錦織淳の発言 (農林水産委員会)

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○参考人(錦織淳君) この問題についてお話ししたいことは多々あるわけでございますが、最低限の前提として諫早干拓事業が有明海の漁業資源に大変大きな打撃を与えたということ、そしてそのことについての原因究明のこれまでの過程に対する反省なり考察というものを行っていくこと、これがどうしても必要だと思います。しかし、そうしたことを抽象的に議論することは余り意味がありません。そこで、私はタイラギの話を中心にそのことを申し上げたいと存じます。
 なぜタイラギなのか。それは、有明海異変といえば多くの人がノリ問題と誤解をいたしております。甚だしきは、去年もまた今年もノリが取れるから有明海異変は解決した、あるいは諫早干拓とは何の関係もない、こういうことを言う方すらおられるわけでございます。しかし、ノリはよく海の農業と申します。海の体力が弱ってもまだ技術力によってカバーすることが辛うじてできるわけでございます。
 しかし、魚、貝、タコ、クルマエビ、有明海にはたくさんの漁業資源がございますが、そうしたものを対象とする漁船漁業、あるいはタイラギは潜水器漁業と呼ばれておりますけれども、そうした漁業は残念ながら海の力が弱れば立ち所に壊滅をしてしまいます。その象徴こそタイラギ漁なのでございます。
 私はこの点について四つほど申し上げたいと思います。
 まず、諫早干拓事業を始める事業主体、九州農政局やあるいは関係自治体、そうしたものがこのことについてどのような予測を立てていたのか。それは大きく予測を誤ったということでございます。
 諫早湾内の十二漁協に対する漁業補償協定は昭和六十一年から六十二年にかけて行われました。そのときの漁業者に対する説明は、潮受け堤防の内側の八漁協は、これは海がなくなるから致し方ないとしても、潮受け堤防のすぐ外側の小長井町を始めとする四漁協の漁業は十分やっていける、諫早干拓工事によって多少の影響が出ることは避けられないけれども、しかしそれは大したことではない、タイラギも死なない、漁業経営の存続は可能である、このような説明がなされたわけでございます。その結果、漁民はそれを信じて漁業権を放棄し、干拓工事の事業実施に同意し、そしてそのような予測に基づく、算定結果に基づく漁業補償金を受け取ったわけでございます。しかし、現実はどうだったのでしょうか。
 お手元に諫早湾漁場調査委員会の調査結果を、一部を用意いたしました。その中の資料Ⅰの二百八十九ページと記載されたところをごらんください。そこに、泉水海、つまり諫早の湾内でありますけれども、このタイラギ漁が、工事が始まったのは、試験堤の工事が平成元年から始まったわけでありますけれども、間もなく、平成三年にはタイラギの漁獲は激減をいたしました。平成四年はほとんど取れませんでした。そして、平成五年からはゼロになったのでございます。そして、この打撃は今日までも回復されず、平成十四年に至る十年間、タイラギ漁は全滅をしているわけでございます。
 こうしたことをだれが予測し得たのか。このことを抜きに議論はできないというのが最初の問題でございます。
 そして、二つ目に申し上げたいことは、ではこの諫早干拓事業とそうしたタイラギ漁の漁業資源の壊滅ということの因果関係をどのように考えたらよいかということでございます。そして、そのことを踏まえた上で、調査ということについてどのように考えるべきか、これをお話ししたいと思います。
 漁民は、工事が始まると間もなく、タイラギに異変が起きたということを生活の現場で実感をいたしました。特に、サンド・コンパクション・パイルという工法が採用されたために、泉水海の最も豊かな漁場から大量の砂を取り、それを試験堤の工事にサンド・コンパクション・パイル工法ということで利用したわけでありますが、そうした目に見える形での漁場荒らしによってタイラギは死んだのではないかと強く疑ったのでございます。
 因果関係を考える場合に、有明海全体という形で広げるまでもなく、潮受け堤防の直前という極めて物理的に狭い地域、そして工事が始まって間もなく、こうした時間的な近接関係、そうしたことによってもしタイラギが全滅したのであれば、当然だれでもそこに強い因果関係の推定が働くと考えるのではないでしょうか。
 そして、そのことについて漁民はそのように主張し、漁場調査委員会が設置されたわけでございます。そして、このような強い推定が働くときに、通常ならばそうした調査結果が判明するまではこれは工事を進めない、これが鉄則というものでございますが、現実には、平成五年に設置された漁場調査委員会は、何と八年間も掛けながらやっと調査結果を報告する、その間、工事はどんどん進んで海は荒れていったということでございます。
