馬居政幸の発言 (運輸委員会)
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○馬居参考人 静岡大学の馬居でございます。よろしくお願いいたします。
私は、今お話しされた三人の参考人の先生方とは異なりまして、教育社会学を専攻する者でありまして、主に学校教育とか生涯学習の境目においてどうさまざまな学習を進めていくかという観点から、これまで、中学校の公民の教科書をつくる過程で、バリアフリーの問題とか、あるいはとりわけ高齢化社会に対して何を準備しなきゃならないのか、とりわけ中高校生にどのような学習が必要なのかということを、機会があって参考資料をつくる編集をしたり、あるいは社会学ですのでさまざまな社会調査を行ってきたわけなんです。
そのことが縁となって、この一月から二月にかけて、大田区で、歩いて暮らせる街づくりという、市民の方々、ボランティアの方々が、自分で車いすでバリアフリーの可能性、あるいはその障害となるものをいろいろ調べてみたいので手伝ってくれないかという話をいただきまして、今まで自分が子供たちを対象に、あるいは一般の方たちを対象に考えていたさまざまな課題というのが、実態はどうなっているのかを知りたいということもありまして、参加させていただきました。
したがって、バリアフリーに関するハードの部分については文字どおり素人でございますけれども、現場、すなわち実際に車いす等を用いて道を歩いたらどのような問題があるのかというところから今回の法案を私なりに読ませていただいて、そのいい点と課題等についてお話しさせていただきたいと思います。
一応私自身は、これから述べるような理由で政府案を支持する立場から述べさせていただきたいんですけれども、今言いましたように、調査につきましては、大田区にある二十五カ所の高齢者のための施設に行く主要ルートを対象に、車いすやシルバーカーによる通行を妨げるさまざまな障害の有無や程度についての調査でありました。この結果から、ベターな選択として今回の案については賛成をしたいと思っているんですけれども、私なりにその理由を簡単に述べさせていただきます。
レジュメを用意させていただきました。そこに、本当に簡単に三つ、主体の明確化、対象の明確化、実施過程の明確化ということで書かせていただいたんですけれども、要するに、基本方針は国が決定をして、具体的な整備は市町村が基本計画に基づいて重点整備地区を決定し、公共交通事業者、道路管理者、都道府県公安委員会と一体となって進めていく。これらについては今参考人の先生方からお話ありましたとおりですけれども、それを国が財政的に支援をして、さらに、事業を円滑かつ着実に進めるための法人を指定し明確にする。そしてそこで、情報の収集、整理、提供、あるいは事業実施への助言、指導、資金の支給や調査研究に努める、こういうふうな文言が書かれております。
このような法そのものについての理解については、私は正直言って素人でございますけれども、ただ、調査をした結果さまざまな課題を考えたときに、少なくとも、だれが行うのか、どういう対象を行うのか、あるいはそれをどういうプロセスで行うのか、あるいはそれをどういう形で管理していくのかということについては、政府案は明確に規定されていますので、この部分に関しては、少なくとも確実にバリアフリー化は進んでいくであろうという意味で、先ほどからも先生方のお話にありましたけれども、画期的な法案だと思います。
ただ、私なりに思うんですけれども、対象が明確、方法が明確、主体が明確ということは、逆に言うと、それ以外のことは果たして実施されるのかという部分で、実施されない部分もまた明確ということになるんだと思います。
したがって、その代表が、駅の新設の旅客施設、車両については義務、既設は努力義務というふうな規定にあると思うのです。バリアフリー化を完全に実施するということを考えれば、本法律案は不十分な部分があることは否めないと思います。しかし、たとえ部分的であっても、その範囲を明確にしたということ自体は非常にすばらしいことで、支持したいと思います。
というのは、大田区での調査結果が示す現実は予想以上の厳しさがあるというふうに私は思いました。具体的にはこれから紹介しますけれども、レジュメの二枚目の方に表をまとめておきました。これは交通機関ですけれども、その前提となる車いすやシルバーカーによる通行を妨げる障害を問題にする前に、バリアフリー化自体を阻む道路の状況があるという現実を私は指摘せざるを得ません。
それは、今回調査したルートは全部で一万五千二百八メートルあるわけなのですけれども、その中の道路が、実際には坂道、橋、交差点などを除くと、平たんな道は一万三千二十メートルで、総距離の八五・八%です。その平たんな道の中で、歩道がある道は五千五百六十五メートルで総距離の三六・六%です。さらに、車いすが回転可能とされる百五十センチ以上の幅を持った歩道は二千八百四十八メートル、全体の一八・七%です。これは歩道をつくっていないとか、予算の都合で幅の狭い歩道にしているとかというのではなくて、車が通行する幅を確保するとこれだけしか歩道として使用できる道幅がないということであります。
道路のバリアフリー化の第一条件は歩道の整備ということになると私は思っております。しかし、これを実際に進めていくとなりますと、今回の大田での調査の対象となった道路では一八・七%しかないということになります。あとの道路は車いすの通行に適さない狭い歩道か、ただ道路線上に白線を引いただけで、あるいはそれすらもないというわけです。このような状況のもとでいかに歩道をバリアフリー化したとしても、車の通行条件を変えない限り、車いすは車道を通行するしかないということになると思います。
