谷川秀善の発言 (憲法調査会)

⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。 詳細は利用規約をご確認ください。

○谷川秀善君 自由民主党の谷川秀善であります。
 本年九月三日から十四日にかけて行ってまいりました特定事項調査第一班、憲法調査についてその概要を御報告いたします。
 調査目的は、イタリア共和国、ベルギー王国及びフランス共和国の憲法事情につきその実情調査をし、あわせて、これらの国の政治経済事情等を視察すること並びに欧州の基本的人権の実情について、欧州連合、欧州評議会及び欧州人権裁判所の動向等について調査及び視察することでありました。
 憲法事情に関する具体的な調査項目といたしましては、イタリア共和国では、近年の政治状況と憲法の関係、二院制、基本的人権に関する諸問題の動向と対応、最近の憲法改正の経緯、憲法訴訟の現状と課題について、ベルギー王国では、二院制と上院改革論議、基本的人権に関する諸問題の動向と対応、最近の憲法改正の経緯、憲法訴訟の現状と課題、NGOの活動状況について、フランス共和国では、強い大統領と行政権に対する立法権の対応、二院制、国と地方の関係、基本的人権に関する諸問題の動向と対応、憲法改正の動向と評価、憲法訴訟の現状と課題について、欧州連合では、加盟国の拡大と統合の在り方、加盟各国との関係、欧州憲法制定に関する議論の動向、欧州基本権憲章について、欧州評議会では、条約作成に関する活動状況と今後の見通し、欧州人権条約と欧州基本権憲章との関係、中東欧諸国の憲法起草等への支援状況について、欧州人権裁判所では、その活動状況、各国裁判所との関係について、それぞれ調査をいたしました。
 以下、調査内容につきまして、その概要を調査日程に従って御報告をいたします。
 まず、九月四日、イタリア共和国上院のアマート議員を訪ねました。同氏は、議員の一割強が学者というイタリアにあってローマ大学教授等を歴任する一方、九二年六月から翌年四月までと二〇〇〇年四月から翌年五月までの二回にわたり首相の座にあり、有数の知的政治家と評されている方であります。この十年来の急激な変革を経て安定政権の期待が出てきたかに見える現在のイタリア政治につきまして、与野党二極体制がようやく固まってきたが、現在の構造が五年間続くことを希望するとし、自分の首相としての経験からも、政府をより強固にすることが必要で、組織の一番上には権限を持った人を置くことが大事だとしながらも、一方では、イタリア人は特定人への権力集中を好まないとの発言がありました。同氏は、現在、デハーネ前ベルギー首相とともにEUの今後の在り方を検討する欧州の将来に関するコンベンションの副議長を務めておられるようでありますが、EUの将来課題として、困難であるが一番重要なのは外交・防衛に関する統合であるとの意見でした。イタリアでは、現在の対等な二院制から、地方自治の拡大という憲法改正に伴い上院を州代表院としようという動きが出ていますが、これにつきましては、今後、地方代表院となればそれにふさわしい権限の配分の見直しが必要だと言っておられました。
 続いて、上院憲法問題委員会の事務局長より説明を受けました。この憲法問題委員会では、憲法のほか、治安、社会保障、地方自治等幅広い事項を所管しているようで、加えて、他の委員会から憲法についての判断を求められることも多く、週に十五から二十件にも上るとのことで、手狭な委員会室には提出法案が積み上げられておったのが印象的でありました。上院を州代表院にしようという動きにつきましては、上院の政府に対する信任権の廃止、立法権の見直しなど、併せて議論の対象となっているとの紹介がありました。
 翌五日は、憲法裁判所を訪ね、ルペルト長官と会談をいたしました。イタリアの憲法裁判所の権限は、国と州の法律及び法律の効力を有する行為の合憲性の判断、国の諸機関の権限の調整、大統領弾劾、法律廃止の国民投票の可否の判断等、多岐にわたっております。違憲判断は法律公布後の事後審査であり、事前審査は行わないことになっておりますが、事前審査をした方が効率的でないかとの質問に対し、それは国会の役目であるとの回答があり、改めて国会の立法機関としての責任を痛感をいたしました。