 そして、肝心の漁場調査委員会の議論はどうであったのか。お手元にその一部を出しておりますけれども、いろいろな原因は考えられる、でも結局よく分からないという結論になったわけでございます。そして、その議論の経過を精査してみますと、いろいろな要因が考えられる、そのことについては専門委員会からも強く激しい疑問が出されたにもかかわらず、データがない、そういうデータは古いときに取っていなかったから比較しようがないではないか、そういうような議論に押し返されて、結局そのことを議論することはできないということで、疑うべき要因の中から外されていきます。そして、最後に残ったのが低酸素水、貧酸素水塊の問題と底質の細粒化の問題でありました。しかし、この二つについても、結局そのことがどのようにタイラギの変死と結び付いていくのか、具体的な因果関係が解明できない、そういう理由の下に、結局結論は出せないということになったわけでございます。
 私は、これを読んで非常に残念に思いました。私は、かつてこの有明特措法の対象としているもう一つの不知火海の水俣病問題に関与をいたしました。あの工場廃液から出された水銀がなぜ水俣病という形で発症するのか、そこには多くの疑問がありました。無機水銀がどうして有機化するのか、あるいは海で希釈されるはずの水銀がなぜ濃度が濃くなるのか、そうしたことについて食物連鎖との関連で説明され、そして体内での発症のメカニズムが解明されるまでには随分と長期間を要したわけでございます。しかし、多くの人たちはあのチッソの工場廃液が原因ではないかということを疑ったわけでございます。しかし、その因果関係のメカニズムがとことん解明されない限り何も手を打てない、こうしたことが行われたために、その間多くの貴重な人命や健康が失われたわけでございます。
 私は、因果関係というものはそのように考えるべきものだ、そういうふうに考えておりますので、この有明特措法によってもし調査委員会が作られるとすれば、そうした過去の経歴についてどのようにお考えになるのか、そうしたことを改めてお考えいただきたいと存じます。
 そして、三番目は、この有明特措法に基づく対策によってタイラギが復活するかという問題でございます。残念ながら、そのような期待を持つことはできないと思います。そればかりではありません。覆砂事業あるいは海流の漂流物の除去、あるいは稚貝、稚魚の放流、こういうような対策が取られようとしております。しかし、タイラギの場合は、結局、稚魚は育つんです。しかし、育っても大きくなる過程で皆死んでしまう。幼貝、成貝に至っても死んでしまう、そういうことが分かっているわけでございます。
 そのように考えますと、稚貝や稚魚を有明海に放流したところで弱って死に絶えた海にそういう放流を行うことが果たして漁業資源の復活につながるのか、タイラギについて言えばどうなのか、このように考えてみますと、残念ながら、そこには私は大きな疑問を持たざるを得ないということでございます。
 タイラギだけではありません。湾口部の大浦漁協では、何とか生き延びようと漁民が必死になり、例えばカキの養殖などを始めておりますが、こうしたことも、うまくいくと思ったらまた駄目になってしまったといって、行政以下多くの人が頭を抱えているのが現実でございます。
 そして、最後に申し上げたいことは、このタイラギの教訓、諫早湾内の教訓、これをきちっと踏まえない限り、有明海全体についてどのような対策を取るべきかということについての正確な判断はできないということでございます。
 タイラギについて申し上げれば、泉水海、すなわち諫早湾内は十年間タイラギ漁は全滅、そしてもう一つの有力な漁場である有共一号を中心とする福岡県と佐賀県の潜水器協議会というのがございます。ほんのつい先日、三年目の休漁を決定をいたしました。つまり、漁獲高はゼロということでございます。タイムラグがあるということでございます。一つの海の中で、まず湾内が駄目になり、そして有明海全体が駄目になっていく、こういう予兆としてとらえることはできないのでしょうか。
 このようにして考えていくならば、今私たちは、そうした具体的な事実に基づく教訓に基づいて具体的な対策を立てていく。私たちは、「政治は有明海を救えるか」というシンポジウムを今年の四月に開きました。どうか、この場の先生方におきまして、是非とも政治の力によって有明海を救っていただきたい。
 今、潜水器の業者はおろか、多くの漁船漁業者は泣いております。たくさんの自殺者が出ている、あるいは夜逃げをする、破産宣告をする、そういうことが相次いでおりますし、非常に悲しい事態として、ある潜水器漁業者は七十キロの潜水器、これは重い、海に沈むためのおもしでありますけれども、それを身に付けて入水自殺を図ったという、そういうことも伝え聞いております。
 このように、今漁民は追い詰められております。そうした漁民が倒れるということは海が死ぬということであり、この美しい豊かな海を基に生活をしている有明海沿岸の四県の多くの地域の人々、そうした人々の産業振興、地域振興という観点からも、本当の意味でそうした有明海が復活できる、そういう対策を取っていただきたい。これが私のお願いでございます。
 以上です。
 ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 錦織淳

speaker_id: 8949

日付: 2002-11-21

院: 参議院

会議名: 農林水産委員会