もちろん、大田区においても幹線道路を中心に幅広い歩道が整備された道はあります。他方、今回調査対象になった高齢者の施設は、幹線沿いではなくて、高齢者が居住する地域に近接する条件のもとで設置されていますので、歩道を完備した幹線道路が調査対象に入りにくいという事情もありました。しかし、このような施設の設置条件自体は大田区の施設だけではないと思います。高齢者の方が利用しやすければしやすいほど、自分の身近な生活空間の範囲の中にあると思います。
この問題を解決するためには、道路幅を広げるか、一方通行を代表に、車の通行条件を変える必要があります。しかし、そのことは住民の生活を変えることもまた必要になってきます。これは、私も実際に地方の計画にさまざまな形でかかわりまして、単に行政が法によって指導しただけで済むような問題ではないと思います。
それが、先ほどバリアフリー化以前の問題があるという理由なのですが、さらに、障害の問題についても同じような問題を指摘することができると思います。
レジュメの(2)に「住民の便利さや快適さに応える公共事業の蓄積としてのバリア」として示した部分ですけれども、細かくデータをいただきましたが、それを詳細に説明する時間はありませんので、簡単に要点のみ述べさせていただきますと、障害となる事物は大きく二つに分けられます。
一つは、道路上の設置物とか凹凸とか段差とか傾斜を形成する障害物です。例えば電柱、標識、植え込み、マンホールなど、いずれも公的な事業に伴う障害であります。道路破損など整備不良によるものがありますが、それらはどちらかというと、住民の生活を豊かにするために、住民の要求に応じて道路や歩道を整備した結果生じた障害も少なくありません。
もう一つは、より住民の生活とかかわるもので、私ども移動可能障壁という言葉をつけたのですけれども、要するに道の上に置いてあるさまざまな障害物であります。自転車や商品を代表に、道を利用する人のマナーにかかわる障害です。このことを象徴するのが、そこに枠で囲っておきましたけれども、商店街のみの調査地域を取り上げて、その障害となる問題がある箇所や、あるいは通行が不能になってしまう箇所の割合なのです。全体の平均では七・八四メートル、これも非常に大きいのですけれども、七・八四メートルに一カ所に対して、商店街は六・三メートルに一カ所です。あるいは通行不可能な場所、要するに、車いすが道路に出なければならない場所というのが、全体が二十三・五八メートルに一カ所に対して、商店街は十八・八五メートルに一カ所です。
このような公的な道路整備に伴う障害と、あるいは住民の道路使用に伴う障害に共通するのは、バリアフリー化を実際に進めていくためには、今回の法案が示すように、さまざまなハードの部分の改善が必要なのですけれども、私なりに言えば、より重要になるのは、その道を利用する人たちの理解が必要であり、時にはその人たちの生活のあり方を変えることが必要である、そこまで踏み込まないと進まないのではないかと思うのです。
その意味で、バリアフリー化を進める上で最も重要なのは、そしてそれはバリアフリー化を妨げる課題でもありますけれども、道を利用する人たち自身のバリアフリー化であると考えます。それは心のバリアフリー化ということで先ほどもお話がありましたけれども、言われていることだというふうに理解しています。
もちろん住民の協力が得られないからといって、それを理由に行政が何もしなくてもよいというわけではありません。住民の意識や生活の変化を待つしかないという意味でもありません。バリアフリー化の事業は私たちの生活のあり方を変えることなしには進めることができない、言いかえれば、障害者にとって、あるいは高齢者にとって有利になるということは、通常の生活をしている者にとってみれば不利な部分がいっぱい出てくる、その部分を承知しながら進めていかなければならない、その理解を得ていかなければならないことをしっかりと踏まえなければならないのではないかと思います。
その意味で、地域住民の利害を反映しやすい市町村が主体となって、地域の実態に即して基本構想を作成し、重点整備地区を重点的、一体的に進めるこのバリアフリー化の法案は、二重の意味でベターな選択として評価したいと考えております。
その一つは、地域住民の理解と協力なしにはこの事業を推進することができないということ、そのことを担う主体は市町村行政でなければならないと思うからです。それからもう一つは、特定地域を重点的、一体的に実施するということは、これが一番肝心なところなんですけれども、その地域自体がいわばモデルとなって、バリアフリー化への学習効果を期待することができると思います。言いかえれば、現時点で可能な、主要駅を中心とするバリアフリー化を、ゴールではなく、本法律の目的である急速な高齢化の進展に対応した町づくりのための実行可能なスタートとして位置づけることができる意味で、政府案を評価できると考えます。
ただし、このことが実質化できるかどうかは、政府案の中に示されております指定法人の事業や、国、地方公共団体及び国民の責務にかかわる部分についての、他省庁との協力を含む、より詳細な検討にかかっていることを指摘させていただいて、意見を終わらせていただきます。
以上でございます。(拍手)