田坂広志の発言 (国民生活・経済に関する調査会)
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○参考人(田坂広志君) 御質問をいただきましたことについてまず申し上げたいのが、政府が産業を育成してくれるという幻想を持つべきではないということは、必ずしも政府に対して失礼なことを申し上げた意味ではございません。私自身、政府と一緒にいろいろな取組をしてまいりました。例えば、九六年の段階で日本でインターネット革命とEコマースの革命がやってきたときに、電子商取引実証推進協議会というものを当時の通産省と御一緒に民間の立場で作り、その運営委員を務めたりしております。
そのプロセスで非常に感じたことを率直に申し上げますが、国としては新しい電子商取引の事業を育てるべきだということでいろいろな政策的な手を打たれます。そして、その政策的な手というのは、多くの場合、最後に補助金という形になります。こういう手を打たれることそのものは決して間違っているわけではないんですが、民間の側に、何か国がそうやってお金を出してくれて、例えば研究開発でも助けてもらえるというような甘えが生まれてくると、結果として、先ほど高柳さんがおっしゃったんでしょうか、過保護の形になってきまして、民間の側にいるとよくそれが見えてきます。民間は本当に自力で、自己責任において新しい事業を立ち上げようという気持ちがむしろ少しうせてしまう、黙っていても国から補助金が何百億といただけるということになると、逆に民間の、本当のぎりぎりの退路を断って自分たちで事業を起こすという、そういうスピリットが失われてしまっているような気がします。
これは長く護送船団方式というような言葉で、例えば金融業界などについても言われたことで、実際に国としては非常に善意、前向きな気持ちでなさっている施策が、結果として民間の自立心を妨げている例は残念ながら多々ある。このことに対して、まず民間に対して私が物を申し上げたかったのは、余り国にこうしてもらいたい、ああしてくれればと考える前に、まず自ら、自分たちで新しいビジネスを立ち上げるんだというしっかりとした考え方を持つべきだと。そのことが実は論文のタイトルに掲げた理由でございます。
その上で、では国は何をなすべきかについては、率直に申し上げますが、今、大きな時代の流れの中で、小さな政府、大きな政府という議論があります。これはどちらがいいかというのはまたいろんな政策論の議論なんですが、あえて申し上げたいことは、ここでいう大きな政府と言うときの大きなというのは、もちろん職員の数というような意味合いもあろうかとは思いますが、それも含めて、究極、予算規模の大きさというような意味において使われてくる言葉と思います。私は、これからの時代に政府の役割は、大きい政府であるか小さい政府であるかということよりももっと大切なことがある、それは、率直に申し上げますが、賢い政府であるべきだと。
どういうことかと申しますと、国民に対していろんなお金を使っていろんな施策を打つこともまたもちろん必要ではありますが、きちっとした知恵を提供できる、示せる。例えば国家のビジョン、戦略、市場に対する新しいやはり考え方、こういうものをやはり深く理解されて、いろんなメッセージを発信されるということが非常に重要になってきていると思います。むしろ、そこのところの検討はおろそかにして予算だけばんと付けるという形の政治の在り方が、今の国をややいびつにしてしまったんではないか。先ほどの山東先生の御指摘にもあったように、やはり国は、そして政党の方々も、政策立案能力、それ以上に国家のビジョンをきちっと語る、しかも説得力と魅力を持って語るような力を付けられるべきではなかろうかと。
むしろ、民間は民間の自助努力でお金も組織も人材も頑張ってやっていくと思いますが、やはり国の持つ言霊力というのがあります。かつて通産省を始め政府というのは、そこで掲げたビジョンが民間の産業を大きく鼓舞した時代はありました。今、国において失われているのは、先ほどちょっと申し上げましたが、言霊力、語られるビジョンとか政策がやはり民間の、そして一般の生活者の心を打つような、そういう政策なりビジョンを語られる力がどうしても衰えてしまっている。これは恐らくは、政党ごとに申し上げればシンクタンクという議論もあろうかと思います。それから、かつて日本の中央官庁は、日本でも最高のシンクタンクと言われた時代があります。
この辺りを、もう一度原点を見詰め直されて、国は本来国民に対して提供すべきは予算である前に知恵であると、更に申し上げれば志であると。この辺りをやはり改めて政府に、国にお願い申し上げたいと思います。