リチャード・クーの発言 (経済活性化及び中小企業対策に関する特別委員会)
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○参考人(リチャード・クー君) 日米経済の明暗といいますか、すごい差という御指摘だったわけですが、確かに今の日本を見ると私もそういう印象を受けます。こんな国にいつまでもいていいのかなと思うくらい海外に行くと日本のことをぼろくそに言われるわけですけれども、これは確かにそういう部分はあると思いますが、その認識ギャップも私はかなりあるという、この二つがあると思います。
今のアメリカ経済というのは、八〇年代から九〇年代前半にかけて大変苦しいリストラをやり抜いた。その結果、企業もまた個人も筋肉質といいますか非常に強い力を持ってきたわけで、それが今花咲いているということだと思います。このプロセスは実は十五年前にまさにレーガン革命から始まったわけで、当時レーガンがああいうことをやろうとしたときには随分いろいろ非難を受けたわけですけれども、今、十五年後に振り返ってみると、あれは正しかったんだなという見方に多くの人がなってきている。ということは、構造改革というのは十年から十五年かかるんだという覚悟でやらなくちゃいけないわけです。
レーガンは当初、先ほどもちょっと触れましたように、これをやったらすぐ景気がよくなるというようなことを言っちゃったわけですけれども、結局十何年かかる。ということは、今からやってもその効果が五年、十年、十五年後に出てくるわけですから、これは余りおくらせてもらっては困る。そういう意味では早く構造改革も進めていただきたいという気がします。
日本の場合は、残念ながらバブルの発生と崩壊というのをこの間に経験してしまったわけで、一回バブルが発生して崩壊してバランスシートが壊れてしまいますと、これの修復は大変な時間がかかります。といいますのは、これは個人もそうですけれども、銀行または企業もみんなそうだと思いますが、結局、バブルが発生して崩壊して何が残ったか、負債だけが残ったんですね。資産価格はもう暴落していますから、ここに物すごいギャップが発生している。
アメリカでこういう状況が発生しますと、多くの人たちはまあいいやと。ウオークアウトというんですね。ウオークアウトというのは、借りた家からかぎを銀行に返しちゃって、車に荷物を積んで隣の町に行って新しく始めちゃうというのをウオークアウト、リターン・ザ・キーというか、かぎを戻すという発想なんですが、もうどうせ債務超過ですからこんな家の借金を払ってもしようがないじゃないかと。
日本にはそういう選択肢はないんですね。日本の社会または日本人の発想の中にそういうものはない。やっぱり所得がある限りはできるだけ借金を返しましょうというのが個人の行動でもあり、企業の行動でもあり、銀行の行動でもある。そうなりますと、日本じゅうが今どういう行動をとっているかというと、資産がここで負債がここなんですが、それを少しずつ減らしていって借金を返していって、これがバランスすればまた元気を持って新しいスタートを切ると思いますが、このプロセスにおいては景気はなかなか回復しないわけであります。それを支えてきたのが財政であって、この間、所得さえあれば日本の人は極力借金を返そうという行動をとるわけですから、それが今までの日本経済を維持してきたのかなと。私はここでもしも財政をやっていなかったらもっと日本経済はひどくなっていただろうというふうに思います。
これがファンダメンタルズの部分ですけれども、イメージのところでちょっと御指摘があった点、これも実際にそのとおりでありまして、今は残念ながら日本の投資家の皆さんも含めて、アメリカにさえ投資していれば大丈夫だと。もうアメリカ万々歳なんですね。一年前、アジアに同じ理由で行っていた人たちが今アメリカに行っているということで、私は、アメリカ経済のファンダメンタルズは確かにすばらしいところがたくさんありますが、その上にバブっている部分もかなりあるような気がします。
御指摘になりましたとおり、アメリカの経常赤字、貿易赤字は大変な金額であります。やがて、その貿易赤字がアジア経済危機を引き起こしたということを考えますと、アメリカでもそういうことが起きないとは限らない。ただ、今投資家の皆さんはそれを全部無視してアメリカの強いところはかり見て投資している。私はこれはちょっと怖いことだというふうに思います。一回マーケットが指摘された貿易収支に注目して、これはドル高が危ないということになったら今度は全部が逆に回り始めますから、そういうことも考えてアメリカを見るべきじゃないか。
一方の日本は、今悪い方ばかりが強調されていますけれども、御指摘のありましたように、貿易収支、経常収支は極めて大きな黒字になっている。ということは、アメリカのエコノミストなどは、今回はアメリカの生産性が物すごく上がっているから景気が拡大しているんだということを言っておりますけれども、本当に生産性が上がっているならあんなに貿易赤字が大きいはずがないということを考えても、もっと日本の評価が高まってもいいんじゃないかという気がします。したがって、実際に悪いところといいところはお互いにあるわけですけれども、今のイメージはそれをはるかに超えてしまっているという気がします。
