小田中聰樹の発言 (憲法調査会)

⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。 詳細は利用規約をご確認ください。

○小田中聰樹君 私は、これまで三十数年間、刑事訴訟法や司法制度論を中心に研究し、それとのかかわりにおいて、人権及び憲法のあり方についても考察を重ねてまいりました。本日は、そういう立場から意見を述べたいと思います。
 きょう述べたいことは三点です。第一は、憲法調査のあり方についてであります。第二は、憲法の思想的、理念的構造の体系的一貫性についてであります。第三は、憲法の現実的機能、役割と憲法擁護の現代的意義についてであります。
 私が述べたい第一は、今回国会内に設けられた憲法調査会は、憲法尊重、憲法擁護の観点に立って調査すべきだということであります。
 調査会の規程によれば、貴調査会は、日本国憲法について広範かつ総合的に調査を行うことを任務としています。しかしこれでは、何のために、憲法の何について、なぜ中立的な調査機関ではなく国会そのものが調査をするのか、全く不明確です。
 会議録等によれば、国内、国際情勢の変動、変貌があり、国家の基本的枠組みや国家像について議論が必要になったとする意見にリードされる形で調査が進められているようであります。これは憲法の抜本的な改正を目指す意図、目的に基づくものと受け取らざるを得ません。しかし、国会議員にはそもそも憲法九十九条により憲法尊重擁護義務があり、調査活動といえどもこの義務の枠内にとどまるべきものであります。
 しかも会議録によれば、右の意見は憲法の人権尊重、主権在民、侵略国家否定という理念は堅持するという前提に立つというのであります。つまり、憲法的国家像は堅持するというわけです。これは、憲法擁護義務がある以上当然であります。
 そうだとすれば、憲法調査会は何よりもまず、制定過程や二十一世紀の日本のあるべき姿、国家像の調査ではなく、憲法の定着、貫徹、確立の状態を国民の人権と生活、福祉の観点に立って調査をし、もし憲法の未定着、未貫徹、未確立、あるいは憲法との乖離の状態があるのであれば、その原因と対策を検討すべきものであります。
 私は、今後、貴調査会がこの立場に立って調査を進めるよう強く希望するものです。
 第二に、憲法は思想的、理念的構造の体系的一貫性において極めてすぐれているということであります。このことは、憲法の前文によくあらわれています。
 御存じのように、前文は、まず主権在民、国民主権を宣言し、国政は国民の信託によることを明らかにするとともに、それが諸国民との協和、自由の確保、戦争防止の決意に基づくことを表明しています。次いで、憲法は、平和を愛する諸国民の公正と信義に国民の安全と生存の確保をゆだねる決意を表明するとともに、恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を持つことを確認しています。ここで言う恐怖とは圧制、ファシズムを意味し、欠乏とは貧困を意味しています。
 このように憲法は、国民主権、民主主義、これは立憲民主主義であります、そして自由、平和、福祉が相互規定的、相互依存的な一体的な関係にあるとする思想、理念を表明しており、この点で極めて体系的一貫性のある思想、理念に基づいているのであります。
 しかもこの憲法は、国民主権、民主主義、自由、平和、福祉のいずれについても、その保障に向けかなり徹底した規定を置いています。例えば、平和主義貫徹のための戦争放棄、戦力不保持、交戦権否認を定めています。また、個人の尊厳を中核とする自由権、特に思想、良心、表現、信教、学問の自由について、その絶対性を保障しています。さらに、国に対し福祉保障を義務化しています。そしてさらに、行政権強大化への抑制システムとして、議院内閣制、司法への行政裁判権付与、違憲審査権付与などを行っております。しかも、この違憲審査権は国会の立法権をも抑制することとされています。
 私は、このような体系的一貫性とその徹底性は世界的に見ても例がなく、ここにこそ我が国の憲法のすぐれた点があると考えるものであります。つまり、憲法は、人類の歴史的体験や実践と思索との最も良質のものを取り入れて体系化しており、そのため、日本国民はもちろんのこと、他国の人々にも深い感銘を与え、今日に至るまで強くインスパイアしてきたのであります。このことは戦後の憲法擁護運動の歴史とその役割を見ればよくわかることであります。
 このように、憲法が、個々の規定もさることながら、個々の規定の文言を超え、国民の憲法的意識や思考を深いものにし、人権概念を豊かなものに発展させ、現実に次々に起きているさまざまな困難な問題、例えば環境問題、地域紛争問題などへの対処方法に関する理性的な指針を揺るぎなく与え続けてきたのは、まさにこの体系的一貫性と徹底性とによるものだと私は考えます。
 最後に、私は、憲法は極めてすぐれた国家社会像の形成、維持、確立に向け現実的機能を発揮していること、これからも発揮し得ること、したがって憲法擁護こそ私たちの任務であることを指摘したいと思います。
 憲法は、国民主権、民主主義、基本的人権、平和主義、福祉の理念を体系的に提示し規定化することにより、あるべき国家社会像を提示しています。それは、民主国家、人権国家、平和国家、福祉国家という国家像と、これに沿う社会像です。
 ところが、二十世紀末葉から、地域紛争の続発、グローバリズムや市場原理の拡大、さらには環境悪化の深刻化など対応の困難な問題が続発し、またその一方では、我が国の政治、行政そして経済の状態は混乱、腐敗の様相を強めています。この状況下にあって、九条改正による戦力保持と海外派兵、行政権の強化を目指す首相公選制の導入、環境権などの新しい人権規定の新設などを主な内容とする憲法改正にその打開策を求めようとする動きが次第に強まりつつあります。
 しかし、国民主権、民主主義、人権、平和、福祉という思想的、理念的構造の体系的一貫性と徹底性を持つ憲法は、実はこれらの問題についても、理性的に対処する際に必要な枠組みないし指針となるべきものを用意しているのであります。地域紛争については、平和的手段に基づく国際貢献による平和的解決の追求、グローバリズムや市場原理の進出、拡大による弱者淘汰に対しては、福祉、社会保障、生活権保障の強化による弱者救済、環境悪化に対しては、憲法十三条の生命、自由、幸福追求の権利及び憲法二十五条の生存権による防止、救済を、そして政治や行政の混乱、腐敗に対しては、国民主権原理による民主化の徹底、その対応の枠組みを指針として立派に用意しているのであります。
 九条改正による軍隊保有、海外派兵や、首相公選導入による行政権の集中強化は、憲法のすぐれた体系的一貫性、徹底性を破壊し、憲法の生命力を衰退させるだけではなく、かえって国際的地域紛争の解決を妨げる危険があると思います。
 私たち国民は、今こそ憲法のすぐれた価値を再確認すべきであります。

発言情報

speech_id: 115104184X00520010426_017

発言者: 小田中聰樹

speaker_id: 15536

日付: 2001-04-26

院: 衆議院

会議名: 憲法調査会