植草一秀の発言 (予算委員会公聴会)
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○植草公述人 おはようございます。野村総合研究所の植草でございます。よろしくお願いいたします。
初めに、大変恐縮でございますが、立場上の問題もありますので、きょうは政治的に中立な立場でお話しさせていただくということを御了解いただければというふうに思います。
お手元に「参考資料」という横長の資料を用意させていただいておりますので、こちらを御参照いただきながらお話をさせていただきたいと思います。一ページ目に一から七番まで項目を書いてございますけれども、七点お話を申し上げさせていただきたいと思います。
きょうは予算案についての意見陳述ということでございますけれども、予算そのものが経済政策の集大成ということでありますので、きょうは経済政策全般についての私なりの意見ということでお話をさせていただきたいと思います。
一九九〇年代を通じまして、日本の不況が長期化しております。これを失われた十年とか失われた九〇年代、こういう表現も使われているわけで、まず、経済政策に課せられました課題としては、この長期不況をいかに克服するかということではないかというふうに思います。
お手元の資料二ページ目をごらんいただきますと、一九九二年以降の日経平均株価の推移がございます。ごらんのとおり、九年間の推移でありますけれども、株価は一万三千円から二万三千円という、極めて狭いレンジの中で一進一退を繰り返して現在に至っております。
このグラフの中に、丸数字で番号を一番から十番までつけておりますけれども、その偶数の番号、二番、四番、六番、八番そして十番と、九二年以降株価が暴落した局面が今回含めまして五回ございます。この五回の株価急落局面は日本経済の危機というふうに表現された局面であります。
この五回の局面にいかに対応してこの危機を乗り切ってきたかということでありますが、九二年はここにございますように十・七兆円の景気対策が決定されております。これは当時でいいますと史上最大の景気対策でありました。
そして四番でありますが、九四年の二月、十五兆二千五百億円の景気対策、これも史上最大の景気対策であります。
九五年でありますけれども、六番でありますが、十四兆二千二百億円の景気対策、そして七月と九月に日本銀行が短期金利を引き下げまして、公定歩合を〇・五%に引き下げた局面であります。つまり、財政、金融両面から政策を総動員したということであります。
そして九八年でございますけれども、九八年十月に金融問題の処理のために総額にしまして六十兆円の公的資金を確保、十一月には二十三兆九千億の景気対策を決定、さらに年が明けまして九九年二月にゼロ金利政策の決定、こういうことで対応しておりまして、過去四回の株価急落局面はいずれも、財政を中心としまして財政金融政策、マクロの政策で対応しております。
景気対策の累計が百四十兆円に及び、依然として日本経済の低迷が続いているということから、景気対策は効果がない、財政赤字を累増させるという弊害が強調されておりますけれども、実際に過去の動きを細かく検証いたしますと、景気対策そのものは極めて有効に効果を発揮しているということが観測されるわけです。
九三年でありますが、株価は二万一千円に反発し、政府からは景気回復宣言の発表までありました。九四年も二万一千五百円まで株価は反発し、猛暑という支えもありまして、景気回復にはずみがついていった局面であります。九六年は株価が二万二千円台まで上昇しまして、日本経済が三・五%の成長を回復した年であります。つまり、九六年に一たん日本は景気回復から拡大に転じる、そこまで事態の改善を得ております。昨年でございますけれども、株価はやはり二万円を突破しまして、景気は緩やかながら着実に改善を遂げてきたということでありまして、過去、この四度の対応を見ますと、マクロの政策対応はいずれも極めて有効に効果を発揮している、こういうふうに表現することができるわけであります。
それでは問題はどこにあったかということでありますけれども、このグラフで申しますと一、三、五、七、九と奇数の番号のところに問題が存在しております。細かい点、御説明する時間がございませんので省略させていただきますけれども。
三番の冷夏という天候要因を除きますと、特に五番と七番に典型的に示されておりますのは、日本経済の改善が始まり、株価が上昇し、景気回復が七合目から九合目まで差しかかる、そういうところに至った時点で、時期尚早に景気を悪化させる政策対応がとられている。これが日本経済長期低迷の本当の原因になっているということであります。
五番の事例におきましては、金融政策が時期尚早に金融引き締めに動き始めたということであります。七番でありますけれども、日本経済がやっと軌道に乗ったところで非常に大規模な増税が策定されまして、これが実施されていくわけであります。私は九七年二月の公聴会に出席いたしまして、この増税を実施すると大変なことになるということをこの席で申し上げたことがございますが、九七年以降、ごらんのとおりの状況になっているわけであります。
昨年春以降の展開でありますけれども、森政権発足後、ごらんのとおり株価が大幅に下落をしておりますけれども、今回もやはり過去の事例と同じように、マクロの政策が緊縮方向に大きく方向を転換したということが事態の悪化を招いている、こういうふうに考えております。
