小谷野毅の発言 (労働・社会政策委員会)
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○参考人(小谷野毅君) 陳述の機会を与えられました小谷野です。中小労組政策ネットワークという団体の常任運営委員をしております。
中小労組政策ネットワークというのは、昨年十二月に結成をされました、主に中小企業に働く労働者それからいわゆる非正規雇用の労働者、こういった労働者の雇用問題や権利問題などについて活動をしている十一の労働組合、約二万人が結成をした政策運動体であります。
日本の労働運動あるいは労働者の権利といった場合には、いわゆる正規に雇用されている、企業に正社員として雇われている労働者の問題を取り扱うのがこれまで通例であったし、それで十分事足りたのではないかと思いますけれども、後に述べるように、日本の産業は非常に大きな変貌を遂げておりますから、会社に正社員として雇われている人たちだけのことを論じて事足れりという時代ではないというふうに認識をします。
実際に日本の経済というのは物づくりについて下請化が非常な勢いで進展をしましたから、例えば会社分割といった企業の大きな組織変動を伴った措置が講じられた場合に、正社員だけではなくて非正規雇用の労働者や下請労働者たちがどのような影響をこうむるのか、こういった観点から今回の法案を見てみると、極めて不十分と言わざるを得ないというのが結論であります。
私どもの中小労組政策ネットワークに加盟をしている十一の労働組合の活動を、日常どんなことをしているかということをまず最初に御紹介したいですけれども、恐らく委員会に参集されておられる先生方のイメージでは、今日では日本は法治国家でありますから、労働者は労働組合に加入する権利を与えられ、職場の労働条件や雇用の問題について労働組合を通じて企業主と十分な団体交渉をする機会がある、まかり間違っても強行法規であるところの労働基準法などに違反するような労働条件が日常不断にまかり通る、こういったことはないというふうに恐らく思われているのではないかと思います。
ところが、私たちが日常活動している分野では、下請中小企業が年じゅう親会社の経営変更に伴って企業が倒産をしたり、あるいは事業縮小が不可避的に行われたり、こういった場面で労働者の雇用をどう守るかという四苦八苦した活動をせざるを得ない状況にあります。また、労働組合をつくった場合に、労働組合そのものを認知しない、親会社の指示によって下請会社が労働組合つぶしを行う、こういったことも日常不断に起こっているわけです。
そういった立場から、私は今回の労働契約承継法について二つの点で意見を申し上げたいと思います。
まず、この労働契約承継法には、対象となる労働者が企業に雇用されている労働者という限定つきがなされています。労働者保護といった場合に果たしてこれで十分なのであるだろうかということをまず疑問として呈さざるを得ません。これでは日本の今の産業構造を考えた場合に、いわば水面上に出ている氷山の上の部分だけを論じていて、水面下で氷山の本体をなしているところの実態に何ら迫るところがない。比喩的な言い方ではなくて実態的に言えば、日本の生産の直接的な担い手である下請中小企業やあるいは今日の職場では多く生産の実態を担っている非正規雇用労働者の問題、こういった労働者の雇用や権利について保護をなすという意味から見ると、極めて不十分なのではないかと考えるところであります。
私は今、日本の生産が下請化をしているという言い方をしましたが、例えば私が所属をしている労働組合は建設業での労働者の権利問題を主として取り扱っておりますけれども、御存じのように、建設業では大手のゼネコンの場合、例えば鹿島とか竹中といった大手の建設会社が看板を掲げている建設現場の工事の中で実際に三百人の労働者が働いているとしたらば、鹿島や竹中の正社員の労働者というのはごく一握り、わずか四、五人にすぎません。残りの二百九十五人、三百人近い人たちというのは、一次下請、二次下請、三次下請といったぐあいに重層的に下請雇用された労働者たちが実際には鹿島の名前であるいは竹中の名前で仕事をしているわけであります。会社分割においても、同じような側面から労働者に与える影響を考える必要があろうかと思います。
