佐藤道夫の発言 (憲法調査会)
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○佐藤道夫君 前回も申し上げたことでありますけれども、憲法改正の論議というのは、どうしても憲法の三原則なるものを中心とした観念論、抽象論に陥りがちである。学者の研究会あるいは学会での討議ならばそれはそれで結構なのでありましょうけれども、ここはまさしく唯一の立法機関である国会の、憲法の運用に携わっている国会の中での議論でありまするから、やっぱり地に足をつけた議論、一つ一つの条文について一体これはどうなっているのか、余りにも運用と憲法の規定が違っているのではないかとか、そういう観点からの実務的な議論が望ましいと思うわけであります。
前回も二、三の例を挙げましたけれども、改めてもう一度申し上げておきたいと思います。
最初は、前文なのでありますが、これは五十年前に書かれた言葉でありまして、もう内外の諸情勢は全く違っておる。二十一世紀も間近という段階に、この前文をこのまま後生大事に抱きかかえていっていいのかどうか、議論されるべきであろうと思います。
それから、憲法がつくられたころから、元首に関する規定がないという指摘がありました。元首、この規定を置くべきかどうか、置くとすれば元首は天皇なのか内閣総理大臣なのか、この辺もやはり議論をされるべきでしょう。
それから、何といっても第九条。第九条は、皆さん方御承知のとおり、陸海空軍その他の戦力は保持しないと、こうなっております。自衛隊はあれは戦力ではないのかと、すぐこういう議論になってきます。やはり現実との乖離が余りにも甚だしいのが第九条、これをどうすべきかということも真剣に議論さるべきでありましょう。
それから、二十条の政教分離に関する規定、「いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。」と、こう書いてありますが、歴代の政府の見解なるものは、これは国が宗教団体に政治上の統治権、これは警察権とか課税権などを言うようですけれども、それを与えることを禁止しているんだと、こういうことを言っておりますけれども、条文を読んでみなさい。三歳の児童でも、そんなことは書いてない、「いかなる宗教団体も、」、主語は宗教団体ではないのかと。もし政府の見解でいきたいというならば、この二十条もきちっと政府の見解に沿った文言に改めるべきだろうと思います。
それから次は、二院制の問題で、現行憲法上、一院が衆議院、二院が参議院と、こういうことになっております。参議院のあり方についても憲法上考える余地はないのか。一院である衆議院が政党政治と、こういうことになりますれば、衆議院を補佐する、監視する参議院は、むしろ政党政治の枠から離れて個人中心のものにすべきではないのか、こういう考え方もあろうかと思います。大いに議論して結構だろうと思います。
それから次は、憲法は「行政権は、内閣に属する。」、内閣は国会に対して連帯して責任をとると、こういうことを書いてありますが、独立行政委員会なるものがしきりとつくられまして、行政に民意を反映する、その代表例が公安委員会なんですけれども、今予算委員会でも盛んに議論されておりますけれども、小渕総理は、何と何と、警察行政については指揮監督権がないと、こういうことを言っておる。当たっているのかどうか知りませんけれども、一体、内閣から独立した行政機関がいつの間にでき上がったのか、警察は裁判所と同じように独立なのかどうか、この辺も大いに議論されてしかるべきであろうと思います。
それから、今話にも出ましたけれども、八十九条の、公の支配に属さない教育に関する事業には公金を支出してはならないと言いながら、私学助成に何千億という金が出ている。学者はひきょうですから、全然こういう議論はしないんですよ、学界から追放されますからね。そして、宗教団体に金をやるということになると大騒ぎをして、憲法違反だ何だと、こう騒ぎ立てる。一体どうなんだろうか。もう少し虚心坦懐に議論をすべきではないのか。どうしても私学助成が必要だというならば、憲法の規定を削除すればよろしいわけですから、それだけの話です。
それから、今、直接民主制、この前の吉野川の可動堰の話もそうでありまするけれども、大変高く国民は評価しておって、何でもかんでも言うならばもう国民投票にかけろと、直接投票制度にかけろと、こういうふうなムードもあるようですけれども、果たしてそれでいいのかどうか。もしそれならば、どの範囲まで国民投票にかけるということもきちっと憲法上明らかにしておくべきではないのか、こういう気がいたします。
最後に、改正規定です。憲法の改正規定、大変厳格にでき上がっておりまして、簡単にはいかないようになっている。そのために過去五十年、改正も考えられはしましたけれども実行には移されなかったということもあるので、改正規定がこういう硬直した形でいいのかどうか、その辺も我々としてやっぱり議論してみたい、こう思っております。
以上でございます。