リチャード・クーの発言 (経済活性化及び中小企業対策に関する特別委員会)
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○参考人(リチャード・クー君) 御指名のありましたクーと申します。
私も日本経済の実態は大変厳しいものだという理解をしておりますが、私の立場上、国際的に見て、つまり内外から見た、または投資家、市場という視点から見た日本経済がどう見えるかという視点でお話しさせていただきたいというふうに思います。
私も日本経済の流れについては、特に政府の政策には大変批判的だった一人だったわけですけれども、私は、十二月以降に幾つか打ち出されている政府の政策は、すべてとは言いませんけれども、幾つかかなり評価に値するものがあるのではないかというふうに思っております。特に金融救済策、そして十六兆円と言われる財政の出動というのは私は方向としては正しいというふうに思いますが、残念なことにこの金融または財政もそうですけれども、海外で、これは内外でと言った方が近いかもしれませんが、大変誤解されております。これが誤解されている結果、海外の日本に対する見方は極めて悲観的になっている。
私も三週間前ワシントンに行く機会がありまして、いつものとおりFRBに電話してアポをとったわけですが、もう十何年つき合っている向こうの局長が、私が電話に出た途端、あんたまだタイタニックに乗っているんですかという声を上げたくらい、それは本気に心配していたんです。日本はこのままいったらめちゃくちゃになるんじゃないかというくらいの懸念を海外の投資家、これはアメリカに限らず全世界で持っております。
そうなりますと、日本でそれなりの対策が打たれているにもかかわらず、海外が一部誤解に基づいて非常に日本に対して悲観的になりますと、円安、株安というものが進行するわけですが、円安、株安は両方とも日本の銀行の自己資本を直撃します。円安の場合は、日本、特に都銀が持っている海外の資産を円安の分だけ大きくしてしまいますから、これはドル建て資産ですから円安になった分だけ海外の資産が大きくなってしまう。そうなると、足りない自己資本に対して資産がさらに大きくなりますから、そこで貸し渋りを強いられる。一方で、株安は銀行の自己資本を直撃しますから、これも貸し渋りにつながる。
円安だけ見ましても、かなりラフな試算ですが、為替が一円円安になることによって貸し渋りが一兆円ふえるという計算になります。そのくらい邦銀が持っているドル建て資産というのは大きい。これに株安が加わりますと、最近円安と株安の相関は〇・九という大変高い相関係数を出しているわけです。そうすると、円安になると株安になる、また円安になると株安になる、こういう状況ですから、これが銀行に与えている影響というのは大変大きなものだと思います。もちろん、円安は一部輸出企業にはプラスになりますが、一円一兆円くらいの規模で貸し渋りが進む。これに株安をくっつけますと一円一兆円ところがその何倍のプレッシャーになりますから、それで日本経済が本当に回復するのかという非常に大きな問題が出てくるわけであります。
もう一方の財政ですけれども、公共事業中心の財政は、いろいろ異論はありますけれども、私は一応正しいというふうに思います。
減税という議論もありますが、これが十一月前だったら、大型金融倒産が起きる前の状況であれば減税も機能したと思いますし、また大変大幅な減税、国民がびっくりするくらいの規模の減税であれば、これはそれなりのショック効果といいますかアナウンスメント効果で、人々が人生の計算を全部やり直すくらいのことであればそこに一つ大きな効果があると思いますが、今議論されているような規模の減税ではむしろほとんどが貯蓄に回ってしまうのではないかという気がします。
一方で、公共投資の方はこれは必ず使われるわけですから、これで中央突破を図るべきではないか、その上に減税が乗っかっている、公共事業がメーンで減税がサブという形が現時点では一番いいのではないかという気がします。一
公共事業に関しては、変なプロジェクトばかりつくっていてむだ遣いが多いからこういうのはやめるべきだという声が非常にたくさんあるわけですけれども、それはいいプロジェクトがあればそれにこしたことはないわけですが、景気回復というのは死活問題であります。いいプロジェクトか悪いプロジェクトか、これはぜいたくな話であって、いいプロジェクトがないからやるべきではないというほど日本経済に今余裕はないのではないかという気がします。いいプロジェクトがあればそれにこしたことはない、しかしこのまま景気がおかしくなっていきますとそれこそ大変なことになりますから、そういう意味ではできるだけいいプロジェクトを選ぶという前提でとにかく財政はやっていただきたいというふうに思います。
ただ、財政を幾らやっても、一方で円安になり株安になりそれで銀行の貸し渋りが進んでしまうということになりますと、全部そっちで相殺されてしまうリスクがあります。今そういう状況になっているのではないかというのが私の危機感です。例えば一円で一兆円ということになりますと、ここ数日間での円安、百三十六円とか百三十七円とかそっちの方向へ行っているわけですが、そうなりますとここ数週間での円安だけでも何兆円の銀行の貸し渋りにつながるということですから、一方で政府が一生懸命財政支出をふやして景気を浮揚させようとしても、もう一方の方で崩れてくれば結局は何の意味もなくなってしまう。
