池原毅和の発言 (国民福祉委員会)

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○参考人(池原毅和君) 精神保健福祉法等の一部改正の御審議に当たり、意見を述べさせていただく機会を賜りましてありがとうございます。
 私は、財団法人全国精神障害者家族会連合会、略称全家連と申しておりますけれども、その団体の常務理事をしておりまして、今回の法改正に当たりましては、公衆衛生審議会精神保健福祉部会に設置されました精神保健福祉法に関する専門委員会の委員として、昨年、精神保健福祉法の問題点をいろいろと議論させていただき、ことし二月十七日付の公衆衛生審議会の答申には、審議会の委員としてかかわらせていただいております。
 今回の法改正は、精神病者監護法ができましてからおおむね百年、精神衛生法がつくられましてから約五十年、さらに精神保健法になりましてから十年目という大きな節目に当たる法改正でありまして、内容的にも大変歴史的な意義を多く含んだ改正が行われるものと期待をしております。
 今回の法改正の全体につきましては、今後とも、より望ましい精神医療、福祉のあり方を目指した法改正の努力を継続していく必要があると考えますけれども、二十一世紀に向けてあるべき方向を示す法改正の第一歩として、全体的には評価できる改正内容であるというふうに考えております。
 私どもが第一に評価したいと思いますのは、保護者制度に初めて実質的な手直しが加えられたという点であります。
 全家連の家族の生活実態調査は、お手元にお配りしたレジュメに統計数字が示されておりますけれども、保護者をしている人の約八割は父または母でありまして、その年齢は、六十歳以上が六三・八%、七十歳を超える人が約三割、年収三百万円以下の方が半数を超え、年金生活者が約四〇%、健康状態が良好でないという人が三割を超えているという状況であります。
 現行法は、病に悩み、障害に苦しむ精神障害のある人を、こうした高齢で、経済的基盤も十分ではなく、健康状態もすぐれない老父母に対して、老いてもなお障害のある子をみずから支えよと命じてまいりました。こうした旧来の保護者制度のあり方は過酷であり、障害者家族の共倒れを招き、精神障害者の自立を支える方法としては極めて不十分で、前近代的な方法であったと評価するしかありませんでした。
 こうしたことから、全家連では、保護者制度を廃止し、地域医療、地域福祉あるいは公的な後見制度の支えのもとで、本当の意味での精神障害者の自立の支援を図り、精神障害も特別な病気や障害ではなく、家族のだれかが一般の病気や障害になってしまった場合と同じように、法による強制や法による義務ではなくして、家族が本来持っている愛情によって接することができるようになることを実現していただきたいとお願いしてまいりました。
 保護者制度の廃止は、精神障害者に対する法制度のあり方を、一般医療と一般の障害者福祉施策の通常の取り扱い方と同等にしていただくという意味で、ノーマライゼーションの実現という意味も持っていると申し上げてよいかと思います。
 法改正案では、保護者制度の廃止までは実現されておりませんが、保護義務を果たすべき時期が限定され、自傷他害防止義務を削除するとしております。これは、保護者制度廃止への第一歩として評価できるものでありますし、殊に精神障害者御本人の自己決定権の保障という観点から見たとき、今回の保護義務の限定は重要な意義があると考えます。
 レジュメの「精神障害者の実像」というところの数字をごらんいただきながらお聞きいただきたいと思いますが、精神障害者数二百十七万人に対して、医療保護入院になっている方は十万人弱、措置入院になっている方は五千人弱であります。医療保護入院者を、自主的に治療を受け入れることが困難な方々、つまり判断能力が損なわれている状態にある方々と見ますと、その割合は全体の五%以下であります。また、措置入院者を自傷他害の危険のある方々と見れば、その割合は全体の約〇・二%にすぎません。精神保健福祉法第二十二条の保護者の治療を受けさせる義務というのは、本人に判断能力が損なわれているために、自主的な治療が成り立たないときに必要になるわけですから、それは精神障害者全体の五%で足りるということになります。また、自傷他害防止義務については、〇・二%の可能性のために精神障害者全体を危険視し、保護者に監督義務を課すことで、どれほど多くの精神障害者に偏見とスティグマを課すことになるか、立法政策上、その弊害を知らなければならないと思います。
 こうした点から、保護義務を主として医療保護入院と措置入院の場合に必要なものと限定し、自傷他害防止義務を削除した改正案は高く評価すべきものと思います。
 第二に、家族会として注目しておりますのは、改正案三十四条の医療保護入院のための移送の規定と、三十三条の医療保護入院の要件であります。
 移送につきましては、精神障害の方が適時に適切な医療を受ける権利をどのように保障すべきかという難しい問題がございます。国民に適時に適切な医療を受ける権利を保障するためには、一般的には、医療資源を十分に確保しておけば、医療資源へのアクセスは各自が自主的に、いわば自己決定をすればよいということになります。しかし、精神障害の場合、先ほども申しましたように五%以下程度ではありますけれども、自己決定が困難な状態に陥る場合が想定されます。ここで九五%以上の精神障害の人には自主的な治療が成立することを強調してし過ぎることはありませんけれども、自主的な治療を成立させることが困難な事態が、少数ではありますが存在することは否定することができません。
