幸田全弘の発言 (法務委員会)
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○幸田参考人 おはようございます。弁理士会会長の幸田でございます。
本日は、このような機会を弁理士会に与えていただきましたことに対しまして、心から御礼を申し上げます。
なお、私、こういう場所がふなれでございますので、原稿に沿って意見を述べさせていただきたいと思います。その際、既にお手元にビニールのファイルでとじた資料を配付させていただいておりますので、よろしくお願い申し上げます。
まず初めに、私ども弁理士会は、司法制度改革審議会が早期に設置され、司法制度について抜本的な見直しがされますことを強く要望するものでございます。以下、その理由を御説明申し上げますが、その前に簡単に弁理士会についてお話しさせていただきたいと思います。
弁理士会とは、我が国において、工業所有権に関します特許庁に対する手続代理、特許庁長官を当事者といたしました審決取り消し訴訟の訴訟代理人、工業所有権に関します権利侵害訴訟の補佐人の資格を有する唯一の国家資格者、弁理士で組織されました公法人で、明治三十二年に弁理士制度が創設されて以来、本年でちょうど百年目を迎える団体でございます。
さて、我が国におきましては、各分野におきまして規制緩和政策が積極的に推進され、産業育成の妨げとなるような規制については緩和もしくは撤廃する努力が行われております。この規制緩和政策は、従来の事前の規制を緩和もしくは撤廃するものでありますから、当然のことながらさまざまな産業、経済活動を行った際の事後のチェックシステムが大きな役割を負うこととなります。
言いかえますと、産業または経済の分野におきまして、適切な権利の保護や救済を求めるに際しましては、これからの司法が果たす役割はますます大きくなるものと考えております。
一九九五年に制定されました科学技術基本法に基づき、科学技術創造立国を標榜する我が国が、力強い経済の再建を目指し、産官学の連携によります研究開発とその成果の活用、適切かつ迅速な知的財産権の保護によります新規産業の創出を図るとともに、競争力の源泉である物づくりを支えます技術と技能の育成、それに中小企業の人材育成を進めることは極めて重要な課題であると考えております。
このことは、さきに発表されました内閣総理大臣の諮問機関であります経済戦略会議の答申が、戦略的な技術開発の推進における企業や個人が果たす役割に注目し、これらの技術開発に対して、より一層実効を上げるためには、適切な知的財産の保護の強化が必要であると指摘しておられることからも十分御理解いただけるものと存じます。
この目的を達成するため、行政サイドにおかれましては、例えば特許庁を中心に、申請から権利化に至るまで、権利の取得を早く、保護の対象並びに権利の解釈を広く、他に対抗できる強い知的財産権の実現に向けたび重なる法律改正を行いながら、国内はもとより国際的にも十分対応できる体制の整備にたゆまぬ努力がなされております。
知的財産とは、多くの資本と時間と労力を投資して得ることのできます精神的な労作の成果物でありますが、その反面極めて模倣しやすい性質を有しておりますので、知的財産に関します紛争は国境を越えて生じております。
かかる知的財産の保護強化を図りますには、行政による迅速な権利の設定のみでは十分ではなく、紛争が生じました場合の司法による速やかなる解決が非常に重要であると考えております。
しかしながら、知的財産分野におきます我が国の訴訟は、アメリカなどの諸外国に比しまして、訴訟期間が長く、訴訟費用の負担が大きく、損害賠償額が十分と言えないというのが現状でございます。
お手元の資料の六ページ三をごらんいただきたいと思います。これは、我が国とアメリカにおきます知的財産権に関する訴訟での損害賠償額の推移を表示しておりますが、アメリカにおける訴訟の損害賠償額は我が国の約二百四十倍と極めて高額なものとなっております。
続きまして、七ページの資料四をごらんいただきたいと思います。この資料は、知的財産分野における訴訟の当事者が、我が国の法廷ではなく、紛争解決の場をアメリカの法廷に求めるという、いわゆる裁判の空洞化現象とも言える事態が生じていることを示しておるものでございます。