先ほどの項目でいいますと二点目の項目になりますけれども、その第一は、金融政策の方向転換ということがございます。
二ページ目のグラフの一番右側にゼロ金利解除ということを記してございますが、去年の八月に日本銀行がゼロ金利解除の決定をいたしました。これはゼロ金利という非常に特殊な状況を解除したものだという説明でありましたが、市場としましては、金利引き下げ政策が金利引き上げ政策に転じた、こういう金融政策の方向転換と受けとめた向きが非常に強かった、このように思います。
株価がピークをつけておりますのは四月十二日でございますが、この日は速水日銀総裁がゼロ金利解除について公式の場で初めて言及した日でございまして、この日を境に株価が下落に転じております。八月に実際に金利引き上げを行いまして、そこから株価の下落が本格化している。さらにもう一点申しますと、九九年二月にゼロ金利政策の実施を決定しておりますが、この時点から株価が急反発している。こうした状況を踏まえますと、金融政策の方向転換の意味が極めて大きかった、こういうことを申し上げられるのではないかと思います。
それからもう一つの問題は、ちょっと先に四ページをごらんいただきたいと思いますけれども、財政政策の運営でありますが、財政政策の中身についての批判がいろいろ強まっております。公共事業が十分有効に活用されていないのではないかとか、こうした資金配分の問題について批判が高まっているということは事実であります。
これは、財政政策の機能ということに照らして申しますと、いわゆる財政政策の資源配分機能、財政資金をいかなる分野に配分するか、こういう問題で、この点には大きな問題が存在しているかと思います。もう一点、財政政策の機能としまして、景気安定化、マクロの面で財政がいかに景気を支えていくか、こういう視点が資源配分とは別の視点として必要であります。
四ページに概念図ということで図解しておりますのは、財政政策の規模の推移を記したものであります。
下にありますのが時間の経過で、九九年、二〇〇〇年、二〇〇一年。年度の当初予算、年度は四月から三月の対応でございますので少しずらしてございますが、おおむね、特に一般歳出ベースで見ましても横ばいの推移であります。毎年恒例のように十月、十一月ごろに景気対策が策定され、それに伴いまして補正予算が編成されておりますが、この補正予算に伴う資金の支出が行われるのは翌年の一月から十二月にかけて、こういう解釈でこの概念図をつくっております。
九八年十一月の二十三・九兆円の対策、九九年十一月の十八兆円の対策、そして昨年秋の総額事業規模にして十一兆円の対策。その真水ということをここに私なりの区分けで表示してございますけれども、トータルの財政規模は、ごらんのとおり、昨年からことしにかけて約五兆円の減少になるのではないかということで、財政政策がかなり踏み込んだ緊縮の姿になっております。
日本経済が景気回復の七合目に差しかかって、これからいよいよ景気回復軌道に乗るかという時点におきまして量の面でこのような圧縮策をとりますと、過去繰り返してきたような事態の悪化が生じてしまう、こういうことが懸念されてきたわけでございますけれども、先ほど二ページ目でごらんいただきました株価のグラフでございますが、昨年四月以降の株価の下落は、先ほど申しました金融政策の方向転換、そして財政面からの緊縮政策の決定、これを映した動きになっているということで、日本経済をしっかりと回復軌道に乗せるためには、景気回復が七合目に差しかかった時点で時期尚早の引き締め策をとることは適切ではないのではないか、私はこのように考えているところであります。
三ページをごらんいただきたいと思いますが、三ページにございますのは、株価と景気がどのような関係を示しているかということを図解しております。
上段に日経平均株価の推移がございます。下段には鉱工業生産指数の推移を記してございます。景気の短期的な動きを追うために、まず各種の経済統計を活用するわけでありますが、経済の動きを最も忠実に反映していると考えられますのが鉱工業生産指数の動きであります。これは、実は時間軸を六カ月ずらして両者を比較しておりますが、六カ月ずらしますと極めて類似した動きを示しております。
上段が株価でありますが、九六年六月、これは消費税の増税を閣議決定したタイミングでございます。ここで株価がピークをつけ、ちょうど半年後の九七年一月に景気がピークをつけております。株価がボトムをつけましたのが九八年秋でございますけれども、これは小渕政権が大がかりな政策対応を決定したタイミングであります。景気が底をつけましたのが、ちょうど半年後の九九年四月でございまして、この後景気は緩やかな改善を続けてまいりました。
そういう中で、昨年春以降、先ほど申しましたような財政、金融両面から緊縮策がとられまして、その結果株価が下落しているわけでございますけれども、その結果、私は、昨年後半、秋以降、再び景気が悪化する懸念が強い、この株式市場が発している警告メッセージに耳を傾けて、景気が悪化しないための政策対応をとる必要がある、そういうことも主張してまいりましたけれども、残念ながらそのような政策対応にはなりませんで、現時点としましては、この後景気が再び下方圧力を受けていく、そういう懸念が強いのではないか、このように考えております。
