堂ノ脇光朗の発言 (外交・防衛委員会)
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○参考人(堂ノ脇光朗君) 本日は、参議院の外交・防衛委員会に参考人としてお招きいただきまして、大変光栄に存じております。
まず最初に、自己紹介がてら簡単に私の経歴から申しますと、私は、平成元年にジュネーブの軍縮会議の日本政府代表大使に任命されまして以来今日に至るまで、政府代表として、あるいは国連事務総長の軍縮諮問委員会委員としまして、そしてまた最近ではそれに加えて国連の小火器政府専門家会合の議長としまして、絶えずといいますか空白期間なしに数多くの軍縮関係の国際会議に出席してきておる次第でございます。
本日は、そうした経験を踏まえまして、私が肌で感じてきております日本の軍縮分野での役割に対する国際社会の期待といったものを中心にお話をさせてもらいたいと思います。
このほどインド、パキスタンの核実験を契機としまして、我が国がこれまで核廃絶に向けて行ってきた努力があたかも失敗に終わったかのような論調が見られるわけでございます。
我が国は、今日まで唯一の被爆国として世界に核廃絶を訴えてきたのでございますけれども、世界に共感を呼ぶはずの唯一の被爆国という我が国の特殊性が、かえって特殊な国が言っているのだからとして共感を呼ばない理由となっているのではないか、そういった議論まで行われている状況でございます。しかし、こうした悲観的な見方は当たっていないのでございまして、正しくもないと考える次第でございます。
実際のところ、第二次大戦後、平和憲法のもとで再出発しました我が国は、日米安保条約上の同盟国である米国を含めましてすべての核兵器国に対して一貫して核廃絶を訴えてきたわけでございます。特に、核実験に関しましては、旧ソ連とか中国の核実験だけではなくて、米国の核実験に対しましても、昭和二十九年の第五福竜丸のビキニ環礁での被爆事件もございましたし、その都度何百回となく抗議を行ってきた、そういう歴史を持っているわけでございます。また、我が国は、よく知られていますとおり、非核三原則を堅持してきているのでございまして、沖縄返還に際しましてもあくまでも核抜き返還ということを主張して、安易な妥協をすることはせず、米国もこうした我が国の国民感情に配慮せざるを得なかった、そういう経緯もあるわけでございます。
要するに、我が国は唯一の核被爆国として、アメリカを含むすべての核兵器国に対して一貫して核軍縮を求めてきたのでございまして、それゆえにこそ我が国の主張は、冷戦時代を通じまして、アメリカを含む西側同盟諸国の間ではもちろんでございますが、第三世界の非同盟諸国においても国際社会の良識を代表する声であるとして高く評価されてきたわけでございます。核軍縮に関する提案でございますと、例えば西側陣営から出されたものに対しては東側陣営が反対し非同盟諸国側も賛成しないとか、あるいは逆に非同盟諸国から出された提案には東側陣営は賛成しても西側陣営が賛成しない、そういう状況にございまして、西側の一員とはいえ日本がイニシアチブをとりますと皆が耳を傾ける、そういう場面を私は何度も体験してまいりましたけれども、何度となく繰り返されてきているのが実情でございます。
冷戦後は、大まかに言いますと、核兵器諸国対非核兵器諸国の対立、そういった図式になっているわけでございますが、そのような冷戦後の今日におきましても、核軍縮分野での我が国が国際社会の良心とかあるいは良識を代表して主導的な役割を果たす、そういうことに対する国際社会の期待は高まりこそすれ、減少することにはなっていないというふうに考える次第でございます。
これは、先ほど総理も触れられました、先週土曜日に我が国などが提案して採択されるに至りました安保理決議千百七十一号の成立の経過を見ても明らかなのでございます。核不拡散体制の危機が叫ばれておりますこうした時期にこそ、我が国は自信を持って臆せず発言していくべきであるというふうに考えるわけでございます。
次に、我が国は、核軍縮に関しては従来から幅広い活動を行ってきておりまして、インド、パキスタンに対する働きかけも見過ごしてきてはいないわけでございます。
例えば、平成四年に、当時のインドのラオ首相、それからパキスタンのシャリフ首相が来日されました際に、当時の宮澤総理が日印・日パキスタン不拡散協議を開始することを申し入れまして、平成五年の初めからこれが開始されるに至ったのでございます。その第一回の協議に日本政府を代表して出かけてまいりましたのが、当時外務省で軍縮大使をしておりました私なのでございます。
