田坂広志の発言 (国民生活・経済に関する調査会)
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○参考人(田坂広志君) 田坂でございます。よろしくお願いいたします。
お手元に「産業インキュベーションのビジョンと戦略」という資料がございますので、それをごらんいただければと思いますが、時間も限られていますので、要旨については、実はこの本の論文がお手元に別途配られております。配っていただいております。「この国を良くするために、今やるべきこと」と、この本はしばらく前に出版したものですが、竹中平蔵大臣、現大臣、それから中谷巌さん、そしてこちらにいらっしゃる米倉誠一郎教授、あと伊藤元重さん、大田弘子さんなど、アカデミアのメンバーで集まって、この国をよくするためにどういう政策的な手を打つべきか、それぞれの立場で論じたものです。
私自身、この中で一つの章を割いて産業インキュベーションということを申し上げていますので、今日はいただいた時間の範囲でこの産業インキュベーションのビジョンと戦略についてお話し申し上げたいと思います。
お手元の資料の説明に入る前に、私自身のバックグラウンドを一言御説明申し上げておきますが、民間のシンクタンク、日本総合研究所というところに一九九〇年、この設立に参画いたしまして、十年間、シンクタンクのビジネスをやってまいりました。ただ、シンクタンクというよりも、むしろドゥータンクだと自負してやってまいりました。シンク、調査、分析、予測、評価、提言というデスクワークだけやっていても世の中余り大きくは変わることはないだろうと、むしろ新しい事業を生み出していけるようなドゥータンクになっていこうという考えの下に、一九九〇年から十年間、新しいインキュベーションの動きを作ってまいりました。
今日は、インキュベーションというのが一つのテーマになると思いますので、もう少し申し上げますと、手法というものは従来なかった手法を取り入れております。シリコンバレーなりアメリカでも余り取られていない手法ですが、異業種連合という方法を使った新しい新事業開発というのを十二年前、現在から見れば十二年前に始めたわけです。十年間に二十個のコンソーシアム、異業種連合を作りまして、その中で新しいベンチャービジネスなども生み出してまいりました。
異業種が集まって新しい新事業開発を行う、どうしてこんなことを考えたかというと、もう十年以上前から民間企業の中で共通の認識があります。分かりやすく申し上げれば、自社一社では新事業が生み出せないと、どれほど優れた企業でも自社一社ではなかなかもう新事業が生み出せない時代になっております。その理由についてはまた数分後にお話し申し上げますが、その辺りを深く感じたこともありまして、異業種が集まって新しい仕組みを作ろうということで、ベンチャーなどを作ってきたわけです。
幾つか御紹介申し上げますが、やはり十二年前に作ったベンチャー、ISVジャパンというベンチャーがありますが、これは当時の通産省から十二億円の補助金をいただいて実証実験などをやって立ち上げてきたベンチャーですが、汚染した土壌、今、実は日本全国いろんな工場がありますが、大変恐縮ながらほとんどの工場には土壌の汚染があります。これは、今まだ暗黒大陸のようになっておりまして、最近また新聞で少し取り上げられるようになっておりますが、これはもうますます大きな問題になってくる、そんな状況にあるんですが、この汚染した土壌をクリーンアップする技術をアメリカから導入して、日本で通産省の補助金をいただいてベンチャーの立ち上げをやりました。これは、おかげさまで現在もう事業として軌道に乗りつつあります。
