佐々淳行の発言 (日米防衛協力のための指針に関する特別委員会公聴会)

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○佐々公述人 おはようございます。佐々淳行でございます。
 本日は、現在審議中のいわゆるガイドライン法ほか三法について、かつて防衛庁、内閣安全保障室長として十二年間安全保障問題に政府委員として取り組んでまいりました者として所見を申し述べたいと存じます。
 まず、私が防衛庁に移りましたころは、神学論争がほぼ終わって、総論から各論へ、条約論争から協定あるいは政令の問題、法律の問題から政令の問題、あるいは抽象論から具体論へ、こういう過渡期に私は防衛庁に出向いたしまして、そして昭和三十五年、一九六〇年六月二十三日に制定されました日米安保条約が、その多くの部分を協定あるいは政令にゆだねていながら、長い間抽象論で終始をしておった時代が確かにございました。
 この時代におきましては、いわゆる米ソ冷戦構造が確立されており、核均衡のもと、日本は、特に日本周辺はアメリカ軍の絶対的な制海権、制空権のもとにございまして、今日日本国民が不安を感じておりますような周辺事態というものはまず起こらないであろうと、しかも冷戦が一九八九年のマルタ会談を機会に終わるなんということは夢にも思わず、今世紀中はこの状態が続くと思っておりました。そういう状況のもとでは、台湾海峡の波が高くなったり、あるいは三十八度線がおかしくなったり、そういう難民が大量に流出してくるとか、こういうことはあり得ない、こういう想定のもとに、実はこれは政治も行政も具体案、具体的な協定あるいはマニュアル、ガイドライン、こういうものをつくることを大変怠っておったと私は感じております。
 特に、日米安保条約というのは御承知のように二つの重要な条文がございます。第五条、これが、日本が攻撃をされた場合アメリカが日本と共同して日本を防衛するという、アメリカの日本防衛義務。しかしながら、憲法九条の関係がございますので、アメリカが攻撃をされても日本はこれに参加をすることはできないし、しない。そのかわり、今度は第六条でございますが、第六条で、米軍が日本及び極東の平和と安全のために行動を起こした場合の施設及び区域の提供、後方支援、これが第六条の条約上の義務でございます。
 第五条、すなわち日本が攻撃されたときの問題につきましては、だんだん情勢が変わってまいりました段階で、昭和五十三年のたしか十一月だったと思いますが、いわゆる旧ガイドライン、これが日米間で結ばれまして、その第五条攻撃があった場合の日米共同の対処のガイドライン、共同訓練もこれで始まりました。一九八〇年からは、例えばリムパック、二年ごとに行われておりますリムパックに参加をする。これも私、政府委員で答弁をさせていただきましたが、違憲であるという御意見の政党が当時はございましたけれども、訓練はいいんだということで、これは合憲ということで通った。この辺が大体第五条のお話なのでございます。
 第六条というのは、日本の周辺、特に、これは一九六〇年一月の十九日でございますけれども、岸・ハーター協定というのが結ばれているんですね。岸・ハーター交換公文というのがございまして、これによりまして、第六条、この事態については事前協議をしましょう、そして日米共同の委員会をつくりましょう、同数の委員を出し合って、そして主として三つの大きな問題は、事前協議、プライアーコンサルテーションといたしましょう、こういうことが決まりました。だから、実はもう一九六〇年から今日問題になっておるその六条の後方支援の問題というのは法律が決まり交換公文があったのでございますけれども、これの具体的な制度化、マニュアル化、これはずっとおくれておりました。
 この三つのポイントというのは、第一が、兵力の師団単位の配備の変更、第二が、主要な装備の変更、三番目が、実は今周辺整備法でやっておりますところの在日米軍が極東有事に際して直接戦闘行動を起こした場合の後方支援、これが事前協議マターとなっております。直接戦闘行動と書いてございます。
 そして、大体極東の平和と安全というのは何だ。これは当然昭和三十五年の安保論議のときに国会で論議し尽くされまして、統一見解が出、これは日本と極東の平和と安全に寄与するという日米安保条約の範囲内のことだよと、これが第六条だよと、したがってこの極東の概念というのは、当時中華民国、それから韓国、フィリピン以北の海域、これが大体その範囲内に含まれると。地理的な概念だったんですね。
 そして、その範囲をどうして決めるかというと、在日米軍の軍事作戦能力なんです。行って帰ってこられる範囲。したがって、例えば横須賀を母港として中東に行ったのが事前協議を無視した違反である、岸・ハーター協定違反であるというのは誤りでありまして、直接戦闘行動でございます。これが今問題になっておる、こういうことでございまして、第六条は、その意味では、日本が絶対に米軍の制海権、制空権のもとで安全であるということ、そして潜在的脅威となっておったのがかつてのソ連であった、こういうところから、おのずからその五条中心になっておったわけですね。
