高木誠一郎の発言 (外交・防衛委員会)
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○参考人(高木誠一郎君) どうもありがとうございます。
日本の対外政策に重要な責務を負っていらっしゃる先生方の前で私の見解を発表する機会を与えていただいたことを大変光栄に存じております。
冒頭にひとつおわびと釈明を申し上げたいんですが、私は前のお二人の参考人のように皆様にレジュメをお配りしておりません。実は私はお配りするつもりできのうの夜遅くまで準備をしておったんですが、私は現在防衛庁の防衛研究所というところに所属しております関係で、内局の方から、レジュメを出すならばまずこちらに見せろと言われまして、まだやっている最中だったんですが、昨晩遅くやっとできると思うと言ったら、それならレジュメなしでやってほしいというふうに言われたわけであります。レジュメがないことを大変申しわけないと思っておりますが、決して私の議会軽視ではありませんので、御理解いただきたいと思います。
私に対する発言の内容の御指示は、アメリカの立場から見た台湾問題を論ずるようにということでございました。何をお話ししようかいろいろ考えたんですが、時間も限られておりますので、二点に絞ってお話ししたいと思います。
一点は、アメリカが、一九七二年の米中接近以降、台湾問題に対してどのような態度をとってきたかということを大まかに回顧するということ、それから第二点は、最近の状況についてどのような対応をしているかという二点でございます。
まず最初の、アメリカの台湾問題に対する立場の変遷ということですが、ここまで初歩的なことを申し上げてはかえって失礼かもしれませんが、一九七二年二月の上海コミュニケを振り返ってみますと、このコミュニケはアメリカと中国が国交正常化の交渉を開始するということをうたったコミュニケであるわけなんですが、このコミュニケの中で、台湾問題は国交正常化の交渉を左右するかぎとなる重要な問題であるということが述べられております。
この中で、言うまでもなく中国は、台湾は中国の一部であるという立場を明確に述べておりますが、これに対するアメリカの表現というのは非常にあいまいなものでありました。その文書を引用しますと、アメリカは、台湾海峡の両側のすべての中国人は中国はただ一つであり、台湾は中国の一部であると主張しているという、そういう事実を認識するというふうに述べているにすぎません。この認識という言葉は、英語ではアクノリッジという言葉を使っております。中国語は認識到るという基本的に日本語と同じ意味なんですが、そういう漢字で訳しております。そして、この台湾問題の平和的な解決に関心を明確に表明いたしました。
このコミュニケで始まった米中の国交正常化の交渉というのは、その後、米中両国の国内政治の激動のためになかなか順調に進みませんで、一九七八年十二月にやっと決着いたしまして、十二月十五日に国交正常化のコミュニケが発表されます。
この国交正常化のコミュニケの中で、やはり中国は従来の立場を繰り返して述べ、アメリカはこれに対して、台湾は中国の一部であるという中国の立場を認識するというふうに微妙に表現を中国寄りに変えております。これを英語で読みますと、アクノリッジ・ザ・チャイニーズ・ポジションという表現になっておりまして、そして非常に興味深いことは、この部分の中国語訳が承認という字になっております。上海コミュニケにおけるアクノリッジという言葉は認識と訳されていたんですが、正常化のコミュニケのアクノリッジという言葉を中国は承認しているというふうに訳しておりまして、以後、事あるごとにアメリカに対して、アメリカは台湾が中国の一部であるということをあのときに承認したではないかという形で、このコミュニケを引用しております。
このような中国にかなり接近した立場をとったことへの反発も加わりまして、この国交正常化のコミュニケの承認と相前後して、アメリカの議会は台湾関係法というのを通過させました。これはアメリカの台湾に対する安全保障上のコミットメントを、台湾との防衛条約を破棄せざるを得なかったということがありますので、アメリカの国内的な立法で保障しようとしたものであります。
