宇野木早苗の発言 (農林水産委員会)

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○参考人(宇野木早苗君) 私は、五十年余りの間、海のことをやってまいりまして、特に沿岸の物理現象について学んできました。そして、最近では川と海の関係を調べています。最近の私の仕事は、五ページ目に一応文献のリストが若干ありますからごらん願いたいと思います。
 こういう研究の結果、沿岸の開発に関連しては、次に述べる一番目と二番目の項目が極めて重要であるというふうに考えています。初めに、これに関する私の経験を話した後に、そしてこれから有明海と八代海に関する今回の法案に対する私の考えを述べたいと思います。それは三以下になります。
 まず最初に、沿岸開発に際して海は一つであると認識することの重要性についてお話しいたします。
 一九六〇年代後半から瀬戸内海は汚濁の海と化して赤潮が大発生しました。当時、汚染対策は府県ごとにやっていましたし、また開発事業の影響評価も地元の地先の湾、灘ごとに行われていました。そこで、私たちは一九七〇年に図一に示すような計算結果を示しまして、瀬戸内海は一つの海と考えることの重要性を示しました。すなわち、これを見ますと、例えば備讃瀬戸に物質を流しますと瀬戸内海全体に広がって大きな影響を及ぼしているわけですね。だから、瀬戸内海は一つの海と考えるべきだと、そういう重要性を示したわけです。この結果は朝日新聞の第一面に大々的に取り上げられまして、汚染対策に悩んでいた各方面に衝撃を与えたと聞いております。その後、瀬戸内海周辺の十余の府県知事と政令都市市長の洋上会談が開催されまして、それでそれが後に瀬戸内海臨時措置法あるいは現在の恒久法につながっておるわけです。また、通産省によって呉に世界最大級の瀬戸内海の水理模型も建設されて、瀬戸内海を一つの海とする行政の研究と体制が作られてきたということを示しておるわけです。
 こういう点からいいますと、有明海全体と八代海全体を総合的に見ようとする今回の法案は、趣旨としては結構であると私は思います。だが、その内容は科学的に見て不備な点が多々あり、目的の達成は困難であると私は判断いたします。その理由を三以下についてお話しいたします。
 次に、河川事業に際しては川と海を一体として考えねばならないということです。
 かつてその豊かさをうたわれた三河湾は、これは東京湾の次に三河湾が豊かだったわけですが、その三河湾は現在は、図二、これは環境基準の達成率ですが、これを見ますと分かりますように、我が国で最も汚濁した内湾であり、しかも憂慮すべきことは、その汚濁が進行している傾向にあるわけですね。原因として、地形的閉鎖性と埋立てによる広大な干潟、浅瀬の喪失が言われますが、それとともに豊川用水事業、図三を見てください、これ点線で書いてあるのが豊川用水事業ですが、その事業によって多量の取水が行われ、これが湾に注ぐ河川流量が大きく減少したことが極めて重要であるということが私を含む研究グループで明らかにすることができました。
 ところが、驚くべきことに、更にこの瀕死の三河湾、特に渥美湾がひどいんですが、をむち打つような設楽ダムと大島ダムが建設が計画されております。このように多量な取水を行うとしますと、これでは幾ら関係当局が汚濁負荷削減に努力してもそれは無駄であって、環境の回復は不可能とさえ思われるわけであります。海のことを考慮せずに河川事業が行われた典型例でありまして、この例は全国に多く、八代海、有明海にも見られるわけでございます。この危惧は有明海に関してもあるいは八代海についても参考になることかと思うわけです。
 それでは三番目に、この法案は子孫に美しく豊かな有明海と八代海を残すためということでありますが、そのためには何が必要かということをお話ししたいと思います。
 近年、有明海の環境は悪化してきました。その原因として、全般的な汚濁負荷の増加、それから筑後大堰などの堰やダムの建設、埋立てなどの開発工事その他いろいろ挙げられております。だが、その悪化を加速して決定的にしたのは、実は諫早湾干拓事業がその弱った体に強烈なパンチを加えたためであります。これは、干拓事業着手後、水質、底質の悪化、底生生物の顕著な減少、海底と海面の漁獲量の激減などが生じたことから明らかでありまして、こういうデータを示すことは可能です。そのパンチ力がどのように強いかを次の(1)の項目でお話しいたします。
 大事なことは、しかもそのパンチが現在も続いているわけです。それゆえ、環境を再生するためには、日々加えられているこのパンチを止めることが何より必要です。だが、今回の法案は、その強烈なパンチを止めようとはしないで、栄養ドリンク剤などを与えるものにすぎないと私は思います。これでは子孫に誇れる海を残すことは期待し難い。これは、私が今まで東京湾、伊勢・三河湾あるいは瀬戸内海、こういうことを調べてきてこういうふうに思っております。三河湾の二の舞が心配されるのであると。八代海についても同様に思います。
 それでは、(1)潮受け堤防が存続すれば体質の弱った有明海の再生はほぼ絶望的か、こういう印象を述べたいと思います。
 潮受け堤防は、本明川などの川の流れを海から断ち切る長大河口堰と考えられます。これが有明海の環境悪化に果たす役割は、大略、次の三つに分けられます。
 一つは、有明海の潮汐と潮流の大きな減少であります。
 図四に有明海の湾奥の潮汐の減少を示しておきましたが、この減少の影響の中で、この減少の六五%は河口堰の影響であるということを示すことができます。これは潮汐がそうです。それから、図五は、これは当局の資料によりまして、締切り後、潮流がどれぐらい減少したかというのを示したわけです。すると、図五を見てみますと、この堤防締切りの前面では八〇%から九〇%も水が、潮流が弱まっている。水は停滞しているわけですね。中もずっと弱まっていまして、湾口ですら、諫早湾口ですら一〇から三〇%も弱まっています。それから、一番右下のが有明海中央ですが、これも一三%も弱まっています。こういうことです。
