池上洋通の発言 (行政改革に関する特別委員会公聴会)
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○池上公述人 こうした公述の機会を与えていただきまして、大変感謝申し上げたいと思います。
私が所属しておりますのは、自治体問題研究所という組織でございますが、一九六三年に、日本の民主的な発展は地方自治の発展なくしてあり得ないという考え方のもとに設立されました、自主的な研究団体でございます。現在、全国各地の自治体職員、住民、研究者、約一万人の会員を持っておりまして、一万七千部ほどの月刊雑誌を発行しておる団体であります。私は、そこで常勤役員として、研究プログラムを担当する常務理事をいたしております。
実は、地方分権に当たりましては、地方分権推進法がつくられました、一九九五年五月に行われました参議院の特別委員会での審議の過程で、参考人として招かれまして、地方分権推進法に賛成する立場から発言をさせていただいております。
それは、これまでの地方自治の現実、特に、国と地方自治体の関係が、先ほど来御指摘されております機関委任事務に象徴されますように、明らかに国が地方自治体を支配する、そういう形になっていたことに強い懸念を持っていたからであります。憲法第九十二条の地方自治の本旨という観点から考えますと、当然あってはならない機関委任事務制度であったわけでございますが、そうしたものを含めて、全面的な検討を加えて、本来憲法が求めている地方自治をつくらなければならないという思いがございまして、地方分権推進に期待をかけたわけであります。
また同時に、東京一極集中現象に見られます、ゆがんだ今日の社会経済の姿がございまして、私どもは、それに対しても大変強い危惧を抱いてまいりました。
私は、年間、毎年ほぼそうですが、全国各地で百二十カ所から百三十カ所ぐらいで講演、研究会に招かれておりますけれども、各地の町や村にまで伺いますと、大変な御苦労をなさって、首長の皆さんがあえいでいるような形で財政のやりくりをするというような姿に、しばしば出会っております。何とか、こうした東京一極集中現象のようなものを転換して、本来の地方自治の姿が実現できないかということも、年来の強い願望でございました。
そこで、地方分権推進をぜひ実現しまして、新しい、私たちが納得をする、そして、日本の地方自治がこうした姿で、つまり憲法に基づく姿で発展していくという希望を私たちは持ちたい、こう願っていたわけであります。
今国会に提出されました地方分権一括法案の中で、地方自治法の部分を見ますと、私、やはり最も強い印象を受けましたのは、機関委任事務の全廃ということでございまして、この点は、年来の願望でございましたから、心から賛成をしたいというふうに思っておりますし、先ほど西尾公述人のお話がございましたが、このために御苦労をなさった推進委員会の関係者の皆さんの労を本当に多としたいというふうに思っております。
しかしながら、同時に、私たちは懸念も幾つも持っておるわけでございまして、きょうは、その中から幾つかのことを率直に申し上げたいというふうに思っております。
その前に、一言申し上げておきたいのでありますが、私の前にお話をされた公述人の皆さんがこもごも指摘をなさいましたけれども、私も、今度のこの一括法案の形はちょっとぎょっとしたわけであります。四百七十五本の法律を一括法案でまとめる。その手法が正しいかどうかということはさておきまして、それを一回の国会で、一つの委員会で審議をしてしまうということが本当に妥当なのかどうなのか。これについては、国民の一人として大変深い疑問を持っているということを、率直に申し上げておきたいというふうに思います。
そこで、改正法案の内容でございますけれども、まず私は、ぜひ皆さん方に一つお願いを申し上げたいなと思いましたのは、現行法の第二条の第三項を全部削除して、いわゆる事務の例示をなくすということになっておるようでありますが、あの部分をなくしますと、国民の目から見て、一体地方自治体は何をするところなのか、自分の生活という現実に引き比べて、何が自分たちの権利であり何が義務なのかということがわからなくなってしまうのではないかという強い懸念を持っております。ぜひ、皆さん方で審議をしていただくときに、この点を御理解いただきたいというふうに思っております。
とりわけ、今後の地方自治体の運営には住民の参加が欠かせません。財政困難が広がっている中で、住民の力をかりずに地方自治体の運営はできないわけでありますから、一体地方自治とは何か、自治体は何をするところなのかということがわかるということは大変重要だと私は考えておりますので、そのことを申し上げているわけであります。
