佐々木秀樹の発言 (厚生労働委員会)
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○参考人(佐々木秀樹君) 初めに、今回の事件で亡くなられました患者様の御冥福をお祈りするとともに、改めて御遺族の方に深くおわび申し上げたいと思います。また、今回のことで国民の中に広く医療に対する不信感、不安感を喚起したことについても改めて深くおわび申し上げたいと思います。
私は、川崎協同病院で小児科部長を務めております佐々木と申します。今回の事件との関連では、後に述べます内部調査委員会のまとめ役をやっております。
私たちは、長年、患者様の人権を尊重する医療を追求してきたつもりでおりました。その病院でこのようなことが起こったこと、また発生後三年半も放置されていたことは、私たちにとっては痛恨の極みであり、一日も早く地域の患者様の信頼を回復するために、今、職員一同が全精力を傾注しております。
私たちは、今回の事件を自ら徹底分析し、その問題点を速やかかつ具体的に改善していくことが、亡くなられた患者様と御遺族、また社会に対する責務であると考えております。このような目的で、調査のための委員会を事件公表直後の四月二十二日に発足させました。委員会では、調査、分析をできるだけ公正、中立、客観的に行うために、外部の識者による評価が不可欠であるとの結論に達しました。そして、日本医科大学常務理事の岩崎栄先生らの御尽力によりまして、五月九日に有識者九名の方による外部評価委員会が設立されました。そして、内部調査委員会と並行して現在調査に当たっております。
内部委員会の調査は、診療録等の書類の検討と当時の関係者に対する聞き取りによって行ってまいりました。そして、現在までに明らかになった結果を外部評価委員会に提出後、六月十七日に中間報告という形で川崎市に提出し、同時に報道機関を通じて公表いたしました。それがこのお手元にあります資料でございます。中間報告はまだ完成したものではございません。しかし、情報公開を積極的に行うという立場から、全職員にこれを配付し、病棟、外来で患者様が自由に閲覧できるようにしております。また、病院のホームページに掲載するとともに、今後更に多くの方にお読みいただけるようにする予定でおります。
本日は、その概要を御報告し、明らかになった問題点を克服するために私たちがどのように取り組んでいるかについてお話をさせていただきます。
まず、事件の概要と評価ですが、本患者様は、一九九八年十一月二日に、重症のぜんそく発作のため心肺停止状態で来院されました。心肺蘇生処置をした後に集中治療室に入院となっております。数日間人工呼吸器による管理を行いましたが、その後、自発呼吸がある程度安定してきたために、気管内チューブを保持したまま呼吸器内科の病棟に移動いたしました。その後、十一月十六日に抜管、さらに鎮静剤、筋弛緩剤等の投与を受け、お亡くなりになっております。
診療録の記載事項を基にした十一月十六日時点での病態評価は、本患者は低酸素性脳症を起こしていたと考えられ、十一月十六日以降もその意識障害が遷延した可能性があること、第二に、この時点で進行すれば致死的となり得る細菌感染症を合併していたこと、ただし、客観的な検査所見が乏しく、そのような状況でその時点で脳死と判断し、死が切迫していたと断定するには無理があったと考えざるを得ないというふうにしております。そして、上記の状況下での抜管行為には病態評価としての意義又は治療的な意義はなく、患者を死に至らしめる行為であり、その後の薬剤投与はより確実に死に至らしめたと考えられるというのが委員会の見解でございます。
インフォームド・コンセントに関しましては、診療録の記載あるいは主治医の以前の供述と本年四月に協同病院の院長らがお会いしましたときに述べられました御遺族の言葉との間には大きな開きがございます。
次に、なぜ公表までに三年余の時間を要したかに関して、事件発生後の病院の対応について御報告いたします。
発生後、数日以内には事件に気が付いた医師からこのことが当時の病院長に伝えられております。院長は、入院診療部長、発見した医師、入院診療事務長に相談しまして、診療録の点検と主治医からの事情聴取を行いました。そして、医療倫理上問題のある行為であると理解しましたけれども、それ以上の詳細な調査は行わず、再発しないよう口頭で厳重注意を行うということにしました。結果的に病院管理会議には諮られず、法人理事会にも報告されておりません。
不当に人命が奪われたこと、法的にも問題を有することに対する認識が極めて不十分であったため、本来必要な集団討議もなされず、徹底した調査を行わずに一部の幹部のみで処理してしまったことは、全く誤った初期対応であり、病院の管理者として人権意識や危機管理意識が希薄であったと言わざるを得ません。また、一九九九年六月に病院長が交代いたしましたが、このときにも本件の申し送りがなされませんでした。そのために言わば公表まで三年半も掛かってしまった。このことについての責任は極めて大きいものと考えております。
なお、委員会として診療録などの書類について改めて検討いたしましたが、改ざんされた形跡は全く認められませんでした。
