阪田雅裕の発言 (憲法調査会)
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○参考人(阪田雅裕君) では、御指示に従い、座ったままで失礼いたします。
内閣法制局第一部長の阪田でございます。
本日は、このような機会を与えていただき、大変ありがたく存じております。
私ども、きょうは行政府の組織の一員という立場でこの席にお招きいただいているというふうに承知しておりますので、これまでの調査会の参考人の方々のように、立法政策に踏み込んで自由に意見を申し上げるというわけにはまいりません。そこで、今、会長からお話しいただきましたように、国の統治機構に関する憲法の規定をめぐってこれまでに国会でどのような議論が行われてきたか、その中で政府がどのような見解を示してきたかということを中心にお話をさせていただきたいと思います。
その前に、内閣法制局がどのような立場で憲法その他の法令の解釈に当たっているか、言いかえますと内閣法制局の憲法等の解釈が一体いかなる意味を持つものであるかということを簡単に説明させていただきたいと思います。
なお、冒頭の御説明は私が一括してさせていただきますけれども、私の隣におりますのは当局の憲法資料調査室長の横畠でございます。後ほどの御質疑につきましては、私と横畠で適宜分担をしてお答えさせていただきたいというふうに思っております。よろしくお願いします。
お手元に資料を二分冊お配りさせていただいておると思いますけれども、その薄い方、資料一と右肩に振っております「内閣法制局について」というのをごらんいただきたいと思います。
そこの一ページをお開きください。その一ページ目に、内閣法制局設置法からとりました内閣法制局の所掌事務の概要等を記載しております。
まず、組織の特徴といたしましては、1のところですが、内閣法制局は内閣に置くというふうに規定をされております。これは内閣に直属をするという意味でありまして、内閣官房と並びまして大変に数少ない直接内閣を補佐する行政組織の一つという位置づけになっております。
それから、内閣法制局の仕事でありますが、2のところでありますけれども、「次の事務をつかさどる。」として①から⑤まで五つほど並んでおります。このうち、特に重要なのは①と③の事務であります。
①は、「閣議に附される法律案、政令案及び条約案を審査し、これに意見を附し、及び所要の修正を加えて、内閣に上申すること。」、私どもは審査事務というふうに称しておりますけれども、原則として、各省庁が原案をつくります政府提出の法律案あるいは政令案、それから外務省で持ってまいります条約案、これを審査して国会に提出する、あるいは政令の場合でありますと閣議にかけて公布をするということをやっておる仕事であります。
それから、③でありますけれども、「法律問題に関し内閣並びに内閣総理大臣及び各省大臣に対し意見を述べること。」、これは意見事務というふうに呼んでおりますが、端的に申しますと内閣のリーガルアドバイザーというようなことでありましょうか。各省庁それから内閣及び内閣総理大臣から法律問題についてお問い合わせがあったとき相談に応じるというような仕事の内容であります。
内閣法制局は、このように行政機関ではあるのですけれども、国民の方々と直接接触するということが大変少のうございますので、知名度が低いというのが私ども組織の中にいる者にとっては若干寂しい部分であります。よく法制局に封書なども来るわけですけれども、封筒のあて名も三分の一ぐらいは法政大学の「法政」というふうになっておりますし、それから私は十年ぐらい前まで大蔵省で奉職をしておったわけですけれども、今でも私のところに来る封筒には大蔵省内閣法制局などと書いたものもあるというような状況であります。
そこで、必ずしも古いのがとうといということではないのですけれども、内閣法制局は明治十八年の内閣制度の発足とともに創設されました最も古い行政機関の一つであります。フランスのコンセイユ・デタに範をとったというふうに言われております。戦前におきましても、内閣直属の機関として、法律、命令の審査、それから法律問題についての内閣総理大臣への意見具申といった現在とほぼ同様の機能を果たしておりましたけれども、戦前はこのほかに、国の機関の組織、定員がいわゆる大権事項でありました。他面、かつての総務庁でありますとか今の人事院のように国の機関の組織、定員を扱う役所がなかったものですから、組織等につきましても内閣法制局、当時は法制局と言っていましたが、法制局が審査、立案を行っていたと言われております。
終戦後、昭和二十三年に、GHQの命令によりまして内務省などとともに解体をさせられました。その機能、法令の審査それから意見具申の事務は法務省の前身であります法務庁に引き継がれておったわけですが、昭和二十七年に、独立の回復とともに再び内閣直属の機関として設置をせられました。その後、たしか昭和三十七年だったと思いますが、衆参両院に法制局が設置されるに及び、従来の法制局という名称が内閣法制局というふうに改称されて現在に至っております。