二十一世紀をリードする技術である半導体、通信、バイオテクノロジーなどの最先端技術分野では日常的に国際的な紛争が生じております。我が国においても、これらライフサイクルの短いハイテク分野における国際紛争についても、迅速に対応できる紛争解決システムの再構築について真剣に取り組む必要があるものと考えております。
私ども弁理士は、技術と法律の両方にわたる高度の専門性を持った国家資格者として、行政と国民のかけ橋となってきました。弁理士は、この知的財産の保護、育成に積極的に携わりますとともに、国内のみならず、海外における権利の取得や紛争解決に直接または間接的にかかわりますことによって、知的財産制度の擁護者としても活躍しております。
昨年四月には、日本弁護士連合会と共同いたしまして、工業所有権仲裁センターを設立し、裁判によらない迅速な紛争解決の場を提供いたしました。
添付の資料十をちょっとごらんいただければと思います。この資料は、工業所有権仲裁センターの概要を示すものですが、この一年間に五百件に近い調停、仲裁に関する照会がございました。かかる事情からも、このような迅速な紛争解決に非常に大きな期待が寄せられているものと考えております。
さらに、私どもは、裁判所の要請によって、知的財産紛争に関しまして調停委員を派遣させていただいております。
しかしながら、知的財産を経営資源とする科学技術創造立国におきましては、知的財産をめぐる紛争が今後ますます増加することを考えますと、かかる対応のみでは、知的財産の適切な保護と知的財産紛争の迅速な解決に対しては、司法の十分な裏づけがあるとは言えないと考えております。
我が国産業の競争力を強化しますには、技術等の知的創作の保護が競争力強化のための重要な柱であって、技術等の知的創作は、商品の付加価値、差別化、生産効率の向上を通じまして、新規産業を興し、成熟産業を活性化させるかぎであると考えております。
したがいまして、知的財産の活用による産業、経済の活動が活発化すればするほど、知的財産をめぐる紛争は多発いたします。しかしながら、この知的財産紛争の解決が長期化いたしますと、国内のみならず、国際的にも活発な経済活動が阻害され、景気の停滞を招きます。
知的財産の中でも代表的な特許は、技術思想である発明を保護するものであります。その際、取得した権利が有効なのかどうか、または第三者の実施が侵害に当たるのか否かなどの判断は、技術上、法律上の高度な専門知識が必要かつ不可欠なものでございます。
二十一世紀を迎えるに当たりまして、技術の高度化、ソフト化が進む今日、この専門性の要求はより一層強まる傾向にあり、バイオテクノロジーやコンピューター関連技術などに代表されるような最先端技術におきましては、侵害事件や審決取り消し訴訟が多くなっております。
こうした訴訟が今後さらに増加することを念頭に置きますと、裁判における技術上、法律上の専門性の確保は極めて重要な課題であると考えております。このことは、訴訟事件に関与されます裁判官の方々のみならず、訴訟代理人として知的財産の紛争事件に関与される方々にも、高度な技術上、法律上の専門知識が求められることになります。
もとより、裁判所におかれましては、例えば東京地方裁判所では、工業所有権の専門部を新たに二部増設されるなど、組織の拡充に努められております。司法に携わる皆様の御努力には心から敬意を払うものでございます。
しかしながら、迅速な知的財産紛争の処理を今後より一層充実し、その強化を図りますためには、例えばアメリカ、イギリス、さらにはドイツ、韓国のように、特許に関します訴訟事件を専門に取り扱います特許裁判所のような専門裁判所の設置も視野に入れた検討が広い範囲でなされることが非常に大切であると考えております。
他方、国家的レベルでの知的財産の紛争処理専門家といたしましての人材の育成と積極的な登用もまた極めて重要なことであると思われます。
以上申し上げました認識のもとに、今般御審議されております司法制度改革審議会が早急に設置され、知的財産分野における司法のあり方を広い視野から御検討されますことを切に願うものでございます。
司法制度改革審議会が発足しました際には、知的財産の適切な保護や迅速な紛争解決について十分に御審議をいただき、できますれば、私ども弁理士会にもまた意見を述べる機会を賜りたく、お願い申し上げます。どうもありがとうございました。(拍手)