その後の経過ですが、昨年の十月末に当該主治医と他科の医師との間の治療方針についての見解の相違がありまして、それを契機にして改めてこの問題が現在の病院長に提起されました。管理部が主治医に確認し、医療倫理的及び法的に問題があるとして、十二月末に辞職勧告することを決定、二月末に退職となりました。
二月初めに病院管理部と法人幹部が弁護士と相談し、このときから公表を前提に可能な限りの調査を進めるということを確認いたしました。主治医には捜査機関への自首を勧め、四月半ばには院長らが御遺族と面談しております。四月十七日に当該主治医が出頭はしないという方針を伝えてきたために、保健所、警察等へ届出をした後に、十九日に記者会見を行い、病院として自主的に公表いたしました。
本件の原因と背景についてでありますが、一般に医療事故の場合、個人要因と組織要因の両者が存在すると思います。本件につきましては、事故ではありませんけれども、やはり両方の要因が存在し、事件の性格上、個人要因が少なくないように思われます。したがって、主治医が当時の患者の状態をどう評価し、どのような考えで一連の行為を行ったか、これが非常に重要な点であります。しかしながら、本人からの協力が得られず、今日まで聞き取りが実現しておりません。そのため、記録や伝聞情報からのみで個人要因を評価する、それは適切ではないとも考えられます。そこで、この中間報告では、組織要因、すなわちなぜ事件を防ぎ得なかったのかについて、当時の病院の診療体制や管理運営上の問題を中心に分析いたしております。
私たちの病院は、医療は患者と医療従事者の共同の営みという考え方に基づき、患者様を中心にしたチーム医療を追求してきました。
実際に、ほとんどの病棟ではチーム回診や他職種を交えたカンファレンスが定期的に行われ、患者様の問題点や治療方針などが医療者の間で共有されておりました。しかし、当時の呼吸器内科の病棟では、事実上、このチーム医療がほとんど機能していなかったということが明らかになっております。
このような問題について看護部から管理部には何度か問題提起がされております。管理部も、この医師の診療姿勢に問題があるとの認識は少なからず持っていたと思われますけれども、このような現場の意見を取り上げて十分に討議し、具体的な指導や対策を講ずることができませんでした。これは、管理部本来の役割からいって非常に大きな弱点を持っていたというふうに評価せざるを得ません。
また、本件では、脳死状態あるいは植物状態という用語を使っての不適切な説明や薬剤についての説明不足、必要な手順の欠落などが見られ、終末期医療に対する勉強不足を指摘することができると思います。
本院における危機管理システムについて述べます。
一九九二年に病院管理会議が「医療事故が発生した場合の手順」を作成し、副院長を中心とした安全委員会が事故と感染問題を統括して管理しておりました。二〇〇〇年にはこの委員会を医療事故防止対策委員会と感染対策委員会に分離して、より専門的に対応できる体制にするとともに、従来行われていた事故報告に加え、ヒヤリ・ハット報告を開始し、毎月委員会でまとめて各職場への徹底を図っております。本年になりまして上記の手順の改定を行いましたが、四月に厚労省より出された医療安全推進総合対策に対応して、更に充実させるべく現在検討中でございます。
次に、私たちが今回の痛恨の経験から何を学び何を教訓として改善していかなければならないのか、私たちの取組の一端を述べさせていただきます。
初めに、情報開示についてですが、私たちの病院では、患者様の知る権利、自己決定権を保障すること、インフォームド・コンセントをより充実させ、患者様の積極的な医療への参加を促すこと、開示により医療の質を向上させること、これらを目的にいたしまして、二〇〇〇年三月からまず病棟で、更に翌年四月からは外来で診療録の開示を実施してまいりました。
今回の事件発覚後に取り組んだこととしましては、まず内科におけるチーム医療体制の強化があります。具体的には、各臓器別グループによる回診、内科全体による重症患者に対する回診、それから死亡症例の検討会の定期化、また各病棟における他職種とのカンファレンスも従来以上に徹底して進めるように努力しております。
危機管理システムの見直しについては、さきにも述べましたように、医療安全推進総合対策に基づいた要綱の改定作業を現在管理会議で行っております。今後、各職場で徹底的に討議、学習を進めていく予定でおります。また、六月二十七日には、外部の委員の方四名、それに生協の組合員の方にも参加していただいて、医療倫理委員会を設立いたしました。当面の課題として、当院における終末期医療についての考え方とマニュアルの作成、これに取り組んでおります。そして、これらの作業と並行して、各科、各部署で医療倫理、命の重みを深める議論が現在開始されております。
最後に、今後の中期的な改善策を提起していくことは、私たち内部調査委員会の重要な使命だと考えております。
このための基礎資料となるものは、第一には、私たち自身が今回の事件から抽出した問題点の分析結果だと思います。
第二には、現在作業を進めていただいております外部評価委員会の報告が七月末に出される予定ですので、これを重視したいと思います。私たちの病院は、これまで本格的な外部からの機能評価というのを受けたことはございません。ですから、識者の方々からの貴重な御意見を真摯に受け止めまして、今後の改善策に生かしていく所存でございます。
