糸氏英吉の発言 (国民福祉委員会)
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○参考人(糸氏英吉君) 糸氏でございます。
今度の改正につきまして、健康保険法に関連して御意見を申し上げたいと思います。
医療は、日本国憲法が保障する国民の生存権、健康権を守る上で必要不可欠なものであり、また社会保障の基本となっているものであります。財政など目先の対応に追われることなく、国家の理念を反映させ、国の将来像を描くという姿勢で臨むべき課題であると、かように考えております。
さて、戦後半世紀以上を経た今日、世界のどの国も経験したことのない少子高齢社会に突入し、我が国の医療システムが大きな転換期を迎えているということも事実であります。昨今、医療制度の抜本改革に向けてさまざまな議論が行われていますが、二十一世紀の我が国の医療にとって必要かつ不可欠な原則を述べてみたいと思います。
その一つは、医療へのアクセスのよさを今後とも確保しなければならないということであります。我が国を世界一の長寿国に達成させた原動力の一つが一枚の保険証であります。いつでも、どこでも、だれもが良質な医療を受けられるこのシステムが大切であります。このシステムを守っていくには、まず健康保険法において、国民皆保険体制と現物給付制度が堅持されねばなりません。また、医療法においては、十分な提供体制を確保し、国民が安心して医療を享受できる環境をより整備していくことが必要であります。
いま一つは、超高齢社会においても持続可能な保険制度と提供体制を早急に構築しなければならないということであります。したがって、老人保健制度においては、従来の拠出金を主体とした老人医療の運営から脱却し、高齢者医療の特性を考慮した独立した高齢者医療制度を構築していかなければならないということであります。そのためには、財源負担のあり方、診療報酬のあり方など、一般医療とは別のものを考えていく必要があると考えます。医療法においては、高齢化に伴う対応として長期療養者に適した病床の確保と在宅医療の整備、これらに伴うマンパワーの充足などを早急に図らねばなりません。
さて、医療保険制度改革に対する私どもの考え方を申し上げたいと思います。
本年八月、日本医師会は、二〇一五年医療のグランドデザインを発表し、抜本改革に対する考え方を具体的に提案しております。その中で核となるのが高齢者医療制度の創設であります。これを中心に診療報酬改革などの抜本改革を進めるべきと考えております。
高齢者医療制度のポイントは、すべての七十五歳以上の後期高齢者を対象とすることにより、慢性疾患とみとりが主体となるこの世代への医療提供のあり方を治療中心から介護中心へと移行させます。そして、医療度や痴呆度を加味した合理的な診療報酬包括払い方式を開発します。あわせて、高齢者の尊厳と家族の合意形成を図りながら、終末期医療のあり方の改善を図ることによって、高齢者に対する医療費の出血を医療担当者みずからの手でとめるというものであります。
後期高齢者は健康に対するリスクが極めて高いことから、制度の基本理念を保険から保障へと移行させ、一般医療保険からの老人保健拠出金制度を徐々に廃止し、公費を重点的に投入することを提案しております。あわせて、後期高齢者みずからが保険料を支払うことによって、高齢者の独立と制度への参加意識を促すという考え方であります。
一般医療保険制度は、原則として、保険料と自己負担によってのみ保険原理で運営し、予防医療の充実や高度医療の普及などを図ることによって疾病の発症や重症化を回避しようという考えであります。
制度の創設とあわせて、現場の対応として切り離すことのできない医療と介護を、高齢者、一般、それぞれの保険制度の中で吸収していくという考え方も提案しております。
次に、一部負担金の見直しについて述べます。
過去の健康保険法の改正というのは、改革の名をかりた患者負担増の歴史であったと言っても過言ではありません。日本医師会は、医療費の財源負担構成において、負担の主体を明確にするために、公費、事業主、家計という区分で介護保険を含めた費用負担構成を検証し、見直しを進めています。その結果を見ますと、二〇〇〇年で公費が三二%、事業主が二二%、家計が何と四六%という結果になっております。すなわち、家計負担が事業主負担の倍以上となっていることがわかります。
