的な意向によって決められることのないよう特に留意しなければなりません。
 最後になりますが、私と橋本総理は昭和十二年生まれの同世代であります。一般社会では、高度成長期わき目も振らず働いてきて、昨年定年を迎えた年代であります。どうか労働行政の推進に当たりましては、過去の経験から推しまして、額に汗して働く者が報われ、将来にわたって働きがいのある豊かな社会が構築されることを基本理念として、ともに頑張ろうではありませんか。政府案を完全無欠と考え、これに固執することのないよう十分な論議と勇気ある決断を求めますが、橋本総理のお考えをお聞かせください。
 また、同じく労働大臣にも、改めて労働省の設置目的や労働基準法の趣旨を踏まえた上でお考えをお聞かせください。
 以上、労働大臣には、今日まで日本経済の高度成長を支えてきた、外国からもうらやましがられている良好な日本の労使関係、信頼関係をあなたの代で決して破壊することのないよう強く求めまして、私の質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。(拍手)
    〔内閣総理大臣橋本龍太郎君登壇〕

発言情報

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発言者: 鍵田節哉

speaker_id: 18897

日付: 1998-04-21

院: 衆議院

会議名: 本会議