第三には、地域の方々から寄せられている御意見があります。四月の公表以後、私たちの病院では延べ約五百八十名の職員が五千五百世帯の地域の患者様を訪問し、おわびと説明を行い、多くの率直な御意見を聞かせていただきました。また、そのほかにも約八百通のアンケートによる御意見が寄せられております。
二、三紹介させていただきますと、信頼している病院でこのようなことが起こりショックでした、患者については担当医が話し合って、決して自分のみの判断でなく診断しているものと思っておりました、診療所で一生懸命にボランティア活動をしておられる皆様方、自宅療養患者さんへの訪問看護を喜んでいる家族のいることを考えてください、院内だけでなく多くの方々に守られ、必要とされている病院だけに、一日も早く信用を取り戻し、安心して診察していただける病院になることを望みますという激励のお言葉とか、もっと看護婦の対応、態度を改善してほしい、プライバシーの保護を守ってほしい、病院はしっかり職員教育をしてほしい、また、インフォームド・コンセントを徹底し、そのときは分かりやすい言葉や図、文書等で説明していただきたいというような、患者様の生の声が出されております。
厳しい御批判も含め、これらの資料も病院再生にとって欠くことのできないものであり、私たちの貴重な財産だと考えております。
第四には、院内の現場の職員からの声があります。
今回の調査でも、事件当時の問題点として、現場からの声が十分反映されない管理実態が指摘されております。患者様との直接の接点があり、日ごろ医療の現場で働いている職員が感じている声が病院の運営に反映される仕組みを作り上げることなくして病院の再生はあり得ないだろうと思っております。
本格的なプランの作成はこれからの作業でございますが、その骨子について私なりに整理したものをお示しいたしたいと存じます。
川崎医療生協には五十年、協同病院には二十五年にわたる実績がございます。これまで創立以来一貫して患者の立場に立つ医療を貫いてまいりました。しかし、今回の事件を通して改めて、今の時代にこの地域でこの病院が求められているものが何なのか、これをもう一度問い直すこと、理念を問い返すこと、そしてその答えを全職員がしっかり共有できるようにすること、これが病院再生の出発点であると私は考えております。
そして、それに基づいた診療体制の再構築が必要になるわけですけれども、今重視していることの一つは総合診療部体制です。これは、地域の病院として特定の専門分野に偏ることなく総合的に患者様を診られるシステムを保障するということであり、また家庭医療を目指していく医師の教育の場でもあり、また在宅医療の位置付けと責任体制を明確にするというねらいもあります。病棟は患者様の安全と信頼、それに今日ではやはり快適さということを考慮した再編、改築が必要になると考えております。
実際の診療の場では、これまで以上にチーム医療の徹底を図る必要を感じております。形だけのカンファレンスではなくて、本当にチームメンバーが患者様を中心に置いてその問題点を共有できること、主治医のチーム医療のリーダーであることの自覚、職種間の勾配をなくしたフラットな組織形態、適切な診療録記載などを重視しております。救急対応体制についても、必要な設備の充実を図る一方、他の医療機関との連携を含めて危機管理の観点からその在り方を再検討し、地域医療に貢献していきたいというふうに考えております。さらに、自分たちの医療の質を問うという意味において、学術活動を一層強化し、また日常的に医療倫理、看護倫理の教育、議論を進めていきたいと思います。
病院の管理運営システムにつきましては、何よりもまず現場の声を管理運営に反映させるための制度的保障とその運用ということを重視しております。
そして、医療内容、管理運営の両者に共通して必要なことは、外部評価システムの導入であり、何よりも人権を第一義とする危機管理意識の徹底とシステムの再整備であると考えております。
最後に、教育の問題について触れたいと思います。
私たちは患者の権利章典と呼ぶ患者の権利と責任を定めた宣言を持っております。私たちは技術習得に偏らない、患者様の人権を何よりも重視する医療観を身に付け、真のチーム医療が進められるような人材を育成していく、このことを目指しております。そのためには、指導者と指導を受ける職員がしっかりと目標を共有できるようなカリキュラム、それと指導体制が必要だと思っています。私たちは、この三年間、今日の医学教育の成果に学びながら医師研修の改善に取り組んでまいりました。二〇〇一年度には新しい要綱を策定いたしまして、現在八名の研修医がこのカリキュラムに沿って研修を進めております。そして、私は一定の成果を上げてきているというふうに考えております。今後この成果をすべての職員の教育に生かしていきたいというのが私の願いでございます。
川崎医療生協と川崎協同病院は、一日も早く地域の信頼を回復するために、現在、病院管理部人事の刷新を含めまして、目標達成のための努力をしていることを御報告して、私の陳述を終わりたいと思います。