一ページ目に戻らせていただきますけれども、一ページ目の四番でございますが、そういう中で、この日本経済の長期低迷にいかに対応していくかということでありますが、よく言われておりますのは、金融問題の解決が先である、こういう見解がしばしば聞かれるわけでありますが、私は、この見解は誤りだというふうに考えております。
といいますのは、先ほどもクー公述人が意見陳述の中で述べておられましたけれども、日本で最大の問題は現在、金融の問題であります。資産価格の下落が進行し、特に債務を抱えた主体が苦難に陥っている状況にあります。この状況から抜け出すためには、一言で言いますと、資産価格の全般的な下落に歯どめをかける、これが最も重要な点であります。
いかにしてこの資産価格の下落傾向に歯どめをかけるかということでありますが、資産といいますのは、現在から将来、その物が持つ、生み出す効用の現在価値で、細かい説明は省きますけれども、資産価格の下落に歯どめをかける最も有効な施策は、経済そのものを改善軌道に誘導するということであります。経済を改善軌道に誘導することによりまして、株価、不動産価格の下落に明確に歯どめがかかる。資産価格の下落に明確に歯どめがかかった時点で初めて金融問題の解決は可能になってくるわけであります。現在のように、景気の悪化、それに伴います資産価格の下落傾向に歯どめをかけない中で金融問題を処理しようとしましても、それは事実上不可能ではないか、このように考えるわけであります。
したがいまして、五番に書いておりますように、正しい処方せんは、まずフローベースの経済活動を改善の軌道に誘導する、二%なり三%なりの経済成長軌道をまず確実に確保する、これを優先すべきであるというふうに思います。景気回復軌道の確保によりまして、株価の方向に大きな変化が生じてまいります。恐らく一年程度のタイムラグを伴いまして、不動産価格の下落にも歯どめがかかる。こうした形で景気の改善をまず誘導し、その上で資産市場の方向に明確に方向転換を実現させれば、その上で金融問題の解決も可能になってくる。金融問題の処理が先ではなく、景気を回復軌道に誘導することがまず求められているというふうに思います。
その点に関連いたしまして、資料の五ページでございますけれども、日米の比較ということで一つ申し上げておきたいと思います。
上段にアメリカの株価がございます。九〇年から九二年にかけましての米国は、やはり不動産、金融不況が極めて深刻な局面でありました。米国は、九二年、ここを転換点として九〇年代の長期上昇というところに向かってまいります。九二年の最大のポイントは、景気回復が七合目に差しかかった時点で、FRBが七月と九月に二度利下げをしております。最も重要な点は、政策当局が景気回復を実現することをまず最優先の課題として位置づけたということであります。この景気回復優先の政策姿勢によりまして、まず株価が上昇し、その後の景気回復が実現し、その後、税収の回復により財政収支の改善、また資産価格の底入れによりまして金融問題の解消と、まさに順風満帆の動きになったわけでございます。
下段の日本でありますけれども、九二年から九四年にかけて、九〇年から九二年のアメリカと非常に似た動きをたどりましたけれども、その後、九四年は金融政策が時期尚早に引き締め方向に動く、九六年は財政が強度の緊縮策を採用する、そして昨年の春以降、再び財政金融政策が緊縮方向に転じるということで、日本経済浮上のチャンスをふいにしている、こういうことでございます。
もう一度一ページに戻らせていただきますけれども、そういう中で、私は、まず景気を二%なり三%の日本経済の供給力に見合う形に、景気回復軌道に誘導するということが重要だと思いますが、その際、現在のもう一つの大きな問題であります財政の問題でありますけれども、財政の問題については三段階の対応が必要だと思います。
まず第一には、景気回復を優先し、税収の回復を図る。景気回復に安心感が持てた時点で、五年程度の時間をかけて歳出全般の根本的な見直しを行う。これには、一般財政あるいは社会保障財政あるいは公共事業、さまざまなテーマがあると思います。これらをやり終えた段階で、最終的には私は増税ということも必要になるというふうに思いますが、まず景気回復を優先し、その上で歳出構造の見直しに抜本的に取り組む、これが、米国の事例を見ましても、財政健全化をもたらす最も重要な点であると思います。
最後に、「デフレスパイラルを回避するための方策」ということを書いておりますけれども、現在、金融政策の追加的な措置についての論議が生じております。私は、結論としまして、余地は非常に限られておりますが、短期金利の引き下げ、あるいはいわゆる量的な金融緩和ということを検討すべきだというふうに思います。
しかしながら、現在のように非常に経済が停滞している状況におきましては金融政策の有効性というのは非常に限定的でございますので、この金融政策の措置とあわせて、財政面から景気を支援する政策を併用する。これによりまして、世の中に資金需要が生まれ、資金需要が生まれる中で金融緩和が維持されますと、マネーサプライの増大が生じていく。その結果、現在のこの深刻なデフレスパイラルに陥りかねない状況が是正されるというように思いますので、金融政策の対応と並び、内容の吟味は当然必要でございますけれども、財政面での対応、景気を支援する方向での対応ということが緊急の検討課題ではないかというふうに考えております。
以上でございます。(拍手)