この台湾関係法では、台湾の自衛に必要な兵器を供給するということを明確にうたっておりまして、そして台湾に供給する兵器の種類あるいは量の決定に当たっては、台湾の防衛上の必要以外の配慮をしてはならないということも述べております。また、この台湾関係法は、平和的な手段以外の方法で台湾の将来を決定しようとする行動はすべてアメリカの重大な関心事であるということを述べておりまして、その例示としてボイコット、封鎖も含むということを言っております。ある意味ではこの台湾関係法によるアメリカの台湾の安全保障に対するコミットメントというのは安全保障条約よりも強いものだと言ってもいいかもしれません。
このようなコミュニケによって正常化が達成された後、一九八一年にレーガン政権が発足するわけですが、レーガン大統領は、一九八〇年の選挙戦を通じて、台湾との関係を正常な外交関係にするあるいはすべきであるというようなことを述べておりまして、そのような人が当選したということもあって、台湾側からアメリカの台湾に対する兵器供与の質の向上について非常に強い要求が出てまいりました。
この状況に中国は非常に危機感を抱きまして、台湾に対する兵器供与を制限する何らかの取り決めを結ぼうということを働きかけます。非常に複雑な交渉を経まして、一九八二年八月十七日に台湾向け兵器輸出に関する米中の共同コミュニケが調印されます。このコミュニケと正常化のコミュニケと上海コミュニケをあわせて米中ではしばしば三つのコミュニケというふうに言われております。この兵器輸出のコミュニケの中で、アメリカはさらに中国に微妙な歩み寄りを見せておりまして、ここでアメリカ側は二つの中国、あるいは一つの中国、一つの台湾の政策をとらないということを明言しております。
このように上海コミュニケから兵器輸出に関するコミュニケまでアメリカはじわじわとその立場を中国寄りにしてきたわけであります。もちろん、この間にありましても台湾問題の平和的解決に対する強い関心の表明というのは繰り返して行われておりますが、微妙ではあっても中国側の立場に接近していったことは否定できないと思います。
このような事態を背景に、一九八〇年代の末から冷戦の終えん、それから八九年六月の天安門事件という時代を受けてアメリカの対中政策は大きく動揺いたします。また、特に台湾に関しては、七〇年代から八〇年代にかけての台湾の急速な経済成長、それから八〇年代後半以降の民主化の進展ということによって台湾の国際的なステータスが上がってきたということも事態をさらに複雑にしております。
このような事態を受けて、一九九四年、アメリカは台湾政策の見直しを行いまして、これによって技術経済関係の官庁の高官が台湾を訪問することを認めるという方向にかじを切りました。そして九五年には李登輝総統の訪米を認める、もちろんこれは私的訪米という形をとるわけですが、認めると。そして九六年には、総統選挙に際して中国が軍事演習による威嚇を行ったということに対して空母を、機動部隊を二個台湾近海に派遣して、中国側ににらみをきかせるという行動をとります。
もちろんこの間における台湾問題に関するアメリカの基本的な立場は、いわゆる戦略的あいまい性ということでありまして、アメリカは、中国が台湾に対する武力攻撃をした場合にこれを黙視するとは限らないということを一方で言いながら、他方台湾に対しては、台湾が非常に挑発的な行動をとった場合には必ずしも台湾を防衛するとは限らないという一見相矛盾した、いわば玉虫色のメッセージを米中双方に送ることによって、この海峡における武力衝突を阻止しようと図ってきたわけであります。しかし、一九九六年の空母派遣というのはこの戦略的あいまい性を少し低下させたかなというふうに受け取られる面もございます。
さらに一九九八年、クリントン大統領が中国を訪問した折にいわゆる三つのノーという態度表明を行いました。これは、台湾の独立に対する支持はしない、それから二つの中国、一つの中国、一つの台湾も支持しない、それから国家を構成メンバーとする国際機関への台湾の参加も支持しないというわけであります。
この三つのノーというのは中国側が非常に喧伝しておることでありますが、ただ、このときにクリントン大統領は、台湾問題の平和的解決ということも明確に言っておるわけでありまして、アメリカとしては四つのノー、つまり武力不行使というのを加えて、自分たちの言いたいのは四つのノーだと言うべきであったのではないかと私は思うわけですが、どうやら中国側の宣伝能力の方がアメリカを上回っている、少なくともこの面についてはそういうことが言えるのではないかと思います。
このように、アメリカの台湾問題に対する立場が展開してきたことを受けて現在の状況があるわけですが、最近の状況、特に昨年以降の状況を見てみますと、アメリカではやはり中台の武力衝突に対する懸念が非常に高まっているということが指摘できると思います。