それから、二番目に立ち上げたベンチャーがFESCO、ファースト・エナジー・サービス・カンパニーという会社を立ち上げました。これは省エネのサービスをやるベンチャーですが、これも異業種十二社が集まって事業化を検討し、最終的には八社が集まってベンチャーを立ち上げました。分かりやすく言えば老朽化したビルの省エネ対策をするベンチャーなんですが、それぞれに個別の省エネ技術は持っているんです。ただ、単品で売りに行っても売れない状況がずっと続いてきました。何をやる必要があったかといえば、老朽化したビルのオーナーの方にトータルソリューション、どういう技術を組み合わせれば省エネが最も適切に進められるかという、一種の省エネ診断のようなものをやらない限りマーケットのニーズは動かないという判断から、それぞれ個別の商品は持っている企業でしたが、みんなで集まって協力してトータル診断というものを、コンサルティングを最初にやるという形でベンチャーを始めたわけです。これもおかげさまで随分売上げが伸びてまいりまして、何年か前にはニュービジネス大賞環境賞をいただいております。
それから、三番目に立ち上げたベンチャーがエンバイオテック・ラボラトリーズと、これはやはり環境ビジネスに近い分野ですが、環境ホルモンなどを分析する技術、こういうものを日本で今普及しようということで活動しておりまして、このベンチャーもその発祥は、異業種が集まったいろいろな環境ビジネスの検討、特にバイオテクノロジーを使って環境問題を解決できないだろうかという検討からスタートしたベンチャーです。これもおかげさまで昨年、中小企業長官賞をいただきました。さらに、その直後に東京都のベンチャー大賞をいただいております。
特に賞をいただくことがベンチャーの目的ではありませんが、ちょっと脱線いたしますが、これからの時代のベンチャーというのは社会にどう貢献していくかということもかなり重要な眼目になってくるだろうと。単に収益を上げ、IPOに一刻も早く到達することがベンチャーの本来の目的ではないだろうと。実際、今、ビットバレー、渋谷の周辺のベンチャーの若い方々とお話しておりましても、決してIPOだ、お金を稼ぎたいというお気持ちの方は必ずしも多くはありません。むしろ、やはり自分たちのビジネスを通じて社会に貢献したい、環境問題を解決したいとかエネルギー問題を解決したいというような志を持った若いベンチャーの方々が今、日本にはたくさんいらっしゃいます。そういう意味では、新しい基準でのベンチャーの評価、そして育成ということも時代のテーマだろうと思っております。
ちょっと自己紹介が長くなりましたが、私自身は実は、先ほどの高柳さんのおっしゃったことと関連すれば、ある意味で新しいタイプの日本型のインキュベーターを目指して十数年活動してきた人間でございます。そのことを申し上げた上で、お手元の資料二ページ目にお入りいただければと思いますが。
まず最初に、なぜ新しい産業が生まれてこないのか。これほど長く不況が続き、経済的な低迷が続いておりますから、官民どこもやはり新しい産業が生まれてこないだろうかと考えております。にもかかわらず、なぜ生まれてこないのか。これにはいろんな原因がありますが、今日一つ申し上げたいのは、これから生まれてくるべき新しい産業というのは従来の産業とは全く性質を異にした産業であるということを御理解いただければと思います。
例えば、今、識者にアンケートでも取られると必ず出てくる、新産業待望論の中で出てくるものですが、情報産業、それから高齢化社会であるがゆえにシニア産業、そして少子化時代だから教育産業が大切だ、やはり地球環境問題が大きな問題だから環境産業が大切だと。こういう産業ビジョンというのはよく語られるんですが、これらの産業というのは実はこれまで日本の政府が戦後育ててきた産業とは根本的に違ったタイプの産業です。
私は、戦後の通産省を始めとする政府の産業育成に対する貢献については高く評価するものでございますが、これまでの産業というのは、実は企業の側がどのような商品を、製品を開発するかという、これをシーズと呼んでおりますが、どういうシーズを世の中に提供するかという観点から分類された産業です。例えば鉄鋼業とか石油業とか電力業、繊維業、食品業、住宅業と、いずれもどのような製品を世の中に提供するかという観点から分類された産業です。これは、今も株式欄などをごらんになられるとこの分類が目に付きます。そして、現在は、経済産業省の廊下を歩かれても、それぞれの部署の名前は比較的このシーズ分類になられている行政の体系になっております。
