田中克史の発言 (農林水産委員会)
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○参考人(田中克史君) 長崎県森山町長の田中でございます。
国会の先生方におかれましては、日ごろから我が国の安寧秩序の保持と国民生活の維持向上のために、そして豊かな緑と青き海、流れ清き日本のふるさとを守るために日夜御尽力をいただいておりますことに心からの敬意をささげるものでございます。
このたびは、有明海及び八代海を再生するための特別措置に関する法律案の御審議に際し、地元自治体の代表として意見を申し述べる機会を賜りましたことを、地元住民に成り代わりまして有り難く厚く御礼を申し上げます。
私は、平成十二年のノリ不作の主因として諫早湾干拓事業がいわれなき指弾を浴び始めていた昨年の初めから、ともに海の恵みを分かち合ってきた有明海湾岸の四県の漁民と住民の間で、利害の違い、立場の違いがあらわになりつつある現実を憂い、関係機関の協力によって有効な漁業振興策の発動による一日も早い宝の海の再生を訴えてまいりました。
この間の経緯は、先生方のお手元に配付してございます。この資料でございますけれども、三十ページでございます。(資料を示す)平成十三年三月一日発行の広報「もりやま」の記事で御確認をいただければ幸いでございます。この記事でございます。
本日、私は、有明海再生に向けた本格的な対策が講じられるべきこと、同時に、諫早湾干拓事業が有する防災目的の正当性と農地造成の今日的意義についても御理解を賜りたいとの立場から意見を申し述べさせていただきます。
私は、諫早湾の旧堤防から約二キロメートルの近くに生まれ、そこで少年時代を過ごしてまいりました。幼いころ、父親にはね板と呼ばれる板スキーの上に乗せられて干潟を走ったのが有明海との初めての出会いであり、以来、アゲマキと呼ばれる甘い二枚貝やハゼ、グロテスクな風貌ながらも美味この上ないドウキュウと呼ばれる有明海特有の魚など、おびただしい海の恵みをいただいて育ってまいりました。
有明の海は、私たち諫早湾岸の住民にとりましては、遊びの場、生活の糧を得る場を超えて、命をはぐくむ母なる豊穣の海であり続けました。私の有明海への愛着は、幼少からの生活体験に深く刻まれ、決して人後に落ちぬいとしさは無限のものがあります。
それゆえに、このたび本院で御審議賜る有明海等再生特別措置法案は、地球温暖化などの大きな環境の変化や大都市における水需要の増加にこたえる筑後大堰建設、熊本新港、三池海底炭鉱の陥没、また、ノリ養殖に用いられてきた不適切な酸処理剤や肥料の海洋投棄、生活雑排水の流入や漁網、廃船、空き缶、ビニール袋の置き捨て等々、様々な複合的な要因が折り重なってもたらされた有明海の疲弊を救い、豊かな海を再生させようとする画期的な時宜を得た法案であり、心底より歓迎し賛意を表するものであります。
ただいま申し上げましたとおり、有明の海は私たちに様々な自然の恵みをもたらしましたが、その一方で、毎年五センチメートルのスピードで堆積する干潟が、後背地よりも標高が高くなる有明海の地勢上の特異性や毎年豪雨に見舞われる台風常襲地帯であること、また、河川が急峻で許容流量が少ないため容易にはんらんを招きやすいなどの諸条件が重なり合って、有史以来、この地域に住む住民に高潮や洪水、塩害などの被害をもたらしてきた事実も指摘しなければなりません。
昭和三十二年七月二十五日、私は小学一年生の夏休みが始まった直後に諫早大水害を経験いたしました。本町を流れる仁反田川のはんらんによって河川の堤防が決壊し、多くの家屋が流失し、肥沃な大地が一面海と化した当時の光景は今もって私のまぶたに焼き付いて離れることはありません。
また、昭和五十七年七月二十三日の長崎大水害に際しては、その夜長崎にいた私は、一瞬の激しい集中豪雨に家路にたどり着くすべをなくし、翌朝から直ちに災害復旧活動のボランティアに参加した経験を持つものであります。
自然がもたらす恵みも生命財産を脅かす脅威も、身をもってよく知るのはそこに長年住む住民であります。自然の恵みが様々であるように、自然の脅威もまた様々であります。
諫早湾沿岸の住民の中にあっても、とりわけ江戸時代以来の数次にわたる干拓によって開かれた広い低平地に住む森山町、諫早市小野地区を中心とする地域住民にとっては、降雨のたびに水の恐怖と背中合わせに眠れぬ夜を過ごさなければならない生活を強いられてまいりました。このことを身をもって知る私は、先人たちの尊い勤労と犠牲によってもたらされた優良農地を守るため、干拓完成の悲願を実現するため、そして子々孫々に地下水の枯渇や水質汚染、地盤沈下のない豊かで安心して暮らすことのできるふるさとを譲り渡すことが私たち世代の使命であると考えてまいりました。
諫早湾干拓事業は、有明の海によって育てられ、干潟に深い愛惜の気持ちを抱く私たちにとりましても、成就されるべき悲願の事業でありますことを先生方に是非とも御理解を賜りたいと願うものであります。
諫早湾干拓事業は、昭和六十一年に着工され、平成九年に湾が締め切られました。平成十一年三月に完成した潮受け堤防の防災効果は目覚ましく、台風時の高潮防止や河川からの流水や発生した湛水を潮汐の影響を受けることなくスムーズに調整池に流入させる効果が発揮され、地元では高く評価され、感謝されている事業であります。
また、私は、干拓事業の防災効果は高潮、洪水対策にとどまるものでなく、現在この地域で起きている地盤沈下の進行を抑止する上からも極めて重要な役割を担うものであることをこの機会に是非とも御理解いただきますようお願いを申し上げます。