そこで、海外が日本に対して持っている懸念、これをどうやって払拭するかということになってくるわけですが、例えば金融問題で海外の論調、これはアメリカの財務省の論調も含めてですけれども、多くの銀行にいい悪いを問わずに公的資金をつぎ込んだのはおかしいではないか、いい銀行と悪い銀行に分けて、悪い銀行は舞台からおりてもらい、残ったいい銀行に資金投入して、それで健全な金融システムをつくるべきだという論調が海外には依然として非常に強いわけであります。
ただし、この点に関して、日本が置かれていた去年の十一月、十二月から二月ぐらいまでの状況というのは、そういう選択肢を許さなかったのではないか。先ほど申しましたように、私も三週間前にワシントンを回ってこの点を非常に強く強調してまいりました。
つまり、普通の金融不安の状況であれば、いい銀行と悪い銀行と分けて、悪い銀行をつぶしていい銀行に支援してそこからスタートすればいいわけですけれども、その場合、悪い銀行の預金者はどうするか。これは預金保険で対応できる。その銀行から借りていた人たちはどうするか。そういう貸出資産は売ればいいわけであります。そうすると、その業界に入りたかった人、そういう企業に貸し出しをふやしたかった銀行、こういうところが喜んでそれを受け入れますから、そうするとその銀行からお金を借りていたところも救えるわけですし預金者も救える、銀行はつぶれてもらう、こういう対応ができるわけであります。
ところが、去年の十一月以降の日本の置かれている状況というのはそれよりはるかに厳しいもので、全国的な金融不安、全国的な貸し渋りという状況であったのではないかという気がします。そういう状況になりますと、そこでいい銀行と悪い銀行と分けて、悪い銀行をつぶすということになりますと、預金者は預金保険で何とでもなりますが、その悪い銀行からお金を借りていた善良な企業、これは大変なことになります。といいますのは、そういう銀行を別の銀行に受け継いでもらおうとしても、ほかの銀行もみんな自己資本が足りずに真っ青になっているわけですから、つぶれた銀行のその先を受け入れて融資をふやそうということはできないわけです。
実際、それが北海道で起きたわけで、北海道拓殖銀行がつぶれた後に政府、大蔵省、日銀も一生懸命北海道拓殖銀行のいい資産をほかの銀行に移そうとしたわけですが、結局なかなかできず、北海道経済は大打撃をこうむってしまった。つまり、もしもあのときにアメリカが言っているようにいい銀行と悪い銀行をもっと峻別してやろうとしたら、日本じゅうが北海道のような状況になりかねなかったわけであります。そういう状況ではとにかく貸し渋りをとめるという、実際に政府がとられた政策の方が私は正しかったのではないかという気がします。
この話をアメリカや海外でしますと、まず北海道のことは全然皆さん知らない。そうすると、そういう状況があったのかということでまず皆さん驚かれるわけです。それで、同じような状況にあったアメリカ、九一年から九三年に、アメリカでも全国的な貸し渋りが発生して大変な事態になりました。それでジョージ・ブッシュ大統領が落選するという結果にまでつながったわけですが、そのときアメリカも同じように全部の銀行を救っております。あのときはFRB、アメリカの中央銀行ですけれども、そこが全部の銀行に貸出レート、プライムレートは六%に維持したまま調達金利を三%まで持っていくという政策をとりました。それで全部の銀行に三ポイントの利息が入るということを二年以上続けまして、それが景気回復になったわけです。それでアメリカ経済は景気回復に向かったわけですが、そういう話をアメリカでしますと、みんなびっくりして、ああそれだったらわかると言ってくれるんです。
しかし、そういう話を日本からしないものですから、結果として日本はとんでもないことをやっているということで、ますます不安心理は高まってしまう。そうすると株安、円安、貸し渋りの増加という悪循環に陥ってしまうのではないか。そういう意味では、もう少し政府のやってきたことを正しく海外に説明するということもぜひとも必要ではないかという気がします。
最後に、財政ですけれども、今の財政政策十六兆円というのは、私はそれなりの効果は期待できるというふうに思いますが、私がこの点で非常に怖いなと思いますのは、これで例えば景気がことし後半から翌年にかけて少しよくなったとしますと、今の法律ですとまた財政構造改革法が発動します。そうすると、またそこでブレーキがかかる。またそこでブレーキがかかるとまた今のような状況になります。こんなことを繰り返していると、それこそ日本経済はどうしようもなくなってしまう。
今回の間違いだけでも、つまり時期尚早なときに財政再建をやろうとしてしまったことによって、本来九兆円の節約をするはずだったのが、結局景気対策から金融対策から二兆円の特別減税まで足しますと四十八兆円の赤字をふやす結果になってしまったということを考えましても、ストップ・アンド・ゴー、つまり景気がよくなるとすぐ財政再建をやろうとしてまた景気が悪くなる、それでまた景気対策を強いられるという、こういうことはぜひともやめていただきたいというふうに思います。
先週、IMFの方と話す機会がありましたが、IMFは財政再建を去年日本政府にやれと言って日本の国民の皆さんには大変迷惑をかけてしまったというふうに謝っておられましたが、その彼らが一番心配していたのは、今のままではまたストップ・アンド・ゴーになってしまうのではないか。したがって、ぜひここでは本当に景気の足腰が強くなるまで、なれば財政再建というのはぜひやっていただきたいわけですけれども、それまでは景気の足腰を強くする方を最優先していただきたいというふうに思います。
以上です。