ところが、今申し上げた新しい産業、生まれてくることが期待される産業というのは、例えば情報産業においていえば、人々が情報を手軽に入手し、また手軽に世の中に自分たちの声や意見を伝えたいという、そういうニーズに対してこたえる産業として今生まれようとしております。シニア産業については、幸せな老後を過ごしたいという根本的なニーズにおこたえしようという産業です。教育産業は、豊かな心の子供を育てたい。環境産業は、快適な環境で過ごしたい。いずれも生活者の根本的なニーズにどうこたえ得るかという観点から期待されている産業です。これらの産業というのは、先ほどの産業、これをシーズ型産業と呼べば、その逆のニーズ型産業とでも呼ぶべき新しい産業であることは明らかだと思います。
したがって、今何が求められているか。従来、縦にずっとシーズ型産業ということで、どのような製品を供給するかということで分類されてきた産業を横断する形、横に切る形でこのニーズ型産業というのが生まれてこなければならない、その時代を迎えているんだと、このことが本日一番申し上げたいことの一つでございます。これは、そのまま政府の産業育成政策のとらえ方を根本から改める必要があるということです。
例えば、経済産業省においては、今から申し上げることは決して批判的なことでもございません。私自身も経済産業省の産業構造審議会の新成長部会の委員も務めております。政府の立場からの政策立案もやっている立場ですので、決して批判という意味ではございませんが、従来の国の政策というのは、どちらかというとシーズ型産業をどうしたら育成できるかという観点で施されてきた政策でございます。むしろ、これから必要なのは、ニーズ型産業を育てるための新しい政策パラダイムが求められております。では、どのような政策パラダイムかと申しますと、先ほどの話です。異業種を集めて、顧客なり消費者、生活者のニーズにこたえるビジネスが生み出せるかということが今問われています。
例えば、先ほどのシニア産業というものを例に取ってみますと、シニア産業の一つの典型が、恐らくはシニアコミュニティーと呼ばれるようなものが今期待されているだろうと思います。これは、そのコミュニティーにおいて、高齢者の方々が幸せな老後を過ごせるコミュニティー、例えばこういうものがニーズとして明確にありますが、これを実現しようと思えば、もう簡単に想像していただけますとおり、地域を開発するディベロッパー、そしてそこに例えばシニアマンションを造るゼネコンさん、さらにはその中にバリアフリーの家具を入れる必要もあるでしょう。人材派遣も介護という観点から必要かもしれません。健康食品、それからさらには生涯教育のようなもの、それ以外に紙おむつのような雑貨まで必要かもしれません。
いずれにしても、このシニア産業、シニアビジネスというものを立ち上げるためには、今申し上げたようないろいろな異業種が横に結び付いてこの生活者のニーズにトータルにこたえていくという仕組みができなければ需要の喚起ができません。単品だけ売りに行って、紙おむついかがですか、若しくはバリアフリーの家具どうですかだけでは産業は生まれてこない構造をしていると、そのことが一番申し上げたいことです。
そして、もしそのことを御理解いただけるならば、これからの国の政策も、従来の個別のシーズ型産業、シーズ型の企業を支援するという考え方を超えて、いかに異業種を集めて生活者のニーズにトータルにこたえられるパッケージ商品とかトータルサービス、そういうものを育てられるかということがテーマになってきます。先ほど御紹介申し上げました、私どもが育ててまいりました三つのベンチャーも、実はこのニーズにこたえるタイプの異業種連合によるベンチャー育成だということを申し上げておきたいと思います。
今申し上げたことが、実は私自身が十数年やってまいりました日本型インキュベーションと呼ばれるものです。これは、必ずしもアメリカ、シリコンバレーで行われているインキュベーションと同じものではありません。私は正直、信念に懸けて申し上げますが、やはり日本には日本独自の社会的風土、歴史的経緯がございます。この中で生まれてくるべきインキュベーションのスタイル、戦略というものは、やはり日本的な条件を考慮したものであるべきだろうと考えて、このようなやり方をしてまいりました。
