井尻秀憲の発言 (外交・防衛委員会)
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○参考人(井尻秀憲君) 私、井尻でございます。
私のレジュメに関しましての表現上の問題に関しては、私のつたないところがございますので、どうぞ御容赦いただきたいと思います。今の私のレジュメの、お配りした中で、私の表現上の問題で不手際な点がございます点に関してはおわび申し上げます。
お時間いただきました時間の中で、私なりの今回における台湾の総統選挙、そこでの陳水扁氏の勝利と今後の行方という形で少しお話をさせていただきたいと思います。
既に御案内のような結果になっておりますので、時間の関係上ございまして、恐らく、今回の選挙結果それから今後の問題を考えます場合に、一つは、むしろ国民党のかなり大敗と言ってもいい、そういう状況になったわけですが、そちらの敗因の方から御説明あるいはお話を申し上げた方がわかりやすいかもしれないという気がいたしまして、その点に関して少しお話をしたいと思います。
それから、もう一点に関しましては、元来、国民党の中枢にいた宋楚瑜候補が今回かなり陳水扁候補に肉薄する形で票の獲得がなされた、その理由は一体どこにあったのかという点をもう一点お話をさせていただいて、それから陳水扁候補の、新しい総統の誕生ということになりますが、この勝利の原因といいますか、そこらあたりをお話しさせていただくというような形で、基本的には三つぐらい、主として台湾の内政面、特に選挙結果を見た上での、直後での内政面に関してお話を少し絞らせていただきまして、私の報告としたいと思っております。
それから、両岸関係、つまり中台両岸関係云々に関しましても、その結果として新しい総統に選ばれました陳水扁さんの今後の政治のあり方という、そういう点に関しましては、最後の段階で少し簡単に触れさせていただくというような形でお話を進めさせていただきたいというふうに思います。
まず、李登輝国民党中央のいわば今回の選挙戦、あるいは李登輝総統のいわば退陣ということがきょうの新聞でも、党中央常務委員会レベルであすあさってぐらいに辞意の表明ということがなされるというところまで新聞ではもう書かれておりますけれども、いわば国民党サイドから見ますと、あるいは国民党サイドの現状、状況というものを見ますと、特に李登輝総統を中心にしました国民党の今回の選挙戦でのあり方、戦い方あるいはそれ以前の李登輝総統の時代に台湾政治がどのように展開してきたかということを踏まえて考えますと、やはり台湾の全体的な利益、台湾の全体的な国益と言えるような、そういうものを重視する。つまり、台湾の民主化あるいは台湾の台湾人意識、台湾内部における台湾人意識のいわば定着、そして民主化を逆戻りさせない、それから同時に台湾の国際社会における地位の向上、そういったものを確立していくという、そういう非常に大きな、大局的な李登輝路線といいますか考え方があったんだろうと思います。
したがって、アジアの哲人政治家と言われるような、そういう強い李登輝総統のリーダーシップのもとでそういったことを進めてきたわけですけれども、その段階で国民党そのものが従来から持っていた古い体質、これが温存された形で、そこにいろんな矛盾があってもそれを強いリーダーシップでもってふたをして抑え込んでいたという、そういう状況だったんではないか。それがポスト李登輝というようなこういう事態になったときに、ぐっとその問題が、ふたがあいて噴出してきた。
そして、改革という国民党そのものの改革あるいは台湾政治の改革というものが国民党自身にできる状況にあったのかというようなことが実はございまして、それに対して民衆、選挙有権者の意識というものが、むしろ国民党ではないほかの政党から出てきた、あるいは無所属の候補者、つまり陳水扁、宋楚瑜、この両氏に期待をかける、特に勝ちました陳水扁氏に期待をかけるという選択になったように思います。
そういった意味で、国民党のいわば改造、五十年以上続いてきた党国家体制の改革というものが、先ほど申し上げた、台湾のより大きな大局的な利益ということを先行させて政治のかじ取りがなされてきたがゆえに、逆にそこに、特に地方政治の改革に手がつけられなかったというようなふうに私は理解しております。
ところが、そこで出てきた、実は無職の在野に置かれた二人の政治家が登場してくることになったわけでありまして、その在野に置かれた無職の政治家の中で、一人は国民党から除名されましたけれども、国民党から離党して選挙に出た宋楚瑜氏。そしてこの宋楚瑜氏が、実はここにも書いておりますが、ある意味で、台湾人、外省人、つまり大陸的な外省人として初めてと言っていいぐらいの、まさに台湾人の票をとれるというところまで力を伸ばしていたと。