資料の二ページをお開きいただきたいのですが、当局の組織の簡単な絵をつけさせていただいております。
内閣法制局は、定員わずか七十六人という大変小ぶりな組織であります。今申し上げました事務のうち①にありました審査の事務は、この絵の第二部から第四部と書かれているところで分担をしてやっております。各省庁、役所を分けて、二部から四部までの組織がそれぞれ役所を分けて分担処理をするというやり方でやっております。そして、意見具申といいますか憲法解釈等を含めて意見を申し上げる仕事は、第一部において処理をしているということであります。
内閣法制局の仕事の中心になっておりますのは、各省庁の課長クラスに相当します内閣法制局参事官という役職の者であります。第一部から第四部まで、おおむね五、六人ずつ配置をされております。法制局の組織の特徴の一つでありますけれども、この内閣法制局参事官は全員が各省庁からの出向者でございます。法制局独自には、いわゆる第Ⅰ種試験の合格者の採用というのをやっておりません。
次に、三ページに最近における法律案の提出件数というのを概観していただくために載せております。これは常会だけでありますので、臨時会、特別会を含めますともう少し多くなるわけですけれども、若干増加ぎみでありますけれども、最近、大体百件前後というのが一通常国会に提出している内閣提出の法律案の件数であります。
議院法制局と若干異なりますことは、一つにはこのほかに条約案の審査があるということです。これは、年によってこれも違いますが、大体十数件から二十件程度、毎常会出しております。そのほかに、政令の審査というのが相当膨大であります。これが、年にもよりますが、ことしなんかですと五百件ぐらいになっております。そこで、一―三月、国会の開会の直前からいわゆる年度末政令を出す三月末までというのが大変な繁忙期でありますけれども、ほとんどの参事官は週末ほとんど休めないというような状況で執務をしております。
このように、法案の審査は、条約案もそうでありますけれども、非常に骨格の部分から枝葉、よく言われるてにをはに至るまでいろんな角度、縦横斜め、場合によってはひっくり返して見たりというようなことで検討を加えていくわけでありますけれども、特にどういうところに注意しているかと申しますと、何といっても他の法令との整合性ということであります。
学問的には、上位の法令というのは下位の法令に優先するんだとか、あるいは特別法は一般法に優先するとか、後法は先法にまさるというようなことがルールとして言われておりますけれども、実際に法令の適用を受ける国民の立場に立ってみますと、一体どれが特別法でどれが一般法であるのか、あるいは複数ある法律のうち最も新しいものはどれかといったようなことを見分けることが到底できませんし、例えば法律と政令の関係にしましても、政令だけを見ますと、それが仮に法律に違反することが書いてあったとしても、それが間違いであるということに気づくということはなかなか容易なことではないわけであります。そういう意味で、私ども何千もあります法律を俯瞰してみて、この規定を直せばどの規定と矛盾を来す、どの規定と整合性を新たにとらなければいけないというような作業が非常に大きな作業になるわけであります。
条約の場合も同じでありまして、条約を国内に直接適用できるという場合は大変まれであります。したがいまして、条約を実施するためには国内法令の整備というのがほとんどの場合必要になるわけであります。憲法上、我が国では条約は法律に優位するというふうに解されておりますが、条約と矛盾する法律を放置したままであっては、幾らその条約が優先すると言ってみても、これを実施することができないということに相なるわけであります。
このように、法令相互間の整合を図る、そして法体系全体を秩序正しくあらしめるということが法案審査の大きな一つの眼目でありますけれども、そうした観点から最も重要なことは、その法令の内容が憲法に適合しているかどうかということを検証することであります。大変典型的な例として申し上げますと、いわゆるPKO法、国連平和協力法であるとかあるいは周辺事態安全確保法が憲法九条に適合しているかどうかというようなことを例えばチェックしなければいけない。
こうした法律の内容を憲法に適合したものとするためには、九条でありますれば、集団的自衛権の問題なども含めまして、憲法九条についての一定の解釈、これが存在するということが前提であります。全く解釈がないところにはその適合性、憲法に適合しているかどうかということの確認のしようもないわけでありますから、当然そういう作業が不可欠になるということであります。
もう一つ例を挙げますと、御案内の向きが多いと思いますが、平成七年に締結いたしました人種差別撤廃条約というのがございます。これは、御承知のように我が国はこの第四条(a)、(b)というのを留保いたしております。
