富田三樹生の発言 (法務委員会厚生労働委員会連合審査会)

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○富田参考人 私は、精神科医として、そして現在、民間病院の院長として、それから日本精神神経学会の精神医療と法に関する委員会の委員長として、きょうは発言いたします。
 お手元に発言の要旨があるかと思いますが、一部、二部、三部と分かれております。三部は総括的なお話で、実は、ここのところが私がふだん感じていることの、非常に日常の精神科医としての怒りがいっぱい、足りませんが、書かれておりますが、そこまできょうの話は行くかどうかわかりません。そういう状況を踏まえて発言させていただきます。
 まず、修正案についてお話しいたします。
 修正案の要点は、四十二条第一項第一号「入院をさせて医療を行わなければ心神喪失又は心神耗弱の状態の原因となった」云々ということを「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、入院をさせてこの法律による医療を受けさせる」ため云々というふうに変更したということがあります。これについて、五点にわたって批判いたします。
 一番。法の第一条第一項はそのままであるということがまず前提であります。そして、「再び」という言葉を消しましたが、「同様の」を入れて、再犯予防という実質は変更しておりません。したがって、第一条、四十二条、法の目的とこのことによって、すべてが再犯予防の目的のもとに従属してこの法は解釈しなければいけないということをまず言っておかなければいけません。
 二番目。「心神喪失又は心神耗弱の状態の原因となった精神障害」という言葉を「対象行為を行った際の精神障害」として、対象行為と精神障害の間の心神喪失や心神耗弱という法律関係をなくしてしまったということであります。これは重大な改悪です。検察段階で心神喪失等と判断されてこの法の中に送り込まれた上で、もうその心神喪失と心神耗弱という法律関係は消えてしまうということであります。
 三番目。社会復帰という言葉に「同様の行為を行うことなく、」という限定をしたことであります。社会復帰という言葉に同様の行為を行うことなくという限定をしたことによって、我々が言っている社会復帰ということとは全く質の異なった社会復帰であるということになります。病状によって犯罪を犯すということもあるでしょうし、病状によらずして犯罪を犯すということもあります。その区別がここではどのようになるのでしょうか。
 四番目。医療を受けなければ再び対象行為を行うおそれという言葉を「医療を受けさせる」というふうに変えました。これは、今までも医療可能性、医療適応性が非常に希薄だったんですけれども、ここの表現でいうと、医療適応性、医療可能性は全く考えられない表現になってしまった。医療を受けさせるということが目的になるということになってしまった。
 さらに、五番目。「この法律による医療」を新たに挿入されましたが、「この法律による医療」という内容は全く示されておりません。「この法律による医療」は、明確になっているのは再犯予防のためということ一点のみであります。
 二番目。合議体の裁判官と精神保健審判員の役割の明確化について述べられております。これは一見いいように思えますが、よくよく考えてみたら、結局こういうことではないか。裁判官が法律関係の学識に基づいて判断する、意見を述べるということは何を言っているのか。結局、私どもの考えでは、この人は危険かどうかという判断が裁判官に期待されているのではないかということになって、結局、この法に基づいた形での再犯予防ということが裁判官の枠組みの中で行われるということが、これはむしろはっきりしたんだということになります。
 三番目。退院許可、処遇終了の申し立ての禁止期間が廃止されました。これは一見いいことなんですが、現実の刑事司法の現状、それから現在精神保健福祉法のもとにある精神医療審査会の現状から見ますと、この廃止は事実上何の意味もない。迅速にそれが再検討されるという保証には現実にはならないだろうというふうに思っております。
 さらに、附則関係に行きます。