 一九九一年の国連の精神障害者の保護及びメンタルヘルスケア改善のための原則においても、精神障害者に対してインフォームド・コンセントを行うべきことを強調した上で、しかし例外的にインフォームド・コンセントが行えない場合について規定をしております。
 私は、現行法で問題だったのは、この原則と例外を区別する基準を法が責任を持って明示していなかった点にあると考えております。そのために、熱心さから、あるいは思い余って、民間警備業者などを使って精神障害者を強制的に病院に搬送させる事態や、逆に医療にアクセスできないままに病状が悪化している人を、責任追及を恐れて放置してしまう、関係機関の職員の事なかれ主義とも見える姿勢などが見られないではありませんでした。こうしたむやみな強制や無責任な放置を防ぐためには、法律が責任を持って適時に適切な医療を保障するためには、どのような基準で本人の自己決定を保障していくのかということを示すべきであると私は考えます。この点で、移送の規定を新設したことは評価できると思います。
 また、改正法案が、医療保護入院について、本人に同意能力がなく自己決定ができない場合であることを示す趣旨で、任意入院が行われる状態にない場合という要件を加えることにしている点も、インフォームド・コンセントの原則と例外を基準化するものとして評価できるものと考えます。
 ただ、これらの規定には残された課題もございます。
 まず、移送も医療保護入院も、保護者制度を前提とし、保護者の同意を要件にしております。しかし、入院を拒否し家族と葛藤関係にある本人に対して、家族が保護者として強制権限の発動にいわばゴーサインを出すということが、家族関係に深い心の傷を残すことは容易に想像できるところです。また、入院について利害が対立する関係もあり、葛藤関係にもある一方の者に強制権限発動のイニシアチブを持たせるということは、精神障害者の人権を守る上で適切な方法とは言えません。さらに、医療保護入院については、入院を強制できる根拠がどこにあるのかも実ははっきりしておりません。こうした点では、これらの規定は、将来的にはよりよいものにしていく努力が必要であろうと思います。
 こうした観点から、レジュメでは一ページ目の下の方の「残された課題」というところでございますが、六点ほど、今後の課題としてお願いしたいことを列挙しております。
 第三に、改正法案が、精神障害者の地域福祉の面において、市町村という身近な行政単位にその業務を担っていただく方向を示したこと、また精神障害者居宅生活支援事業等を定めたことなど、ようやく精神障害者も一般の障害者と同じように、地域の福祉資源を使って地域社会で自立生活を営んでいく兆しが見えてきたように思います。精神障害者の地域福祉の促進という面では、法制度上のメニューはほぼ出そろってきたものと言えると思われますが、量的な少なさに問題の要点があると思います。
 三十万人を超える入院者の数は、精神衛生法が精神保健法に、そして精神保健福祉法に変わっても、相変わらずほとんど変化していません。その大きな原因の一つが地域の社会資源の不足にあることは疑いのないところです。精神障害者数二百十七万人に対して、身体障害の方と知的障害の方を合わせた数は約三百六十万人になります。他の二障害者の数は精神障害者の数の一・六五倍ですが、法定施設の種類では七倍、箇所数では十倍、定員数では四十倍を超えるという報告もございます。
 ちなみに、レジュメの二枚目に、施設について障害者白書から抜き書きをしたものをお示ししましたが、ほかの障害と比べて精神障害の方に対する福祉施策がまだまだ量的に不十分なことは明白と言ってよろしいかと思います。
 精神障害者が障害者として法的に認知されましたのは平成五年の障害者基本法によることを思いますと、精神障害者の問題が余りにも長く医療だけで解決されるべき問題であるとされ、福祉的な援助の必要性に対する認識が遅かったことが、長期入院者を残存させ、社会的入院の解消をおくらせている原因であったと言っても過言ではないと思います。
 また、地域で自立した生活を果たしていくためには、所得保障という面も極めて重要な課題であります。精神障害の場合は、初診時のカルテが保存期間を経過して廃棄されてしまっていたり、年金払い込み前の二十歳を過ぎた学生時に発病する場合も少なくないなどの理由から、障害年金を受給できないいわゆる無年金者問題も存在しております。
 年金問題は、精神保健福祉法それ自体の問題ではありませんが、こうした福祉的側面を総合的に御勘案いただき、精神障害者の地域自立生活を支える医療と福祉の法としてよりよい精神保健福祉法となりますよう御審議をいただき、また、附帯決議等で将来、再度、法見直しの機会をお与えいただいて、よりよい精神保健福祉法の実現を果たしていただきますようお願いいたしまして、私の意見を終わらせていただきます。
 ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 池原毅和

speaker_id: 16565

日付: 1999-04-20

院: 参議院

会議名: 国民福祉委員会