さて、そのことを申し上げた上で、まだ数分時間がありますので、一、二点申し上げますが、今、高柳さんもその分野にいらっしゃると思いますが、ITベンチャー、またネットベンチャーと呼ばれるこのビジネスをどう見るか、この一点を申し上げておきたいと思います。
世の中、バブルが崩壊した、もうネットベンチャー、ITベンチャーは終わりだというような議論もたまに見受けられますが、私は実はこのネットビジネス、ITビジネスと呼ばれるものには非常に重要な歴史的な使命があると思っております。それはどういうことかというと、インターネットの世界でのビジネスというものをじっと見ていると、先ほどから申し上げたことを非常に見事に体現したビジネスが生まれてきております。
ちょっと御専門の方がいらっしゃるかどうか分かりませんが、ちょっと専門用語になって恐縮ですが、例えばネットビジネスでよく使われるポータルサイトというところがあります。これは、インターネットのサイト、そこにアクセスして、そこでどういう情報が提供されているかを見ると、実は個別の企業の商品を売ろうとするサイトよりもニーズにこたえていろいろな商品とかサービスが並んでいるようなサイトが非常に多いです。これは、例えば自動車を売っているような、例えばカービューとかオートバイテルというようなサイトへ行かれますと分かりますが、従来のカーディーラーのようなものを超えて、カーライフを楽しみたいという方にいろんな情報を提供する、もちろん自動車も販売しますが、中古車の紹介もする、カーアクセサリー、カーナビ、さらには保険だローンだまでトータルに提供するような、そういうビジネスが実はネットビジネスの中で多々生まれております。
これは何が起こっているかと申し上げれば、元々ビジネスの最も消費者、生活者中心の姿というのは、一つのニーズに対して関連する商品とサービスが手軽に簡単に届けられるという構図が一番理想であったのですが、これまでは残念ながらそれをやろうとすると非常にコストが掛かったんです。ところが、インターネット革命によって、このお客様にそういう情報を提供するコスト、情報伝達コストというのが、一つの学説によれば千分の一に下がったと言われております。この千分の一以下が実際にどれくらいかは別として、かなり大幅に下がったことが背景にあって、多くのネットベンチャーというのは、顧客のニーズに関連する商品とサービスを取りそろえて届ける、そういう新しいビジネスに向かっております。これがアメリカで言われてきたニューミドルマンという新しいビジネスです。
これは、オールドミドルマン、すなわち過去の中間業者というのは生産者の方を向いていた。生産者の商品を販売代理をするというのが古いタイプの、オールドミドルマン、中間業者だったわけです。ところが、ネットビジネスの中で生まれているのはニューミドルマン、これは逆を向いております。消費者、顧客の方を向いて、その方々が望まれるニーズに関連する商品とサービスをすべて取りそろえて提供する。これは古いタイプのミドルマン、オールドミドルマンのやってきた販売代理ではなく、その全く逆、購買代理という新しいビジネスモデルをひっ提げてこのマーケットに今やってこようとしているわけです。
確かにいろんな歴史的な経緯から、日本ではネットベンチャー、かなり苦戦をしておりますが、少し長期的な視点で見れば、このITビジネス、ネットビジネスというものは、こういう顧客中心、生活者中心のビジネスを育てていくという観点からは、やはり政策的にも支援をしていくべきだろうと考えております。分かりやすく言えば、このネットベンチャー、ITベンチャーというのは産業構造の転換、先ほど申し上げたシーズ型産業という縦のものを横に貫いてニーズ型産業を生み出していくというようなある種の触媒的な機能を持っているんだということを申し上げたいと思います。
その上で、産業インキュベーションという政策パラダイムについてもう一言申し上げたいと思います。
産業インキュベーションという言葉はビジネスインキュベーションという言葉よりも大きなビジョンとして申し上げております。ただ、不思議なもので、現在の世の中のマーケットというのは、情報化が進めば進むほど、不思議なことですが、心理的性質が非常に強まっています。そして、なぜかマーケットが動くときというのは小さく仕掛けたときではない、大きなビジョンを掲げて仕掛けた方が動きやすいという時代になっていることは事実です。これは民間企業においては共通の認識になっています。
