江田五月の発言 (本会議)
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○江田五月君 私は、民主党・新緑風会を代表して、ただいま議題となりました心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案に対し、質問いたします。
初めに、私は、今日の本会議での趣旨説明と代表質問という日程の慌ただしさにつき、一言申し上げておきます。
この重要法案が臨時国会の会期末近くになって衆議院で採決されることになったのにはそれなりの事情があると思います。しかし、既に今日は会期末まであと二日です。こうして本会議質疑をしても、本院の付託委員会で審議をする時間のゆとりはもはやありません。なぜこんな無理な日程を組むのか。予算要求に衆議院通過が必要だとか、単なる法案審議の事情とは違う不明朗さを感じます。このような取扱いをする政府・与党のやり方にまず強い懸念を表明しておきます。
さて、本法案提出の大きなきっかけとなったのは、昨年六月の大阪・池田小学校の児童殺傷事件だと言われています。社会に大きな衝撃を与えた残酷な事件でした。二度とあのようなことを起こしてはいけないとだれもが考えました。そしてその直後に、小泉首相は、容疑者を精神障害者と決め付けて、刑法の見直しを検討するよう自民党の山崎幹事長に指示したそうです。その指示に従って、自民党や与党の中で検討が進み、その検討を受けて、政府部内で最高裁とも協議をして、本法案の原案が国会に提出されたのですね。
そこで質問。小泉首相は、法務大臣、厚生労働大臣に対し、具体的にどのような指示を出したのか、あるいは出さなかったのか。出したとすれば、その指示は本法案のどこに生かされたのか、両大臣に併せて伺います。
首相の指示がいかにいい加減で軽率な発言であったか、これは後に証明されました。まず、刑法の見直しという首相の指示はだれからも一顧だにされていません。刑法体系が問題になっているのではないことが明らかだからです。この点は間違いありませんね、法務大臣。
軽率な発言の影響はもっと深刻です。この容疑者は、捜査中の精神鑑定の結果、犯行時には心神喪失でも心神耗弱でもなく責任能力ありとの結論が得られ、通常の公判請求がなされ、現在公判中です。また、心神喪失者の再犯のケースでもありません。すなわち、本法案の予定する仕組みができても、池田小学校事件の容疑者は、そもそもそこで扱われる対象にはなりません。また、仮になったとしても、既に重大な犯罪や事件を起こした後ですから、事件の防止には役立ちません。それなのに、小泉首相の軽率な発言により、精神障害者は危険だから新たな仕組みで危険を防止するのだという、精神障害者に対する社会の偏見が助長されたのです。反論がありますか、法務大臣と厚生労働大臣。
この容疑者は、精神障害者を装って、検察官をだまし、罪を免れたと言われているのです。そうすると、先ほど私たち民主党案の提出者から詳しく分かりやすく説明があったとおり、民主党案にある起訴前の精神鑑定の適正化こそが適切な対応策となります。民主党案は、それに加え、公判中の鑑定や措置入院制度の適正化を目指しています。
そこで質問します。本法案のどこが池田小学校事件の容疑者に適用できるのか、法務大臣そして厚生労働大臣にそれぞれ伺います。
本法案の目的ですが、第一条に長々と規定があり、特に継続的かつ適切な医療の確保と社会復帰の促進が強調されています。言葉で言うのは簡単ですが、我が国の精神医療の実態を考えると、その実現は容易なことではないと思います。我が国には現在、精神病院の長期入院者は三十三万人、欧米諸国の数倍だと指摘されています。そのうち、七万二千人は社会的入院だということです。さらに、医師や看護婦の不足。これが我が国の精神医療の実態です。一体どうしてこういう惨めなことになってしまったのか。厚生労働大臣に伺います。
さらに、厚生労働大臣。この法案の目的達成のためには、我が国の精神医療の抜本的な改善や社会復帰体制の飛躍的な充実が必要だと思います。大臣は、七万二千人の社会的入院を十年間でゼロにするお考えだと聞きました。大臣の決意と具体的方策をお聞かせください。
その適切な医療と社会復帰体制ですが、今申し上げたような実態を考えると、適切な取組を必要としているのは本法案の対象者だけではないですね。対象行為を行っていない精神障害者も医療や社会のバックアップが必要です。そうでないと差別になってしまいます。
そこで、厚生労働大臣に確認ですが、本法案の対象者だけでなく、必要な人すべてに適切な医療と社会復帰体制を確保する決意ということでよろしいですか。
次に、精神障害者の再犯率についてですが、大阪・池田小学校の児童殺傷事件などの報道により、精神障害者は重大な犯罪を犯しやすいと思われています。しかし、殺人については、一般人の再犯率は二八%であるのに対し、精神障害者の場合は六・八%と極めて低く、放火についても、一般人の再犯率は三四・六%であるのに対し、精神障害者の場合は九・四%と低いのです。精神障害者だから再び重大な犯罪を行うという見方は根拠がありません。