この四条(a)、(b)は、人種差別的な思想の流布あるいは人種差別を扇動する団体への参加などを犯罪として処罰することを求めている規定であります。が、そのような法律をつくることは我が国の場合、憲法二十一条に抵触するおそれがあるというふうに判断をされた。そのために、これは批准しないで留保しているということであります。
そういう作業を、すべての法律すべての条約についてということでは必ずしもありませんが、相当数の法律、条約についてそういう憲法との矛盾がないかどうかということのチェックを続けなければいけないという意味で、私どもは憲法解釈が仕事として大変重要な部分を占めるということになるわけであります。
内閣としての憲法解釈は、こういう法案等の審査に際して必要であるというだけではなくて、行政執行そのものの憲法適合性を確保する上でも必要になる場合が多々あります。
若干古い例で申しますと、衆議院での不信任決議等がない場合のいわゆる七条解散ができるかというようなことが話題にされたこともあります。これについても憲法七条の解釈が必要になる。それから、最近の例でいいますと、閣僚の靖国神社の公式参拝が憲法に適合しているかどうかという議論についてもそれなりの見解を持たなければいけない。あるいは昨年、たしか平野先生におしかりを受けたかと思いますけれども、憲法第七十条の総理が欠けたときに、総理が意識がなくて近い将来職務に復帰できないというような場合が果たして含まれるのかどうかというようなことについても、これは判断をしていかなければいけないというようなことであります。
法律の場合ですと、いずれもそれぞれに所管の省庁がございます。一義的にはその各省庁が法律をそれぞれに解釈し、また日々の運用に当たるということでありますので、私どもはしばしば省庁から、ここはどのように読むべきかという御相談にあずかることはありますけれども、それは言ってみれば参考意見として申し上げるということで、それを参考にして、しかし各省庁はその実務の取り扱い等も踏まえて自分たちなりに解釈をし運用なさっているということでありますけれども、残念ながら憲法についてはこれを直接全体として所管しているという役所はないわけであります、行政府においては。
そうではありますけれども、憲法の各規定というのは、法律案の企画立案を初めとしまして各省庁が所掌する事務に非常に幅広く関係はしてまいります。その際に、各省庁がそれぞれ自分のところに関係するときに関係する部分について適当に憲法の規定を解釈して運用していいということには決してならないわけで、そうなりますと、内閣の行政が大変区々まちまちということになりますものですから、内閣として統一した憲法の理解のもとに行政を一貫して進めなければならないという要請が生じてまいります。
内閣法制局が憲法解釈について内閣その他に意見を述べ、また国会において内閣の憲法解釈について求めに応じて御説明申し上げているというのは、このように内閣としての憲法解釈の統一を図り、行政府が憲法の尊重擁護義務というのを間違いなく果たしていくことができるようにという観点からのものであるということを御理解いただきたいと思います。
今お配りしました資料の四ページに添付しております大森前内閣法制局長官の憲法解釈に係る内閣法制局の立場を述べた答弁は、そういうことわりを明らかにしたものでございます。したがいまして、内閣法制局の憲法解釈は、国会はもとよりでありますけれども、裁判所に対して何らの拘束力を持つものでもないということも事実であろうかと思います。
以上が、ちょっと長くなりましたけれども法制局の仕事のあらましということであります。
続きまして、分厚い方の資料、「国の統治機構に関してこれまでに国会で議論となった主要な論点」について御説明をさせていただきたいと思います。ちょっと時間の関係もございますので、項目としては国の統治機構に係る規定についての過去の論議を三十近く拾っておりますけれども、この中から主要なところをかいつまんで要点だけ御説明させていただきたいと思います。
まず、天皇の章でありますけれども、天皇のところでは、昨今、首相公選制の議論とも絡みまして取り上げられておりますのは、元首とは何かというようなことであります。
五ページに元首の概念とタイトルを付したところがありますが、これは今の天皇が元首かという形でしばしば問われてきたわけでありますけれども、御案内のように明治憲法、大日本帝国憲法には天皇は元首であるということが明記されておりました。それに対しまして、現行憲法には元首にかかわる規定はありません。
したがいまして、何が元首かというのは必ずしも憲法論ということではないと思いますが、政府といたしましては、この一番下に大出政府委員の答弁というのがありますが、これのアンダーラインを引いた部分をごらんいただきますと、「今日では、実質的な国家統治の大権を持たれなくても国家におけるいわゆるヘッドの地位にある者を元首と見るなどのそういう見解もあるわけでありまして、このような定義によりますならば、天皇は国の象徴であり、さらにごく一部ではございますが外交関係において国を代表する面を持っておられるわけでありますから、現行憲法のもとにおきましてもそういうような考え方をもとにして元首であるというふうに言っても差し支えない」というのが政府の考え方であるということであります。