それから、これも先ほどからお話が出てございますが、機関委任事務を廃止した後の事務配分の中で、やはり私も、法定受託事務の範囲が広過ぎるということを、率直に指摘しておきたいと思います。
それともう一つ、これは西尾公述人がおっしゃっておられましたが、法定受託事務の定義にちょっと私はひっかかるものがございまして、今度の改正案ではこうなっています。国が本来果たすべき役割に係るものであって、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律またはこれに基づく政令に定めるものというふうになっております。推進委員会の提言でも、また、政府が昨年の五月に策定しました推進計画におきましても、国が本来果たすべき責務に係るものであって、国民の利便性または事務処理の効率性の観点から都道府県または市町村が処理するものとして法律またはこれに基づく政令に定めるものというふうになっていたはずであります。
私がこのことにひっかかっておりますのは二つございまして、一つは、国が本来果たすべき責務ということを、責務という言葉で明確にすることが事務のあり方からして必要なのじゃないかという気がするわけであります。今度のそれですと、一体、最終的に国に責任があるのか、地方自治体にあるのかがあいまいだと言われても仕方ない側面があるように思いますので、このことを申し上げているわけであります。
これは、将来にわたって、法定受託事務の財源配分、財源負担をだれがするのかという問題にもかかわるのではないかという危惧を実は持っておりまして、そのこともあわせて申し上げておきたいわけであります。
それからもう一点は、推進委員会でおつくりになった、あるいはまた、政府の推進計画の中で語られていたこの文言の方が、国民の側からして本来の姿ではないか、国民の利便性または事務処理の効率性の観点から法定受託事務が必要なんだという説明の方が、本来の姿ではないかということを思うわけであります。この二点を御指摘申し上げたいと思います。
それから、議員定数の問題につきまして、私も意見がございまして、先ほど恒松公述人がおっしゃっておられましたが、私も、本来は自治体が自由に決めるべきテーマであるというふうに思っております。ただ、仮に憲法第十四条の言う法のもとでの平等を著しく欠くということが心配されるということがあるとするならば、それは、法の規定は最低限数を決めるべきであって、上限数を決めるべきではないというふうに思うわけであります。つまり、最低限の数字を決めて、何人にするかを自治体が決定するというのが本来の姿ではなかろうかというふうに思います。
もともと、現在の定数は、御承知のように、明治二十一年、市制、町村制がしかれたときの定数がベースになりまして、何回かの改正を加えて、今日の地方自治法がつくられるときに、数の上乗せをして今日の定数になったという歴史的いきさつがあります。実は、百年を超えて国民の間に定着したと見るべき定数の仕組みなのでありまして、私は、こういう形で簡単にいじることそのものが少しおかしいのではないかという思いも持っているところであります。
それから、国の自治体に関する関与の問題でございますが、この点も、既に幾つもの御指摘がなされておりますが、それらについては、私、ほぼ同じ意見でございますので、なるべくダブらないように申し上げたいというふうに思います。
まず第一番目に、私が大変強い印象を持ちましたのは、国が地方自治体に関与する構えの中に、国が基本的に正しい、国を物差しにして、そして自治体の事務をはかるということに終始一貫しているのではないかという、大変強い危惧を持ちました。この点は、どんなふうに皆さんはお感じなのでしょうか。
そうしたことを配慮なさって、多分、関与の法定主義であるとか国の配慮とかということを繰り返し条文の中に盛り込まれたことと思いますけれども、そうした配慮にもかかわらず、先ほどから御指摘がございます自治事務に対する是正の要求、それから自治事務に事実上すべての関与ができる、そういう形になっているわけであります。それから、基本類型が八種類定められておりますけれども、それ以外の関与も自治事務に対してもできる。法文でいいますと、個別具体的な云々ということで、できるようになっておるわけであります。それからさらに、各大臣が所管事務について自由に関与できると言ってよい、そうした法文の流れになっております。
いずれも、私は、国と地方自治体の関係で見ますと、場合によっては、現行法よりも強い国の支配が生まれかねないという思いを隠すことができません。
それから、これも先ほどお話ございましたが、都道府県が市町村に対して行う関与のお話がございました。私も、都道府県が監督機関になるのではないかという危惧を持っていることを、率直に申し上げておきたいと思います。