 附則関係は、時間がありませんので簡単に言いますが、趣旨説明の中で、「本制度の指定医療機関における医療が最新の司法精神医学の知見を踏まえた専門的なものでなければならないことはもとより、一般の精神医療についても、本制度による高度な医療水準を及ぼす」云々というふうに書いてあります。
 この文言は、修正案を書いた方はもしか医療をよくしたいというふうに思っているのかどうか、私には全くわかりませんが、私の目からすると唖然たるものです。つまり、司法精神医学というものを一体何だと思っていらっしゃるのか、司法精神医学を臨床に適用するとは一体どういうことであると思っていらっしゃるのか。我々臨床医は、この法案は再犯予測が可能であるというふうな枠組みの中で行われますが、これは、リスク管理というものを一般の精神医療の中にもどんどん持ち込んでくるということをむしろいいことだと言っているというふうに私は読んでしまうのであります。こんなことは到底許されないことであります。
 修正案については以上ですが、この法案そのものの問題点については、起訴前のいろいろな問題については全く手つかずであること、しかも、前回の国会でも政府答弁で述べられましたし、最近「論点整理」というペーパーが出されましたが、その中で、人格障害は対象にならないということを政府等で答弁されていますが、これは全く虚偽であります。その資料にもありますが、犯罪白書の中で、人格障害は明らかに不起訴処分になったり、心神喪失、心神耗弱になっております。それから、判例においても明らかにそういうものがあります。この虚偽のことを前提に法案審議は進まないと思います。
 二番目、再犯予測についてです。
 再犯予測については、我々の委員会が九月二十日付で「再犯予測について」という見解を出しました。これは吉岡隆一が主としてまとめたものですけれども、それに基づいて意見を述べさせていただきます。
 再犯予測というものはどういうものかということになりますが、ある程度特徴を持った集団に対して、どのような結果がどれだけの頻度で起こるか、どれだけの期間のうちで推測し得るかという枠組みなしには論じられないものであります。この法案の場合は、心神喪失、心神耗弱等の重大犯罪初犯の集団に対して、重大再犯または同様の行為が再び心神喪失等の状態で、この法案では特定されてはいませんが、長期の予測期間のうちにどれほどの頻度で行われるかということが枠組みになります。そして、考えなきゃいけないのは、必ずその個人が再犯を犯すかどうかという問題ではありません、確率が問題視されているのであります。
 それで、前回の国会で議論になりました山上先生の論文等も根拠になっていますが、再犯率が七%の集団に対して、カナダの最も進んだと言われるVRAGという再犯予測のやり方をそこに挿入しますと、犯罪を犯すであろうとされた人の実に八割は犯罪を犯しません。そのような再犯予測の水準なんです。こんなもので拘禁されてはたまったものではありません。精神障害者ならいいのだということには全くなりません。そういう再犯予測の問題があります。
 さらに、リスクファクターの問題であります。
 再犯予測のリスクファクターは、精神病、統合失調症であるとかそれから迫害妄想があるとか、そういう精神病理学的な特徴とか精神医学的な特徴に全くむしろ関係しません。そういうものではないのであります。例えば、そこにありますように、両親から若いときに分離したとか、それから未婚であるとか、それから発病前に犯罪歴があるとか、そういう問題が予測率を高めるのであります。それからもう一つ、精神病質と診断され得るような人たちが予測率を上げるんです。再犯予測をしたときに、再犯予測がある程度でも意味があろうとすると、精神病理学的な問題とは関係のない、人口学的な問題とか社会的な環境の問題とかが再犯率を上げるんです。
 ですから、心神喪失等とされた人たちがこの法の中に入りますが、しかし、再犯予測という観点に関していうと、そういう人たちは再犯予測を低めるんですということになります。そういうことでありますから、精神病質はこの対象にならないと政府側の答弁がありますが、精神病質が対象にならなければ、再犯率は、予測が低められるというか、全くできなくなるという問題が生じるのであります。