 年間八百から千件の提訴があり、四百から五百件の判決を下しており、これを十五人の判事が全員合議制で処理しているとのことで、負担が大き過ぎないかとの質問に対し、多くの懸案はあるが、高いプレステージを持つ我々が頑張って処理しており、何ら懸念はない、また我々は唯一の違憲判断機関としてすべての機関を超えて立つとの強い意気込みでありました。なお、判事は五人が大統領、五人が国会、五人が司法機関による任命であるが、政治との関係につきましては、政治は玄関から入ってくるのではなく、窓からそっと入ってくる程度との評でありました。
 五日午後、ブラッセルに移動し、翌六日午前、ベルギー王国議会上院を訪ねました。ベルギーは共同体(オランダ語共同体、フランス語共同体、ドイツ語共同体)と地域(フランドル地域、ワロン地域、ブラッセル首都地域)の二つが連邦を構成するという特異な形態を取っており、前者は文化・教育、個人に関する事項、言語に関する事項を、後者は経済に関する事項を担当しております。それぞれに議会が存在し、各々の議会は法律の効力を有するデクレ等を制定できます。下院は比例代表選出百五十名だけですが、上院は、比例代表選出四十名、共同体議会選出二十一名、これらの議員により選出される十名の合計七十一名で、各共同体のバランスに配慮した選出方法となっております。なお、上院には、さらに王族議員三名が加わります。上下両院は、九三年の憲法改正まではほとんど同じ権限を有していましたが、共同体、地域という概念が明確になるとともに、上院はその意見を表明する場、地方代表との考えが強まり、権限が制約され、下院が排他的権限として国の予算・決算、帰化の許可、政府に対する信任権を持つほか、法案は基本的に下院が審議することになっており、上院議員の十五名以上が要求をしたときは上院でも審議が行えるという形になっております。
 ドゥ・デケール上院議長は、下院、上院議員を歴任、ブラッセル首都地域議会議長を経て現職にあり、九九年に我が参議院議長の招待で訪日をされておられます。ヴェルホフスタット首相が上下両院の統合に意欲的で、昨年八月に上院を下院に吸収合併する提案をしたが失敗したとのことで、さらに今年四月、与党間協議で上院の抜本的改革を行うことで合意されている状況にありますが、一院制は、選挙の際の一時的な考えや利益に左右される傾向があり、また現在ではポピュリズムに陥る傾向があると二院制の必要性を言明されました。また、現在、国際条約は上院が先議することになっており、このことは広く支持されている。また、上院は審議対象を限定されたが、NPO、安楽死、生命倫理、嫡出・非嫡出問題など重点的な審議を行っており、より慎重な熟慮の院としての性格を維持したいとの意向を示されました。EUの発展とベルギー憲法、議会との関係につきましては、ベルギーの法律の半分はEUで決められたものであり、EUでの決定プロセスが民主的な手続か、いささか疑問の余地がある。それぞれの国の議会ともっと密接な関係を持つべきとの意見でありました。
 続いて、午後、仲裁院を訪ねました。仲裁院は、ベルギーが連邦化したことから、連邦、共同体、地域の権限争議の裁定のために設けられましたが、その後、法律等の合憲性の審査も付け加えられ、実質的には憲法裁判所となっています。法律等の官報掲載後六か月以内であれば利害関係のある個人にも提訴権があり、その後は通常裁判所が仲裁院に合憲性判断を求めることができます。現在、合憲性の判断には条文上の限定がありますが、法の下の平等を広く解釈し、人権問題はほとんどが対象となるよう運用しており、更に明文での改正が検討されているとのことです。判事は六名が政治家出身、六名が法律家出身の十二名で、オランダ語系、フランス語系半々のバランスが守られております。ここでも、我々は立法者の上に立つ立法者、スーパー立法者との強い自負が示され、各国の憲法裁判所の強い権威を感じました。
 夕刻、国境なき弁護士団国際連合ワレイン会長に会いました。国境なき弁護士団は、国境なき医師団に倣って発展途上国の法治国家への整備を支援するために結成されたNGOであり、現在十か国に会員を持ち、ルワンダ、ブルンディ等で活動を行っております。できるだけ政府と表立った対立はせず、解決策をともに求めていくという方針であり、ベルギー政府を始め、スイス、スウェーデン政府からも補助金を受けているようですが、このことによって独立性が失われることがないよう自ら監視しているとのことでした。現在、国際刑事裁判所の設置を注意深く見守っており、日本のアジア方面での支援を期待するとのことでありました。