それと、通達行政を廃止するということでございました。これは全くそのとおり、そうでなければならないわけでありますが、どうも、いろいろ調べてみますと、法定受託事務についての処理基準をつくるというふうにおっしゃっている。処理基準をつくることは、やはり法定受託事務だから、全国一律でなきゃいかぬから必要だというふうになるかもしれませんけれども、しかし、今度の法改正では、法定受託事務も条例制定権を認めているんです。そうすると、国のつくる処理基準というものと、地方自治体が条例制定権を持つということの間にあるものはどうなるのかということを、率直に指摘しておきたいと思います。
それからもう一つ、基本類型以外の関与にわたる場合、個別具体的という場合に、形の変わった通達行政が広がるのではないかというおそれを抱いていることも申し上げておきたいと思います。
それから、係争処理の制度が新しくできるわけでございますが、私は、係争処理の制度そのものの意義については軽々に論ずるつもりはございません。ただ、気になっております点が二点ございます。
一つは、この係争処理の委員会を通じて係争処理の手続を踏まないと、自治体が訴訟を起こすことができない、裁判に訴えることができないというふうになっている点であります。この前置主義は、自治体の訴訟権との関係でどうなるのかという疑問を表明しておきたいと思います。
それからもう一点、この処理委員会の委員の任命が、自治大臣が行うというんですけれども、これも少しおかしいと思います。政府と地方自治体が争う、そうしたことを処理する委員会の委員を自治大臣が決めるというのはいかがなものかということでございます。
それから次に、いわゆる並行権限の規定がございます。国が自治事務と同様の事務を直接執行できるという規定がございまして、これまでも実は事実上あったわけでございますが、私は、今度の法改正の考え方からいうと、この並行権限、つまり、国が自治事務と同様の事務を直接執行できるんだというこの部分は、関与の一種ではないかというふうに思いまして、関与の類型に含めるべきではないかという意見を持っております。
それから次に、市町村合併を推進するための法改正と思われる部分がございます。中核市の要件緩和、特例市制度の新設等がそれに当たるわけでありますが、この市町村合併についても一言申し上げておきたいと思います。
実は、私どもが地方自治の専門家として地方自治のこれからを考えるときに、忘れることができませんのは、高齢社会の到来でございます。高齢社会の現実を、介護保険その他、非常に皆さん頭を悩めていらっしゃいますけれども、実際には、高齢社会の中で地域社会が活性化する一つの基本は、足弱になった高齢者が外出できる範囲で行政の力が働けるかどうかということがあるわけであります。そういう意味からいいますと、どんどん行政の単位を広域化していきますと、そもそも高齢者は行政へ参加することはできなくなります。
そうしたことも含めて、私たちは、子供の成長過程、成長の課題もそうでありますが、子供もやはり、子どもの権利条約などで確認されておりますように、子供の意見表明権というのがあるわけでありますから、そうした参加のことを考えますと、これからのいわば行政の単位というものを、もう少し生活のレベルで考えていただけないものかというふうに思っておるわけであります。
それ以外にも幾つかございますが、最後に、今後の討論の中で、住民投票の制度についてぜひ改めて議論していただきたいということが一つ、それから、地方自治の発展の立場に立った税財政制度をどうするのかということについて、全面的な議論をしていただきたいということを申し上げておきたいと思います。
私は、実はかつて、東京のある市役所の職員をいたしておった時期がございます。そうした現場の経験から見ましても、今日のこの国会に出されておりますこの一括法案は、拙速なというお話がさっきございましたが、拙速という言葉は大変失礼だと思いますけれども、来年四月実施を金科玉条になさらないで、本気になって現場の声を改めて聞いていただきたい。そして、国民各層、すべての自治体の参加ということ、特に自治体の参加については、すべての自治体の参加を思い切ってやるぐらいのことをして、この法案の審議に当たっていただきたいと思います。
その点では、地方分権推進法をつくったときの基本理念にもう一回立ち返っていただいて、日本国憲法の地方自治の本旨に基づく、私たちの地方自治の発展というものに私たちは期待をかけたいわけでありますから、そうした観点によるところの一括法案につくりかえていただきたい。
特に、今国会において何としてもこれを全部通そうということについては、特に強い懸念を表明して、私の意見陳述といたします。どうもありがとうございました。(拍手)