その端的な例が、彼が省政府の省長であった時代に、相当の地方への公共事業という形で予算をかなりばらまいた。それが一方で、国民党の主流、党中央主流の連戦、蕭万長といった、特に蕭万長さんあたりは余り地方に行かない中央集権主義であって、同時に国民党は、台湾の民進党が、つまり野党が県、市レベルの首長なりそういうところを握っているというところには余り予算配分をしていないんです。ところが、そういう国民党が余りケアを、よく面倒を見ていないところへ実は逆に、民進党とはまた違った角度からこの宋楚瑜氏が入っていった。そして極めて強い地方への公共事業を与えるという、そういうことによって利益誘導型の政治を行い、まさに宋楚瑜という、国民党とか何党とかいう、そういうことではなくて宋楚瑜個人に対する支持というものをかなり集めたという、そういう点があったように考えております。
同時に、それはちょっと若干人種的な問題になりますけれども、台湾の台湾人、いわゆる福老系のミン南語を話す台湾人と言われている人たちと、それから客家の人たちに、同じ本省人ですけれども分かれますけれども、民族的に少し違うそういう人たちのところにも宋楚瑜さんがかなり食い込んだというように私は理解しております。
その結果として、本来二大政党制であって、それをかじ取りしてくるということで来た台湾の政局が、ここへ来ていわば三つどもえになってしまった。そうしますと、当然そこから今度は逆に、もう一人の若いホープとして民進党が育ててきた陳水扁さんの方に有利な状況があらわれたというふうに考えられるわけであります。特にいろいろと報道等で御案内の点以外に、この台湾の選挙戦の最終段階に入りまして、一つの連戦陣営に対してある意味ではかなりマイナスといいますか、打撃になった点がございます。
それは、陳水扁さんが単に漁夫の利を占めるとかそういったことではなくて、台湾のいわばノーベル賞受賞者として非常に名誉のある人材だと言われてきた李遠哲さんという中央研究院、つまり総統府直属の研究院の院長であった李遠哲さんほか、もともと李登輝総統とも関係が深いと言われていたような財界の人たち、そういった人たちを含めて陳水扁さんの顧問団になるというような形で陳水扁さんの方の支持に移っていったわけであります。これが実は投票の本当にもう数日前でございまして、したがって、そのことによって国民党支持者にはかなりの心理的なパニックといいますか、そういう状況が出たように思います。
ただ、そのときに、実は見方によっては李登輝総統の一種の権謀術数というような見方で、もしかしたら李登輝総統がそういうことに関してもいわばある程度わかっていて、それもまた一つの政治の手段として、権謀術数的な形で行ったのではないかという、そういう非常に一番我々がある意味では今回の選挙を見る際に関心を持つところがあるわけです。実際に、報道にもありますように、中国はそういった理解をし始めたという報道もございますが、この点に関しては、私が少なくとも感触を得た状況でお答えする、御説明申し上げることで言えば、まずそれはなかったのではないかというのが、これは私個人の得ている感触でございます。確実にこうだという点は言えませんけれども、そういった状況ではなかったかというのが私の得ている感触でございます。
それからもう一つは、国民党サイドに選挙戦を戦う上で、この辺は新聞等々では余り書かれておりませんけれども、やはり国民党の連戦さんを支持してきたいわば国民党の選挙対策本部、ここと李登輝総統以下国民党中央の人たちとの間にちょっと意見の違いがあったのではなかろうかと。
そこらあたりを考えますと、それは台湾のテレビ等々を見ていても非常にある意味では象徴的でもあったわけですが、国民党のどちらかといいますと古い、旧来の保守的な立場あるいはかつて李登輝総統と九六年の選挙戦で戦ったそういう人たちが連戦支持に回ったわけです。そして、選挙対策本部に訪れたりして連戦支持を表明する。そうなってきますと、これは逆に一般の住民からしますと、つまりそういった一種の国民党のいわば古い方向への逆戻りではないかという意識、そういうふうに見えなくないわけです。ですから、そういった点もむしろ陳水扁さんの方に有利に働くという、そういう選挙の中でのイメージ戦略といいますか、そういう点を考えますと、あったのではなかろうかというふうに思っております。
それから、プラス中国という存在がありますが、やはり朱鎔基さんの中国の全国人民代表大会での記者会見でなされた台湾あるいはアメリカ、そういったところに向けた言葉と言ってもいいわけですが、あるいは直接的には台湾に向けた言葉と見てもいいんですが、つまり台湾独立ということがあった場合はそれを座視しないというような、ある意味で非常に恫喝的な、威嚇とも思える言葉だったわけですが、これに対していわば台湾の住民はむしろそれに対してやっぱり反発を示した。