 それが一九九〇年代になりまして、湾岸戦争があり、さらにはソ連の崩壊、これによって冷戦構造が崩壊をいたしまして、現在コソボで行われているような低次元紛争であるとか宗教紛争であるとか民族紛争であるとか、あるいは様式を異にした軍事脅威、すなわちテロ、破壊活動、あるいは核の拡散、運搬手段の拡散とどんどんどんどん脅威の性格が変わってしまって、かつそれが大きな現実の問題になってきた。つまり、アメリカが絶対的な制空権、制海権を失い、かつ政策変更があった。こういうところから、日本にとっての具体的な問題になってきた。
 そういう意味合いにおきまして、私は長い間、政府委員をやっている間、考えておったのでありますけれども、抽象論、神学論争をもういい加減にやめたらどうだ、こう長いこと思っておりました。それが今日ようやく具体的な政策論になってきた、ガイドライン法になってきた。これはまことに我が国の安全保障政策前進のために喜ばしいことであると、まずこの委員会の御努力に対し敬意を表する次第であります。
 そして、この法案そのものがどうしてこんなに厄介なことになっちゃったかといいますと、やはり戦後一つ一つ整理しなきゃいけなかった独立主権国家としての安全保障上の政策と、安保条約に基づく、第六条の後方支援あるいは施設・区域の提供義務と、昭和三十一年十二月十八日にようやく参加をいたしました国連の、第七章第四十一条及び四十二条、制裁ですね、四十一条制裁ということが基本になっているようでありますが、非軍事的な制裁、経済的な制裁のときに封鎖、経済封鎖が行われる。この船舶の臨検の問題がここに入っている。こういう独立主権国家の話と、六条の話と、安保参加国としての義務とがごちゃまぜになって一つの法案に入っているところから難しさが出ておる。
 周辺事態という概念は、かつて三十年間の安全保障論議の中には出てまいっておりません。これは、台湾の地位が変わったということ、アメリカの政策の微妙な変化あるいは中国の姿勢、これらから、こういうちょっとあいまいな言葉を選ぶという選択を政府が、自民党がなさったのはやむを得ないと私は理解をいたします。
 いずれにせよ、何にもないよりは何かできた方がいいのでありまして、その意味で、私は、本案の速やかなる成立を希望するものでございます。
 ごちゃまぜになっていると申しましたが、例えば九六年、橋本・クリントン首脳会談で日米安保条約の意義の再確認が行われました際に、四つの安全保障にかかわる具体的な指示が政策論として橋本総理から行政の各部に下されました。
 第一が邦人の保護、救出の問題、第二番目が難民対策、第三番目が重要防護対象、例えば原子力発電所、これの警備の問題。御承知のように、これは今ガードマンが特殊警棒を持って守っているのでありまして、世界じゅう、軍隊も警察も守っていない原子力発電所なんというのはございません。これを何とかせいやというのが三番目。四番目が、今議論されております第六条の後方支援の問題、在日米軍が極東有事で行動した場合の後方支援、これをしっかり詰めろよというのが、九六年の橋本総理の行政命令でございました。
 これに対して、今提案されておる第一、邦人救出というのが、まさに自衛隊法の一部改正案、百条の八に船舶を加えよう、艦船を加えよう、輸送艦。「おおすみ」という大型の輸送艦、ヘリコプターとホバークラフト搭載のものをつくったのでありますけれども、これを仮に極東有事の際に何か派遣しよう、邦人救出のために派遣しようとしても、これができない。これを何とかしてもらいたいというのが一つ。いわばこれは新しい課題であったと思います。
 二番目の難民。これも、今回ようやくこの難民対策について日米合同して周辺地域においてやろうや、こうなっておるのでございます。だけれども、まだ残念ながら、国内法的にいいますと、これを、どんどん運んでこられたものを法務省がやるのか、外務省の国連局が人道上やるのか、警察、消防がやるのか、地方自治体がやるのか決まっていない。こういう点、問題点が残っております。
 それから、三番目の重要防護対象の警備でございますけれども、これも、原子力発電所の警備については、この日本の安全保障体制に大きな欠陥がある。すなわち、領土、領空、領海という主権の侵害に対する取り締まりの法律がございませんし、これはけしからぬ罪なんですね。死刑、無期、長期三年以上の刑、正当防衛でも緊急避難でもなければ、海上保安庁の巡視船も海上自衛艦も、ねらって撃つことができない。