 九月九日、欧州連合本部を訪れました。創立当初の六か国から現在加盟十五か国という巨大組織に成長し、今年一月からは念願の統一通貨ユーロが誕生いたしました。関係機関が集まるブラッセルのシューマン地区には大型の高層建築が立ち並び、伝統的な市街地とは全く別世界の趣がありました。十三の加盟候補国のうち、十か国が二〇〇四年に加盟の見通しとなっていますが、他方で域内の経済格差の拡大、財政負担増が明らかになっているほか、EUと各国の権限分配において各国の主権が侵害されているという意識も高まってきているようです。なお、今後の統合の方向性として、統合推進重視の欧州連邦を目指す向きと緩やかな連合体である国家連合を目指す向きが共存しており、そのどちらを目指すかについては、今回会った人々の間でも意見が異なるようでありました。
 EUをより民主的で透明性を持ち効率的なものとするために、昨年二月のニース条約の調印、続く十二月のラーケン宣言により、欧州の将来に関するコンベンションが設置されました。コンベンションは、民主性・透明性・効率性の達成、民主主義の赤字の解決、法的文書の簡易化等を課題に、再来年に予定されているEU基本条約を改正する政府間会合に議論のたたき台を提供するとされています。
 ゼプター欧州委員会コンベンション担当特別顧問は、コンベンションにおける議論の柱として、権限の分配、諸手続や条約の簡素化、欧州基本権憲章の扱いを挙げるとともに、今後のEUの成り行きについては楽観的であると言っておりました。EUは閣僚理事会と欧州議会と欧州委員会の三者が相互に支え合う組織で、モンテスキュー流の三権分立に従うものではない、EUは他に比べるものがない新しい実験であり野心的なもの、今やフロンティアはカリフォルニアにあるのではなくブラッセルにあるなどとの言葉に、EU統合に懸ける意気込みを感じました。
 コンベンションの検討状況について、ジャネッラ・コンベンション事務次長は、年内に作業部会の報告をまとめ、来年秋には何らかの結論を出したいとのことでありました。
 ブラッセル及び次のストラスブールでは、欧州議会議場を視察をいたしました。国を横断した会派が結成され、原則、会派でまとまって行動しているとのことで、議席も会派単位でまとまっておりました。
 九月十日、ブラッセルからフランス共和国ストラスブールに移動をいたしました。
 同日及び翌十一日の午前、欧州評議会(CE)及び欧州人権裁判所を訪れました。欧州評議会は、一九四九年に人権、民主主義、法の支配という価値観を共有する西欧十か国により設立され、現在、EU十五か国を含む四十四か国が加盟し、軍事、防衛以外の幅広い分野において多くの条約を作成し、スタンダード・セッターとしての役割を果たしており、特に欧州人権条約とそれに基づいて設立された欧州人権裁判所の活動は高く評価されております。八九年以降、欧州情勢の激変による加盟国急増後、法による民主主義のための欧州委員会、通称ヴェニス委員会が設けられ、中東欧地域での憲法制定、改正についてのサポートを行っております。
 シュヴィマー事務総長はオーストリアの国会議員出身で、EUの欧州基本権憲章は拘束力がなく、欧州人権条約をより実効あらしめるためには、影響力を増しているEUが同条約に加盟することが必要と言っていました。また、テロ対策と人権保障との間の調整が今後の課題とし、最後に、CEが進めている死刑廃止についても支援への言及がありました。
 また、ヴェニス委員会ブキッキオ事務局長からは、同委員会に対する一層の協力要請が表明されました。十一日午後、パリに移動をいたしました。