三月の決算期の問題と株と為替という御指摘がありましたが、確かに三月が過ぎて四月になってから貸し渋り問題は少し楽になったというふうに聞いておりましたが、どうやらまたここに来て貸し渋りがひどくなってきているんじゃないかというのが私の受けている印象であります。
それは残念ながら無理もないことで、これだけ株安、円安になれば当然銀行の自己資本、これはもちろん来年の三月がどうなるかというのはありますが、今の国際金融市場というのは、日本では三月三十一日というのは非常に注目されますけれども、世界の銀行界、金融界というのは日々の市場価値みたいなもので判断しますから、これだけ株安になり、円安になれば日本の銀行は苦しいだろうという判断になってくる。そうすると、銀行の経営者もそういう中で行動をとらなくちゃいけないわけですから、非常に貸し渋りみたいな行動にも追いやられていくのかなと。これは私は銀行の経営者を責めるべきではなくて、外部環境、円安、株安をどうするべきなのか、特に円安に対してどういう行動がとれるのかということを強く打ち出すべきじゃないかという気がします。
この三月末についてもう一つの御指摘は、PKOとかこの辺はどうかということですけれども、私はPKOは大失敗だというふうに思います。やるべきじゃなかった。PKOで一万八千円は大丈夫だというようなことを言いますと、三月の終わりぐらいになりますともう売り物ばっかりになっちゃうんですね。一万八千円で買ってくれるならぜひ売りたいと、それが重なっちゃうだけで一万八千円は絶望的ということになってしまうわけで、PKOですとか会計制度を変えて土地の含みを入れるとか入れないとか、ああいうことも私はやるべきではなかったんじゃないか。
特に自己資本投入をするというときに同時に会計を変えたという、この二つを一緒にやったのは私は大失敗だと思います。もしも政府が自己資本強化をするのであれば会計制度は変えるべきじゃなかった。もしも会計を変えるんだったら自己資本の投入はすべきじゃなかった。両方やっちゃったものですから非常に海外の人気は落ちてしまいまして、これはネットではマイナスだったのではないかというふうに思います。あの会計制度を変えなくちゃいけなかったのは、恐らく金融安定化策が本当に国会を通るかどうかわからなかったのでとりあえずこっちを出しちゃったという当時の事情はあったと思いますが、結果は海外の評価はがた落ちということになってしまって非常に残念だったというふうに思います。
この三十兆円の投入について一・八兆円しか導入されていないのはシステム上の欠陥があるのではないかという御指摘でしたが、銀行という世界は非常に特殊な世界なんですね。これはもう信用があれば何でも可能、信用がなければすべてが不可能という世界です。
一九三三年のアメリカで同じように自己資本強化ということで優先株を銀行に発行させようとしたときにも日本と全く同じことが起きております。あのときもアメリカの銀行は名乗り出なかった。それに対してあのときはルーズベルト大統領が一番格付の高いモルガン銀行を呼んできて無理やりモルガンに発行させて、それでほかの銀行が安心して発行したという経緯もありますので、そういう点では日本とアメリカとよく似ているなどいう気がしております。
嫌がっているのではないかという御指摘ですが、ここが今日本の銀行の置かれている非常に厄介な点でありまして、マクロ的に、つまり日本経済全体という観点から見ますともっともっと貸し出しはふやしてほしいわけですし、そのためにもっと自己資本を強化するというのは必要なわけですが、一方で多くの欧米の銀行アナリスト、または格付機関からは銀行は全く別のことを言われているんです。
今の銀行の資産に対するリターン、資本に対するリターンを見ると日本の銀行の資本は大き過ぎるではないか、もっと減らせよというこれまた猛烈な圧力を受けているわけであります。そうすると、ミクロから見ると、もっと貸し出しを減らしてもっと自己資本のリターンを上げなくちゃいけない、一方で、マクロで見るともっと景気を維持するために貸し出しをふやしてほしい、この二つが今日本の銀行の、ミクロとマクロが全く矛盾しているんですね。
個々の経営者は当然ミクロで物を考えなくちゃいけないわけですから、自己資本をふやすことについて。そうするとますます自己資本に対するリターンは落ちますから、これはどうしたものかと。株主代表訴訟に遭っても困るなと、こういうことになるわけですね。マクロはしかしこれをやってもらわないと日本経済は沈没してしまう。私は、こういうときにはミクロはちょっと我慢してもらってもマクロを優先すべきじゃないか。
政治家の皆さんも含めて、そういうことをはっきりと世界の金融界に向けても、またはアメリカの政治家に向けても言っていただきたい。じゃないと、この二つの全く違う流れの中に銀行が置かれてしまって、銀行も身動きがとれないんですね。自己資本をふやそうと思うと徹底的にたたかれるという部分もあるわけで、その辺はまさに皆さん政治家の方々が海外に向けて、今はこういう状況だからこれをお願いしているんだとやっていただきたいというふうに思います。