それから、ここにはありませんが、最近の話題としては女帝の問題があります。
これは御案内のように、皇位継承のあり方は憲法はすべて皇室典範にゆだねておるところでありますので、女帝を可とするかどうかということについては憲法改正を要する問題ではないということは明白でありますが、ただ皇室制度の基本にかかわる重要事項でありますので、慎重な検討を要する問題であるということはまた言うまでもないというふうに考えております。
それから次に、八ページから国会についての規定をめぐる議論を取り上げております。
この中には八つばかりの論点を掲げておるのですけれども、主に政府との関係で問題になりましたのは、十二ページにあります予算修正権をめぐっての問題以下の項目であろうかと思いますので、十二ページ以下を御説明させていただきたいと思います。
まず、国会の予算修正権でありますけれども、これは学説としては、国会の予算修正権に限界などあろうはずがないという説も有力に存するということは承知しております。ただ、政府といたしましては、この十二ページの統一見解にありますように、「国会の予算修正は、内閣の予算提案権を損なわない範囲内において可能」であるというふうに述べてきております。
ただ、具体的な限界、それではどこまでできるのかということにつきましては、現実の問題として予算修正がその後取り上げられたことがないものですから、これ以上に具体的に議論をされたことがないし、私どもも検討したことがないということであります。
それから、次の十三ページに、国会の行政府への監督権能についての考え方を述べております。
これもちょっと短い答弁ですので読ませていただきますが、「国会は憲法によりまして、立法や予算の議決権、あるいは国務大臣の出席、答弁要求権、そして内閣の国会に対する連帯責任等、内閣の行政権の行使全般にわたりましてその政治的責任を追及する上での機能といたしまして、行政監督権とも言うべき機能を有しておられるということが言えようと思います。そして、これらの機能を有効に行使するための補助的な権限としまして、手段としまして憲法六十二条により国政調査権を有しているということになろうかと思います。」ということで、これは次の十四ページにあります、国政調査権の本質は何かということにも言及している答弁であります。
国政調査権は、ここにありますように行政監督のためでもありますけれども、言うまでもなく、予算の議決であるとか条約の承認、法律の議決等々、国会に与えられたありとあらゆる権能を発揮するための手段ということになるわけであります。この十三ページの答弁の中では述べていないのですけれども、国会はこういうふうに行政全体を一般的に監督するという権能を持っておるということのほかに、もとより、立法上手当てをすれば行政の行う個別具体的な行政行為を一個一個チェックするという権能を発揮することも可能であります。
典型的には、いわゆる国会同意人事、内閣が例えば日銀の総裁などを任命するに際して国会の承認を得ることが必要であるというふうな例がたくさんございますが、これは内閣の行う任命行為を議会がコントロールをするということであろうかと思います。
それから、今国会にたまたま議案が出ているというふうに承知をしておりますけれども、国有財産法の十三条第一項というのがあります。これは、公共用財産のうち公園または広場の用途に供されているもの、あるいは供すると決定されたものの廃止をする、あるいは用途変更をするというときには、一定額以上であれば国会の議決を経なければならないという規定がございます。これも、個別具体的な行政の処分、行政の活動を議会がチェックするということのあらわれであります。
何をそういう個別の国会の議決にかからしめるかというのは、すぐれて立法政策の問題であろうというふうに考えております。
それで、この国政調査権との関係でしばしば問題になりますのが、十五ページにあります国家公務員が有している守秘義務との関係であります。これは、しばしば予算委員会などにおきまして政府と主に野党との見解が鋭く対立するという分野であります。
これもなかなかはっきりした基準というのを申し上げることは難しいわけでありますけれども、十五ページの、これは平成四年の質問主意書に対する答弁書の中から抜粋したものでありますけれども、この答弁書の「一について」のアンダーラインを引いた部分をごらんいただきたいのですが、「両者の関係」、すなわち国政調査権と国家公務員の守秘義務との関係でありますが、「関係は、常に一方が他方に優先するというようなものではなく、国政調査権に基づく要請にこたえて職務上の秘密を開披するかどうかは、守秘義務によって守られるべき公益と国政調査権の行使によって得られるべき公益とを個々の事案ごとに比較衡量することにより決定されるべきものと考えている。」というのが政府の立場であります。