私は、意見陳述メモの二枚目に図を添付いたしました。これを参照していただきたいのでありますけれども、便宜的に分類をすると、私のまず問題提起の第一点は、労働契約承継法が直接の議論の対象とし立法措置を講じている分割会社に正規雇用された労働者の労働契約の保護だけを論じるのでは極めて不十分であって、生産の実態の担い手であるところの下請企業の労働者あるいはそれに先立つ下請企業の経営権そのもの、営業そのものの保護策を十分に講じない限り、分割に伴う労働者保護を議会が十分に議論し立法措置を講じたとは言えないのではないかという点にあります。
具体的に申し上げたいと思います。
例えば、先ほど坂本参考人も触れられましたが、最近の大企業のリストラの代表例と言われる日産自動車の例を見てみますと、日産自動車がカルロス・ゴーンのもとで発表したリバイバルプランは、三カ年のうちに五つの工場を閉鎖し、そして同時に二万一千人の正規雇用労働者を削減するということが大きな骨組みとなって報じられました。
リストラといった場合に、主として社会の耳目が集まるのは二万一千人の正規雇用労働者の雇用の問題ということになろうかと思いますが、もう一つ日産のリバイバルプランで大きく問題になっているのは下請業者の取り扱いであります。
日産自動車には、系列会社として営業に参加をしている企業が会社発表では約千百五十社あります。日産のリバイバルプランは、この千百五十社のうち五百五十社を三カ年の間に整理して六百社に集約化すると言っております。つまり半分に整理淘汰をするのだと言っているわけです。しかも、ただ単に半分にするといういす取りゲームではありません。日産が提示した条件というのは、これまでの取引単価を二割削減する、二割のコスト低減にたえられない会社とは取引をしないという前提条件つきのいす取りゲームなわけであります。このような過酷ないす取りゲームを強いられて、その企業が存続できる保障がどこにあるというのでしょうか。
下請企業の場合は、親会社のいわば言いなりで生産設備を更新したり、あるいは人員配置を行ったり、労働時間の決定などを行ってきているのは御承知のとおりであります。したがって、親会社からの仕事を一方的に取り上げられて、他の会社との取引を新たに開拓したり、あるいは十分な二次的な営業を開発して労働者の雇用を維持できる企業はほとんどないと言わざるを得ません。こうしたときに、下請労働者の雇用を守る措置は、残念ながら今の日本の法制度の中では全くないと言って過言ではないと思います。
あるいはセメントメーカーの例を引いて申し上げたいと思います。セメント産業は日本の代表的な基幹産業の一つでありますけれども、業界の今トップと言われる太平洋セメントが最近二つの工場の分社化を提起しました。会社分割法を利用した会社分割の一つの先鞭であろうかと思います。太平洋セメントというのは御存じのように秩父セメント、小野田セメント、日本セメントという日本の有数のセメントメーカーが合併をしてできたセメント会社でありますけれども、この会社の場合、関東圏の秩父工場、それから北九州の香春工場、この二つの工場を分社化して生産合理化をするのだという計画を発表しました。
当然のことながら、分社化をするので、その分社化をされる工場の労働者には労働条件切り下げが提起をされました。北九州の香春工場の場合、旧来の正社員の年収は七百万円前後でありましたが、分社化を機に五百万円程度に年収を切り下げるという提案がなされています。ここまでは正規雇用労働者の問題であります。
労働契約承継法が成立をすると、分社、つまり会社分割を理由にしてこのような労働条件の一方的な不利益変更はなされてはならないという立法府での議論がどこまで実効あるものとして生きてくるのか、ここに私は重大な関心を抱きますが、同時に、正社員のこうした労働条件の不利益変更が下請業者や下請運送会社などにはどのような影響を与えているのか、この点についてぜひとも注目していただきたいと思います。
北九州の香春工場には、系列のセメント輸送会社、つまり町中を走っているタンクローリー上のセメントの粉を取引先の生コン工場に運ぶ運送会社、これが多数出入りをしております。大手の運送会社で福岡トランスという百人規模の会社がありますが、ここでは最近香春工場の分社化に伴って五名の労働者への整理解雇が打ち出されました。しかも全員が労働組合員であります。会社が整理解雇の理由として持ち出したのは、仕事をもらっている親会社でさえ年収を二百万円前後切り下げるのだから、会社の取引条件も当然厳しくなってくる、親会社の年収を超えるような労働条件はましてまかりならない、よってもって人員合理化も労働条件の切り下げもやらせていただきます、それに承服していただけない労働者は指名解雇させていただきます、概略このような方針を打ち出して整理解雇を実行したわけであります。