経済不況が続く中、企業経営が苦しいということもよく理解できますが、だからといって国民の財布にこれ以上の負担をかけるべきではないと思います。将来的な負担構成のあり方については時間をかけて議論すべき課題であると思いますが、少なくとも現行制度下でこれ以上の患者負担増は回避すべきと考えています。
今回の改正の中で、平成九年に導入されたいわゆる薬剤二重負担が老人については正式に廃止されることは、我々のかねてからの要望であり、評価できると考えております。この薬剤二重負担の導入自体が根拠が極めて希薄なまま実施されたことを考えても、廃止は当然であります。
薬剤二重負担とあわせて、患者負担が一割から二割に引き上げられた被用者保険本人は、制度改正後二年を経過した今でも、いまだに受診抑制が続くという極めて憂慮すべき事態となっております。とりわけ、現役世代の入院にまで及ぶ受診抑制は、この世代の将来の健康に大きな影響を及ぼすことが危惧されます。このことは、予防し得た疾病の発症あるいは重症化となってあらわれ、将来、医療費としても多大な影響としてはね返ってくるおそれがあります。
御承知のとおり、一般医療保険については薬剤二重負担制度が今も存続しております。ただいま述べました理由から、これも速やかに廃止すべきものと考えております。
次に、老人定率負担の導入についてであります。
高齢者の負担のあり方については慎重な議論が必要と考えております。同じ高齢者といっても、年齢階級、世帯構成等によって支払い能力に大きな格差があると考えるのが妥当であると思います。政府審議会等では、高齢者世帯の所得や預貯金の平均額を引用して支払い能力があると判断する傾向があります。しかし、その根拠となるデータは、ほとんどが六十五歳以上あるいは七十歳以上という区分で論じられており、より高い年齢階級の経済実態が明らかにされておりません。
今回の改正案においては、一般世代とは別の独自の上限額設定により実質的な著しい負担増に一定の歯どめがかかっていること、また、一部ではありますが定額と定率の選択制が残されたことがぎりぎりの線だと考えております。
いずれにしても、抜本改革案を模索する中で、高齢者にとって適切な相応の負担というものについて、もっと突っ込んだ議論が行われる必要があると痛切に感じております。
次に、高額療養費の見直しについてでありますが、さきに述べましたとおり、働く世代の受診抑制は過去の患者負担増の場合とは異なる傾向を見せております。すなわち、平成九年の施行から二年以上経過した平成十一年度末現在でも、受診がもとに戻ってこないということです。この傾向が長く続けば続くほど、将来への影響はさまざまな形で大きくリバウンドしてくることになります。今回の高額療養費の見直しによる自己負担限度額の引き上げは、所得が一定以上の者に対する適用であるとしても、現役世代にさらなる心理的プレッシャーを与えることになるのではないかと、かように心配しております。
最後に、介護保険についてでありますが、紆余曲折を経て、ようやく本年四月、スタートいたしました。要介護認定のあり方、利用者負担徴収を含めた市町村によるサービス格差、関係者間の連携、当初の財源負担構成が実現できていないこと等、制度発足時の混乱だけでは済まない根源的な課題も指摘されております。
保険者である市町村は、規模が小さいだけにきめ細かな配慮ができる反面、政策的な影響を強く受けやすいという一面を持っております。利用者が不公平感を抱かずに安心してサービスを受けられるよう、全体的な環境整備がまだまだ必要だというのが実感であります。
特に、サービス提供側の課題として挙げられるのが、営利法人の事業参入を認めたことの影響であります。一部の営利法人は、莫大な広告費をかけて大々的な宣伝を行ったにもかかわらず、利用者の確保がままならず、制度発足からわずか半年で既に事業撤退、あるいは大幅な人員削減を初めとする事業縮小を決定しています。
このような企業行動は、新たな社会保障として位置づけられる介護保険のサービス提供に著しい影響を与えることになります。その影響は、結果的に介護を受ける利用者の不利益につながるものであります。介護も、医療と同様、国民の健康、生活に直結した極めて公共的な使命が強い事業であります。これに取り組む者には営利追求とは別の倫理観が求められることは言うまでもありません。
規制緩和の流れの中で、医療の分野でも営利法人の参入が議論されておりますけれども、介護保険の動向を一つの試金石ととらえ、さらに今後慎重に考える必要があると、かように私どもは思っております。
以上で終わります。