 次、二つは、広大な干潟、浅瀬の喪失であります。
 これはもう諫早湾内もそうでありますし、それから潮汐が小さくなったために有明海の外側においてもやっぱり干潟が減少しております。浅瀬、干潟が生物の生存と生活に、また海域の水質浄化にどのように重要であるか、もうこれは皆さんよく御存じだと思うわけです。
 それから三つ目は、諫早長大河口堰は巨大な汚濁負荷生産システムの機能を果たしているということに注目をお願いします。
 堰内部の停滞した淡水は富栄養化して、底にはヘドロが厚くたまっています。そして、水門を開けると下部から強い勢いで排水が噴き出すわけですが、これは、下の方、その巻き上げられたヘドロを含んで非常に汚染度が高いわけです。そこで、図六に諫早湾におけるCODの分布を示してあります。これを見ますと、結局もう非常に諫早湾はCODが高いわけですね。湾口が二ぐらいで、奥の方では一〇ぐらいのものが見られます。国では環境基準は一〇ですが、それは十分満たしておりません。これは、とかく、この一〇という値は、日本の湖沼のワーストスリーの三番目に当たるそういう状態の湖に相当する悪さが一〇であります。これは、この量を日本自然保護協会が汚濁負荷量として勘定いたしますと、六千三百トンになるわけです。これは有明全体の負荷量の実に一三から一七%ということであります。すなわち、これだけこの干拓事業によって汚濁負荷がたくさん有明海に出されているというわけです。
 このように栄養を豊富に含むので、浮上後、光を受けて生物生産が活発に行われ、ところが、そこでは先ほど言いましたように潮流が非常に小さいので、混合は微弱で海水は停滞しています。この結果、沈降した多量の生物遺骸などが分解して、底層が貧酸素化するわけです。
 その状況は、図七の溶存酸素の分布を見てください。そうすると、潮受け堤防の前面がどれだけ貧酸素になっているかが分かると思います。生物が生存するには三以下ぐらい必要だと思うわけですが、その範囲は諫早湾を越えて有明海の方の中央部まで広がっておると、こういうことを見てください。これは、そしてこのことは、諫早湾では予想を超えて、湾内部よりも、堰の外側において厚いヘドロ層があるということからも理解できるわけです。
 以上の結果、潮受け堤防は膨大な汚濁負荷を日常的に有明海に供給し、これに潮汐、潮流の減少と干潟、浅瀬の喪失が重なって、有明海の環境悪化を促進させると考えられるわけです。
 ここで考えていただきたいのは、いろんな要因が挙げられますが、環境悪化の要因が挙げられますが、これほど大きな要因を与えるものは別にありません。このことを十分認識する必要があるわけです。
 それから、(2)、川辺川ダムの建設は八代海の環境と漁業に重大な影響を与える。
 河川内のダムや河口堰の建設後、海域の環境や漁業が大きな影響を受けることは、八代海や有明海の漁民が痛切に体験して訴えているところです。だが、残念ながら、決定的な証拠を明確に示すことは非常に難しいわけです。これが実は難点なわけです。
 というのは、一つは、沿岸開発が進んだ内湾では、それによる影響と河川事業のみの影響を分離することが非常に難しい。もう一つは、一般に、河川内と違って、海域では河川事業の影響が長い時間を掛けて緩やかに現れ、気が付いたときは取り返しの付かない状態になっていることが多いからであります。だから、その点、十分あらかじめ注意しなきゃいけない。
 図八は、八代海を三つの海区に分けて、これは不知火海区、鹿児島海区、天草東海区に分けておりますが、海面漁獲量の相対的変化を示したものです。そうしますと、明らかに不知火海区が一番減少が大きくて、だんだん減少しております。これは、塩分やそれから流れの状況から見て、これは球磨川の河川水の広がっていく順序に一致しております。ということは、球磨川に何らかの影響が出れば、それがこの順序で広がっていく。球磨川は、結局、変化というのは、結局相続くダムの建設が考えられまして、そういう影響がこういうふうに現れているということを示唆していると思うわけであります。
 それから、川辺川ダムは八十年に一回の洪水を対象にする巨大ダムであって、それが海域に与える影響は無視できると当局は言っております。これは、八十年の間、ダムに砂が堆積し、それだけ海の砂が削られて、そして海に来なくなっても、海には影響はないということを意味するわけです。
 そこで、当局の資料を用いて、八十年間のダムの堆砂量を求めると表一になります。そうすると、川辺川ダムだけで二千百六十万立米、既存ダムを合わせると三千五十万立米になります。この量は、六十一平方キロメートルもの広大な海底が厚さ五十センチずつ削られることに相当するわけです。これが海に出てこなくても影響がないということが果たして信じられるでしょうか。また、無視できるという根拠も示されていません。さらに、ダム湖には多量の汚濁したヘドロがたまっております。これは、黒部川出し平ダムのあれでも分かりますが、これが海に影響を与えると。球磨川もそういうことがあるということを示すことが、高いことが示すことができるわけです。
 それゆえ、現状の八代海の環境と漁業の環境を止めて更に再生を図るためには、まず、そういう川辺川ダム建設によるインパクトをまず抑えることが必要であって、そして、その右下にあるこういう漁業環境の悪化、抑えておいて、これをどう回復するかということがまず一番必要だと思うわけです。
 そういう順序がこの法案の中には見受けられないということでもって、私は非常に残念に思っております。
 以上です。

発言情報

speech_id: 115515007X00420021121_008

発言者: 宇野木早苗

speaker_id: 20420

日付: 2002-11-21

院: 参議院

会議名: 農林水産委員会