 処遇と治療の問題に行きますが、いずれにしろそういう形で入った、そして、高リスク、低リスク、それから中間のリスクの人々がそこに入ることになります。ところが、処遇をするときに、例えば中間のリスクの人たちに高リスクの処遇をしなくてもいいのか、あるいは低リスクの人たちに高リスクの処遇をしなくてもいいのかという問題が実践的に生じます。そうすると、実に困難な状況になるんです。もし、低リスクだとして出したとします、出したとしたら、低リスクの中にも必ず犯罪を犯す人は生じるんです。これは精神障害者に限りませんよね。生じないためには、低リスクの人もやはり高リスクの人と同じ処遇をしなければ、つまり、出してはいけないというふうに必ずなるんですということが挙げられます。
 それから、英国の例を挙げますが、英国の場合、四十例の殺人事例の審査記録がありますが、この詳細な検討は、予測可能性の問題と回避可能性の問題の二つについて調べてあります。そして、予測可能性と回避可能性の二つについて詳細に検討した結果はこのようになっているのであります。重要なことは、回避可能性があるというふうにされた二十六例中、十七例が一般的な精神医学的なケアの改善によって回避できただろうというふうに言っているのであります。つまり、リスク評価をいかにするか、高めるかという問題ではなくて、結局、あのイギリスにおいてでも、精神科医療の底上げというか充実こそが重要なんだということをこのムンロという人の調査報告は述べているのであります。全くこの法案の趣旨は本末転倒なのであります。
 時間が迫られていますが、ここまでが主に私の言いたいことでありますが、国会議員の皆さんにぜひお願いしたいことがあります。事実をきちっと調査していただきたい。事実もないところで、偏見に基づいて政策を立案すべきではありません。
 私はいつも怒りを持って医者として働いています。どのような怒りを持つかといいますと、いかに我々が精神科医療で一生懸命やっても、四十八対一の特例で我々が何ができるかということであります。先ほど松下先生がいろいろおっしゃいました。私もそういう話は知っています。いろいろなことを抱え込んでいて大変なんだと。それは大変なんですよ、当たり前じゃないですか。四十八対一の状況で一体何がやれるというのですか。このことをよく考えてください。
 四十八対一だけじゃありませんよ。PSWとかいろいろな人たちが要るんですよ、必要なんですよ。我々の病院で二百十床です。二百十床の中で我々の病院では七名のPSWがいます。公立の病院でPSWを補充できるような体制になっていますか、なっていませんよ。民間病院でそれを入れるということは、それだけの経費がかかりますよ。経費がかかって、みんな賃金は低いんですよ。それでもやっているんです。官公立病院は、いろいろな縛りがあって多くの人たちを雇えないんです。しかし、官公立病院は別に赤字であってもある程度できるんですよ。民間病院はできないんですよ。
 このような状況を放置しておいて、先ほどの修正案のような趣旨では、全く本末転倒であります。このような法案は廃案にして、事実をよく調査して、そして何が問題なのであるのかということをよく考えて、検討して、一から出直すべきであると思います。
 我々の精神神経学会の理事会が、四点について確認しました。その資料の中にあると思います。再犯予測はできない。それから、医療改革と司法改革がまず必要である。三番目として、その双方の改革に基づいた上での交流が必要である。それから四番目、事実、情報公開をして、国民の前に全部明らかにしてやるべきである。例えば、この前の名古屋の刑務所の事件は何ですか。あのようなことはいっぱい起こっているんです。我々の精神神経学会の歴史の中でも、精神障害者が拘置所で虐殺されたということもありました。いろいろなことが起こりました。調査しようとすると、非常に厚い司法の壁の中でできません。国会議員は調査権を持っていらっしゃる。きちっと調査をして、何が問題であるかということを明らかにして、その上でいろいろ検討していただきたい。
 以上です。(拍手)
    〔山本委員長退席、坂井委員長着席〕

発言情報

speech_id: 115505222X00220021203_006

発言者: 富田三樹生

speaker_id: 9842

日付: 2002-12-03

院: 衆議院

会議名: 法務委員会厚生労働委員会連合審査会