 これは、実は領空侵犯、八十四条も同じなんでございます。八十四条で、私、実は政府委員で答弁をいたしまして、武器の使用と書いていないものですから、必要な措置を講じさせるものと書いてあるものですから、共産党さんの質問に対して私は大変苦労して答弁をして、必要な措置の中には武器の使用は当然国際通念上入っているんだと答えたら、これが今統一見解になっております。それで、沖縄の領空侵犯に対して使用ができた、こういうことに相なっておるわけでございますが、これもまだ十分でございません。
 それから、どうしてもこの審議について二点だけ特に御要望を申し上げたいと思いますのは、この事前承認、これは与党も譲歩なさって、事前承認になりつつあるようであります。原則として事前承認、緊急の事態はこれを除くとなっておりますが、これは私は、情勢が緊迫をしてきて、当然閣議も行われ、安全保障会議も行われ、日米の情報交換もあって、そして国会上程、こういうことになるのでありますから、日本国の安危にかかわる、国民の生命にかかわる問題があったときに、野党さんといえども、この修正案を出した以上は、審議拒否なんというのはまさかなさらないだろう、こういう御信頼を申し上げて、この条件はいいのではないだろうか。
 緊急の場合というのはどういう場合をいうのか、これをやはりきちんとある程度つくっておかなきゃいかぬのかな。周辺事態というのは、これはサラウンディングスとは何だといってアメリカ人から聞かれても、私ども困ります。新しい概念ですし。シチュエーションというのは何だと言われると、地球の裏側まで行っていいという意見からありますけれども、これはやはり安保の枠内という現在の政府見解が正しいのではないだろうかと思います。これが一点であります。
 もう一点は、私、実は防衛庁におりました場合に、有事法制の第一分類、これは防衛庁の所管する法令。第二分類、他の諸省庁の所管する法令、道交法だとか何だとか。それから第三分類、これは内閣に行ってからやりましたけれども、どの省庁にも属さざる仕事、例えばジュネーブ協定に基づく捕虜虐待禁止条約なんというのはだれがやるんだ、人権擁護で法務省がやるのか、外務省がやるのか、防衛庁がやるのか、地方自治体がやるのか、全然決まっていないわけです。こういう問題をやはりきちんと決めなきゃいけない。
 それから、百三条というのがございます。自衛隊法百三条でございますが、これは、知事に、土地の使用あるいは物資の収用、これはお金を払いますけれども、対価を払いますけれども、と同時に、医療、輸送、建設の三業種に対して職務従事命令を出せるという規定があるのでございます。昭和二十九年の七月一日にできた法律でございますが、その詳細は政令で定めるとなったきり、四十年近くほうってあるのです。このきちんとした指示権がなければ、仮に、周辺事態法でもって米軍の負傷兵を緊急輸送してきた、ある病院がこれを拒否した、あるいは地方自治体が受け入れを渋った、こういう場合どうなさるのでしょうか。
 そういう意味で、周辺事態法が上がりましたらなるべく速やかに、危機管理基本法と私は申し上げましょう。有事法制と言うと戦争をやるみたいに思われてどうも語感が悪い。さんざん議論して、有事法制という言葉をやめようと私は言っております。緊急事態対処法でも安全保障基本法でも危機管理基本法でも何でも名称は結構でございますが、総合的な国家安全保障の順序立った仕組みをつくり直しませんと、PKOが問題になるとPKO特別法でしょう。今度、周辺事態法でしょう。このままでいくと、領域警備法というのが出てくるかもしれません。特別法特別法で、大変継ぎ足しのがたがたの建築が安全保障行政。担当者は困り果てているという実情がございます。
 もう一点申し上げます。武器の使用でございます。
 武力の行使とは全く違う武器の使用、これは時間がありませんので、後で御質問ございましたらお答えいたしますけれども、やはり警職法七条、警察官個人が、正当防衛、緊急避難、死刑、無期もしくは長期三年以上の凶悪な罪を犯した者の逃走防止と令状の執行でしょう。これはどうも、領域警備、領空侵犯だとか領海侵犯というのは国家主権の侵害でありまして、これに対して、個人が、刑事責任を負う危険を冒しながら、警察官職務執行法に基づいて職務執行をするというのはおかしいです。明らかに、この自衛隊の武器使用規定というのは別のルールでつくり直すべきではないだろうか。
 今度の法案にも、十一条に武器の使用というのがございますけれども、これまた現場は困ってしまうわけです。船をねらって、無視して停船しなかった船を撃っていいのか悪いのか、現場指揮官は必ず困ります。これは危害許容要件を絞っていただいて結構でございますから、警職法七条準用というのはお考え直しいただいた方がいいのではないかなと感じております。
 以上でございます。(拍手)

発言情報

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発言者: 佐々淳行

speaker_id: 3633

日付: 1999-04-21

院: 衆議院

会議名: 日米防衛協力のための指針に関する特別委員会公聴会