 十二日午前、上院にジェラール法務副委員長を訪ねました。同氏は、伝統的な議会中心主義を打破し、強力な執行権を持つ大統領制を取っている第五共和制憲法に対し、これは第四共和制への不満とドゴールの個性から生まれたものだが、結論としてフランスの必要にこたえているとし、地方自治制度に問題がなくはなく、第六共和制憲法制定の動きもないではないが、共産党を含め大方は現憲法体制内での改革を求める方向であると評価をいたしておりました。また、保革共存のときは首相の方が強く、議会の権力も皆さん方の想像よりは強いと説明していましたが、議会の行政に対する権能はもっと活発に行使されるべきであるとの反省の弁もありました。現在、議員立法は一割程度だが、議会の法案修正権も見逃せないとのことであり、特に、下院はよく準備されていない法案修正を採択する傾向にあるが、上院は賢者の院と言われているとのことでありました。フランス憲法には基本的人権に関する固有の規定がほとんどないことにつきましては、人権宣言と第四共和制憲法前文の尊重をうたった現行の前文で十分であるとのことでありました。なお、新しい人権への対応は個別法規や国際条約で可能との考えで、現在、新しい問題はインターネットと表現の自由との関係であり、欧州全体で抜け穴のない対応が必要であると言っておりました。今後、憲法上の課題といたしましては、地方分権、州の法制度、大統領の刑事責任、憲法院への国民提訴の是非、司法改革を挙げていました。
 同日午後、フランス憲法及びEUに関して、二人の憲法学専攻の大学教授の意見を聴取いたしました。二院制につきまして、アヴリル・パリ第二大学教授は、十九世紀から一つの主権に二つの議会はおかしいとの批判があったところであり、更に近代化を進めるべきとし、ジッケル・パリ第一大学教授も、二院は相互に補完する関係でないと意味がないとの意見でありました。EUの拡大に関し、ジッケル教授は、かなりの権限がEUに移譲されたが、なお議会と政府との関係は各国で異なるので、独自性は維持されるだろう。EUは創造性の試験であり、欧州の中に異なったシステムが存在することを理解することが必要として、アヴリル教授は、将来の形としてスイスの連邦制のようなものになるのではないかとの見解でありました。また、ジッケル教授は、欧州人権裁判所について、各国とも何を言われるかと心配をしており、重要な役割を果たしていると評価していました。人権カタログの問題につきましては、個人的には、はっきりと本文に明記すべきで、欧州憲法もそういう方向だとの見解でありました。
 翌十三日午前、憲法院を訪ねました。第五共和制下、強い反対もありましたが、議会の行政への干渉を防ぐため、法律の合憲性判断をする機関として設けられ、次第に人権保障の役割も果たすようになり、他国の憲法裁判所に類似した存在になっております。構成員は九名で任期は九年、大統領、上院議長、下院議長がそれぞれ三名ずつを任命します。学者、政治家、法律家が各三分の一かつ女性が三分の一、別枠で元大統領がいますが、審議には加わらないとのことであります。ちなみに、会談したアメレール委員は下院事務局長出身であります。審査の方法は、イタリアとは逆に法施行前の事前審査のみで、かつて事後審査を認める憲法改正案が出されましたが、国会で否決されました。市民の個人提訴権は認められていませんが、これを認めよとの強い意見があり、なお憲法院は立法に対するコントロール機関であり、行政に関するコントロールはコンセイユ・デタの仕事であるとの説明がありました。
 午後、コンセイユ・デタ(国務院)を訪ねました。一七九九年に諮問的な行政機関として発足、その後独立の行政裁判権も行使するようになり、現在では行政裁判における破棄審として活動をいたしております。司法機関と行政機関という二元的な役割を果たしています、日本にはない組織で、フランスでは大きな権限を持っております。法案の閣議前の審査を行っていますが、これは法的整合性の審査で政治的判断は加えないとのことであります。行政裁判においては、人権保障の役割も果たしております。年間に法案百から百五十件、政令千件を処理し、行政訴訟は年間十万件前後、うち一割程度はコンセイユ・デタまで上がってくるとのことで、かなりの業務量だなと感じました。
 以上が報告でございますが、今回の訪問に当たりまして、多忙の中、快く会談に応じていただいた方々、また仲介の労をお取りいただいた在外公館等の関係者の皆様に改めて感謝を申し上げます。
 報告書を議院運営委員会会議録に掲載するほか、詳細につきましては、別途冊子を作成し、配付いたしたいと思っておりますので、ごらんいただければ幸いでございます。
 以上、御報告をいたします。

発言情報

speech_id: 115514184X00220021030_002

発言者: 谷川秀善

speaker_id: 23618

日付: 2002-10-30

院: 参議院

会議名: 憲法調査会