諫早湾奥部は、河川の流域面積が低いために常時水不足に悩まされ、これを補うために地域一帯は水源を地下水に依存しております。しかし、地下水も無尽蔵であるはずもなく、地下水の揚水がもたらす広範な地盤沈下は地域の深刻な問題となっております。そして、地下水位の低下に起因する地盤沈下の次に来る地下水の枯渇、水質悪化は、地下水がやがて飲料水としても農業用水としても使用できなくなることを意味し、これが食料の供給にも致命的な打撃となる悲劇の到来を意味しております。
森山町では、昭和三十九年に国営干拓事業により二百八十二ヘクタールの農地が造成されましたが、営農のため年間二百万トンの地下水を利用しており、このままの状態が続けば最大三メートルの地盤沈下の可能性があることが専門家の調査により報告されております。農地では、既に一メートルないし一・二メートルの地盤沈下が見られ、近年では住宅地でも最大五十センチ前後の沈下が見られます。このため、地下水のくみ上げをできるだけ制限していくことが町政を推進する上での重要な課題となっております。
本町では、潮受け堤防締切りに伴う調整池の淡水化に伴い背後の、後背干拓地にある潮遊池も淡水化したことから、それを水源として一部の水田に反復利用するなどして地下水のくみ上げの抑制に努めておりますが、これが一部に主張される中長期の開放が現実のものとなれば更なる淡水化の遅れを招くこととなり、これは私たちの地下水揚水の抑制、地盤沈下問題への真剣な取組に冷水を浴びせ掛けることを意味しており、到底認めることはできません。
いま一つ、私は、諫早湾干拓事業の目的である農地造成の意義について触れさせていただきたいと存じます。
新しく造成される農地に対して、必要ない、無駄であると主張される向きもありますが、地球的規模では現在約六十一億の人口は世紀末には約百二十五億に増えると予測され、二十一世紀は人口爆発、食料危機の世紀と言われております。巨大人口を抱える中国も間もなく食料輸入国に転ずるでありましょうし、その一方、我が国の耕地面積約四百七十万ヘクタールを優に超える六百万ヘクタールの耕地が荒廃や砂漠化により毎年失われる中で、果たして、食料自給率が先進国では類を見ない四〇%の低さに甘んじている我が国において、本当に農地は必要ないのでしょうか。よく考えてみる必要があると思うのであります。
新しい農地は、平たんかつ広大で、農業用水に乏しい諫早湾奥部の低平地にとって貴重な水源が確保された生産性の高い農地であり、事業の早期完成に寄せる期待は高いものがあります。平地が少ない本県にとりましても、先進的な農業が展開できる重要なプロジェクトであります。
有明海再生法案は、有明海等の環境海域の保全及び改善と水産資源の回復及び漁業振興を図る有明海の再生に向けた画期的な法案であります。
私は、冒頭、ノリ不作の主因を諫早湾干拓事業に事寄せるのはいわれなき指弾であるとも、また、有明海の異変は複合的な要因によるものであるとの考えを申し述べました。
昨年のノリの作況は、一昨年の二十三億三千九百万枚から一挙に四十四億六千四百万枚と大幅に増加し、史上最高の生産量となりました。今年のノリについては、十一月七日から行われた初入札では、豊作であった昨年を上回ると聞いております。これが何を意味するものであるかは、先生方におかれましては既にお気付きのとおりであります。ノリの不作の原因を諫早湾干拓事業に結び付けるのは無理があるということでございます。
また、有明海における貝類の漁獲高の低減は昭和五十四年以来急激に進行しているのであり、その後は大方漸減の傾向にあるわけでございまして、決して私どもは諫早湾干拓事業の水質汚濁によってもたらされたものではないと考えております。なぜならば、手元にそれぞれの県のCOD、いわゆる化学的酸素要求量という指標で比較した汚泥の資料がございますけれども、それは数値が高いほど汚濁が進んでいるということを意味しますけれども、佐賀県がリットル当たり五・一ミリグラム、福岡県四・三ミリグラム、熊本県二・八ミリグラム、長崎県二・四ミリグラムとなっております。調整池が汚濁しているという批判にもかかわらず、この数値は長崎県の海域が最も汚濁が進んでいないことを示しているわけでございます。
森山町では、調整池の水質改善を図るために集落排水事業を町内全域に整備し、一〇〇%の下水処理を行っております。また、周辺の市町は、窒素や燐を除去するための高度処理に多額の投資を行っております。その一方で、第九回のノリ委員会での報告によると、酸処理として窒素で四十七・七トン、燐で百・一トンが、施肥として窒素で八十二・八トンが投下されております。公共下水道等の設置により汚濁負荷量を軽減させる一方で、ノリ養殖のために有明海の汚濁負荷が許されているのであります。有明海再生のためには、このような矛盾した行為、不公平・不誠実な行為は直ちに抜本的に真剣に取り除かなければなりません。
私は、有明海湾岸に暮らす人々と同じように、だれよりも有明の海を愛し、心から疲弊した有明の海の再生を願っております。有明海をよみがえらせる力強い第一歩を踏み出す一里塚として、議員立法による有明海再生法案の速やかな成立を心から期待いたしております。
あわせて、九〇%近くまで進んできた諫早湾干拓事業を一日も早く完成させることが有明海の海域の安定を取り戻し、再生を図る上でも有効な手段であり、早期の完成を地域住民とともに念じておりますことを申し上げまして、私の意見の陳述とさせていただきます。
御清聴ありがとうございました。