恐らく会社分割が実際に運用されるようになると、今申し上げたような日産型のリストラ、あるいは太平洋セメント型のリストラが日本の主要な産業の各場面で多発するのではないかというふうに、私たち中小労組政策ネットワークは警戒をしているわけであります。
では、これに対する下請労働者の保護措置がどの程度あるのか。先ほど私は皆無であると申し上げました。衆議院の法務委員会や労働委員会の議論の中では、いや心配には及ばないんだという政府の答弁がありました。なぜならば、下請労働者の労働条件に影響を与えるような親会社の行為が使用者性に当たるものであるとなれば、それは旧来の判例法理の中で使用者概念の拡大の法理を用いて親会社との団体交渉を行って労働者の権利を確保することができるからだ、このような答弁がなされました。私は全くむなしい答弁だと思います。
現に会社分割に伴って、取引されている例えばA社という会社の下請業者が十社あったとして、そのうちの三社が会社分割に伴って取引を打ち切られた、この取引打ち切りについてその三社の労働者たちがどうやって自分たちの雇用を守る運動をすればよいのか。明らかに会社分割が原因で自分たちの雇用が失われるわけでありますから、その雇用の保護や労働条件の問題に関して、当然のことながら親会社と協議をしたい。つまり、分割する会社と協議をしたい。ところが、現行の法制度や経営側の対応の代表例は、直接の雇用関係がないのだから下請労働者と団交する義務はない、不服であれば裁判、労働委員会に申し立てをすべきである、このような反応が返ってきます。
そうした裁判、労働委員会を用いて権利救済をしようと思っても、会社分割はどんどん先に進んでいってしまいます。いつの間にか、もと雇われていた会社さえ親会社の契約打ち切りによって企業そのものがなくなってしまう。このような状態の中でどれほど耐えられる労働者がいるかとなれば、ほとんどいない。つまり、日本の下請の労働者がみずからの権利救済をする道がほとんどない、実効性のある措置がほとんど講じることができない。ここにどう光を当て、必要な保護措置を講ずるのか。この点についてぜひ委員会の今後の作業を期待したいところであります。
次に、議論をされていないもう一つの問題について申し上げたいと思います。
もう一つの問題は持ち株会社の団交権の問題であります。私は、意見陳述メモの二枚目の図に、分割会社の上に持ち株会社を書きました。法務委員会においても、あるいは衆議院の労働委員会においても、この会社分割制度というのは、日本の企業が持ち株会社制度を用いて企業グループを再編成するための重要な手段なのだという説明がなされました。
ところで、この持ち株会社は企業として活動する前提として、従業員を直接雇用しない、これを最大の特色としております。市中には今持ち株会社の設立の仕方とか運用の仕方といったマニュアル本がたくさん出回っています。これらの中で強調されているのは、雇用責任を負わないのだから利潤原理に基づいて最大限の利益追求ができるのだ、利益追求の手段として持ち株会社の傘下にある各子会社に柔軟な利益目標を、最大限の利益目標を提起してこれの実行を迫ることができるのだという趣旨のくだりが多数書かれております。その事業子会社に働いている労働者の雇用や労働条件に思いをいたさない純粋持ち株会社の活動を無制限に放置しておいてよいのかという疑問をぜひ委員会の先生方に受けとめていただきたいと思います。
労働省は昨年の十二月に、持ち株会社に対する例えば分割会社の従業員からする団交申し入れについて検討をした結果、中間報告を出しました。今後もし問題が生じたらば改めて検討を行うということで、持ち株会社との団交権問題については事実上結論を先送りしたという内容だと思いますけれども、これでは全く不十分だと思います。利益を追求する以上、労働者の雇用について責任を負わずして何の企業かという疑問を改めて提起しておきたいと思います。
以上、下請労働者の団交権の問題並びに保護措置、そして持ち株会社問題、二つの点を私は申し上げましたが、必要なところから具体的に調査活動なり立法作業を速やかに行っていただきたいということを申し添えて、意見陳述を終わります。