したがって、今求められているのは、個別のビジネスアイデアが百、千と出ることだけではない。やはり新しい産業ビジョンというものを、あえて申し上げますが、言霊力、言葉にやはり大きな力、影響力を持ってそれが語られることが今マーケットで求められているんだろうと思います。そういう意味で、あえて産業インキュベーション、仕掛けるべきは新しい産業のインキュベーションであるということが十二年前からの私の主張でございますが、その眼目は五つございます。
一つは、先ほど申し上げたシーズ型産業からニーズ型産業への転換、そして二番目が政府主導から民間主導への転換、そして業界団体、同業種が集まった団体からむしろ異業種が連合するという方向への転換、大企業中心からベンチャー企業中心への転換、間接金融から直接金融への転換という、この五つの視点の転換を行いながら、新しい産業育成のビジョンを国も民間も今掲げるべき時代になっていると考えております。
そのことをもう少し別な角度から申し上げたいと思います。
アメリカでのインキュベーション、これはシリコンバレーを中心にかなり新しいベンチャーが次々と生まれるということはもうよく知られていることです。そして、日本の多くの自治体がこのアメリカのシリコンバレーでベンチャーが生まれてくる姿を見て、日本にもシリコンバレーを作りたいと思って積極的にいろんな活動をしてこられました。
ところが、先ほどやはり高柳さんのお話の中にありましたように、日本でこういう形で作られたインキュベーターがなかなか新しいベンチャーを生み出せないということがずっと続いております。その理由というのは非常に明確な理由があります。アメリカのシリコンバレーでいろんなベンチャーの育成が起こる、それを米国型インキュベーションと呼びますと、これを学んですぐに日本で同じことをやろうとするわけです。ところが、それがうまくいかないんです。どういうことかというと、アメリカのインキュベーションを見ていると五つの要素というふうに考えられています。
一つがまず優秀なアントレプレナー、起業家を見付ける。彼が持っている新しいビジネスプランなりビジネスモデルを評価する。そして三番目に、このモデルが良ければ、そこにベンチャーキャピタルなどを紹介して投資をする。さらに、オフィスとラボを安く貸す、貸与、レンタルするということですね。そして、ビジネスコンサルテーション、いろいろな法務や財務などのアドバイスをする。この五つをやると、新しいベンチャーが、ベンチャーの卵がふ化する、インキュベーション、生まれてくると言われているわけです。
ところが、実際にこれを日本でやろうとすると、自治体の方々は残念ながらこの中の四番目の部分にどうしても力が入ってしまう。オフィスやラボを安く、箱物行政という言葉がしばしば使われますが、そういうものはかなりしっかり作られるんですが、ほかの部分についてはなかなか手が回りません。そのことが実は日本でインキュベーションが進まない理由です。多少のベンチャーキャピタル的なお金は準備する、同時に箱物、入居できるオフィスやラボも準備するけれども、ベンチャーは生まれてこない。これがなぜ起こるのかということを今深く考えてみるべきかと思います。
この理由は、別な言葉で言えば、日本ではシリコンバレーに存在するある大切なものが存在していない、若しくは存在しても非常にプアであるということが原因です。一言で申し上げれば、ビジネスエコシステムです。
これはアメリカのシリコンバレー、スタンフォード大学などでよく使われる言葉ですが、ビジネスの生態系、今申し上げた五つのファクターの周辺にもっといろいろな深みのある仕組みが存在しています。これは、シリコンバレーにおいてはビジネス生態系ということで、もう長くこれが形成されているんです。