つまり、そこでソフトなやわらかい路線になってしまっていたら、逆に中国はそういうふうに言うことでもって効果があるんだということになりますから、それはそうではなくて、むしろ台湾の人たちにとってみればかなり強いそれは反発になったし、それから同時に、反発できる環境にあったというのはやはりアメリカが軍事的にも安全保障という、そういう側面で背後にいたという、そういう全体の構図を考えますと、まさにアメリカは議会で安全保障、台湾海峡の安全保障強化案というものをいわば可決していたわけですから、そういう面を含めて総合的に考えていきますと、最終的に選挙民の投票行動というものが、だれにいわば積極的に投票するかというよりもだれになってほしくないというような、つまり極めていろんな情報が攪乱しておりまして、はっきりとしたそういったものが出てきていない。しかも、規定によりまして投票日の十日前から世論調査等の公表ができないという、そういう状況にあったわけでして、ですから有権者にとってみればだれに投票、だれが一位で走っているのかわからないわけですね。
そういう意味で、最終的には自分がこの人になってほしいということではなくて、この人になってほしくないというような形での投票をした可能性が高いというように私は思っております。つまり、だれかを捨ててだれかを守るというような、そういうふうな投票行動、こういうふうな形で投票行動に行った可能性があるというのが、現地で最終段階での状況を見た限りにおける、また私の得ている感触とそれから考えでございます。
時間の関係上、これ以上の時間を多くはとれませんけれども、基本的には中台関係に関して、そしてまた陳水扁、新しい総統が生まれるわけですけれども、まずやっぱり内政面でかなり国民党、二百二十五議席を立法院で持っている。日本の国会に当たる国会でもって二百二十五議席の中のいわば民進党は七十席しかない、そういうふうな七十議席の状況の中でねじれ現象が起きるわけですから、当然国民党との間の調整が必要になる。
それから、野党の民進党の候補としていわば当選したわけですけれども、しかし野党民進党、これから政権党になるということになりますが、その民進党からも恐らくそんなに、距離を少し置き始めるだろうと。ですから、そして、陳水扁さんは全人民の政治というようなことを言っておりますけれども、しかしそれはどうも言葉としては余りにもきれい過ぎる。ある意味で、それをその辺のところのこれから五月二十日まで、あるいはそれ以降、総統就任式までの動きとか、その後の陳水扁さんの経験、これまでの執務経験が台北市長を一期やっただけですから、そういった経験というものを考えますとそう簡単に物事がきれいに動くとも思えない。かなりいろんな動きがあって、不安定な状況が続く可能性も否めないというふうに思っております。
それから、中国との関係に関しては、これもまた基本的には李遠哲さんというこの方が北京に行ってトウ小平さんとも会ったことがある。つまり、北京とのチャンネルも持っているというようなことが言われております。
それから同時に、国民党が準備していた。国民党は今回対話に応じるということはかなり実は準備していたんです。連戦さんが勝てばもうすぐ対話に応じる状況はかなりできていたんです。それは汪道涵訪台という形で始まるだろうという、そういう予測が私としては得ておりました。ところが、政権が変わるということになる。そうなれば、陳水扁さんは勝利の記者会見で、江沢民さんとかそういう中国のリーダーの方に台湾に来てもらう、自分も行くというふうに言っておりますけれども、しかしそれはそう簡単にそれが実現するわけではない。やはりこれは言葉がきれい過ぎる。
ですから、そういう意味で、まずはやっぱり段階を踏まなければならないだろうと。ですから、現在の台湾の対中国政策を担当する大陸委員会あるいは交渉の窓口にある海峡交流基金会、こういうところとの話し合いも詰めていかなければならないし、簡単に行けばいいということではない。
むしろ、中国と台湾との間の関係において今一番重要な意見の違いというのは、一つの中国というこの原則をどうするかという問題なんです。ですから、その点に関して、恐らくこれは台湾サイドからすれば協議して構わない、当然違いを協議しましょう、対等な立場で違いを協議しましょうということの模索になると思います。ですから、統一という問題にしろ何であれ、意見の違いを、違いがあっても構わないので、それでもって対話しましょう、そういう形に恐らくなるだろうと。私、ただし結論がすぐ出るとはもちろん思いません。
ですから、それは違いが決定的に、やはり一つの中国という中国側が主張する原則と、それから台湾の李登輝総統の二国論以後のいわば特殊な国と国の関係、あるいは陳水扁さんは国と国の特殊な関係というふうに言葉を少しひっくり返して言っておりますけれども、つまり国と国の方に力点があるのでなかろうかというようなそういう気もしますが、いずれにせよ、そういう違いがまだまだある。
かなりギャップはあります。ですから、そのギャップを埋める、そういう対話をすること自体は恐らく始まると思うんです、すぐかどうかはもちろんわかりませんが。ただし、その結論は必ずしもすぐ出るとは思えないです。かなり意見の違いはあるというふうに私は理解しております。
一応そういうことで私の報告を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。