この第一回協議の席では、インド、パキスタン両国とも核兵器開発能力は持っているけれども核兵器は持っていないなどと述べておりましたので、こちらの方からは、NPT条約に加盟すべきであること、少なくとも核疑惑を払拭するために個別具体的な行動で透明性を高めるべきであるなど、いろいろな提案を行いまして鋭意説得を試みたわけでございます。我が国やその他の諸国によるこのような説得が続けられてきたにもかかわらず、今回両国が核実験を行うに至ったことはまことに遺憾なことでございます。
既に行われたことの動機を今さらせんさくしてみても余り意味がないかもしれませんが、パキスタンは以前から、インドがNPT条約に加盟するならばパキスタンもこれに加盟するという立場をとってきておりました。そしてまた最近ではCTBT条約にも署名したのでございます。こうしたことから見まして、インドさえ実験を行わなかったならばパキスタンによる実験もなかったであろうと悔やまれる次第でございます。
問題は、今後我が国として何をするべきかということでございます。
我が国は、今回のインド、パキスタン両国による核実験はNPT条約を中心とする核不拡散体制に対する極めて無謀でかつ危険な挑戦である、そういう認識の上に立ちまして、ほかに追随するような国が出てこないようにするために国際世論を結集して、断固としてこれを非難するということにまず力を注ぐべきだろうと考えるわけでございます。インド、パキスタンを核兵器国として認めるということなどは犯罪者に御褒美を出すようなものでございまして、核兵器国増大への道を開き、NPT条約を中心とする核不拡散体制を崩壊に導くことにほかならないと考える次第でございます。
NPT条約は、国際社会の長年の努力の結果、インド、パキスタンなどのごく少数の国を除く百八十六もの諸国が加盟するに至っている極めて重要で国際規範的な条約なのでございます。そして、我が国は、核軍縮に関しては国際社会の良心を代表する国としてこの不拡散体制の強化発展のために多くのイニシアチブをとり貢献をしてきたという実績もあるわけでございます。そうした意味で、先週土曜日に安保理決議を我が国が提案して、全会一致で成立させたことの意義は決して小さくないと考える次第でございます。
なお、その反面、しばしば指摘されておりますように、NPT体制は、核兵器国と非核兵器国の間に差別を設けた一種の不平等条約であるという面もございます。そして、インド、パキスタンがこれに加盟しようとしない最大の理由として指摘しておりますのもこの点であることを忘れてはならないと思います。
我が国としましては、それゆえにこそ、核兵器諸国がNPT条約第六条の核軍縮義務を忠実に果たすよう鋭意働きかけていく必要があると考えるものです。そのような方法で不平等性を徐々に解消していくのが最も現実的な方法である、そういう了解の上にでき上がっているのがNPT条約を中心とする核不拡散体制にほかならないと考える次第でございます。
私は、一昨年十二月には、三十カ国ほどが集まりましたけれども、京都での核軍縮に関する国際会議の議長を務めたことがございまして、その際にも痛感したのでございますが、核廃絶への道は極めて厳しく険しく、かつ長い道のりなのでございます。そのために、特にNPT条約の無期限延長後の今日におきまして、核軍縮の進みが遅いことに対する一種の無力感とかいら立ちとかが強まってきていることは紛れのない事実でございます。こうしたことから、今回のインド、パキスタン両国による核実験を痛快に思う風潮が一部の非同盟諸国の間にあることも確かでございます。さらに、インド、パキスタンがこれを利用しようとしているということも事実だろうと思います。
しかし、これは極めて危険なことでございます。核兵器諸国はこの事実を冷厳に受けとめて、口先だけでなくて実際に本腰を入れて核軍縮に取り組むべきでございます。そして我が国は、インド、パキスタンによる核実験を非難するばかりでなくて、米ロに対してはもちろん、その他の核兵器諸国、すなわち中国、フランス、イギリスに対してもあらゆる手段を尽くして核軍縮を促進するよう働きかけていく必要がある、そういうふうに考える次第でございます。
委員長、どうもありがとうございました。