どういうことかというと、お手元資料四ページ目にお入りいただければと思いますが、日本と米国の違い、先ほどの五つに合わせて申し上げますが、日本と米国では起業家の人材の層の厚みが圧倒的に違います。よく御存じのように、アメリカではハーバードだスタンフォードだを出るような優秀な学生がベンチャーを起こして社長になろうと考えられる、そういう文化があります。また、アジアから移民してこられた方々も、そのシリコンバレーのCEOの四〇%はアジア系移民と言われるような仕組みがあります。これは、海外からも優秀な起業家、人材も受け入れているということです。これに対して日本では、どうしても優秀な学生の方はいまだに大企業志向、寄らば大樹という傾向があります。また、大企業の中では、そこで新しい事業を取り組ませていただけるかといえば、長きにわたって、厳しい表現ですが、囲い込み、飼い殺しとでも呼ばざるを得ないような状況の中に置かれてしまう傾向がありました。
二番目の、ビジネスモデル、ビジネスプランという意味でも、米国はかなり戦略的にビジネスモデル、プランを立てる文化があります。日本の場合には、比較的まだアイデアビジネスのような段階を超えていないということがあります。
三番目は、ベンチャーキャピタルの問題ですが、アメリカではリスクキャピタル、まだ非常にリスクの大きい段階でのキャピタル機能が存在しています。いわゆるエンジェルと呼ばれるような、過去において功成り名遂げたアントレプレナーが自分のポケットマネーのような感覚で数億円を投資するというようなこともアメリカでは行われます。ただ、日本ではリスクキャピタルと呼ばれるハイリスクの段階での投資をしてくれる企業は少ない。むしろ、IPOが目の前に見えてきたときに、寄ってたかって投資させてくださいというようなベンチャーキャピタルが日本では非常に多いというのが現実かと思います。
四番目ですが、コンサルテーション、コンサルティングという意味でも、日本ではベンチャーに対する知恵を提供する機能は弱いです。シリコンバレーでは、電話を一本掛けると、もう日本でもよく知られているような功成り名遂げたベンチャービジネスの成功者、アントレプレナーの先輩たちがいろんな知恵をかしてくれる、そんな場が存在していますが、日本の場合には、コンサルタント一つでも、比較的、机の上で学問してきてコンサルティングをやられる方も比較的多い。どうしても、ベンチャーを成功させた体験からくる知恵を提供できるようなコンサルタントが少ないという面もあります。
そして、インフラの部分で言えば、この部分だけは、日本は箱物は大変しっかりしていますけれども、実はオフィスとかラボが安く使えるだけではベンチャーは立ち上がってこない。例えば、シリコンバレーでベンチャーが立ち上がる一つの理由というのは、分業というのがマーケットでしっかり行われています。例えば、ファブレス企業というのがございますが、製造の部分は自分たちでやらずにほかの企業にやってもらう、そういう形でベンチャーを立ち上げる企業がありますけれども、ファブレス企業が存在するということは、ファブリケーション、製造だけを専門にやる企業が一方にあるということです。こういうマーケットの中での分業という仕組みが日本ではまだ十分にない。これもまたインフラという意味では弱い部分です。
いずれにしましても、今申し上げたことに対する解決策を見出していくこと、その中で日本には日本的なビジネス生態系を可及的速やかに育てていくことが日本での新しい産業育成のためには極めて重要なテーマになっていると思います。
そのための打ち手は何通りもあろうかと思いますが、本日最初に申し上げた私自身の経験に即して一つの方向、あくまで幾つかあり得る中の一つの方向を申し上げますが、日本でビジネス生態系を育てるためにはやはり異業種企業が集まってベンチャーを支援するような仕組みが必要だろうと思っています。
最後に、その観点から五つの発想転換を申し上げて締めくくりとさせていただきますが、お手元資料、五ページ目。
日本ではアントレプレナーの人材が少ない。これは、やはり長期にわたって、大学を出て若い方がベンチャーにチャレンジするような文化を応援していかなければならないと思いますが、現時点でもう一つ打つべき手は、大企業の中に囲い込まれている人材がベンチャーに取り組めるような仕組み、これを私はイントラプレナー、社内起業家と呼んでおりますが、大企業が支援してその社内から起業家を輩出していくような取組が必要かと考えております。
