加瀬和俊の発言 (農林水産委員会)
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○参考人(加瀬和俊君) 意見発表の機会を与えていただきましたことを感謝申し上げます。
まず初めに、法案についての意見を述べる前に、そのために必要な限りで日本漁業の現状についての私の認識を三点に限って述べさせていただきます。
第一点は、日本の漁業は政策的な保護によってようやく存続している弱小産業ではなく、二百海里内漁場に関しては国際的に強い競争力を持った産業であるという点です。
この国際競争力の強さは、日本が寒流と暖流がぶつかる場所に位置しており水産資源が極めて豊かであること、島国として国土に比較して極めて広大な二百海里水域を抱え込んでいること、国民的嗜好に支えられて水産物のマーケットが大きいことといった条件に支えられており、今後の日本漁業の振興策はこの基礎的条件を最大限生かすことを中心に据えるべきであると考えられます。
第二点は、地元の沿岸漁場で操業することによって二十万人の沿岸漁業者とその家族がほぼ専業的経営者としてその生活を維持していることです。このことは農業とは大きく異なる点であり、選別政策が簡単には実施できないことを示していると考えます。
第三点は、漁業者の所得は漁業種類によって種々であり、一概にそれが高いか低いかと言うことは困難ですが、漁業所得が不安定であることは全漁業に共通しているということです。この点は、一定の面積の耕地からはどの程度の作物がとれるのかということが事前に予想できる農業とは異なります。今日、若い漁業者が少なくなっている理由は種々考えられますが、漁業所得の低さというよりも、その不安定性が最も強く影響していると考えられます。
次に、以上のような日本漁業の現状判断に立ちますと、今述べました三つの特徴点と対応する以下のような諸方針が必要であると考えます。
第一は、必ずしも国際競争力を持ち得ない二百海里外の漁場における漁業の存続策は、国際的にも社会的にも大きな矛盾を起こさない程度のものに抑制して、施策の中心を二百海里内漁業の存続に注ぐべきだと考えます。そして、そのための最も基本的施策は、漁場、資源の保全策です。この施策は予算をほとんど必要としないものであり、諸施策を目的意識的に方向づけることによって実現可能なものと考えます。
第二は、同じ漁場を沿岸漁業者と規模の大きな沖合漁業者が競争的に利用する場合において、雇用労働力に依拠し、一網打尽に資源を漁獲するタイプの沖合漁業経営体を効率的漁法であるとして優遇するのではなく、圧倒的多数を占める沿岸漁業者の生活が成り立つことを基本に据えた施策がとられなければならないと思われます。
第三は、資源変動、回遊状況の変化等に立脚する漁獲量の変動は自然産業としては避けられないものであるということを前提とし、また腐敗性の強い水産物の価格変動は農産物よりも大きいことを考慮して、その変動を社会的に緩和するための諸制度が必要であり、それによって将来の経営見通しを安定させることが求められていると思います。
続いて、法案全体への感想を述べさせていただきます。上に述べた政策方向に対応させて、法案全体への印象を三点述べます。
第一は、法案全体が、資源の維持回復策の重要性を強調し、財政的裏づけを含む新しい制度を案出している点は大いに期待されますが、資源の悪化の原因がほとんど専ら漁業内部、すなわち過剰漁獲に求められている点が気になります。法案のもとになった水産基本政策大綱では、海洋資源に影響を与える土木工事等がなされる際には水産庁と関係省庁が事前に協議をすることを義務づけることが提案されていましたが、法案にはその関係の記述はなく、ごく一般的に水質保全の必要性等が指摘されているだけです。
第二は、法案全体が漁業経営の効率性を重視している点について違和感を感じます。すなわち、同じ漁場で同じ対象魚種を、沿岸漁業者は釣りなどの小さな漁具で少量ずつ漁獲しているのに対して、沖合漁船は大型の網で一挙に漁獲をしているという現状がある中で、水産政策の基本理念として効率性が明示されたことが正当かどうかという疑問です。
沿岸漁業者の低い物的な生産力は、丁寧に漁獲した魚の方が品質がよいためにずっと高い値段で売れ、大型の網でとった魚は他の魚や網地とすれ合うことなどによって品質が劣化し、加工原料に回るために価格はずっと安くなるといった関係によって、経済的には微妙なすみ分け体制がつくられています。こうした状況に対して、従来は存在しなかった効率性の基準を持ち込み、はるかに少ない漁業者数で従来どおりの漁獲を上げることが効率化として推奨されるとすれば、漁業が有する就業機会の提供機能を政策的につぶすことになりかねませんし、同一量の魚の総価格ははるかに低くなって産業としての漁業の規模は一挙に縮小してしまうでしょう。
第三は、輸入規制や魚価維持策について水産基本法案は現在の国際的な枠組みの中で可能な最大限の表現をしていると評価できますが、法文の中にさらに、他産業と均衡する漁業所得水準が確保されるべきであること、漁業所得の安定が図られるべきであることといった諸原則がうたわれるべきであると考えます。
続いて、法案への個別的な意見を述べます。四点述べさせていただきます。
第一は、水産基本法第二十六条、漁港、漁場整備に関してです。
この条項によりますと、今後においても漁港の整備をさらに進めようとする政策姿勢が見られますが、漁船数、漁業者数が減少している現状においてどの程度の漁港の整備が今後も必要であるのかについては、より抑制的な姿勢が示されてしかるべきではないかと思われます。漁村においても、ハード予算がソフト予算に振りかえ可能であるならば、漁港ではなく他の事業を希望したいという意見が広範に見られることを実感しております。