本法案の原案は、いわゆる再犯のおそれの除去を目的としていたのですが、修正により社会復帰の促進と改められました。しかし、表現は変えても、再犯のおそれの除去がなければ社会復帰は促進されないとも言えるでしょう。同じことなのです。ところが、精神障害者は再犯のおそれはむしろ低いというのが事実なのです。
こう考えると、本法案が、対象行為を行った精神障害者だけに対して特別な処遇を行い、治療を強制的に受けさせることについては、その正当な根拠や必要性が希薄だと言わざるを得ません。違いますか、法務大臣と厚生労働大臣。
次に、精神鑑定について伺います。
検察官が被疑者を起訴するかどうか、また、裁判官が被告人を無罪又は刑の減免をするかどうか、これを判断する上で極めて重要なのが精神鑑定です。それなのに、起訴前のいわゆる精神鑑定の結果が、医師や地域によりばらつきがあったり、精神鑑定を担当する医師が不足するなど、精神鑑定の現状については数々の問題点が指摘されています。精神鑑定を適正化し、その信頼度を増すことこそが緊急の課題となっているのです。しかし、政府案は、その点について何ら触れず、精神鑑定の抱える課題には一切手を付けていません。
私たち民主党は、さきに述べたように、精神鑑定の充実と適正化を図るための法案を提出しました。
そこでまず、政府は精神鑑定の現状やその適正化の必要性についてどう認識しているのか、法務大臣に伺います。さらに、この点について民主党案をどのように評価されるか、法務大臣と厚生労働大臣に伺います。
衆議院での修正により、精神保健観察を行う者について、その名称が精神保健観察官から社会復帰調整官に変わりましたが、これにより何が変わるのでしょうか。社会復帰という言葉を前面に押し出すことが実質的にどういう違いをもたらすのでしょうか。修正案提出者に代わって厚生労働大臣に伺います。
保護観察所は、刑の執行猶予者や仮釈放された者の保護観察を主たる任務とし、犯罪の予防を目的として活動する刑事政策機関です。そのような機関に、精神障害者の処遇に関する実施計画を定めたり、指定通院医療機関への通院を確保するために積極的施策を行う役割を負わせるのは本当に適切なのでしょうか。精神障害者の社会復帰に向けた活動が刑事政策的色彩を帯びる結果になるおそれはないのでしょうか。法務大臣と厚生労働大臣に伺います。
本法案は、衆議院での修正により、「同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、この法律による医療を受けさせる必要があると認める場合」、これが処遇要件となりました。それでは、「同様の行為を行うことなく」というのは、修正前の再犯のおそれという要件とはどういう点が違うのでしょうか。また、「この法律による医療を受けさせる必要があると認める場合」というのは、具体的にはどういう場合を言うのでしょうか。極めて抽象的であいまいです。本法案は、対象行為を行った精神障害者を特別の手続で特別に処遇し、しかも強制的措置を伴うのですから、対象行為や対象者の厳格な認定だけでなく、処遇要件についても具体的で明確な認定が必要です。この処遇要件について、明確な説明を修正案提出者に代わって厚生労働大臣に求めます。
衆議院の審議の中で、平成十二年に対象行為を行った心神喪失者、心神耗弱者は四百十七名、そのうち措置入院になった者は二百七十名ということが明らかになりました。さらに修正によって、新制度による入院患者の数は、修正がなければ入院決定を受けるであろう患者数より少なくなる、そういう政府答弁がありました。この根拠について、明確な説明を厚生労働大臣と法務大臣に求めます。
医療施設の脆弱さ、医療スタッフの不足、処遇困難者の対応、不十分な地域精神医療など、精神医療は数多くの課題を抱えています。今必要なことは、いわゆる触法精神障害者だけを切り離して処遇することではなく、精神医療全体の水準の向上です。
確かに、衆議院での修正により、精神医療の水準の向上などについて努力規定が附則に盛り込まれましたが、努力目標にすぎず、精神医療が現実に充実される保証は何もありません。なぜ、触法精神障害者の処遇だけを特別扱いする制度を急いで新設し、精神障害者全体に対する差別と偏見の排除や悲惨な精神医療の改善を後回しにするのですか。この点について、厚生労働大臣と法務大臣の明確な説明を求め、修正案提出者の御意見を厚生労働大臣から伺います。
問題は、精神保健福祉法で地域精神医療の充実を唱えながら、それを具体化する政策が先送りされてきたことにあります。本法案もまた、精神障害者をめぐる問題を置き去りにするだけでなく、極めて差別、偏見を助長するものとなっており、人格障害のことなどもあり、成立は見送られるべきです。
精神医療の充実がなぜできなかったのか、その原因を明らかにし、その上で、予算措置も含めた精神医療改革の具体的な処方せんを作りましょう。その実現こそが、不幸にして起きる事件の防止につながるのです。精神障害者のことを考えるなら、これ以上障害者を遠ざけるのでなく、まず、精神医療を身近なものと考えましょう。そして、その発展と充実に取り組みましょう。ノーマライゼーションです。最後にそのことを強調して、私の質問を終わります。(拍手)
〔国務大臣森山眞弓君登壇、拍手〕