先ほど申し上げた三つのベンチャーは比較的大きな企業、日本総合研究所という企業の中で社員として働いていた方々が社長として今立派にベンチャーの社長を務めております。こういうささやかな事例ではありますが、そういう流れもこれから必要になってくるだろうと、これが一点です。
二点目は、ビジネスプランというものはこれからは複合的なビジネスモデルが必要になります。私自身、コンビニエンスストアの企業の社外役員も務めておりますが、今コンビニエンスストアで新しいEコマース、電子商取引の場になってくると言われますが、それを本当に実現しようと思えば、単にコンビニの店頭での商品を提供するというモデルだけではビジネスは生まれません。当然、これはデリバリーそれから決済、様々なビジネスモデルが組み合わさらない限り新しいサービスが生まれてきません。そういう意味では、これから複合的なビジネスモデルの開発をやるような場というものをどう作るか、これも異業種連合ということの一つの眼目ではありますが、大きなテーマかと思います。
それから、ベンチャーキャピタルについては、日本ではIPO直前に寄ってたかって投資するというキャピタルは十分にあるような気がいたしますが、むしろリスク段階からのリスクキャピタル的な機能、さらにはむしろ後半の、まだ公開していないけれども未公開株を交換するような場というものもまた重要。そして、やはり融資という形での資金の提供も当然日本では健全な形で育つ必要があります。あくまでベンチャーキャピタルという狭い意味での機能にとどまらず、必要な段階で必要な形で資金が得られるキャピタルネットワークというものがこれから求められるだろうと思っております。
四番目は、ビジネスコンサルテーションということに関連してですが、これからのインキュベーターがベンチャーの方に提供すべきは、法務、財務の知識はもちろんですけれども、アライアンスコーディネーション、戦略的提携の支援、今ベンチャーの方が求められているのは、いろいろな異業種企業の顧客チャンネル、時には大企業の顧客チャンネルなどを使って自社の商品を売ってもらいたいというニーズもあります。こういう方向でベンチャーの方がいろんな異業種企業と連携していけるようなアライアンス・サポート・コーディネーションのような機能がこれからのインキュベーターには求められてくるだろうと思っております。
そして最後に、レンタルオフィス・ラボというようなテーマももっと広がりを見せております。今ベンチャーでなかなか立ち上がりが苦しい企業がすっと立ち上がっていくときに、一つの例としてメディアが取り上げるというときがあります。最近私、あるテレビ番組のお手伝いなどをしているんですが、テレビ番組であるベンチャーの商品を紹介してあげるだけで電話が殺到する、いろんな企業からの提携の申込みなどがあるということもあります。そういう意味では、これからはネットの時代、そしてメディアの時代です。これからのインキュベーターというのは、このネットワーク、メディアをうまく使って、ベンチャーがほかの企業とうまく結び付く場を提供できるか、さらには消費者、生活者にその優れた商品をお知らせすることをお手伝いできるか、そんなことも新しいインキュベーターの役割になってくるだろうと考えております。
手短に申し上げましたが、日本型インキュベーションということを改めて申し上げたいと思います。この言葉は産業インキュベーションという言葉と同義語と思っていただいて結構です。日本という国においては、単にシリコンバレー、アメリカの猿まねをするのではなく、日本の風土に合わせた新しいインキュベーションの戦略というものを考えていく必要がある。大きな産業ビジョンを掲げながら、一方で、先ほど申し上げた五つの発想転換をする。単なるアメリカの機能のまねではなく、日本的な新しいベンチャー支援の仕組みが生まれてくるだろうと考えております。
私自身のささやかな取組ではございますが、皆様方の今後の検討の御参考にしていただければと考え、あえてこれまでの経験を御報告申し上げました。
私の御説明、以上でございます。