二つ目に、水産基本法三十四条、団体の効率的な再編整備についてです。
この条文によりますと、漁協の合併、事業統合など、総じて団体の効率化、合体方針が進められるものと思われます。いわゆる認定漁協制度等は、合併、大型化した漁協に対して優遇措置を与えることによって本格的にその方向を推し進めようとするものです。
確かに、信用事業やその他の経済事業を効率的に実施するという観点だけを重視すれば、小さな組織よりも大きな組織の方がよいという考え方は理解できますが、経済事業の一定部分は連合会や農協やあるいは契約した商人たちに任せつつ、漁業権管理を自前で行うことを重視し、他との合併を選択しないという方針をとる漁協も少なくありません。政策当事者は、こうした漁協をおくれた組合として否定的に見て政策的支援対象から外そうとしているようですが、この条項によってその方向が一層進むことを危惧します。
第三番目は、漁業法第十六条、定置漁業の免許の優先順位における株式会社の容認についてです。
サケ定置網、ブリ定置網等の中には大きな利益をもたらして多数の地域漁業者の生活を支えている経営体が少なくありません。この条項の改正の意味は、したがって小さくないと思われます。迅速な意思決定、安定した責任体制、資金調達の容易化等の点で、株式会社を重視しようとする判断が現状において一定の合理性を有することを認めた上で、以下の四点で違和感が残ることを表明いたします。
第一は、株式会社を他の法人形態と同等に扱ったことによって一人一票制の規定が削除されました。その結果、水産業協同組合法によって一人一票制が定められている漁業協同組合、漁業生産組合は別として、有限会社については本則として出資口数比例の議決権に従うことになります。このことは、構成員の平等性という従来重視されてきた原則を根本的に変更するものであり、定置網経営に占める有限会社数の多さから見て、その影響は小さくないと予想されます。すなわち、株式会社の容認は、株式会社形態を採用する経営体だけでなく、有限会社形態の経営に対しても直接的な影響を与えることになります。
第二は、優先順位が最も低い実質的な個人経営が今回の規定によって順位が上昇する可能性が強いことです。すなわち、同条第六項によれば、事実上の個人経営者が、定置網の時期にはみずからの実質的雇用者になる地元漁民六人を選定し、自分に加えて地元漁民七人の株式会社として免許を申請した場合、これが第八項に次ぐ優先順位になり得ることです。
また、第八項でも、漁協組合員が法定要件の二十名である場合、それが十世帯の世帯員であれば七人、二十世帯でも十四人が参加すれば第一順位を得られることになります。同条項は地元漁民の内部関係については規定していませんので、すなわち、一人が百株を持ち他の者がすべて一株ずつを持っていても地元漁民全体の持ち株数だけが問題とされるので、こうした事態が可能になってしまいます。
第三に、株式の譲渡について取締役会の承認を条件とするという定款上の規定は、地元漁業者の意向を重視した経営を何ら保証しないと思われます。今後、この規定を利用して漁網会社や漁業企業、水産流通資本などが定置網経営に資本参加することが予測されますが、漁村側の実質的経営者が経営の実情から判断して、それらの外部資本への依存を希望すれば、定款上の規定は歯どめとしては機能をしないからです。商法で認められている株式譲渡制限措置は、取締役会が会社の乗っ取りと対抗するためには有力な武器となりますが、取締役会自体が外部資本の傘下に入ろうとする意図を持っている場合には何の制限にもなりません。
第四に、同項で定めている要件は免許を受ける際の瞬間的な条件であって、一たん免許を受けてしまえばこの要件を欠いても経営は存続できると解釈される点です。現状では次の免許更新までの五年間、今後十年間に延長されるとすれば十年間は、株式譲渡の自由を初めとして、企業行動に何らの制約のない株式会社として地元外資本、漁業外資本が主宰する企業によって運営される可能性があるわけです。農地法においては、農業生産法人が要件を欠いた場合に、法人が所有する農地等を国が強制買収できることになっていますが、この程度の仕組みを付与しなければ、定置漁業権は事実上地元外へ容易に流出することになってしまうと思われます。
四番目に、漁業法五十九条、指定漁業の許可の継承についてです。
指定漁業の漁船を購入し指定漁業を営もうとする者が申請すれば、行政当局は機械的に許可の継承を認めなければならないとされていますが、これに加えて、実際にその経営をしない場合には許可が没収されるという規定を置く必要はないでしょうか。といいますのは、今後、遠洋・沖合漁業の相当部分で本格的な減船が実施されることが想定されますが、そのことは、初めから指定漁業の経営を意図しない資本が減船補償金を取得するために漁業許可の取得を意図することを予想させるからです。仮にそうした事態が生じますと、現実には稼働していない許可をつぶすために税金が投じられ、それが資本の利潤として吸収されることになりかねません。
国際的な漁場規制や資源の悪化によって、経営が立ち行かなくなった経営体に対して財政資金を投じて減船を進める必要性を否定するものではありませんが、その際の財政資金は、みずからの責任にはよらずして廃業せざるを得なくなった現在の漁業経営者に与えられるべきであり、実際には操業する意図を持たずに許可を安価に買い集める者に渡ることは避けるべきではないかと思います。
以上で意見表明を終わります。