そして、さらに十六ページをお開きいただきますと、この比較考量をする主体でありますけれども、これもアンダーラインを引いた部分ですが、「守秘義務によって守られるべき公益と国政調査権の行使によって得られるべき公益とを比較考量して国政調査権に基づく要請にこたえるべきかどうかという判断は、それぞれの行政を担当している部局、当該事項に係る事務を所掌する、そういう部局において判断されるべきことであるというふうに考えております。」というのが政府の考え方であります。
もとより、これが議院証言法に基づく手続としてなされる場合には、当該官署は、守秘義務を盾に国政調査権の行使に応じないという場合にはその理由を疎明しなければなりませんし、またそれが委員会において納得されないという場合には、内閣声明を求めることができるという体系になっているわけであります。
それから、十九ページ以下に内閣についての規定に係る部分を抜粋しております。
ここでは、まず二十一ページの議院内閣制の基本というところを御紹介したいと思いますが、これも長い答弁でありますけれども、このうちアンダーラインを引いた部分がエッセンスということになろうかと思います。
読ませていただきますと、「議院内閣制の基本の原理と申しますのは、国会において多数を占めておる政党が主体となって内閣を組織して、それによって行政権を構成して、立法、司法、行政と三権分立している中の行政権の主体となるということが、議院内閣制の基本であろうと思います」ということであります。
したがいまして、首相公選制、仮に国民の直接の投票によって首相を選任するということになるとすれば、これはこの議院内閣制を改めることになるというのは当然のことであろうというふうに思います。
それで、議院内閣制の本質は、次の二十二ページの内閣の国会に対する責任ということでまた裏打ちもされているということであります。これは内閣は合議体である存在でありますので、連帯をして内閣が一体として、そして国民を代表している国会に対して責任を負うということで、ここでも議院内閣制の本質というのがよくあらわれているということであろうと思います。もとより、ここの憲法六十六条三項に規定しております責任、国会に対する内閣の責任というのは、法的な責任といいますよりはあくまでも政治的な責任であるというふうに理解をされておりますし、政府もそのように解してきておるところであります。
それから次の二十三ページでありますが、これは今申し上げましたように、内閣はその行政権の行使について国会に対して連帯して責任を負っているわけで、そのためにといいますか、そうであるからこそ、行政権は憲法六十五条の規定によりまして内閣に属さなければならないとされているわけであります。これは六十六条三項の裏返しだろうと思います。内閣に属さない行政権の所在があるとすれば、会計検査院は憲法上の機関でありますから別ですけれども、これはおよそ国会の民主的なコントロールが及ばないところで行政権限が行使されるということになって問題であるということになろうかと思います。
その関係でかつてしばしば問題になりましたのは、いわゆる行政委員会、三条委員会、これは合議体でもありますし、事柄の性格上ある程度独立して職権を行使するというようなことが書かれていることもございますし、これが果たして内閣に属していると言えるかということが問われました。この点につきましては二つの点で説明をするんだと。
一つは、その事務の性格である。その事務が政治的中立性を確保する必要がある、あるいは専門的であったり、例えば試験のようなものですね、専門的であったり非常に技術的であったりするという、そして公平に行わなければいけない、中立的に行わなければならない、そういう行政事務であるということが一つの前提。
それからもう一つの前提といたしまして、内閣はおよそ何らのコントロールも及ぼし得ないというのではなくて、この行政委員会に対して人事権がある、それから財務に関する権限、この両方を有しているということで一定のコントロールができる。そういう意味で、この行政権が内閣に属するという憲法六十五条の規定に行政委員会の存在は反しないのだというふうに理解をしてまいりました。
個人的な経験としましては、私はかつて第三部というところで法案の審査をやっておったわけですけれども、日本銀行法を全面改正するときに日銀の独立性ということがしきりに叫ばれました。そして、中には日銀の独立性を法文上明確にしろというような御主張もあったわけでありますけれども、それは独立というのはおかしいのではないかと、やっぱり。統帥権ではあるまいし、国会の民主的コントロールを離れて独立するというようなことは考え得ないということで、たしか自主性という言葉に置きかえていただいたというような記憶があります。
それからその次に、二十五ページに内閣総理大臣の指揮監督権について述べております。これも総理のリーダーシップが必ずしも十分ではないのではないかということとの関係で、よくこの内閣総理大臣の指揮監督権の及ぶ範囲、あるいは及ぼし得る事象というのは何かということが問われるわけであります。