昨年二月、アメリカの議会は、台湾海峡における軍事バランスに関する報告を公表いたしまして、二〇〇五年までは台湾は中国に対して優勢を維持するということを言っているわけです。といいますのは、二〇〇五年以降はむしろ中国の方が優勢に立つだろうという予測をしております。
このような予測を一方でしながら、他方コックス報告というものを出しまして、中国が長年にわたってアメリカの諸機関から原子力兵器作製に関する機密を窃取していたという指摘をするという背景もありまして、中国に対するアメリカの警戒心というのは非常に高まっております。
このような中で、さらに昨年はユーゴの中国大使館における誤爆事件があって米中関係が非常に悪化したわけですが、中国側としては当然爆撃された立場としてアメリカに対する我慢ならない気持ちもあったと思いますが、それに対する対応がアメリカの中で非常にまた反発を呼ぶということもありまして、極めて険悪な雰囲気になった時期がございます。
そのような事態を背景に、昨年の後半、アメリカの議会では台湾安全保障強化法案というのが提出されまして、昨年十月、下院の国際関係委員会を通過し、ことしの二月に下院の本会議で圧倒的な多数をもってこれが通過しております。
上院は、これを一つのてこに使おうという計算だと思いますが、台湾の総統選挙後までこの法案の審議を延期するという措置をとっておりまして、現在もまだ投票は行われておりませんが、中台関係の展開によっては、やはり上院も圧倒的多数で、少なくとも大統領の拒否権を覆すに足るだけの多数で成立させるという可能性が依然として消えていないという状況であろうと思います。
こういう状況に対して、行政府は事あるごとに中国、台湾双方に自制を求めておりますが、特に中国に対しましては二月の中旬にタルボット国務副長官、それからスローコム国防次官を派遣しまして、中国側の自制を求めて、何とか武力衝突の勃発を抑止しようとしております。
しかし、これに対してアメリカ側としては非常にショックだったのは、このタルボット、スローコムの使節団が中国を離れたその直後に先ほど来お話のありました台湾白書というのが出まして、交渉を無期限に延期する場合は武力行使も辞さないというような態度表明を行ったということであります。
また、このような状況を受けてクリントンも、三つのノーの発言を微妙に修正する発言をしております。と申しますのは、三つのノー自体あるいは一つの中国政策というものは否定しないのですが、台湾のあり方の変更は台湾の人々の同意を必要とするということを述べるようになっております。
一般に、アメリカの外交安全保障問題あるいはアジア問題の専門家たちの意見を新聞等から推察してみますと、近い将来に中台間で武力衝突が起こる、あるいはそれによってアメリカが関与せざるを得なくなるという事態はないにしても、三年から五年という中期の見通しを考えた場合、かなりその危険は高いという意見を持つ人が多いようであります。
最後に、選挙の結果についてのアメリカの反応について私の感知し得たことをお話し申し上げますと、まず陳水扁の当選は、先ほどの国分先生のお話で、最後の段階で中台関係が争点になったというふうにお話がありましたけれども、アメリカの支配的な見方は、基本的にこれは反腐敗のキャンペーンの成功であるということで対中関係が中心となった選挙ではないということ。それから、中国側がかなりその言行を陳水扁の当選以降自制しているということで、幾分安心しているということが見てとれます。
また、アメリカの議論の中にはおもしろいものがございまして、かつて反共の闘士であったニクソンが中国との関係改善を実現したように、陳水扁はもしかしたら中国と台湾の関係を根本的に解決し、この両者間のデッドロックを打開するような働きをするのではないか。いわゆる陳水扁・ニクソン論というのが出ているようであります。
いずれにしましても、アメリカの基本的な立場は、先ほど国分先生が日本の立場としてお話しになったことと同じと思いますが、何とか武力衝突を回避して両者を交渉のテーブルに着かせるということに尽きると思います。
ただ、この交渉がどのような形でうまくいき得るかということについては、私の知る限り確たる展望はないというふうに見受けられます。したがって、いざとなった場合に対する備えも怠りないというのがアメリカの対応ではないかと思います。
以上でございます。どうもありがとうございました。