先ほど申し上げましたように、あくまでも内閣総理大臣は議院内閣制のもとでの内閣の首長、内閣の代表者でありますから、憲法七十二条は御案内のように内閣総理大臣は内閣を代表して行政各部を指揮監督するという構造、構成になっており、またそれを受けて内閣法六条も、「内閣総理大臣は、閣議にかけて決定した方針に基いて、行政各部を指揮監督する。」というようになっております。したがいまして、大統領制とは異なりまして、そういう合議体である内閣の意思を離れて内閣総理大臣が自由自在に行政各部を指揮できるということにはならないということであります。
それから、ちょっと飛ばしますが、二十七ページに、これも最近御議論がございます、先般も簗瀬先生から問題の御指摘があったというふうに承知をしておりますけれども、憲法改正原案を政府が提出できるかという問題。
これは、発議権のある国会の議員が提出できることはもう当然でありますけれども、これに対しまして、政府は憲法改正原案といえども提出することはできないんだという学説がございます。しかし、これに対しまして政府といたしましては、ここにるる答弁を引いておりますように、内閣としても原案を国会にお示しすることはできるということで一貫しております。
その理由は、もちろん内閣が憲法改正原案を仮に国会にお示ししたとしても、そのことによって、その発議のための国会の憲法改正に係る自由な審議が妨げられるというふうな性格のものではないからということであろうかというふうに思っております。
それから、ちょっと時間が残り少なくなりましたので、申しわけありません。
三十ページ以下が司法であります。
司法につきましては、特に重要なことは三十一ページの(2)あるいは三十三ページの(3)にあります裁判所の違憲立法審査権、それとの関係で、統治行為論ということでございます。
これも釈迦に説法でございますけれども、既に司法判断が確立をしておりまして、裁判所は具体的な争訟が存在しないと裁判はしない、抽象的な違憲立法審査はしない、それから高度に政治的な問題については、これは政治的に決着されるべきであって、必ずしも司法判断になじまないという立場で一貫をしております。それだけに、私どもとしましても、日常の行政活動、あるいは政府が国会に提出する法案の内容が間違っても憲法に違反するというようなことにならないように、内閣法制局、特に憲法問題については十分に慎重に検討を重ねて意見を申し述べてきているということでございます。
それから最後に、地方自治について一言申し上げたいと思います。一番最後の三十六ページであります。
これは、先ほど申し上げました憲法六十五条の「行政権は、内閣に属する。」ということとの関係で、地方の行政は一体どうなるのかという議論でございます。
ここに平成八年の大森政府委員答弁を掲げておりますが、そのアンダーラインを引いた部分ですが、「行政権は原則として内閣に属するんだ。逆に言いますと、地方公共団体に属する地方行政執行権を除いた意味における行政の主体は、最高行政機関としては内閣である、それが三権分立の一翼を担うんだという意味に解されております。」ということであります。
極めて当然であろうかと思いますが、地方自治体が地方自治体として執行している行政、これは内閣としては責任の負いようもないわけですから、憲法六十五条に言う「行政」の範疇には含まれない。このころはまだ平成八年でございまして、地方分権一括法が施行される前でありますから、地方においても機関委任事務、国の事務を実施している、国から委任されて行っているという部分がありました。それは地方自治体の事務ではなくて国の事務ですけれども、その余の、当時ですと団体委任事務と言い、それからもう一つは自治事務と言っていたのでしょうか、それらの事務は国の行政ではないということを明らかにしたものでありますし、今、機関委任事務の制度は廃止されておりますので、自治体の事務はすべて憲法六十五条とは直接には関係がないと。
ただ、注意を要する点は、今の自治事務にしても法定受託事務にいたしましても、地方自治法その他で国が一定の関与をできるということを書いております。その関与をするということは、これはもとより国の仕事でありますから、地方自治体が言葉は悪いのですが余り適当でないあるいは法律に反するような行政をやっている、それに対して何らかの関与、例えば指導であるとか場合によっては勧告であるとか、さらには中止を命令するというような権限が、仮に国に与えられている、まあ与えられているわけですけれども、与えられているにもかかわらずそれを目をつぶって放置していた、その結果として違法な自治事務が行われたというような場合には、もちろん国にも責任があるということになるということであろうと思います。
ちょうど時間のようでありますので、大変雑駁でありましたけれども、以上で私の説明を終わらせていただきます。
ありがとうございました。